2024年2月8日(木)開催 INSURANCE WEBINAR「保険会社における顧客体験向上に向けたチャネル戦略」


2024年2月8日(木)セミナーインフォ主催 INSURANCE WEBINAR「保険会社における顧客体験向上に向けたチャネル戦略」が開催された。急速なデジタルトランスフォーメーションにより生活者の行動様式の変化、また少子高齢化が進行するなど、保険会社にとって外部環境は大きく変化している。競争が激化する中、各社が顧客一人一人に最適な保険サービスを提供するために、顧客志向のチャネル構築やAI等の最新技術の活用による顧客体験向上への取組みを進めている。本ウェビナーでは、第一生命保険株式会社からはCXデザイン戦略に基づいた取組み、三井住友海上火災保険株式会社からはデータドリブンな環境構築のための組織づくり・人材育成の取組みについてお話いただく他、協賛企業各社によるセッションを通じて最新動向をお届けした。

目次

三井住友海上が目指す、「顧客視点」「データドリブン」のビジネス変革

特別講演
【講演者】
三井住友海上火災保険株式会社
CXデザイン部長 兼 CMO
木田 浩理 氏

<三井住友海上におけるビジネス変革の取

CXデザイン部では、顧客指標にもとづく意思決定、顧客関係性構築とUI/UX改善、人材の育成、Webサイトの強化等を行っている。これらを支えるのが、CDP(データ基盤)や人材基盤である。

<保険業界を取り巻く環境

感染症拡大、自然災害、サイバーリスク、地政学リスクの高まりなどの要因から、現代は先行きが不透明なVUCAの時代を迎えている。MS&ADインシュアランスグループは「グローバルな保険・金融サービス事業を通じて安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えます。」というミッションの実現に向けて取り組んでいる。

<損害保険業界が直面する課題

1つ目は、ビジネスモデルの変化という課題だ。かつて損害保険業界は代理店ビジネスと言われてきた通り、代理店から顧客に説明を行う形態であった。猛烈な勢いでデジタル化が進む中、顧客自身もスマホなどを介して様々な情報や選択肢にアクセス可能だ。今や顧客自らが必要な情報を選ぶ時代になっている。

2つ目は、もともと顧客との接点が限定的という課題だ。損害保険事業の役割が事故時/被災時の補償であることや、顧客接点のチャネルは代理店に依存している状態であった。お客さまとの関係性を構築していくためには、事故等補償時だけの関係性からの脱却を目指さなければならない。

上記の課題を解決するためには、顧客理解に基づくビジネス変革を行う必要があると考えて2018年以来、DXとCXの2つの領域に取り組んでいる。

<変革の実現に必要なこと

変革のプロセスは中長期的にわたるために、社内で推し進めていくためには「経営意思」を変えていく必要がある。CX/データ意識の「社内浸透」はもちろん、データの源泉となる「システム基盤」の構築も大事だ。これらを通じて、新しい「顧客接点」を開拓していく。変革を実現していくには、社内の期待と信頼獲得が非常に重要になる。

<まずはスモールサクセスから

社内の期待と信頼を獲得するために、各領域でスモールサクセスを積み上げ、取組範囲を拡大していった。例えば、データ/DXの領域に立ち上げた「RisTech」は、社内のデータへの理解を深めるきっかけとなった。これによりデータサイエンス組織を作りCoEの組成、データマーケティングの重要性に繋げたCDP構築、そしてマーケティング/CX領域への展開に繋げている。

データ分析の種をまきながら、CX領域においてはCX部を組成してマーケティングの種をまきつつ、中長期的な基盤を構築中だ。システム基盤構築、顧客接点拡大、人材育成・強化、社内風土改革を通じて全社を巻き込み、ビジネス変革を起こしている。

<なぜ「データ」から「CX」へ拡げたか

当初、なぜマーケティングやCXが重要なのか、顧客理解やコミュニケーションは代理店の担当領域ではないか、という声も多くあった。しかし過去の経験上、マーケティングやCXの視点なくデータ活用やDXを進めると失敗する可能性が高いと知っていたため、DXだけでなくCXの取組にも注力すべきだと主張した。

データ活用の「壁」を乗り越える

実際、DXやデータ活用が上手くいってない企業も多い。DXの導入自体が目的化している、提供した管理アプリの使い勝手が悪く酷評される、鳴り物入りで導入したシステムに現場が不満を抱える、データを見える化したが誰も見ない、データ分析研修を受けたが業務が多忙なために学んで終わりなどのケースだ。なぜDXやデータ活用が上手くいかないのか。

