銀行代理業制度とは?概要から該当業務まで弁護士が解説

銀行代理業制度とは?概要から該当業務まで弁護士が解説

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2006年4月に導入された銀行代理制度。預金の受入れや貸付などの契約を銀行に代わって行う銀行代理店が増えると見込まれた本制度だが、許認可や規制が壁となり、十分な広がりを見せていない。一部で制度改正も報じられる中、現在の銀行代理業制度の各種規制と該当業務について弁護士が詳しく解説する。

  1. 銀行代理業とは
  2. 銀行代理業の許認可および要件
  3. 銀行代理業の行為規制
  4. 銀行代理業に該当するか – ①契約内容
  5. 銀行代理業に該当するか – ②代理・媒介
  6. 銀行代理業に該当するか – ③銀行のために

銀行代理業とは

銀行代理業とは、「銀行のために」(1)預金又は定期積金等の受入れを内容とする契約、(2)資金の貸付け又は手形割引を内容とする契約、又は(3)為替取引を内容とする契約の締結の代理又は媒介を行う営業、として定義されている(銀行法第2条第14項)。なお、銀行以外の金融機関についても同様の制度が設けられている。

かかる銀行代理業制度は2006年4月に導入されたものである。それ以前にも、銀行代理店制度はあったが、代理店は銀行の100%子会社等に限定され、他の業務の兼業が禁止されるなど、厳しい規制の下でのみ認められていた。銀行代理業制度はこれを緩和し、一般事業者等に銀行代理店の担い手を拡大するものといわれていた。

もっとも、規制が緩和されたといっても、顧客保護の観点や取引の公正を確保する目的等から、以下のような規制があるため、実際上は銀行代理業が幅広く営まれているとまでは言い難い。

銀行代理業の許認可および要件

銀行代理業の許認可および要件

まず、銀行代理業を行うには、内閣総理大臣(管轄財務局長)に許可を申請して許可を得る必要がある。金融商品仲介業や生命保険募集人・損害保険代理店などは「登録」を要するとされているのに対して、銀行代理業の場合は「許可」が必要とされていることからも、他の類似の制度よりも当局の規制が厳しいことは明らかである。

許可の基準

許可の基準としては、銀行法上、以下3点が挙げられており、いずれも、考慮すべき事項の詳細は銀行法施行規則に規定されている。

(A) 銀行代理業を遂行するために必要な財産的基礎を有すること

基本的に、個人であれば純資産額が300万円以上、法人であれば純資産額が500万円以上。

(B) 人的構成等に照らして、銀行代理業を的確、公正かつ効率的に遂行するために必要な能力を有し、十分な社会的信用を有すること

業務ごとに必要な知識、経験ないし能力を有する者を配置すること、社内規則等必要な体制の整備など

(C) 他に業務を営むことにより銀行代理業を適正かつ確実に営むことにつき支障を及ぼすおそれがあると認められないこと

兼業業務の内容が法令に抵触しないものであり、かつ銀行代理業者として「社会的信用」を損なうおそれのないこと、兼業業務による取引の優越的地位を不当に利用して顧客保護に欠ける行為が行われるおそれがないこと、などが求められる。

また、銀行代理業の内容が事業の用に供するための資金貸付け等の契約締結の代理・媒介の場合、保険会社等利益相反が認められない者を除き、預金等・国債担保貸付け及び規格化された貸付商品(貸付けの金額が1千万円を上限とするものに限る)で与信審査に関与しないもの以外は認められない。

さらに、主たる兼業業務が貸付け等与信を行う業務である場合は、銀行代理業として行う資金貸付け等の契約締結の代理・媒介は、原則として、預金等・国債担保貸付けの代理・媒介のほかは、貸付資金で購入する物品・物件を担保とする貸付契約に係るもの(事業の用に供するための資金に係るものを除く。)で「規格化された貸付商品」であって与信審査に関与しない等の要件を満たすものに限定される。

また、銀行は他の銀行の銀行代理業者となることができ、この場合許可は不要であるが、当局への事前の届出を要する(なお、銀行が外国銀行の業務の代理又は媒介を行う業務については、別途規制されているが、ここでは述べない)。

