【弁護士が解説】マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン

【弁護士が解説】マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン

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金融庁は2018年2月6日に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表した。銀行や保険会社など、多くの金融機関が適用対象となる本ガイドラインについて正しく理解すべく、策定の背景や拘束力、主な内容とポイントについて弁護士が詳しく解説する。

  1. マネロン対策ガイドラインのねらい
  2. マネロン対策ガイドラインの適用対象
  3. マネロン対策ガイドラインの拘束力
  4. 主な内容① 全体の構成
  5. 主な内容② 記述形式
  6. 主な内容③ リスクベース・アプローチの内容
  7. 主な内容④ マネロン・テロ資金供与対策の態勢整備
  8. まとめ

マネロン対策ガイドラインのねらい

ガイドライン作成の背景

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」作成の背景には、犯罪・テロ等の資金源遮断のためマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与(以下「マネロン・テロ資金供与」という。)の対策の重要性が一層高まっていることに加え、短期的には、マネロン・テロ資金供与対策の国際機関である金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)による第4次対日審査が2019年に予定されており、対策の実効性(Effectiveness)が審査項目となることを見据えていると考えられる。

リスクベース・アプローチによる実効的対策の強化

マネロン・テロ資金供与への対策手法として、法定手続を履践する対応にとどまりやすいルールベース・アプローチのみによるのではなく、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)にも現れるリスクベース・アプローチ(規制の対象者がリスクを把握し、リスクに応じた措置を講じる手法。下記「マネロン対策ガイドラインの主な内容③ リスクベース・アプローチの内容」参照。)による実効的な対策がとられるよう、リスクベース・アプローチの具体的な考え方や講ずべき措置を提示し、各金融機関に一層の対策強化を促すことが、マネロン対策ガイドラインのねらいと考えられる。

マネロン対策ガイドラインの適用対象

金融庁所管の特定事業者

マネロン対策ガイドラインは、犯収法の特定事業者(犯収法第2条第2項各号)のうち、金融庁所管の事業者(但し、同項第46号の公認会計士および監査法人は含まない。)を対象としている(マネロン対策ガイドラインI-4)。地域金融機関を含む、銀行、保険会社、金融商品取引業者、貸金業者などが対象となる。

グループ全体での整合的な対策

ファイナンスリース会社(犯収法第2条第2項第38号)、クレジットカード会社(同項第39号)などは金融庁所管の事業者ではなくマネロン対策ガイドラインの直接の対象には含まれない。

もっとも、マネロン対策ガイドラインでは、グループ全体に整合的な形での、マネロン・テロ資金供与に関する対策の実施が必要とされていることから(マネロン対策ガイドラインIII-4)、これらの金融庁所管の事業者ではなくても金融庁所管の事業者のグループ会社であることにより、グループ管理の一環としてマネロン対策ガイドラインに沿った対応が必要となる場合がありうる。

マネロン対策ガイドラインの拘束力

監督項目としての位置づけ

金融庁は、マネロン対策ガイドラインを踏まえたマネロン・テロ資金供与対策の対応状況を金融庁による監督項目と位置づけている(マネロン対策ガイドラインI-4)。また、マネロン対策ガイドラインの施行と同時に、金融庁は各金融機関向けの監督指針および事務ガイドラインも改正し、マネロン対策ガイドラインに記載された措置の実施状況を各金融機関に対する監督項目とすることを明確化している。

行政対応

各金融機関におけるマネロン対策ガイドラインを踏まえた対応が不十分であって、マネロン・テロ資金供与に関する管理態勢に問題があると判断される場合には、それぞれ適用ある規制業法(銀行法、保険業法、金融商品取引法など)に基づく行政対応(報告徴求、業務改善命令、業務停止命令など)の対象となり得る(マネロン対策ガイドラインI-4)。各金融機関においては、この点を踏まえ、マネロン対策ガイドラインについて事実上の強制力を有する規範として対応すべきといえる。

主な内容① 全体の構成

リスクベース・アプローチの内容、態勢整備

マネロン対策ガイドラインでは、各金融機関がマネロン・テロ資金供与対策として講ずべき措置について、大きくリスクベース・アプローチの内容(マネロン対策ガイドライン「II リスクベース・アプローチ」)とそれを支える態勢の整備(マネロン対策ガイドライン「III 管理態勢とその有効性の検証・見直し」)とに分けて詳述している。

基本的考え方、金融庁によるモニタリング等

このほか、マネロン・テロ資金供与対策に関する基本的な考え方を示す(マネロン対策ガイドライン「I 基本的考え方」)とともに、金融庁および業界団体がマネロン・テロ資金供与対策の強化のため今後実施すべき施策にも触れている(マネロン対策ガイドライン「IV 金融庁によるモニタリング等」)。

主な内容② 記述形式

マネロン対策ガイドラインでは、各金融機関において講ずべきマネロン・テロ資金供与対策について、項目別に、対策の視点を示したのち、具体的内容を「対応が求められる事項」と「対応が期待される事項」とに分けて記述している。また、一部項目では、「先進的な取組み事例」として、マネロン・テロ資金供与対策の優良事例を提供している。

各金融機関においては、各項目の「対応が求められる事項」の対応に不足がある場合には行政対応の対象となりうること(マネロン対策ガイドラインI-4)を踏まえて、各社における対策を確認し、実施すべきである。

主な内容③ リスクベース・アプローチの内容

意義

マネロン対策ガイドラインは、リスクベース・アプローチを「金融機関等が、自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることをいう。」としている(マネロン対策ガイドラインII-1)。

