あいおいニッセイ同和損害保険におけるコンタクトセンターのCX向上施策
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特別講演【講演者】
- あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
コンタクトセンター事業部 推進役
緒方 康夫 氏
<あいおいニッセイ同和損害保険株式会社とは>
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社は、損害保険大手4社の一角で、自動車保険に強い会社だ。MS&ADインシュアランス グループの中核の事業会社として、経営理念に基づいて事業を行っている。
ドライブレコーダー連動のテレマティクス自動車保険のパイオニアとして、2018年4月に国内初の運転挙動反映型保険を販売するなど、先進的な取り組みにチャレンジしている会社だ。
<コンタクトセンターの紹介>
合計で774名が働く大規模なコンタクトセンターの拠点は、東京の成増と新宿、大阪と沖縄の全国4拠点だ。損害保険会社として万全なBCP(事業継続計画)対策が必要なことから、成増をコアセンターとして、大阪と沖縄のミラー、在宅勤務も含めて大規模災害発生時に備えている。
東京の成増は、コンタクトセンター専用の免震構造の自社ビルだ。大規模災害発生時には、当社全体の災害対策本部が設置される予定になっている。大阪については三井住友海上と拠点を集約し、10月には共同デスクを立ち上げる予定だ。
<コンタクトセンター運営全体像>
お客様・代理店様からの照会を電話・メール・チャット・HPなどで対応している。インバウンド・アウトバウンドを合わせると、対応は年間180万件に及ぶ。現在は電話が中心ではあるが、ノンボイスへの移行を推進している。
現在の直接雇用率は55%であり、自社でノウハウを蓄積するインハウス経営だ。表彰制度や託児室の設置など、従業員満足度を向上させるコミュニケータファーストの取り組みにより、92.7%もの高い定着率で安定的に経営している。2020年5月には、サポートセンター国際認定である「HDI 七つ星」を日本で初めて取得した。
<当社が目指すCSV × DX(シーエスブイ バイ ディーエックス)とは>
「CSV × DX」とは、デジタル技術を活用し、損害保険および関連サービスを通じて、お客さま・地域・社会課題の解決に貢献し、企業として持続可能性・企業価値を高めていくという考え方であり、弊社の戦略の柱だ。CSVとは「Creating Shared Value」の略で、社会との共通価値の創造を意味する。
そこで補償により経済的負担を小さくするという保険の基本機能に加え、新たな価値を生み出していく。「リスクを見つけ伝えることで事故を未然に防ぐ」「回復を支援し被害の影響を減らす」の2つに取り組んでいる。
具体的には、安全運転スコアを保険料に反映する国内初のテレマティクス自動車保険を販売しており、契約台数は180万台を突破している。安全運転スコアの高いお客様の保険料を割り引くというもので、安全運転スコアを良くしたいというお客様の意欲向上につながり、交通事故減少にも貢献している。実際に事故頻度は15%減を達成した。
事故後もドライブレコーダーの映像を活用して事故状況を可視化することで、お客様の事故報告の負担を減らしている。過失割合の算定には、AIを活用することで事故の早期解決が可能になった。実際に事故解決日数は17日減を達成している。さらに安全運転の促進はカーボンニュートラルにもつながることから、全社をあげて取り組んでいるところだ。
<コンタクトセンターが目指すCX向上の方向性>
CX向上は、デジタル活用とデータ利活用が大きな柱だ。デジタル活用でお客様が好きなチャネルを選択できて、データ利活用によりお客様とパーソナルな関係を構築してエンゲージメントを総合的に強化していく。
従来はお客様に寄り添った電話対応をコンタクトセンター単独で行ってきたが、今後はカスタマージャーニーに基づいた対応が目標だ。運営面では、チャネル連携によるパーソナルな情報発信へと変えていく。IT面では、全タッチポイントでのお客様データを収集・統合・分析へと変えていく必要がある。
<デジタル化の方向性>
デジタル化をどう進めていくのか。第1にノンボイス移行、利便性の向上だ。音声からテキストへ、お客様のニーズに合わせた利便性の向上が出発点になる。第2に業務効率化・品質向上、第3に生産性向上・価値創造の流れだ。そこで有人対応から自動対応へ体制を整える必要がある。経験・勘からデータ活用を進めるにあたり、データの蓄積が必要になる。そこで音声認識データを使ってVOC分析やモニタリング自動化を行っているところだ。データの利活用においては、CDP構築を進めており、会社全体でエンゲージメント向上に向けて顧客統合管理体制の構築を行っている。