所属銀行の特定

なお、銀行代理業の許可を得るにあたっては、所属銀行を特定しなければならない。事後に所属銀行を追加することは可能であるが、当局への変更届出が必要になる(なお、通常、業務方法書の変更も伴うため、事前の届出も必要になると思われる)ほか、代理商としての競業避止義務(商法28条)に抵触することを避けるために各所属銀行から同意を得る必要があると思われる。また、二以上の所属銀行を有することについて顧客に事前説明義務を負う。

銀行代理業の行為規制

銀行代理業の行為規制

銀行代理業者の行為規制には以下のものが含まれる。

  • 標識の掲示義務
  • 名義貸しの禁止
  • (銀行代理業、付随業務のほか、兼業につき承認を受けた業務以外の)他業の禁止
  • 顧客から交付を受けた金銭等の分別管理義務
  • 顧客に対する説明義務・情報提供義務
  • 虚偽の告知、抱合せ販売、優越的地位の不当な利用など不正な行為の禁止
  • 帳簿書類の作成・保存義務
  • 銀行代理業に関する報告書の当局への提出と開示

なお、銀行が銀行代理業を営む場合は、前述のとおり当局の許可は不要だが、上記とほぼ同様の行為規制に服する。

このように、銀行代理業を営む場合、原則として、一定の要件を満して許可を得なければならず、また銀行代理業者として広範にわたる行為規制にも服することになるため、安易に銀行代理業を行うことができるわけではない。

ところが、銀行代理業に該当しうる業務の範囲は比較的広いため、銀行等が当事者として関与するやや複雑な金融取引等に際しては、実務上は、銀行代理業に該当しないかどうか、あるいはどのような仕組みであれば銀行代理業に該当しないかという点が問題になることがしばしばある。

その場合、スキームによっては、銀行代理業に該当するため、当該ビジネスを断念するかあるいはスキームを大幅に変更しなければならないこともあろう。かかる観点から、どのような業務が銀行代理業に該当するかという点を具体的に見ていく。

銀行代理業に該当するか – ①契約内容

銀行代理業に該当するか - ①契約内容

まず、対象となる契約が(1)預金又は定期積金等の受入れを内容とする契約、(2)資金の貸付け又は手形割引を内容とする契約、又は(3)為替取引を内容とする契約、すなわち銀行の固有業務に関するものであることが要件である。

デリバティブや有価証券の貸付け等の付随業務、その他の業務にかかる契約締結の代理・媒介を行っても、銀行代理業とはならない。

なお、「為替取引」とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること(又は引き受けて遂行すること)をいう。

すなわち、送金業務が基本的にこれに該当するが(したがって、資金決済関連のFinTech業務において、銀行代理業との関係が問題になりうることが多い)、いわゆる外国為替取引などは、送金業務を除き、一般的には、「為替取引」ではなく、両替や金融等デリバティブ取引など付随業務に該当するものであって、銀行代理業の対象にはならないと考えられる。

銀行代理業に該当するか – ②代理・媒介

銀行代理業に該当するか - ②代理・媒介

次に、一定の契約の「締結」の「代理」又は「媒介」が対象となる。ここで、「代理」とは、基本的に民法上の代理と同じ概念であり、本人(銀行)を代理して契約を締結する行為なので、何がこれに該当するかは比較的明確である。

これに対して、「媒介」は、他人の間に立って両者を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為を意味するため、非常に広い行為が対象となりうる。

具体的には、(預金受入れ等の)契約締結の勧誘はもちろん、勧誘を目的とした商品説明、契約締結に向けた条件交渉、契約申込みの受領(下記③を除く。)や契約の承諾も含む。