<経験ゼロからのデータ分析

これまで、経験ゼロの若手を分析担当に抜擢して、多くのデータ人材育成に取り組んできた。今の時代、ツールを使えば、文系の分析未経験者でも気軽に分析が可能だ。ChatGPT等、AIによるコード生成が一般化する時代に、分析用のコードを書くこと自体はAlがやってくれる。それらを活用して、まずは社内の「データ」リテラシーを高めることが重要だ。

<データ分析に必要な視点

高度な分析スキルが身についていれば良いのかというと、そうではない。そもそもデータ分析は、ビジネスの改善や意思決定の変革を起こすことを目的に行う。そこで大事なのは「ビジネス力」である。つまり分析技術だけでなく、課題背景を理解したうえでビジネス課題を整理し解決する力が必要だ。

データ分析は、ビジネス成果に繋げられることが1番重要である。DXとCX、データとマーケティング、どちらが欠けてもビジネスで勝てない。マーケティングに使わないデータは、誰からも喜ばれない。データを使わないと、マーケティングは実行できない。顧客体験に繋がらないDXや、マーケティングなきデータ利活用では意味がないのである。

<両者から必要とされるのは

データ分析者は、作成した分析をビジネスにうまく使ってほしいが、何をすればビジネスに役立つか分からないのが課題だ。ビジネス担当者は、ビジネスに活用しやすい成果物がほしい。しかし分析結果がビジネスから乖離し、分析内容がわかりづらいという課題を抱えている。

そこで分析を成果に繋げる人材として、データ分析のステップを1つ1つ正しく進める「ビジネストランスレーター」が大事になってくる。

<データ分析の進め方|5Dフレームワークとは

多数のプロジェクトを経験して、いつも同じようなところでつまずいていることに気づいた。そのような失敗から生まれたのが、次に示す「5Dフレームワーク」である。

  • Demand:分析の要望・要件を明確化する
  • Design:分析の全体を設計・デザインする
  • Data:データ分析に必要なデータを収集する
  • Develop:要望・要件を満たす分析手法を用いる
  • Deploy:施策等に活用できる説明・展開を行う

データ分析者は、Data・Developには注力する。一方で、Demand・Design・Deployは壁になりやすい。各関係者の間で、認識や理解の齟齬があると上手くいかないために、現場の課題とIT・AIを繋ぐ存在がビジネストランスレーターである。

<5DフレームワークはDemandから始まる

分析の要望・要件を明確化するために、まずは分析の「ジョブ」を理解することが重要になる。顧客は、商品で何のジョブを解決したいのか。ジョブとは、特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩だ。顧客と同じものを見る「顧客視点」にならないと、真のジョブはわからない。

例えば朝にミルクシェイクを買う客は、通勤のドライブで退屈を紛らわしたいため、長時間持つものが欲しいのだ。ドリルを買いに来た人が本当に欲しいものはドリルではなく「穴」であるとは、セオドア・レビットの言葉である。更に、なぜ穴が欲しいのか、絵画をかけたいのか、それは精神的に落ち着きたいためなのか。こういった問題における本質をデータ分析者が理解しようとすることが大事なのだ。

顧客を知らない高度分析者よりも、顧客をよく知る現場担当者のほうが正しい分析設計を行える。ビジネスの現場が、データ分析を主導する時代が来ていると考える。

ビジネストランスレーターに必要な4つのスキル

分析人材や現場と連携し、プロジェクトを進める上で必要な4つのスキルは、次の通りだ。1つ目は、現場に入り込んで形式知や暗黙知を理解し、正しいDemandで関係者を分析プロジェクトに巻き込む「ビジネススキーマ活用力」である。2つ目は、関係者を巻き込むリーダーシップの「プロジェクト遂行力」、3つ目はデータや分析の正しい解釈スキルである「データ解釈基礎力」、4つ目はデータとフレームワークで深堀する形式知である「ビジネス背景理解力」である。

スキーマとは、クルマの運転や洗濯など、一連の行動・思考・判断過程が構造化されているものだ。ビジネススキーマとは、ビジネス環境におけるスキーマ(当たり前)であり、明文化されている「形式知」もあれば、職場の空気感のような「暗黙知」も存在する。

ビジネススキーマを知らないと、一体感をもってプロジェクトに取り組めない。背景の理解レベルをあわせた上で、相手の心からの賛同を得る正しいDemandを合意する必要がある。

<結びに>

取り巻く環境変化に合わせてビジネス変革を起こすためには、DXとCX、「データドリブン」と「顧客視点」の2つの領域で変革を推進することが重要である。データ分析プロジェクトは、5Dフレームワークに基づく分析設計を行う。分断しがちな各ステップを「ビジネストランスレーター」がつなぎ、全てが循環するようにしていく。分析結果をビジネス成果につなげるためには、ビジネススキーマを正しく把握し、真のDemandを理解することがスタートとなる。

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