- はじめに
- 改正の背景
- 電気通信事業法の適用範囲に係る総務省の解釈変更
- 電気通信事業法改正法の概要
- 措置① 国外事業者の登録・届出の際の国内代表者・代理人の指定義務
- 措置② 電気通信事業法に違反した場合の公表制度
- まとめ
はじめに
令和2年5月15日、電気通信事業法の一部改正を含む「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」(令和2年法律第 30 号、以下「改正法」という。)が成立し、同年5月22日に公布された。改正法は、関連する政省令とともに、令和3年4月1日から施行されている。
また、令和3年2月12日、総務省は「外国法人等が電気通信事業等を営む場合における事業法の適用に関する考え方」(以下「本解釈変更」という。)を公表し(※1)、改正法の施行日以降の電気通信事業法の運用に関し、国外事業者(※2)が営む電気通信事業に対して電気通信事業法が適用される範囲を拡大する解釈変更を行う方針を示した。
今般の改正法による改正項目は多岐にわたるが(※3)、本稿では特に、改正法による国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等について取り上げ、そして、かかる改正と総務省の解釈変更による電気通信事業法の適用対象の拡大を通じた、国外事業者に対する法執行の実効性の強化について解説したい。
脚注 ※
※1 総務省「外国法人等が電気通信事業等を営む場合における事業法の適用に関する考え方」総務省HP、令和3年2月12日(最終閲覧日:令和3年4月13日)
※2 本稿では、便宜上、電気通信事業を営む「外国法人等」(電気通信事業法にて「外国の法人及び団体並びに外国に住所を有する個人」と定義される。)を「国外事業者」と呼ぶ。
※3 改正法は、電気通信市場のグローバル化、人口減少等の社会構造の変化等に対応し、電気通信サービスに係る利用者利益等を確保するため、①国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等を行うとともに、②NTT 東西(東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社をいう。)が他の電気通信事業者の電気通信設備を用いて電話を提供することを可能とするための措置を講ずるほか、③第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者の役員兼任規制に関する規定の整備等を行うものである。
改正の背景
近年、デジタル経済の拡大やグローバル化に伴い、国外事業者が提供するプラットフォームサービス等の国内における利用が急速に拡大しているのは周知のとおりである。しかし、これまでの電気通信事業法の運用上、国外に拠点を置き、国内に電気通信設備を有さずにサービスを提供する者には、日本国内の利用者に向けてサービスを提供する場合であっても規律が及ばないものとされていた。そのような中、国外事業者の提供するサービスにおいて利用者情報の大量漏えいや大規模な通信障害等が発生した局面において、我が国利用者の保護が十分に図られていないのではないか、また、国内外事業者の間で競争上の不公平が生じているのではないか、といった課題が顕在化していた。
そこで総務省は今般、これまで立脚していた行政法の属地主義の原則に一部効果主義の考え方を取り入れ、国外事業者が外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合等にも、電気通信事業法が適用される旨の解釈変更を行った。本解釈変更のもとでは、国外事業者に適用される電気通信事業法の具体的な規律については、原則として同種の電気通信役務を提供する電気通信事業を営む国内事業者と同一となる。
このように国内外事業者の規律を一元化することを前提に、国外事業者による登録・届出の際の国内代表者・代理人の指定義務(これにより執行管轄権の観点からの問題が解消され、業務改善命令等の発出が可能となる。)、電気通信事業法違反の場合の公表制度等に係る規定を整備することにより、国外事業者に対する規律の実効性の強化を目指すというのが、今般の改正法の狙いの一つである。
電気通信事業法の適用範囲に係る総務省の解釈変更
すでに述べた通り、これまで電気通信事業法は「電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者」に対しては規律が及ばないものと解されてきた(※4)。
