今注目されるデータセンターに対する不動産投資の法的留意点


クラウドサービスの普及やデータ通信量の増大に呼応して、データセンターの需要が一層高まっている。データセンターはいまや重要な社会インフラ設備の一つとなっている一方で需要に応じた供給の確保がなされていないといわれる状況でもあり、今後一層のデータセンターの建設、投資が期待されているところである。本稿では、データセンターの基本的な内容をご紹介した上で、法的な観点から、データセンターに対する不動産投資の留意点等を概説する。

  1. データセンターが提供するサービス
  2. データセンターを構成する設備
  3. 契約の特徴
  4. 電気通信事業法
  5. 投資ストラクチャー
  6. デットファイナンス
目次

データセンターが提供するサービス

データセンターが提供するサービスには、利用者に対する場所(空間)の提供の有無により、「コロケーション」サービスと「クラウド」サービスの2種類に大別される。

  • コロケーションサービスは、場所(空間)を利用者に提供するものであり、利用者がデータセンターの一部を借りて利用者の所有するサーバーやネットワーク機器等の情報通信機器(ICT機器)を設置、稼働させることができるサービスをいう。
  • クラウドサービスは、利用者が物理的な場所の提供を受けず(ゆえにデータセンター内に利用者の情報通信機器を設置せず)に、データセンターの保有するネットワーク・アプリケーション等に、利用者がアクセスして利用することができるサービスをいう。

データセンターを構成する設備

データセンターにおける特徴的な構造・設備としては以下が挙げられる。

  • ラック:サーバーやネットワーク機器等の情報通信機器を設置して格納するサーバーラック)
  • サーバールーム:上記ラックを設置する区画としてのサーバールーム(利用者は、サーバー室自体の提供を受ける場合や、ラックの利用の提供を受けることにより、データセンターを利用する。)
  • 通信設備:MDF室
  • セキュリティを確保するための検査区画、入館システム
  • ガスによる消火設備
  • 冷却設備
  • 免震・制震構造の採用
  • 冗長性確保のための複数の電力系統との接続

後述する電気通信事業法との関係では、同法に定める技術基準(電気通信事業法第四節)を満たす必要があることにも留意が必要である。

契約の特徴

設計・開発に関する契約

データセンターについては、技術的専門性が高い施設であること、利用者の実需に応じて整備される特性から、物流施設や研究施設のように、実際の利用者のニーズに応じて設計・施工を行うBuild to Suit型の施設も見受けられる。Build to Suit型の場合には、利用者が指定する設計・施工の内容等に応じて工事請負契約や賃貸借契約の内容にも多種のバリエーションがあり、また、オペレーティングリース・ファイナンスリースのいずれに該当するか会計・税務の整理も踏まえた契約書の作成・検討が必要となる。

契約の概要

シングルテナントがデータセンターの施設全体を一棟借りする場合や、コロケーションサービス、クラウドサービスといった利用者が提供を受けるサービスの種類・内容によって契約の内容は異なるものの、コロケーションサービスの場合には、データセンターの利用者は、サービス提供者との間で、サーバー室・ラック等の空間の提供を受ける賃貸借とソフトウェア等の提供を受けるサービスの利用に関する契約を締結することが一般的である。

利用者とデータセンターの提供者との間の契約の内容としては、サーバー室・ラックに関する賃貸借、ソフトウェア等の利用に関する事項の他、入館・入室ゲートや電子錠の利用監視システムの利用、事務室、データ保管室、倉庫、キャビネット等の付帯設備の利用、電気利用に関する事項、種々のサービス内容に応じて利用料金の定め等の内容が規定される。このように、データセンターの利用に関する契約は、典型的な賃貸借に留まらない複合的な内容を有し、データセンターの設備や提供するサービスの内容に応じて、法的・技術的な観点も踏まえた検討が必要となることが特徴である。

「建物」の該当性

データセンターの利用に関する契約が、コロケーションサービスのように、場所の提供を受ける賃貸借としての性質を有する場合であっても、当該賃貸借が借地借家法上の建物賃貸借に該当するかどうかは、利用契約の対象物によって異なり得る。借地借家法上は、「障壁等によって他の部分と区画され、独占的、排他的な支配が可能な構造規模」を有するものが、借地借家法の対象となる「建物」と考えられている。