もっとも、金融庁のパブリックコメント回答や監督指針等による限り、以下のような行為は(媒介に類似する面もあるものの)原則として媒介には該当しないと考えてよい。

  1. 単なる紹介(但し、銀行から報酬を得ている場合は、預金等の媒介(勧誘)を行っているケースが多いとされ、その場合は銀行代理業に該当するとされる。もっとも、銀行から報酬を得ていても、個別の契約の内容に立ち入らなければ、媒介でないというべきであろう。)
  2. 商品案内チラシ、パンフレット、契約申込書等の単なる配布・交付(但し、書類の記載方法等の説明は除く。)
  3. 契約申込書・添付書類の受領・回収(誤記、記載漏れ、添付漏れの指摘を含む。但し、記載内容の確認等まで行う場合を除く。)
  4. 金融商品説明会における一般的な銀行取扱商品の仕組み・活用法等についての説明

なお、コンビニ等が銀行の委託によりATMを設置することも、これが「無人の設備」(銀行法施行規則35条1項4号)に該当する場合、銀行代理業の許可は不要とされる。これは、当該ATMは銀行の出張所として扱われるため、コンビニ等自身が銀行のために媒介を行っているわけではないからであろう。

また、あくまでも契約の「締結」の代理又は媒介であるので、例えば、シンジケートローンのエージェント業務(レンダー側のエージェント=「代理人」として、借入人との間で資金決済や通知等の事務を行うもの)については、資金の貸付けにかかる契約の締結に関するものでなく、契約成立後の事務処理に関するものである限り、これに該当しない(もっとも、コミットメントラインなど、追加融資・新規融資が可能な契約に基づき、エージェントがレンダーのために追加融資・新規融資を代理ないし媒介する場合は、銀行代理業に該当しうる)。

銀行代理業に該当するか – ③銀行のために

銀行代理業に該当するか - ③銀行のためか

最後に「銀行のために」代理・媒介を行うものかどうかが、実務上もっとも問題となる。金融庁のパブリックコメント回答によれば、「銀行のために」とは、銀行から直接又は間接的な委託により行う行為であることを意味するものとされており、銀行からの委託によらないで、「純粋に顧客からのみの委託により、顧客のためにする行為」であれば、「銀行のために」という要件に該当せず、銀行代理業には該当しないと考えられる。

すなわち、「顧客のために」行うものであれば、銀行代理業には該当しない(なお、「顧客のために」とは、監督指針上、顧客からの要請を受けて、顧客の利便のために、顧客の側に立って助力することをいうとされている)。

例えば、シンジケートローンのアレンジャー業務も、借入人のために同業務を行う限りは、銀行代理業に該当しないとされている。

具体的なあてはめについては、金融庁のパブリックコメント回答では、「個別事情に即して判断する」との前提の下、「一般に、①銀行からの直接又は間接的な委託(再委託、再々委託及びその連鎖)に基づき、預金、貸付け、為替取引を内容とする契約の条件の確定又は締結に関与するものではない、②契約の条件の確定又は締結に関与する対価として、銀行から直接又は間接的に報酬、手数料その他名目のいかんにかかわらず経済的対価を受領するものではない、場合には、銀行代理業に該当しない」とされている。

一見、銀行からの委託の有無、銀行からの対価の有無、といった外見的、客観的事情のみから判断できるようにも思われる。かかる事情が重要な要素であることは間違いないが、例えば、対価といっても、名目を問わないものであるし、また銀行から直接受領する必要はなく、間接的に(例えば、顧客経由で)受領するものでもよいとされている。

また、パブリックコメント回答上も、資金需要者(顧客)のために媒介を行うことを書面で通知しても、実質的に銀行のために媒介すると認められる場合は銀行代理業に該当しうるとされている。

監督指針でも、「契約上又はスキーム上は顧客のために行為することとされている場合でも、当該者が実務上、その契約若しくはスキームに定められた範囲を超えて又はこれに反し、実質的に銀行のために代理・媒介業務を行っている場合」には、銀行代理業に該当する場合がある旨が示されている。すなわち、単に形式面だけでなく、委託の連鎖関係や報酬その他の経済的対価の支払い等の実態に照らして、当該行為が実質的に銀行のために行われているものでないかを検討することが必要であろう。

なお、金融機関の顧客と利用契約等を締結してサービスを提供する「中間的業者」については、現行法の規制、とりわけ銀行代理業制度との関係で問題が生じており、いわゆる「電子決済等代行業者」の登録制など規制の改正が進められている(この点については、機会があれば、別途述べたい)。

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