2021年定時株主総会の実務上の留意点~新型コロナウイルスの影響を踏まえ~


新型コロナウイルスの流行により、2020年定時株主総会の準備・運営に関する実務は、従来と比べて大きく変容した。新型コロナウイルスの流行下では、定時株主総会を「不要不急の外出の自粛」や「三つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避」が要請されている中で開催しなければならず、株主、役員、運営スタッフその他の関係者を新型コロナウイルスに感染させてしまうリスクを最小限に抑えることが重要である。日本においても2021年2月から新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったが、新型コロナウイルスの収束時期は今なお不透明であるため、2021年定時株主総会も、新型コロナウイルス感染拡大防止を意識して、その準備・運営を進めていく必要がある。本稿では、コロナ禍で開催することになる2021年定時株主総会の実務上の留意点を整理するとともに、近時、注目を集めているバーチャル株主総会について解説する。

  1. 株主総会の事前準備・運営に関する留意点① 開催時期・開催方法
  2. 株主総会の事前準備・運営に関する留意点② 会場の設営
  3. 株主総会の事前準備・運営に関する留意点③ 来場自粛の要請
  4. 株主総会の事前準備・運営に関する留意点④ 入場の制限
  5. 株主総会の事前準備・運営に関する留意点⑤ 所要時間の短縮化
  6. バーチャル株主総会とは
  7. ハイブリッド型バーチャル株主総会の留意点
  8. バーチャルオンリー型株主総会を可能とする法改正
  9. 最後に
目次

株主総会の事前準備・運営に関する留意点①
開催時期・開催方法

多くの会社は、定款に「決算期末日から3か月以内に定時株主総会を開催すること」や「定時株主総会の議決権行使のための基準日を決算日とすること」を定めており、その結果、3末決算会社であれば、6月中に定時株主総会を開催するという実務が定着している。

もっとも、コロナ禍では、決算業務・監査業務の遅延が生じる等の問題が発生し、当初予定していたスケジュールで定時株主総会を開催できないことが想定される。

そのような事態に陥った場合の対応として、実務上は、(i) 決算・監査手続に遅延が生じた分だけ、定時株主総会の開催を延期する形で定時株主総会を開催するという対応(次表「基準日再設定方式」参照。)や、(ii) 例年どおりのスケジュールで定時株主総会を開催した後に、継続会を開催するという対応(次表「二段階開催方式」参照。)を採ることが考えられる。

コロナ禍により当初予定していたスケジュールどおりに定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合の留意点等については、次のとおり関係省庁等から見解が公表されているため、これらを参考に準備を進めていくことが考えられる。

法務省2020年2月28日公表、2021年1月29日更新「定時株主総会の開催について
金融庁2020年4月15日公表「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について

株主総会の事前準備・運営に関する留意点②
会場の設営

定時株主総会が新型コロナウイルス感染拡大の契機とならないようにするために、感染拡大リスクの高い、「密閉空間」、「密集場所」、「密接場面」を作らないように会場の設営を行う必要があり、具体的には、次のような対応を採ることが考えられる。

  1. 出席株主の濃厚接触を避けるため、株主席は前後左右の間隔を空けて配置する。
  2. 会場の風通しをよくする。
  3. アルコール消毒薬を設置する。
  4. サーモグラフィーを設置する。
  5. 発言者のためのマイクは、スタンドマイクを使用することとし、スタンドマイクは株主席から2メートル以上離れた場所に設置する。
  6. 「収容人数を超えてしまう場合」や「マスク着用要請に応じない株主がいる場合」等に株主を案内する先として第二会場を用意しておく。

株主総会の事前準備・運営に関する留意点③
来場自粛の要請

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためには、株主総会参加者を最小化することにより、接触感染リスクを低減する必要があり、そのためには、招集通知や自社のWEBサイト等によって、株主に来場を控えるように呼び掛けることが考えられる。

このような対応は、対話型の株主総会が志向されているという近時のトレンドと逆の方向の対応になるが、経済産業省・法務省は、「株主の健康に配慮した措置であるため、株主に来場を控えるように呼び掛けることは可能である」旨の見解を公表したこと等もあり、2020年定時株主総会では、株主に対して来場の自粛を呼びかけるケースが相次ぎ、そのような対応が実務として定着しているということができる。

経済産業省・法務省2020年4月2日公表・同月28日最終更新「株主総会運営に係るQ&A

さらに、感染拡大防止のために「定員制」や「事前登録制」も適法であることが示されている。これらの方法をとる場合には、株主が恣意的に選択されないよう留意するとともに、定員を超える株主や未登録株主が来場した場合の取扱いも決めておく必要がある。

株主総会の事前準備・運営に関する留意点④
入場の制限

新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、(i)新型コロナウイルスへの罹患が疑われれる株主の入場を制限することや、 (ii)株主総会参加者の最小化を図るために、会場に入場できる株主の人数を制限することが考えられる。

この点、株主の入場を制限することは、議決権や質問権といった株主の権利を制約する側面があるため、そのような対応の可否が問題となるが、経済産業省・法務省は、(i)について「ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能」という見解を、(ii)について「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において…会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能」という見解を公表しており参考になる。

経済産業省・法務省2020年4月2日公表・同月28日最終更新「株主総会運営に係るQ&A

株主総会の事前準備・運営に関する留意点⑤
所要時間の短縮化

新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、株主総会所要時間の短縮により株主、出席役員、運営スタッフその他の株主総会関係者の接触感染リスクを低減することを検討する必要がある。