したがって、データセンターでラックのみを賃借する場合には、当該ラックは、「建物」には該当せず借地借家法に定める賃借人の保護に関する規定(例えば、更新拒絶の場合に正当事由が必要となること等)は適用されない場合があることや、また、利用者・テナントの探索に関しては、宅地建物取引業法の適用の有無が問題になり得る。

電力に関する契約

規模にもよるものの、データセンターでは、大量の電力消費に対応するために、特別高圧でかつ複数の系統により受電することが多く見受けられる。電気需給契約の締結の他、既存の送電線を利用できない場合には、新たな送電線の敷設のために時間を要することや、データセンターの所有者による工事費の負担等が必要になり得る。

なお、データセンターでは、他の施設よりも多くの電力を消費することを踏まえて、環境への配慮等の観点から、PUE(Power Usage Effectiveness)と呼ばれる指標により施設全体の電力消費量に対するICT関連機器の電力消費の割合(エネルギー効率)がチェックされることが一般的であり、かつ、PUEの結果に応じて契約条件が定められることもある。

電気通信事業法

電気通信事業法上、電気通信役務(電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。)を他人の需要に応ずるために提供する事業(電気通信事業)を営もうとする者は、原則として、総務大臣への登録又は届出を行い電気通信事業者となることが必要となる。データセンタービジネスにおいては、レンタルサーバーやホスティングサービスの提供者が、当該サービスの利用者に対して、インターネット接続や電子メールサービス等の他人の通信を媒介するサービスの提供を可能にする機能を提供している場合は、当該レンタルサーバーやホスティングサービスの提供者について、他人の通信を媒介していると判断される。

他方で、不動産会社などが、安定した電源設備や耐震設備などが整った建物を設置し、電気通信事業者にサーバー等の設置場所を貸し出す場合は、不動産業として空間を貸し出しているに過ぎないことから、電気通信役務に該当しないと判断される。

電気通信事業者については、電気通信設備についての技術基準への適合維持義務の他、電気通信主任技術者の選任義務等の規制を遵守する必要があるため、ノンリコース案件においてSPCが電気通信事業者になるスキームを採用することは困難となる。

投資ストラクチャー

不動産流動化ビークル(TMK、GK-TK)がデータセンターを取得する場合における代表的なストラクチャーは、以下の図1及び図2に記載のとおりである。


例としては、投資家・SPCが土地・建物としてのデータセンターを開発した上で、データセンターを運営する電気通信事業者に賃貸し、投資家・SPCは、電気通信事業者から支払われる賃料を受け取ることが代表的な取引の形態である。

ストラクチャーの策定に際しては、投資家とオペレーションを行う電気通信事業者との役割分担や、どのレベルのエンティティが電気通信事業法上の電気通信事業者となるか、また、データセンターの各利用者に対して提供する内容等に留意して検討していくことが必要となる。SPCのレベルで電気通信事業法上の届出・登録が必要とならないよう手当することが原則となるが、特に、TMKの場合には、データセンターがオペレーショナルなアセットであることを踏まえて、TMKが行う業務が、資産流動化法上の「資産の流動化」(第2条第2項)に関する業務の範囲内となるように留意してストラクチャリングすることが必要となる。

デットファイナンス

データセンターを保有するSPCに対するデットファイナンスについても、他のタイプのファイナンスにはない種々の要素の検討が必要となることが少なくないのもデータセンターにおける不動産ファイナンスの特徴といえる。ハイパースケールのデータセンターの運営を行うオペレーターが限定的であること、出口となるマーケットが一般化されていないこと等現時点での課題も見られ今後の実務・マーケットの進捗にも期待されるところである。

寄稿

森・濱田松本法律事務所
弁護士
蓮本 哲 氏

国内外の不動産関連取引を多数手掛けており、ストラクチャリングから、
ファンド組成、ファイナンス、不動産売買、業規制、
M&A等不動産に関する取引を幅広くサポートしている。
近年では、オフィス・レジ・ホテル等に加えて物流施設、
データセンターに関連する取引についても豊富な経験を有する。

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