ビューカードのデジタル戦略について

特別講演

【講演者】
株式会社ビューカード
デジタル戦略部長
鈴木 国彦 氏

<会社紹介>

当社はJR東日本の100%子会社で、従業員数は約570名の規模だ。1993年にJR東日本にてハウスカードを発行開始したのが始まりで、2003年には世界初となるエンボスレスのビュー・スイカカードの発行を開始し、2010年に分社化して現在に至る。直近では鉄道の需要がコロナ前に戻らない中でも、当社の取扱高は2兆円を回復し過去最高となった。

主な事業内容として、クレジットカード事業はSuica一体型のカードを中心に展開している。その他にはグループ内を中心として行っている加盟店事業やVIEW ALTTE(ATM)、びゅう商品券、外貨両替センターなどを運営している。2024年春からは、当社が銀行代理業を取得しJR東日本と連携して「JRE BANK」をスタートさせる予定だ。

<デジタル推進のあゆみ>

2018年3月からのRPAの取り組みを皮切りとし、2020年10月からはデジタルマーケティングの取り組みも開始した。2023年5月からは、全社でのDX実現に向けた取り組みを始めた状況だ。本日はRPA・デジタルマーケティング・DXの3点についてお話しする。

<RPA導入>

JR東日本から分社後、事業規模は順調に拡大したが、オペレーションの現場では手作業中心の業務処理が続き、複数の問題が表面化した。業務量の増加と複雑化する処理内容、自社システムの対応力不足、社員数の不足などだ。このような状況を、現場自らが自律的に解決できる方法として、RPAの取り組みを開始した。

導入期の取り組みとして、オペレーション本部の統括部署で、デスクトップ型RPA1台を試験的に導入した。ツールの操作性や難易度を確認後、本部内での水平展開を念頭に、基本操作マニュアルと研修メニューを作成した。これらの準備が整った後、本部内でプロジェクト化した。各部から担当者を選出する際に、兼務発令をかけたのがポイントだ。RPAに専念できる環境で6カ月間の実務研修を受けた後に自部署に復帰し、エバンジェリストとして活動してもらった。40業務で5,000時間の自動化を達成し、大きな成果を上げることができた。

2019年7月からはRPA専任組織を組成した。また、より高度な自動化を目指すため、新たにサーバ型RPAツールを導入し、案件によって使い分ける方針とした。

<RPAの全社展開>

全社展開に向け、社内ルールの策定と各部における推進体制を整備した。管理統制面では、RPAに関する開発手順を統一化するとともに、開発したシナリオの定期点検を必須化した。RPAを普及させるための仕掛けとしては、各部にRPA担当者を配置し、操作研修を丁寧に行い、ハードルを極力下げるよう努めた。

2019年10月から全社でRPA開発がスタートした。業務改革推進部内にRPA推進事務局を設置し、各部での現場開発と専任部署での受託開発の両輪でRPAを推進している。全社展開開始から約3年経過時点の累計で、93,000時間を創出できた。

<RPAの推進状況とこれからの取り組み>

RPAの定着化では一定の到達点に達したが、次のステージを目指して4つの取り組みを進めている。1つ目は管理統制の見直しで、研修カリキュラムや開発手順を簡素化する。2つ目は業務プロセス再設計(BPR)の実施で、上流工程での再設計に取り組む。3つ目は新たなツールの導入で、ローコード開発ツールと組み合わせた開発を促進する。4つ目は社員に向けた情報発信で、現場社員が自発的に取り組みしたくなるような情報を提供する。また、効果のとらえ方を「時間削減」から「時間創出」に転換したのもポイントだ。社員が創出した時間で新たな価値創出などに取り組み、仕事のやりがい向上を目指す。

<デジタルマーケティングによる営業のデジタル化>

RPA推進が軌道に乗ったところで全社の状況を見渡したところ、営業部門にも多くの課題があることを認識した。JR東日本から引き継いだ営業資産を活かしたビジネス展開で、事業規模を順調に拡大していた一方、ライフスタイルの変化や顧客嗜好の多様化等、時代の流れへの対応が遅れがちであった。営業推進上の課題としては、グループ外利用の内容把握、既存会員の育成戦略検討、顧客理解に基づくパーソナライズ施策実施などがあり、デジタルを活用して営業現場をサポートする取り組みを始めた。

導入期では、まずデジタルを体験してみることをテーマとして、メールとWEBポップアップによるコンテンツの出し分けを試行した。並行してメールや会員向けサイト等のデジタルチャネルの環境調査を行い、本格実施に向けた課題を洗い出した。

<デジタルマーケティングの環境整備と本格開始>

環境整備としては、まず顧客理解を促進するためにクラスタ分析を実施し、代表的なペルソナを9種類作成した。次にメールのHTML原則化や会員向けWEBサイトへのタグ設置等を行った。続いてデジタルマーケティングに必要なツールを導入し、使用するデータの整理と業務フローの確立を行った。

本格開始でも顧客理解を重視し、まず全カードを対象としたクラスタ分析で、顧客理解の解像度アップを行った。次にカスタマージャーニーを作成し、クラスタ間の移動状況や上位クラスタへ遷移する成長パスを検証した。

<デジタルマーケティングのこれからの取り組み>

今後も顧客理解の更なる促進を図るため、動的データの追加やAI活用等によるデータ分析の高度化に取り組む。JR東日本グループならではの素材を活用したOne to One施策の実現により、顧客体験を向上させていく。また、これらの取り組みを支える専門人材を育成する。JR東日本の持つリアルの強みを活かしながら、デジタルを融合した新たな価値創出と顧客体験の向上を目指す。

<DX実現に向けた取り組み>

新型コロナ感染症の拡大により、当社のビジネスモデルは大きな転換点を迎えた。今後は事業ドメインを広げていく取り組みが求められ、デジタルを融合した新たな金融サービスの拡充を目指す。昨年度は全社DXに向けた準備を行い、デジタル推進の旗振り役として、業務改革推進部をデジタル戦略部へと組織変更した。またカード事業を支える基幹システムのリプレイスが完了し、全社でDXに取り組む環境が整った。

<DXビジョン>

本年度は4月に「DXビジョン」を策定し、DXで目指す姿や重点方針を取りまとめた。全社員向けの説明会を開催し、社員の意識統一と変革マインドの醸成を図った。DXビジョンに記載した主な内容の1つ目は環境整備だ。ITシステムと人材開発を重点領域に定め、まずは土台作りに注力する。ITシステムはデジタルの要素を組み合わせながら、システム全体のアジリティを向上させる。人材開発はデジタル専門人材の育成方針を定め、会社全体で育成していく。

2つ目はビジネス部門が取り組むべき重要テーマを5つ設定した。顧客体験の再設計、データマーケティングの促進、顧客接点の改善、オペレーションの自動化促進、データ経営の実践だ。各部が意識すべき共通の観点として明確化し、DX実現への大きな流れを作っていく。

<ボトムアップ×トップダウンの取り組み>

業務のデジタル化と営業のデジタル化によるボトムアップの取り組みに、DXビジョンの策定によるトップダウンの取り組みを組み合わせる。2つの掛け算により、DXの実現に向けた取り組みを加速させ、お客様体験(CX)の向上と社員の働きがい(EX)の向上に繋げていきたい。

<DXで実現したい姿>

来年からは新たな金融サービスの「JRE BANK」を開始する。JR東日本グループならではの金融サービスを提供し、お客様の豊かな暮らしをサポートできるようDXを進めていきたい。