これに対し、今般総務省が公表した本解釈変更によれば、改正法の施行日以降の電気通信事業法の運用に関しては、国外事業者が「日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合」のほか「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合」についても、電気通信事業法が適用されることとなる(※5)。これにより、たとえ電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者であっても、上記に該当する場合にはその規律が及ぶこととなった。
ちなみに本解釈変更では、上記にいう 「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」については、「外国から日本国内にある者(訪日外国人を含む。)に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであること」を指し、例えば、次のいずれかに該当する場合には、当該意図を有していることが明らかであると判断され得る、と説明されている。
- サービスを日本語で提供している場合(※6)
- 有料サービスにおいて、決済通貨に日本円がある場合
- 日本国内におけるサービスの利用について、広告や販売促進等の行為を行っている場合(※7)
この点に関しては、パブリックコメント(※8)において、「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」意図を有していると判断され得る場合、されない場合について、一層明確化すべきとの意見が寄せられた(※9)。
すなわち、例えば、
(ア)(上記①に関連して)外国に居住する日本人(駐在員・留学生等)に対して電気通信役務を提供する国外事業者がサービスを日本語で提供する可能性が高いと思われ、また、(上記②に関連して)渡航した直後等で決済通貨に日本円を選択したい人のために決済通貨に日本円を追加する可能性もあるが、このような場合に「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」意図を有していることが明らかであると判断されると、国外事業者が海外に居住する日本人に対して電気通信役務の提供を避けるようになる可能性があるのではないか、
(イ)(上記③に関連して)国外事業者が所在する本国以外の海外で利用できる旨を英語で広告しているに過ぎず、日本の利用者獲得を主たる目的としていない場合であっても、「海外」に日本が含まれることが排除されていないのであれば、当該場合に該当するように読めてしまうのではないか、
(ウ)(同じく上記③に関連して)国外事業者がその所在する本国等で、当該国の居住者が外国に渡航する際のローミングサービスを提供している場合で、その利用者がたまたま来日し、ローミング先の日本の事業者のサービスを利用した場合は、「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」場合には当たらないことを明記すべきである、
といった指摘である。
これに対し総務省は、本解釈変更で示した上記①ないし③は、外国から日本国内にある者に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであると判断され得る場合の例として記載したものであり、実際に提供の意図を有していることが明らかと言えるか否かの判断は個別具体的に行う、と回答するに留めている。
この点、上記パブリックコメントで寄せられた想定のうち(ア)については、確かに「①サービスを日本語で提供している場合」及び「②有料サービスにおいて、決済通貨に日本円がある場合」に形式的に該当するが、これら想定においてはいずれも我が国から出国後の外国に所在する日本人に対するサービス提供が前提となっており、外国から「日本国内にある者に対して」電気通信役務を提供する場合とは言えず、規制の対象外であると容易に判断できるように思える。
これに対し(イ)については、確かに、日本の利用者獲得を主たる目的としていなくとも、日本を含む海外でサービスを利用できる旨が謳われている以上、形式的には「③日本国内におけるサービスの利用について、広告や販売促進等の行為を行っている場合」に該当し得るところであり、「外国から日本国内にある者(訪日外国人を含む。)に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであること」には該当しないと判断する決め手には欠けるように思える。また(ウ)については、いわゆる国際ローミング・サービスに多いとされる卸電気通信役務方式によれば、国外事業者が国内事業者のネットワークに係る電気通信役務の提供を受け、当該国外事業者が自網に係る電気通信役務と一体として自らの利用者に対して役務を提供する形態によることとなるため、当該国外事業者が訪日外国人に対し電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかである、と言わざるを得ないかもしれない。実際(イ)及び(ウ)の場合には、例えば日本国内にある者である以上その通信の秘密は守られるべきであって、電気通信事業法の規律の趣旨は当てはまらないものではなく、規制の対象とすることも一概に不合理とはいえない。いずれにせよ、総務省は実際に提供の意図を有していることが明らかと言えるか否かの判断は個別具体的に行うとしているので、判断がつきにくい事例については総務省や総合通信局等に適宜照会する等して進めていくことになろう。