株主総会のシナリオとの関係では、次の各ポイントを工夫することにより、株主総会所要時間の短縮を図ることができるので、そのような対応の要否を検討する必要がある。

バーチャル株主総会とは

上場会社が開催する一般的な株主総会は、物理的に存在する会場において、取締役や監査役等と株主が一堂に会する形(リアル株主総会)で行われているが、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、多数の株主が株主総会のために集まることを回避する必要があり、かかる観点から、株主がITを活用して遠隔地から参加する形で行う株主総会(バーチャル株主総会)が注目されている。

なお、バーチャル株主総会には、リアル株主総会を開催せず、バーチャルな方法でのみ株主総会に参加することを認める「バーチャルオンリー型株主総会」と、リアル株主総会を開催しつつ、バーチャルな方法で株主総会に参加することも認める「ハイブリッド型バーチャル株主総会」がある。

また、ハイブリッド型バーチャル株主総会は、次表のように、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」に分類することができる。

ハイブリッド型バーチャル株主総会の留意点

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、株主が、会社法上、株主総会に「出席」したことにならず、単に株主総会の審議等を確認・傍聴する形で「参加」しているにすぎないため、現在の総会実務との関係で調整すべき事項は少なく、比較的導入しやすい方法といえる。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会のメリットや留意事項は、次のとおりである。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

他方で、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、インターネット等の手段を用いて株主総会に会社法上の「出席」を認める方法となるため、現在の株主総会実務との関係で留意すべき事項が多いといえる。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会のメリットや留意事項は、次のとおりである。

また、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施する上での各論点は、概要、次のように整理できる。

ハイブリッド型バーチャル株主総会のメリットや留意事項、運営方法等は、経済産業省が公表している実施ガイド及び実施事例集が参考になる。

経済産業省2020年2月26日公表「『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド』を策定しました

バーチャルオンリー型株主総会を可能とする法改正

バーチャルオンリー型株主総会は、現行会社法が株主総会を招集する際には「場所」を定めなければならないとしていることとの関係で実施できないと考えられている。

もっとも、コロナ禍においてバーチャルオンリー型株主総会を実施可能とすることを求める声が高まってきた中で、政府は、2020年12月の成長戦略会議において、2021年の株主総会に向けてバーチャルオンリー型株主総会を開催できるよう、同年の通常国会に関連法案を提出するとしていた。

このような中、2021年2月5日に、上場会社におけるバーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする内容を含む「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」(改正案)が閣議決定され、現在開会中の通常国会に提出される予定となっている。

経済産業省2021年2月5日公表「『産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案』が閣議決定されました

改正案におけるバーチャルオンリー型株主総会の主なポイントは、以下のとおりである。

① バーチャルオンリー型株主総会を実施できる主体は?

適用対象が「上場」している「株式会社」に限られているため、非上場会社や、株式会社でない上場投資法人は本制度を利用できないこととなる。

② バーチャルオンリー型で実施できる株主総会の種類は?

普通株主による株主総会に限らず、種類株主による種類株主総会も含まれる。また、会社側が招集する株主総会に限らず、株主が裁判所の許可を得て招集する株主総会も含まれる。

③ バーチャルオンリー型株主総会を実施するための条件・手続は?

株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることが必要とされており、また、当該定款変更を行うには、場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業強制力を強化することに資する場合として「経済産業省令・法務省令で定めるところ」により、経済産業省及び法務大臣の確認を受ける必要があるとされている。

なお、これらの省令の内容は、本稿執筆時点では明らかにされていない。

④ いつから実施できる?

バーチャルオンリー型株主総会に関する規定は公布の日から施行されるところ、施行日時点の上場会社は、上記③の経済産業省及び法務大臣の確認を受けた場合、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定めが定款にあるとみなされる(但し、施行日から2年間)。

したがって、上記③の経済産業省及び法務大臣の確認を受けた場合、定款変更の手続を経ることなく、2021年に開催する定時株主総会からバーチャルオンリー型株主総会を開催することも可能になると考えられる。

最後に

2020年6月開催定時株主総会において、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を実施した上場会社は113社、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施した上場会社は9社あった。

バーチャルオンリー型株主総会については今後詳細が定められていくこともあり2021年にどの程度の会社が採用するかは不透明なところはあるものの、新型コロナウイルス対応が引き続き求められる中においては、ハイブリッド型を含めたバーチャル株主総会の採用を検討する会社は増加するものと思われる。

経団連も、バーチャル株主総会の更なる活用を進めるべく、具体的な運用方法の提案や、企業が安心してインターネットを活用した方策を採用することができるよう政府に考え方の明示を求めるなどの提言を行っており、これらを受けて、今後も、関係省庁よりバーチャル株主総会の具体的な運用方針等が公表されると思われる。

バーチャル株主総会の実施においては、法改正の内容や関係省庁の解釈指針を適切に把握するとともに、増えつつある実施事例も参考にしながら、慎重に準備を進めていくことが必要となる。

一般社団法人日本経済団体連合会2020年10月13日公表「株主総会におけるオンラインの更なる活用についての提言

寄稿

TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
鈴木 貴之 氏

主な業務分野は、①M&A(企業買収、グループ内組織再編
、MBO・非公開化等)、②コーポレートガバナンス(株主
総会指導、取締役会運営支援等)、③ベンチャー関連
(起業・IPO支援、資金調達、資本政策等)。

寄稿

TMI総合法律事務所
名古屋オフィス
パートナー弁護士
大野 修平 氏

M&A、株主総会指導、コンプライアンス、会社関係訴訟
その他一般企業法務全般を取り扱う。
近時の主な著書・論文として、
「2020年6月定時株主総会開催に向けた留意点」
(月刊監査役2020年4月号、日本監査役協会)など。

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