2023年8月3日(木)開催 INSURANCE WEBINAR「保険業界における次世代のコンタクトセンター改革」<アフターレポート>


2023年8月3日(木)セミナーインフォ主催 INSURANCE WEBINAR「保険業界における次世代のコンタクトセンター改革」が開催された。顧客のニーズやチャネルの多様化が進み、コンタクトセンターはこれまでのコールセンターの役割から、顧客サポートを通じた顧客体験の実現拠点として、経営戦略上、より一層重要な役割を担うようになっている。複数のチャネルからの問合せに対し品質を担保しながら、効率的に業務運営を行うには、データやデジタルをうまく活用していく必要がある。本ウェビナーでは、基調講演では日本生命保険相互会社、特別講演にてあいおいニッセイ同和損害保険株式会社に自社のコンタクトセンター運営の事例をご紹介いただいたとともに、先進各社より、次世代のコンタクトセンター改革の一助となるウェビナーをお届けした。

  1. コールセンター発!CX向上プロジェクト
    ~「オペレーターの気づき」×「デジタル」での課題解決スキーム構築~
    日本生命保険相互会社 金山 和範 氏
  2. 保険業界におけるコンタクトセンター成長のカギとは
    ~生命保険会社の事例と共にご紹介~
    テクマトリックス株式会社 山下 誠也 氏
  3. 次世代コンタクトセンターのための顧客体験の再設計
    ~チャット・ボイスボット活用事例とGPT活用の可能性~
    モビルス株式会社 柏原 学 氏
  4. 保険業界のDXを加速させる本人確認業務
    〜これからのコンタクトセンターのあり方〜
    株式会社TMJ 西川 哲平 氏/株式会社TRUSTDOCK 田崎 十悟 氏
  5. あいおいニッセイ同和損害保険におけるコンタクトセンターのCX向上施策
    あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 緒方 康夫 氏
目次

コールセンター発!CX向上プロジェクト
~「オペレーターの気づき」×「デジタル」での課題解決スキーム構築~

基調講演
【講演者】
日本生命保険相互会社
お客様サービス部 担当部長
兼 コールセンター センター長
金山 和範 氏

ニッセイコールセンターと2022年度の状況

日本生命は大阪市に本店を構え、全国で事業を展開している。従業員数は約7万名、お客様数は約1,480万名の会社だ。コールセンターは、本社組織の中で事務サービスを担うお客様サービス本部に属し、大阪・東京・福岡に設置されている。現在、インバウンド受電を専門としており、対応するオペレーターは約220名の正社員だ。2022年度は1人あたり約4,300件に相当する受電に対応した。

2021年度までは応答率95%のKPIを達成できていた。しかし2022年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、給付金請求が通常時の6.7倍に増加したために業務が逼迫した。そのため応答率は一時60%台まで低下したが、2022年度の最終的な応答率は約81%であった。多くのお叱りの声を受けて、あらためてCX向上の重要性や長引く感染症に対する対策の必要性を強く感じるきっかけとなった。今年はとりわけサービス改善の取り組みに注力しており、顧客応接の満足度を高める考えからKPIを90%に下げている。

CX向上プロジェクトの背景

当社は「お客様本位の業務運営に係る方針」を社外に公表し、お客様の声を経営に活かす取り組みを経営方針の1つとして宣言している。コールセンターの強みは「お客様の声の宝庫」だが、その強みを自覚せず活かしきれていない点が問題であった。そこでお客さまの声(求めていること)を導き出し、サービス改善につなぐ取り組みを構築できないかと考えた。

お客様からのお申し出を応対記録としてすべて蓄積し、必要に応じて録音音源を確認できる環境も整っている。そこで業務改善のために蓄積したデータをもっと活用できるはず、関係課へ提案をつなぐ実効的な仕組みをつくれるはずだという課題意識をもった。

しかしCX向上プロジェクトをスタートさせるにあたり、課題が2つあった。1つめは「録音音源」「応対記録」のデータ量が膨大で、必要なデータが取り出しにくかった点だ。2つめはお客様の声を提供・開示していたが、お客様の声の原因や対策を見極めた提案・つなぎが不十分であった点だ。

具体的な取り組み

具体的な取り組みとして、まずお客様の声の収集方法を整理した。VOE(従業員の声)とVOC(お客様の声)に分け、課題を抽出する仕組みを導入した。アンケート作成に使える社内共用の汎用ソフトに、潜在的なご意見はオペレーターの感性に触れた「気づき」として入力できるよう定型フォームを作成した。同時に改善案も入力してもらうことで、深く考える力を養っている。社内イントラネット用に貸与したパソコンから、気づきを得たらその都度即入力できる体制だ。既存の基本インフラであったので、新たなコストはかからなかった。

オペレーターは「ご意見・ご要望」をいただいた際には応対記録にフラグをたて、キーワードを入力する。これにより、あとからテキストマイニングツールを使用して必要なデータを検索・抽出・分析できるようになった。お客様情報を取り扱うことから、テキストマイニングの分析には情報開示を制限した専用端末を活用している。

また請求書類を郵送する際にアンケートを同封することで、お客様の声をとらえている。返送されたアンケート用紙をAI-OCRでスキャンし、デジタルの文字コードに変換することで集計業務を効率化した。アンケートは、オペレーターの品質評価にも使用している。

