- 顧客データ活用によるカードオペレーションの構造改革と人材開発
株式会社クレディセゾン 磯部 泰之 氏 - カード決済情報販売ビジネスモデルの構築とデータ活用のポイント
デル・テクノロジーズ株式会社 池田 司 氏 - ビューカードのデジタル戦略について
株式会社ビューカード 鈴木 国彦 氏
顧客データ活用によるカードオペレーションの構造改革と人材開発
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社クレディセゾン
執行役員
クレジット事業部長
磯部 泰之 氏
<会社紹介>
当社の事業セグメントはクレジットカード事業が76%以上だが、利益ベースではカード以外が過半数を占めている。歴史的には1951年に月賦百貨店「緑屋」を設立したのが始まりで、1982年には「セゾンカード」の発行を開始した。現在の中計のテーマは「第三創業」で、総合生活サービスグループとして多角的な事業の展開を検討している。
<顧客データ活用>
2018年3月にプライベートDMPの「セゾンCDP」をローンチした。CRMやデータを活用したマーケティングや広告活用を模索して作成したものだ。この頃はガートナー社のハイプサイクルでは「ビッグ・データ」の絶頂期で、ターゲティング広告などのアドテクも、スマホやSNSを通じて広がっていた。同時に、カード会社のデータも注目されていたという背景がある。アドテクをフィンテックと掛け合わせて、新しい購買体験ができるのではないかと期待して推進していた時期だ。
データ活用に向けて8つのイシュー(課題)があり、最も重要なのは事業モデルで、何のためにデータ活用をするのかを明確にしなければならない。最初に取り組みやすいテーマとして、オペレーションコストや販促コストの削減などが挙げられる。データ活用の目的が明確になることで、データ量・データ種類・データ解析など、他のイシューもブレがなくなる。
現在はビッグ・データという言葉はなくなり、ほぼ使われなくなった。「ChatGPT」に代表される人工知能・AIのステージに一気に変わった状況だ。
<目指していること>
データ活用で目指していることは、日本版の金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)だ。弱与信層(若年・主婦主夫・年金生活者)・富裕層・SME・在留外国人などをマネージできるようにしていきたい。JDMC(日本データマネージメント・コンソーシアム)では倫理項目とつまずきポイントをまとめている。実務担当者はこのような情報も見ながら進めていくと良いのではないかと考えている。
<与信オペレーション戦略・構造改革>
日本版の金融包摂を目指すうえで、4つの流れがある。まず起点になるのは与信政策で、与信精度の向上やお客様の利便性向上を、省力化しながら実現できるかが重要だ。2番目は不正・不良対策で、グローバルで金融犯罪が問題となっており、セキュリティやモニタリングが課題だ。3番目は業務構造改革で、様々なテクノロジーによって業界を変えていく。4番目はビジネス化で、与信・不正・回収ノウハウ・有力人材を活用した、関連ビジネスの創出拡大だ。
当社は初期審査・途上審査・債権回収でデータ活用やオペレーション構造改革を行っている。3つのセクションで情報連携を毎日のように行い、ワンチームとして動く体制だ。顧客起点または会社全体の視点から業務を変えていく方針で進めている。また、構造改革でAIを使ってより正確に・よりスピーディーに・よりローコーストで実現できるかも腕の見せ所だ。
不正利用に対しては単にモニタリングを強化するだけでは不十分だ。後続の業務も含めて顧客体験をどう高めていくかが重要で、被害にあった方やカードを一度止めた方が、引き続きいかに気持ちよくカードを使っていただけるかが問われている。この部分に関しては、他の金融機関の皆様とうまく協力していければと考えている。
債権回収はまさにDXの塊のようで、やりがいのある領域が大きい。当社グループのサービサーと連携しながら、回収力の向上に取り組んでいる。回収ができなかった場合でも、その理由を営業部隊や審査部門にフィードバックし、より良い審査・途上になるように情報を介していく。
<カード別単年度管理からLTV管理へ>
カード部門のマネジメント手法は、これまでどうしても半期や年度の計数管理で行ってしまうことが多かった。現在はLTVで管理をしていきたいと考えている。
冒頭でもお伝えしたように、カード以外のビジネスが当社の利益の50%以上を占めている。住宅ローン・保証業務・投資信託・チケットサービスなど、多彩な領域でビジネスを展開している。カード利用者が18歳から申込みいただくと、50年・60年と長期間カードを保有していただけることになる。その間に発生する様々なライフイベントで、当社グループのサービスを多数ご案内したい。会社のスローガンでも「お客さまと50年を共に歩むファイナンスカンパニー」としている。
直近の1つの事例として、家賃保証業務をここ数年取り組んでいる。冬から春にかけて、学生が大学に合格したり卒業して就職したりするなどの理由で、新しくアパートやマンションを借りる際に、家賃保証サービスを利用していただく。このときセゾンカードにも申込み、カード審査と同時に入居審査も行う流れだ。審査結果はSMSにて最短2分で通知される。カードビジネスと家賃保証ビジネスがドッキングした形式だ。
法人版のLTVも取り組んでおり、創業期・成長期・安定期など、各ステージに応じたファイナンスサービスを提供していく。ノンバンクのサービスが中心に、いかに企業に寄り添えるかを考えている。
<人材育成・組織開発>
LTV管理を推進するためにも、人の育成や組織の作り方が重要だ。期待を超える感動体験の提供を目指して「CSDX戦略」に取り組んでいる。2023年5月31日に、DX銘柄2023に選定された。当社ホームページに詳細資料が掲載されているので、ぜひご参照いただきたい。育成目標は、全社員5,000人のうち20%に該当する1,000人をデジタル人材にすることだ。中途採用を中心としたコアデジタル人材、人材育成・新卒DX採用等によるビジネスデジタル人材などを育成していきたい。
人材育成のために「率先垂範」ということで、役員を対象にノーコード・ローコード開発のブートキャンプを実施した。日本マイクロソフト本社オフィスにて行われ、当社の社長も受講した。キャンプで完全なアプリができるわけではないが、雰囲気が分かるため手ごたえのある内容であった。
<ベンチャーとの連携>
自社でも様々な取り組みを行っているが、ベンチャーの取り組み姿勢やスピード感は刺激になる。当社は10年以上前から、ベンチャーファンドへのLP出資や直接出資、CVCの設立などに取り組んできた。ベンチャーの方へのリスペクトや協業は、組織文化として根付いている。
最近の事例では、UPSIDER社様との「支払い.com」の共同開発・運営がある。また、ナッジ社様は少額割販事業会社で、出資や人員派遣を通じて少額割販のビジネスのあり方を共に作っている。当社とはまったく異なるやり方のため、派遣している当社の社員にも刺激になっているだろう。
<ジョイントベンチャー>
大和証券グループ社様のように、大きな企業と共にベンチャーを運営する取り組みも行っている。株式会社Fintertechは、大和証券グループと金融ノウハウと先端技術を通じた革新的なサービスで、暗号通貨や投げ銭など、最先端の金融サービスについて共に取り組んでいる。
サイバーエージェント社様とは、金融データを活用したマーケティングビジネスについて取り組んでいる。株式会社CASMを設立し、当社だけではない様々な金融データを用いて、マーケティングに活用する方法を模索している。
<学ぶ組織>
当社には社員が社員に教える、E2E型実務型講習プログラムがある。社員自身が持つ専門業務スキル・得意スキルを他の社員に講師となって教えるが、講師自身も勉強になっているプログラムだ。このような仕掛けが、先ほどご紹介したデータ活用や与信の改革に繋がっていると考えている。