<カスタマージャーニーの重要性>
お客様との接点を強化していくためには、お客様からのアクションだけでなく、会社からも情報を提供してどのようにパーソナルな顧客体験を提供していくか検討が必要だ。ただし会社都合でデジタル化するのではなく、たとえば自動車の事故報告は電話で受け付けるなど、お客様の状況や心情を踏まえたカスタマージャーニー構築が必要になる。VOC分析などでお客様を細分化することでお客様の行動を見える化し、お客様が何を求めているのか、そこにどうデジタル活用を組み込んで利便性を高めていくかを検討することが重要だ。VOC分析をベースに、入電量の多いお問い合わせからカスタマージャーニーの整備に着手していく必要がある。
<デジタルへの誘導方法>
ではお客様をどのようにデジタルに誘導するのか。お客様のニーズや利便性を踏まえたアプローチが必要だ。Visual IVRの活用や証券上にQRコードを掲載して読み取りによる誘導、ホームページ上での目的別解決方法の明示などの対応により誘導を促進している。
デジタルユーザーを相談系と変更系に分けており、相談系はチャットボット対応から有人チャットへ、それでも解決できないときには電話へとシームレスに連携していく。変更系は、チャットボットからWeb入力によるセルフ変更に連携する流れだ。ボイスボットは、デジタル誘導できずに電話をかけてきたお客様の自動受付を行うツールという位置付けで活用している。
<ノンボイス移行・利便性向上>
2019年に導入した音声認識システム「AmiVoice」によって、リアルタイムでテキスト化した上で、受電時のエスカレーション対応や後処理の履歴作成の効率化につなげている。要約システムも同時に導入したが、代理店への連携がない事例については履歴作成を省略するなどの効率化を図っている。
昨年からはチャットボット・ボイスボットを導入して電話に代わる自動応答領域を拡大している。人財の採用・研修ともにオンライン化を進めているところだ。拠点面は分散によるBCP体制をベースとしつつ、コミュニケータファーストの観点から在宅受電も組み合わせてワークライフバランスにも配慮している。
<ボイスボット活用事例>
お客様が発話した音声をもとに、AIが自動受付する仕組みを導入した。これにより保険料控除証明書再発行の受付業務の一部を自動化し、大幅な効率化を実現している。ボイスボットを稼働した結果、お客様の満足度低下には直結しないことが分かった。そこで定型化できる応対は、ボイスボットによるセルフサービス化へと加速させている。お客様をお待たせしない体制を構築し、顧客満足度の向上につなげていく予定だ。
<データ活用・価値創造>
音声認識データを活用したVOC分析では、レトリバ社のYOSHINAを活用してコンタクトリーズンのAI自動分類を行っている。その上で、テーマに対してなぜお問い合わせをいただいているのか深堀分析していく流れだ。これによりお客様のお困りごとやご要望の真因分析が可能になった。実際に、問い合わせの真因を把握して改善に活かしている。コンタクトセンターだけでは改善できないので、関係部門を巻き込むためにも問い合わせ件数の把握、優先順位付けが必要だ。
コミュニケータの応答品質向上のために、以前は完全マンパワーでモニタリングをしていたが、自動化により大幅な効率化を実現している。将来的にはお客様接点プラットフォームを構築し、アプリも活用しながらCX全体の改善につなげていく予定だ。
入電分類システムの導入を機に、業務改善事務局とVOC分析チームを部内に設置した。月例で会議体を開催し、各デスクのVOC分析チーム間の情報交換を行うことで、分析能力の向上を図っている。さらにVOC分析を全社で活用するために、業務品質向上推進部と連携しながら商品・事務・損害サービス部門などの関連部門を巻き込んだ取り組みも行っている。これにより商品、事務、帳票、ツール、パンフなどの改善の取り組みが、今後加速することが期待されている。
<結びに>
CX向上には、デジタル化によりエフォートレスに即時完結することが求められる。データ利活用により、能動的にカスタマーエンゲージメントを創造・強化しつつお客様とのパーソナルな接点強化をしていくことが目標だ。ChatGPTはコンタクトセンター自動化のステージを大きく変えることになるが、目指すべき方向性は変わることはないだろう。弊社ではVOCを起点にカスタマージャーニーを進化させて、能動的な顧客体験やエンゲージメントの強化という目標に向けて継続的にチャレンジしていきたい。