2022年8月4日(木)開催 FINANCE WEBINAR「VUCA時代のテクノロジーを活用した金融営業体制の構築」


2022年8月4日(木)セミナーインフォ主催 FINACE WEBINAR「VUCA時代のテクノロジーを活用した金融営業体制の構築」が開催された。新型コロナウイルスの感染拡大の長期化により、金融機関を取り巻く環境は急速に変化した。デジタル化への対応が必須となり、IT技術が急速に発展している現在、顧客ニーズの変動が顕著で、不確実性が増加しており、売上計画などビジネス上の見通しを立てることが難しくなっている。金融機関においても、VUCA時代を乗り切るために、IT技術を駆使し、顧客を起点とした営業力強化と営業体制への変革が求められている。本ウェビナーでは基調講演、特別講演として、金融機関から最新の取り組み事例をご紹介いただいたほか、先進各社より最新のIT技術についてご紹介いただいた。

  1. 「デジタルを利活用した『非対面取引』による新しい金融体験の提案」
    株式会社富山第一銀行 長谷 聡 氏
  2. 「データ活用で金融機関を変える!キーエンス流データ活用術」
    株式会社キーエンス 水上 拓也 氏
  3. 「真に顧客が求める『オンライン化』の進め方~顧客に寄り添ったDXと未来の営業組織のあり方について考える~」
    ベルフェイス株式会社 西山 直樹 氏
  4. 「ソニー生命におけるリモート活用の取り組み」
    ソニー生命保険株式会社 大石 真市 氏
目次

「デジタルを利活用した『非対面取引』による新しい金融体験の提案」

長谷 聡 氏
基調講演
【講演者】
株式会社富山第一銀行
取締役
事務統括システム部長 兼 ダイレクトバンキング部長
長谷 聡 氏

<はじめに>

今回は銀行という差別化しにくいビジネスモデルの未来をいかに考えるか、いかに変えていくかについてお話しできればと考えている。デジタルを活用し、従来の銀行のビジネスモデルを変えていこう、新しい金融体験を作ろう、ということで、実際にこうした業務に取り組まれている方も多いことだろうと思う。

しかし、これらのデジタル化の取り組みを進めていく上で、いわゆる銀行の三大業務からかけ離れた位置にいるという孤立感、人材の不足といった課題感を抱えている方も多いのではなかろうか。自分もまた銀行の現場で、デジタルを使った新しい金融体験の創出に取り組んでいるひとりである。仲間とアイディアを出し合い、自分たちの手でできるところから非対面化の取り組みを進めてきた。非常に荒々しい、ざっくりとしたデジタル化の取り組みではあるが、今回はこれまでの経験で得られた知見を共有できればと考えている。

<デジタル変革期の生存戦略・方向性>

現在、デジタル変革期とでもいうべき状況が訪れている。デジタル化に関する数多くのキーワードがニュースや経済誌にあふれ、すべてを紹介するのが難しいほどだ。しかし、自分がここで強調したいことがある。それは一番大切にするべきなのは「体験する」ということである。机上で考えたり、やっていること・目の前で起きていることを批評したりすることに満足せず、実際に自ら行動し、体験することが大切だということだ。たとえば、「キャッシュレス」について知りたいのであれば、まずは実際に自分がキャッシュレスの生活を体験するべきである。

実際、行員を対象にブロックチェーン技術を活用した行内コインの実証実験を行った結果、キャッシュレスに関連するさまざまな知見が得られた。これは、自らフィンテックやデジタル化された金融体験を試したからこその成果だと考えている。

<弊行のデジタル戦略の概要>

弊行では2018年の10月末に大まかなデジタル戦略を策定し、あるべきデジタル化の全体像について話し合った。その上で、ひとつずつ取り組みを進めていき、当時考えていたものについてはPoCも含めほぼ実践できた状況にある。

弊行ではデジタル戦略において、APIファースト、通帳レス、キャッシュレス、お客様のストレスフリー、AIアーキテクチャ構築という5つの柱を掲げている。なかでも、今、弊行が非対面の取引の起点として重視しているのが通帳レスである。通帳レスへの切り替えは、非対面取引の増加には不可欠であり、デジタル化の進展には必須であると考えている。現在ではまだまだ紙の通帳を希望されるお客様も多いが、現在通帳レス口座についても徐々に受け入れられつつある。今後も、スマホ通帳を整備するなどして通帳レス口座の普及に努めていきたいと考えている。