上記の取り組みで課題をあぶりだし「検討すべき声」を明らかにしたうえで、コールセンターから能動的・定期的に発信する月次定例会議「VOCミーティング」を2020年度に新設した。会議を通じて、検討状況・結果を継続的に共有することが非常に重要だと考える。定量・定性の両方で「検討すべき声」の合理性を高め、関係課が納得できるように改善提案をすることが肝要だ。 各コールセンターで検討した内容について、月に1度、3つのコールセンターと事務局をテレビ会議でつなぎVOCミーティングを開催している。昨年度は業務が逼迫し中断した時期もあったが、3年間粘り強く続けてきた。

取り組みの成果

VOCミーティングを通じて関係課の対応が確定した案件の数は多くはないものの、実現したことがコールセンターとしては大きな1歩だと考える。具体的には、2020年度以降のオペレーターの気づき件数1211件に対して、VOCミーティングに付議した件数が61件、そのうち実現は15件、今後対応予定は35件、見送りは11件であった。

コールセンターが発議して実現した改善事例

1つめは、当社から送付している「お客様登録完了のお知らせ」通知の記載の見直しだ。「コールセンターに連絡するように書いてあったので電話した」という声が多くあり、「変更がある場合のみ連絡が必要だが、通知物の表記がわかりにくいのでは?」というオペレーターの気づきがうまれた。そこで「該当する場合はご連絡を、該当しない場合は電話不要である」ことを明記するよう提案した結果、通知物の記載は改訂されお客様からの問い合わせもなくなった。

2つめの事例は、コールセンターに解約のお申し出があった際の解約スクリプトの見直しだ。解約以外の方法やデメリット、いつまで保険料を頂くかなど、すべての情報を漏れなくすべてのお客様にお伝えしていた。しかしオペレーターの気づきやアンケートの回答から、丁寧な説明が逆にお客様満足度を下げているのではないかという課題意識がうまれた。実際に解約の際の音声データをWEXという分析ツールで計測したところ、解約手続きでは他の申し出より通話が平均3分長いことが裏付けられたため、留意事項については電話での説明か後日送付する書類にてご確認いただくかをお客様に選んでいただく新スクリプトへと変更した。また、コールセンターの営業時間が短いというお声を受け、営業時間終了後22時までAI音声ボットを活用している。解約受付のみではあるが、AI音声ボットが受付をするようサービスの拡大を進めている。はじめてみて、夜の時間帯だけでなく早朝の時間帯にもニーズがあるのではないかという認識を持ち始めているところだ。

当社では、Webやアプリで可能な手続きを順次追加していることから、年々コールセンターへ操作方法のお問い合わせが増えている。その中の1つに、ポップアップ画面を確認したあとに閉じたら元の画面に戻れないという問い合わせがあった。これが3つめの事例で、通知発送後に操作方法の照会が増えたのではという気づきが生まれ、実際にWEXデータによる裏付けがとれた。お申し出の詳細データを確認した結果、一部のブラウザで元の画面が消えたように見えることが判明し、システム関係課への即時情報共有によりシステム改修を早急に完了した。

こういった積み重ねから、想定外の変化がうまれている。事務帳票やWeb画面を設計する関係課から、変更前に相談が入るようになった。設計段階からコールセンターが関わり、お客様の分かりやすさの視点で提案を加えられるようになった。これがお客様の苦情・ご不満のお申し出の未然防止の一助になっていると感じる。 昨今ではお客様はホームページやアプリを見て、それでも解決しないのでコールセンターにお電話をいただくという流れができている。この流れを考えると、お客様の目に触れるホームページやアプリの操作性の向上や手続きの拡大も、これからの時代においては非常に重要になってくることを学んだ。

オペレーターへのフィードバック

オペレーターの気づきが提案として活かされることで、これを提案してくれたオペレーターのモチベーション向上にもつながる。このモチベーション向上も取り組みの狙いであったため、気づきを発信してくれたオペレーターへ「定期的」かつ「丁寧」なフィードバックを実施することにこだわり続けている。

VOCミーティングでの検討状況や実現した成果を「見える化」し、本人へのフィードバックに加えて事務室内に掲示することで全員に向けてPRしている点がポイントだ。「テーマ」「VOEあるいはVOC」「提案をどうしたのか」をカードに記載して、定期的に貼り出してフィードバックするようにしている。

2つめのポイントは、オペレーターの気づきへの全件フィードバックだ。コールセンターの全員が閲覧できるよう、「気づきの詳細」「同意見数の数」「検討結果」「対応予定、実現できない理由などの詳細内容」を社内イントラネットに公開している。オペレーターから継続的に提案を出してもらう仕組みづくりの要は、この全件フィードバックにあると考えている。

今後の取り組み

今後は提案した案件の効果を関係課へフィードバックしていく。いまだにWebでお手続きしたお客様が進捗状況をご自身で確認できない、海外在住のお客様とスムーズに手続きができないなど、過年度から課題があると認識しながら解決していない案件がある。あきらめずに今後も粘り強く取り組んでいきたい。さらなる課題解決に向けて、VOEレポートを部外へ発信をすることで多くの関係者を巻き込み、改善をより強力に推進していく。

結びに

コールセンターの目的は3つあると考えている。「お客様へのサービスの提供」「お客様の問題を解決し顧客満足度を向上させていくこと」「お客様からの要望を収集して企業に情報を提供し、必要に応じて企業に改善を促していくこと」の3つだ。ここまでの内容が、皆様の何かの参考になればと思う。

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