ニューノーマル時代における保険会社・代理店の法的留意点

ニューノーマル時代における保険会社・代理店の法的留意点

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新型コロナウイルス感染症の影響拡大は、従来の保険募集の実務に大きな変化をもたらした。基本的には対面で行われてきた保険募集の一部がweb会議システムなどを用いてオンラインで行われることが広がり、また近時では、新型コロナウイルス感染症の影響による損害を補てんする保険商品も販売されている。また、近年、保険業界に関連する法令等の改正が相次いでおり、保険業界のビジネスへの影響が注目されている。本稿では、まず、web会議システムを用いた保険募集について簡単に解説したのち、近時の法令等の改正について触れることとしたい(本稿は2021年4月15日現在の情報に基づくものである。)。

  1. web会議システムを用いた保険募集について
  2. web会議システムを用いた保険募集に適用されるルール
  3. 保険募集に関連する法令等の改正
  4. 金融サービス仲介業の創設
  5. 銀行制度等ワーキング・グループ報告
  6. ICP・ComFrameを踏まえた保険グループ監督に関する監督指針の改正

web会議システムを用いた保険募集について

新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴い、従来以上に注目を集めたのがZoomなどのweb会議システムを用いた保険募集である。web会議システムを利用すれば、保険募集人・顧客が遠隔地にいながら、双方を視覚的に確認することができ、音声でやり取りすることもできる。

新型コロナウイルスの感染が国内で確認されてから1年以上となるが、事態の収束は見通せない状況であり、web会議システムを用いた保険募集のニーズは引き続き高まる可能性がある。

また、共働き世帯の増加や防犯意識の高まりもあって、企業や家庭への訪問営業は難しくなっているところであり、さらに、ミレニアル、ジェネレーションZといったデジタルネイティブ世代の顧客層が増加するのに伴い、今後の保険販売は、web会議システムを用いた保険募集が主流となっていく可能性もある。

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web会議システムを用いた保険募集に適用されるルール

web会議システムを用いた保険募集については、その性質として、「対面募集」なのか「非対面募集」なのかが議論されることがある。もっとも、保険募集については、保険業法レベルでは対面・非対面という区別は行われていない。

このような区別は、主として保険会社向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という。)において、対面・非対面の相違によって適用される着眼点が異なる場合があるという形で、具体的に論点となる。

この点について、特に論点となりうる監督指針の項目は以下のとおりである。

  1. 情報提供義務に係る体制整備(II-4-2-2(2)⑩)
  2. テレマーケティング(II-4-4-1-1(5))
  3. サイバーセキュリティ管理(II-3-14-2-2(5))
  4. 高齢者募集ルール監督指針(II-4-4-1-1(4))

その他にも、保険業法により求められる契約概要・注意喚起情報などの重要事項説明書をどのように交付するかが問題となりうる。さらに、告知手続についても電磁的に行うことは可能と考えられるが、募集人が画面共有を通じて告知内容を閲覧したり、告知者にかわって入力する場合には、告知妨害・不告知教唆等が生じないための十分な管理策が必要になる。

保険募集に関連する法令等の改正

保険募集関連では、特に投資性を有する保険商品に関連する法令等の改正が相次いでおり、具体的には以下が挙げられる。

  1. 変額保険、外貨建保険及び転換契約等に係る電磁的方法による情報提供等
  2. 「重要情報シート」の導入
  3. 「顧客本位の業務運営に関する原則」の改訂

これらの各改正の内容について正確に理解しておくことは当然重要であるが、これらの改正のビジネスへの影響を考える上では、各改正の経緯や背景等を十分に理解する必要がある。

特に重要となるのは顧客本位の業務運営の観点であり、②③については、2020年8月に公表された「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書-顧客本位の業務運営の進展に向けて-」について理解を深めることが有用と思われる。

金融サービス仲介業の創設

2020年6月に「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立して金融サービス仲介業が創設されることとなり、制度を整備するための関係政令・内閣府令等の規定の改正案が公表されている。

金融サービス仲介業者が取り扱うことのできる保険商品には制限があるものの、保険業界のビジネスに一定の影響が生じることになると思われるため、動向を注視していく必要がある。また、同改正は従来の保険募集制度に直接影響を与えるものではないものの、金融サービス仲介業における解釈・実務が、従来の制度に影響を与える可能性も考えられることに留意する必要がある。

銀行制度等ワーキング・グループ報告

現在、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されている。これは、銀行制度等ワーキング・グループ報告を踏まえたもので、銀行と同様に、保険会社本体の付随業務への「経営資源を活用したデジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に資する業務」の追加や、高度化等会社(子会社)の業務への「地方創生など持続可能な社会の構築に資する業務」の追加などが行われる見込みである。

さらに、現在、地域活性化事業会社の保有や、持株会社による共通・重複業務は、保険会社・保険会社グループには認められていないところ、今回の改正において新たに認められる見込みである。

これにより、保険会社・保険会社グループの業務範囲が拡大するとともに、グループストラクチャーの選択肢が増えることとなる。

ICP・ComFrameを踏まえた保険グループ監督に関する監督指針の改正

保険監督者国際機構(IAIS)において、国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監督及び保険セクターにおけるシステミックリスク削減のためのグローバルな枠組みが採択されたことを踏まえ、IAIGs以外も含めた保険グループの監督を行っていくための枠組みを整備する目的から、監督指針が改正されている。

従来の監督指針は保険会社単体に対する記載が中心であったが、同改正により保険会社グループに対する監督の視点が加わっている。前述のとおり改正の対象はIAIGs以外にも及ぶこともあり、改正の内容ともに今後のグループ監督の動向を注視しておく必要がある。

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寄稿
森・濱田松本法律事務所
弁護士
小川 友規 氏
2013年弁護士登録、森・濱田松本法律事務所入所。
2018年金融庁監督局保険課課長補佐(総合政策局
総合政策課金融行政モニターサポートスタッフ、
法令等遵守調査室を併任、~2020年)。
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