また弊行ではWeb経由での口座の開設数も順調に推移しており、それに伴い開設先であるインターネット支店も成長している。現在、インターネット支店は口座の開設数、ローンの実行件数などで全店1位となるまでになった。一般的に都会の方がデジタル化が進みやすいというイメージをもたれがちだが、実際に取り組んでみると地方だからといってデジタル化が進みにくいというわけではない。地方、都市部に関係なく、デジタル化は進んでいくのではないかと思う。幣行ではスタートアップとも協働し、アプリやインターネットバンキングのサービス拡充を進めている。e-KYCの活用による窓口業務の非対面化、Eメールアドレスの取得による顧客との新しい連絡手段の確保、SNSの運用といった新しい試みも積極的に行っている。

DXを推進していくにあたり、予算に代表されるリソースの問題は、たしかに弊行にもある。しかし、これらの課題の中には、勘定系の外でシステム化を行う、完璧な自動化を目指さない、といった施策を実行する側の工夫によって、解決できるものも多いと感じる。大切なのは、最初に全体像を描いた上で、今できることから手を付けるということだ。幣行でも、今後もできるところからデジタル化の取り組みを進めていくつもりでいる。

<地方銀行の問題意識>

地方銀行の中には、地方銀行特有の課題感を抱えている企業も多いのではないかと思う。近年、APIやクレジットカードの登場によって、口座や通帳明細を通じて得られる顧客の情報が少なくなった。また、店舗の統廃合も進む、IT人材がいないということで、DX推進に必要な人材も、情報も足りなくなっているのではと危惧している。特に、IT人材という意味については技術以前に、そもそもITに興味がある人、アイディアが出せる人がなかなかいないという問題があるのではないか。

今後地方銀行がDXを進めていく上では、やはりITに対する意識の高い人材が必要だ。デジタル化を成功させるためにも、経営とITの距離感を縮めること、ITはスマホのように日常的に使うものなんだということを積極的に伝え、IT活用への障壁をなくしていかなければならない。

<幣行のデジタル化のスタンス>

幣行では実際にデジタル化を進めるにあたり、ベンダーに頼らずに自分たちでアイディアを出すということを大切にしている。

また、スタートアップの活用も非常に重視している。事業を彼らと協同して行うだけでなく、彼らのイノベーティブな発想そのものがデジタル化を推進する上でよい刺激になっている。

ビジネスモデルを変革するにあたり、アジャイルでできるところからやっていく、といったスタートアップ的な考え方を取り入れることは重要だ。地方銀行には人的にも予算的にもリソースが足りない。こうした中で新しいシステムを作るには、費用をかけない、落としどころを決めて割り切るところは割り切る、といった発想も必要になってくる。銀行は「石橋を叩いても渡らない組織」と揶揄されることもある組織である。

しかし、どんなに優れたシステムを作ったとしても、何らかのエラーは発生するものである。また完璧主義に陥ると、実現が困難になる。地方銀行がDXを進めていくためには、寛容に失敗を認め、運用しながら改善するという姿勢を身につけられるかが重要だと考える。

<取り組んでわかったこと>

これまで幣行が行ってきたデジタル化の取り組みは非常にざっくりしたものである。しかし、実際に取り組んでみてわかったことがある。それは、地方銀行には地方銀行ならではのアドバンテージがあるということだ。たしかにリソースの面ではメガバンクのようにはいかないかもしれないが、そのかわり小回りが利く。やり方によってはメガバンクにも先んじることも可能ではないかと考えている。

銀行は保守的な業界といわれている。しかし、社会情勢が急速に変化し続ける中、我々銀行業に必要なのはイノベーション、発展、支援といったスタートアップ的な発想だ。

デジタルの世界で行われているのは銀行同士の競争ではない。ライバルは同業者ではなく、異業種の企業になりつつある。このような状況で我々が生き残るためには、ともに手を取り合い、前向きなチャレンジを続けることが必要だと感じる。

特に、デジタル化の波が押し寄せる中、非対面手続きの拡大は急務である。新しいサービスをスモールスタートで、かつトライアンドエラーで積極的に推進していく必要があるのではないか。デジタル化が進展する今、我々に求められるのは、つねにチャレンジする姿勢である。今後も同業のみなさまと手を取り合い、新しいチャレンジを進めていけたら幸いだ。

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