「真に顧客が求める『オンライン化』の進め方
~顧客に寄り添ったDXと未来の営業組織のあり方について考える~」

西山 直樹 氏
【講演者】
ベルフェイス株式会社
取締役
西山 直樹 氏

<はじめに>

弊社はオンライン商談システムを開発・提供する企業である。各企業がアナログの営業スタイルにデジタル化の仕組みを取り入れるための支援をしてきた。現在は金融業界を中心としたエンタープライズ領域に注力している。もともとはIT系会社・人材系会社との取引が大半を占めていたが、コロナをきっかけに他業界の企業様とのお取り引きも増加し、取引先の業界分布に変化が現れている。現在では金融機関とのお取り引きがもっとも多くなっており、すでにこの2年で70社以上の金融機関にサービスを提供している。

今回は真に顧客が求めるオンライン化の進め方、ということで、コロナによって激変した営業という仕事の未来についてお話しできればと考えている。これまで多数の取引先を支援する中で得られた知見や肌で感じた現場の課題感についてもお話しできればと思っている。

<金融庁の金融行政方針>

令和2年に発表された金融庁の「金融行政方針」では、今後の金融業界の行く末を占う上で重要と思われるキーワードが複数登場した。

1つ目のキーワードは「業務効率化」である。近年、重要な社会の変革が立て続けに起き、人々の働き方が大きく変わりつつある。働き方改革、コロナ禍によって在宅勤務は当たり前のものになったし、また技術革新やスマホの普及によって、ビジネス上のコミュニケーション手段も従来のメールや電話からチャットツールなどに移行する動きもある。従来は対面で行っていた会議やセミナーも、Web会議システムを使ってリモートで行われるようになった。こうした社会の変化をひとつの機会と捉え、「働き方を柔軟にして業務効率化を図ろう」という考えを金融庁としても持っているということだ。

2つ目のキーワードは、「顧客のデジタル管理による効果的な提案」である。これはいうなれば、営業活動をデジタル化することを通して生産性をあげようということだ。アナログの営業活動では営業活動が属人化し、顧客や商談の情報共有が進まない傾向がある。これは企業にとっては大きなリスクとなる。その対処法として注目されているのがデジタル化である。営業活動をデジタル化することで営業に関わる情報を可視化し、人為的ミスの低減や情報共有、業務効率化を進めようということだ。

3つ目のキーワードは「ESGへの貢献」である。ESGは環境・社会・企業統治の頭文字をとったもので、これから企業が持続的に成長していくためには欠かせないといわれているものだ。今トレンドとなっているデジタル化は業務効率化の文脈で語られることが多いが、実はESGとも密接に関連している。デジタル化はペーパーレス化につながり、結果的に環境保護に貢献することになるからだ。ESGの観点からも、企業活動のデジタル化は避けて通れない流れとなっている。

<金融業界におけるデジタル化を阻む壁>

現在、金融庁もさまざまな理由から、金融業界のデジタル化を推進している。にもかかわらず、金融業界においてデジタル化、オンライン化が順調に進んでいるとは言い難い。その理由として考えられるのが、根強い訪問の商習慣、顧客のITリテラシー、セキュリティという3つの壁である。

まず、金融機関には業界の文化として、非常に対面を重視する傾向がある。他の業界とくらべてももっとも対面文化が根強い業界といえるのではないだろうか。これは業界の商習慣というより、扱っている商材の問題が大きいのではないかと思う。金融商材はひとつひとつが複雑で専門性が高く、販売にあたっては丁寧な説明が求められるからだ。実際、対面での説明を義務化している企業もあると聞く。こうした対面を重視する傾向は特に地方で強い。

次に、顧客のITリテラシーの問題、これもデジタル化を阻む壁となっている。金融機関の顧客には高齢の方も多く、社員の訪問を希望する方の割合も非常に多い。このような顧客側の事情から、金融機関としてもデジタル化が進めにくいという事情もあるのではないか。

さらに、セキュリティの問題もある。金融業界は機密レベルの高い個人情報を扱っていることから、他業界に比べても強固なセキュリティ体制が求められる。商談のオンライン化を進めるにしても社内ルールによる制限があったり、ITツールを導入するにしても非常に時間がかかったり、といった事態が起きがちだ。

<オンライン化の際に意識するべきポイント>

このように、金融業界のデジタル化にはさまざまな壁がある。それでは、これらの壁が立ちはだかる金融業界において、営業活動のオンライン化を進める際にはどうすればよいのか。営業領域におけるオンライン化を進めるにあたり、弊社が特に意識するべきだと考えているポイントが3つある。

1つ目のポイントは、自社に合ったオンライン商談のあり方を定義することである。営業のオンライン化を考える際にありがちなのが、「訪問か、それともオンラインか」といういわば二項対立で物事を考えてしまうことだ。しかし、オンライン化をするといっても、すべての営業活動や商談をオンライン化する必要はない。たとえば特定の優良顧客は対面できめ細やかなフォローをし、それ以外の顧客は非対面で気軽にコミュニケーションをとる、というやり方も当然考えられる。オンラインと対面は本来共存しうるものだ。オンラインと対面を適切に組み合わせ、自社に合ったオンライン化の形を考えることが、オンライン化成功の第一歩である。

2つ目のポイントは、顧客ファーストである。営業活動において、何よりも大切なのはお客様である。オンラインの商談を推進する場合にも、まずはお客様を第一に考えなければならない。たとえば商談をオンライン化する際、使いにくいツールを選んでしまうとお客様が契約締結前に離脱する原因になってしまう。商談を効率よく契約につなげるためにも、お客様のストレスのないツールを選ぶことが重要だ。できれば商談から契約までのプロセスを、オンライン上でスムーズに完結できるような仕組みが理想である。

3つ目のポイントは、データ活用である。営業活動のオンライン化には、ペーパーレス化、移動時間の削減化といったさまざまなメリットがある。なかでも、最大のメリットが、商談データを蓄積し、それを活用できることだ。たとえば弊社のプロダクトにはレコログという機能があり、オンラインでの商談を録画録音する機能がある。

これらの録画録音データはチャットなどで簡単に社内共有ができるため、いわゆるハイパフォーマーの分析に役立てたり、新人教育に活用したり、とさまざまな使い方ができる。これは従来の訪問を主体とした営業活動では不可能なことである。今後オンラインで商談を行うことが一般化すれば、商談データを活用して営業活動を行うことも当たり前のものになってくると思われる。実際、弊社の取引先にも商談データの活用を積極的に行っている企業が増えてきているので、今後の参考にしてもらえれば幸いだ。

<おわりに>

営業のデジタル化、オンライン化といっても、大げさに考える必要はない。今まで訪問営業や電話でやっていたことに、デジタルを組み合わせることで業務効率は劇的に改善される。

現在、コロナ禍の影響などもあり営業活動について課題感を抱えている方も多いだろうと思う。営業活動でもっとも大切なことは、エンドのお客様に寄り添うことだ。デジタル化、オンライン化という新しい手段をうまく活用することで、みなさまの営業活動がより実りあるものになることを心から祈っている。

◆講演企業情報
ベルフェイス株式会社:https://bell-face.com/