リスクの特定・評価

各金融機関のマネロン・テロ資金供与に関するリスクの内容・程度は、業務規模、取扱商品の内容、顧客の属性、海外取引の有無、取引地域などにより区々であり、まずは各金融機関自身が自らの直面するリスクを把握することが対策の出発点となる。具体的には、「II-2(1)リスクの特定」および「II-2(2)リスクの評価」の項目において上記諸要素をリスク把握にあたって考慮するなどの留意点が示されている。

リスクの低減措置

各金融機関が把握したマネロン・テロ資金供与のリスクに応じて、リスクの低減措置をとることが、「マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の実効性を決定付けるもの」とされている(マネロン対策ガイドラインII-3(3)(i))。

具体的な措置は以下の項目に分けて内容が詳述されている(括弧内はマネロン対策ガイドラインの項目番号)。

(a)顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD))(II-3(3)(ii))

リスク低減措置の中核的項目である。対応が求められる事項として、リスクが高い顧客・取引についての対応指針を示す顧客の受入れに関する方針の作成(II-3(3)(ii)①②)、顧客のリスクに応じた顧客管理(II-3(3)(ii)⑥⑦)、取引開始後においてもリスクに応じて定期的に顧客情報を取得するなどの継続的な顧客管理の実施(II-3(3)(ii)⑧)などが掲げられている。

(b)取引モニタリング・フィルタリング(II-3(3)(iii))

個々の顧客に着目した顧客管理に加えて、個々の取引に着目した取引モニタリング(異常取引の検知)、フィルタリング(制裁対象取引の検知)を行うことが求められている。

(c)記録の保存(II-3(3)(iv))

マネロン・テロ資金供与対策に必要な記録の保存が求められている。

(d)疑わしい取引の届出(II-3(3)(v))

疑わしい取引の届出の要否について、保有情報を総合して、適切な監視、検知、分析、判断、届出が行われる態勢の構築などが求められている。

(e)ITシステムの活用(II-3(3)(vi))

業務規模、特性等に応じたITシステムの早期導入の必要性を検討したうえで、システム対応においては、情報の集約管理・分析、取引検知などを行うことが求められている。

(f)データ管理(データ・ガバナンス)(II-3(3)(vii))

正確なデータの保存、整理が求められている。

これらのリスクの低減措置を講ずるにあたっては、把握したリスクの程度に応じた措置をとることが特に指摘されている。例えば、マネロン・テロ資金供与リスクが高い顧客については、厳格な顧客管理(顧客・取引に関する追加情報の入手、上級管理職による取引実施の承認、取引モニタリング時の敷居値の強化など)を行う一方、そのリスクが低い場合には適用法令の範囲で取引モニタリングの敷居値の緩和をするなどの簡素な顧客管理が許容されることが示されている。

海外送金等、FinTech等の活用

このほか、マネロン・テロ資金供与のリスクが高まる海外送金等を行う場合の留意点(マネロン対策ガイドラインII-2(4))、AI(人工知能)やブロックチェーンなどの新技術利用の観点からのFinTech等の活用(マネロン対策ガイドラインII-2-(5))にも触れられている。

主な内容④ マネロン・テロ資金供与対策の態勢整備

マネロン対策ガイドラインは、リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与対策の実効性を確保するため、各金融機関においてそれを支える態勢の構築を求めている。

具体的には以下の項目に分けて内容が詳述されている(括弧内はマネロン対策ガイドラインの項目番号)。

(a)マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の策定・実施・検証・見直し(III-1)

マネロン・テロ資金供与対策について、計画(Plan)→実施(Do)→検証(Check)→見直し(Act)のプロセスを継続的に実施し、対策の実効性を維持することを求めている。

(b)経営陣の関与・理解(III-2)

マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要課題と位置づけ(III-2①)、担当役員を任命し(III-2②)、人材配置や予算配分を適切に行う(III-2④)などの方策を実施し、経営陣のトップダウンによるマネロン・テロ資金供与対策の強化を求めている。

(c)経営管理(三つの防衛線等)(III-3)

営業部門(第一線)はマネロン・テロ資金供与のリスクに最初に直面し防止する役割を担い、管理部門(コンプライアンス部門、リスク管理部門など。第二線)は営業部門を牽制するとともに支援をする役割を担い、内部監査部門(第三線)は営業部門・管理部門とは独立の立場からマネロン・テロ資金供与対策の検証を担うとの役割および責任の分担を行い、組織的なマネロン・テロ資金供与の対策を行うことが求められている。

(d)グループベースの管理態勢(III-4)

海外拠点を含むグループ全体として一貫したマネロン・テロ資金供与対策が求められている。

(e)職員の確保、育成等(III-5)

営業部門を含む各部門の職員がマネロン・テロ資金供与対策について必要な対応をとれるよう、継続的な研修を行うこと(III-5②)などが求められている。

マネロン・テロ資金供与の対策の態勢整備の項目では、マネロン・テロ資金供与対策はコンプライアンス部門の管理のもと法定手続を履践するだけで足りるものではなく、各金融機関が会社全体で取り組むべき経営課題であるとの視点が打ち出されている。たとえば、全社員への意識づけ、社内資源の分配などの観点から経営陣の主体的・積極的な関与が不可欠であるとするとともに(I-2(2)、III-2)、三つの防衛線の理論を紹介し営業部門も含め各部門がそれぞれにマネロン・テロ資金供与対策の役割を担い全社的に対策に取り組むこと(III-4)が求められている。

まとめ

マネロン・テロ資金供与の手口は、高度化、複雑化、国際化を続けており、各金融機関における継続的な対策強化は不可欠な状況となっている。各金融機関としては、マネロン対策ガイドラインの内容を十分に吟味したうえで、それぞれ適切な対応策をとることが求められよう。

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