- ソニー銀行におけるデータを活用した営業活動の高度化
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ソニー銀行におけるデータを活用した営業活動の高度化
- 基調講演
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【講演者】
- ソニー銀行株式会社
- データアナリティクス部長
- 伊達 修 氏
<ソニー銀行について>
ソニー銀行は開業20周年を機に今後どういう会社でありたいのかを整理し、「Hello, inspiration.」をコーポレートステートメントとした。「Hello, inspiration.」には外貨預金や資産運用などお客さまが新たなことにチャレンジしたいと考えた際に、ソニー銀行とであればチャレンジできると思っていただけるような銀行になりたいという思いが込められている。そのような銀行となるためにデータ利活用で貢献すべく試行錯誤している状況だ。
当行はソニー生命やソニー損保等と共に、ソニーグループの金融サービスを展開している。預金残高は3.5兆円、融資残高は3.0兆円、外貨預金残高は5,011億円の規模だ。(いずれも2023年3月期時点)近年は、外貨預金と住宅ローンを中心に収益を拡大している。
<ソニー銀行におけるデータ利活用で注力したポイント>
注力したポイントは2点あり、1つ目は「データによる施策の見える化」だ。データで当行および各施策の現状把握とデータの社内共有を行う取り組みだ。その際、データは数値の羅列だけでなく、より視覚的に理解できるよう工夫している。
2つ目は「アクションを意識した目標設定」で、本日のセミナーで重点的にお話ししたい領域だ。施策KPI(例えば外貨預金増加額)を、それに紐づくサブKPI(外貨購入額など)に分解する。細かな施策への分解とサブKPIで優先順位を明確にし、アクションに繋げる。
<データの社内共有>
当行はデータ分析部門が全社のデータ分析を一手に担っているが、社内でのデータへの関心が高まるにつれデータ分析部門へ分析依頼が増加してきたため、分析依頼で作成したレポートを一部自動定型化し、分析結果をBIツールで社内共有した。結果として分析依頼の削減を図りつつ、狭義のデータ民主化を促進した。BIツールの閲覧状況を監視し、データ画面の見せ方等の品質改善を適宜実施している。また、BIツールの活用見込みのない社員のアカウント回収やその他社員へ再割り当て等も行っている。
<BIツールの運用概要とブランド化>
他のアクセス解析ツール等を一つのBIツールに集約することで、利便性が高まりデータ閲覧の頻度が高まった。また、ローン企画や外貨企画などの担当者ごとに分析担当者をアサインしているため、データに関する要望を即座にヒアリングでき、BIツールにクイックに反映できる体制だ。一方でトップマネージメントがBIツール画面で会議進行するケースも発生し、社員への利用も拡大している。
継続的な啓蒙活動と、利便性・品質改善の結果、BIツールが一種のブランド化している状態だ。予算の都合で全社員にアカウント付与できないといった理由での予期せぬ希少化も発生した。施策検討の際、BIツールを活用することが一種のステータスとなっている。ただし当初からブランド化を意識した活動ではなかったが、BIツールをブランド化することが、BIツール活用を活性化させ、ひいては企業のデータ文化醸成の一助となり得ると感じている。
<地図情報を用いたデータの見える化>
当行はネット銀行であることから従来はWEB広告が多かったが、近年それに加えて鉄道広告や街頭大型サイネージなどの活用も検討した。出稿先を検討するために居住地による属性を表した「Mosaic」データを地図上にマッピングすることで顧客属性分布を視覚的にイメージし、広告宣伝費の効率化を検討した。
具体的にはMosaicで当行がターゲットしたい顧客層を地図上で紫色の分布で表示させた。さらに、過去の当行の住宅ローン申込者の居住地情報と重ね合わせると、JR京浜東北線、中央線、総武線沿線などでMosaicの紫色の地域と重複することが判明した。そこでJR京浜東北線と総武線に絞って鉄道広告を実施し、ソニー銀行の住宅ローンを紹介した。なお、今回は重複エリアを選択したが、新たな地域開拓という観点では、重複しないエリアを選択する戦略もあり得る。
<メール配信効果の見える化>
当行は商品ごとの縦割り組織で、各商品担当者が商品軸で顧客とのメールコミュニケーションを行っている。顧客によっては、統一感のないメールが毎月30通配信されることもあり、当行のメールへの関心が薄れつつあるのかメールのクリック率の低さが課題だ。
そこで、テクノロジーを活用した顧客軸でのメール配信へのシフトを進めている。顧客の取引状況やサイト訪問などアクションをAIで分析し、分析に応じたシナリオを策定し、シナリオに即したメール配信を目指す。うまくいったシナリオメールでは開封率は1.4倍、クリック率は2.7倍に改善した。ただし、一部シナリオ化することができたものの、まだ道半ばの状況だ。
<外貨預金訴求のための仮説設定や目標のサブ指標への分解>
銀行にとって外貨定期預金や投資信託など資産運用商品は利益率が高く、これら商品を利用してもらうことが会社の利益成長に繋がる。よって、口座開設から資産運用まで、商品ベースでのカスタマージャーニーを設計している。一方で、お客様に関するインサイトも合わせて考慮しなくてはならない。例えば、顧客の外貨購入までの道筋について、なぜ外貨を購入しようと考えたのか、海外旅行、留学など仮説設定により顧客動向を検討し、合わせて商品特性に応じて外貨預金を訴求する施策(道筋)を考え、施策目標を達成するための目標値を細分化して施策を実施・評価することが重要だ。
当行では新規顧客の口座開設申込から外貨預金利用までの各段階でサブ指標に分解し、過去のデータからサブ指標を数値として把握している。具体的には、新規顧客の外貨預金残高増加を目標⑦とする場合、①口座開設申込者数、②外貨預金利用意向者数、③外貨預金利用者数、④外貨利用意向割合(②/①)、⑤外貨実利用割合(③/②)、⑥外貨保有者の平均残高(⑦/③)といった6つのサブ指標が形成される。目標⑦を達成するために、①から⑥の過去数値から逆算、注力ポイント(サブ指標)を設定し、施策の優先順位付けを行う。例えば外貨利用意向割合を増やすには広告のターゲティング精度向上、外貨実利用割合を増やすならメールのようなインナーマーケティング強化といった具合だ。
<NPS向上に寄与するキードライバーでNPSを分解>
ソニー銀行ではNPSを経営指標の1つとして採用しており、NPS向上に寄与するキードライバーを複数で調査している。「お客さまに寄り添う姿勢」の満足度が低い一方、NPSへの影響度が高いことが判明し、改善が急務となった。また個別施策でもNPS向上に寄与する項目を調査し、改善項目を施策レベルに落とし込んだ。具体的には、タイミングの良いメール配信、ニーズにマッチしたメール内容、メール内容のわかりやすさが「お客さまに寄り添う姿勢」に直結した施策となり、これらを改善することでNPS向上に繋げていく。
<ソニー銀行のデータ民主化に向けた取り組み展望>
一般的に分析組織は「中央集権型」「フェデレーション型」「分散型」に大別される。現在当行はデータ分析部門が全社のデータ分析を一手に担う中央集権型でデータ分析施策を進めているが、分析ニーズの広まりから、各部門でも分析施策の一部を実施するフェデレーション型へのシフトを検討している。データ部門は各部での分析施策のサポートをすべく、データおよび分析ツールのコーディネートを行う。
今後のデータ分析基盤として、各データソースからのデータをデータレイクに格納し、データウェアハウスで分析用途に応じて加工されたデータが格納される。各部門が分析ツールなどで利用できるようなデータを提供することで「データ民主化」を促進する。一方で、データ民主化が進むにつれて、データの鮮度管理、データカタログの整備等データマネジメントの取り組みが重要になっており、当行でも課題の一つだ。いずれにしてもデータ分析の目的・課題が時と共に変化するため、それらに応じて組織体制、役割は迅速に対応できることが重要だ。
データ人材育成のための取り組みも重要で、新入社員向けデータ分析基礎研修や、メンバー個々の分析スキルに応じた個別指導・研修を実施している。一般社団法人データサイエンティスト協会が定めるスキル要件を基にメンバーの分析スキルを計測した結果、当行では「データサイエンス力」のアップが課題だ。人材交流についても、セミナー参加、他社分析メンバーとの情報交換会も実施している。通常業務を通じてのスキルアップも重要で、毎月40本程度の分析レポートを社内へアウトプットしており、分析業務を通じて「ビジネス力」は着実にアップしているものと感じている。人材育成はバイネームでの取り組みが重要、人事との協業も不可欠と考えている。