脚注 ※
※4 総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成 29 年総務省告示第 152 号。最終改正平成 29 年総務省告示第297 号)の解説」(平成29年9月[令和2年11月更新])9頁(最終閲覧日:令和3年4月13日)でも、「電気通信事業法は、電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者に対しては規律が及ばないものと解されており、そのような者は本ガイドライン第 3 条第 1号に規定する「電気通信事業者」にも該当しないことから、本ガイドラインの適用対象外であると考えられる。」との見解が示されている。
※5 本解釈変更に伴い、前注4のガイドラインも更新されている。総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成 29 年総務省告示第 152 号。最終改正平成 29 年総務省告示第297 号)の解説」(平成29年9月[令和3年2月更新])9頁(最終閲覧日:令和3年4月13日)
※6 本解釈変更に伴い改正された総務省「電気通信事業参入マニュアル」(April 2021)3頁(最終閲覧日:令和3年5月7日)では、「①サービスを日本語で提供している場合」については「例えば、サービス利用時に表示される言語が日本語である場合のほか、日本語で契約書類・約款等が提供されている場合、ユーザへのサポートを日本語で提供している場合等が該当する。」と解説されている。
※7 同じく「③広告や販売促進等の行為」については、「例えば、日本国内におけるサービスの利用に関する、ウェブメディア・テレビ CM・新聞・雑誌等のメディアへの掲載のほか、広告物(チラシ、パンフレット等)の配布、DM(メールマガジン)の送信等の行為(代理店等を通じ、間接的に広告や販売促進等の行為を実施している場合を含む。) が該当する。」と解説されている。
※8 「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律(令和2年法律第 30 号)の施行に伴う関係省令等の整備について」に対する意見及びそれに対する考え方(審議会への必要的諮問事項以外の事項に係るもの)総務省HP、令和3年2月12日(最終閲覧日:令和3年4月13日)
※9 前注8・6頁(意見3-3)
電気通信事業法改正法の概要
上記の通り、本解釈変更のもとでは、国外事業者に適用される電気通信事業法の具体的な規律については、原則として同種の電気通信役務を提供する電気通信事業を営む国内事業者と同一となる。
このように国内外事業者間で一元化された規律を課すことを前提に、改正法は、国外事業者に対する法執行の実効性を強化するため、国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等として、主に次の措置を講じている。
- 国外事業者の登録・届出の際の国内代表者・代理人の指定義務
- 電気通信事業法に違反した場合の公表制度
以下ではそれぞれの措置について解説していく。
措置① 国外事業者の登録・届出の際の国内代表者・代理人の指定義務
改正法では、国外事業者は、電気通信事業の登録の申請又は届出を行う際に、国内における代表者又は国内における代理人(以下「国内代表者等」という。)を定めて総務大臣に提出することを義務付けられる(電気通信事業法10条1項又は16条1項)(※10)。国内代表者等を定めていないことは登録の拒否事由となり、また、国内代表者等の指定がない届出は形式的要件を欠くものとして届出の効果が生じない(※11)。また、国内代表者等に変更があった場合も届出義務が生じる(電気通信事業法13条4項又は16条2項)。なお、既に登録を受け又は届出をして電気通信事業を営んでいる国外事業者についても、同様に国内代表者等の指定義務が課されることとなった(改正法附則3条1項)(※12)。
上記国内代表者等の指定義務は、国外事業者に対する業務改善命令等の執行管轄権の観点からの問題の解消、電気通信事業法の遵守状況の確認のための適時適切なコミュニケーションの確保の各観点から、新たに設けられたものである。このような観点から、総務省は、国内代表者等に指定される者が求められる権限・資質について次のように説明する(※13)。
- 国内代表者等は、電気通信事業法に基づき総務大臣が行う行政処分に係る通知及び法令等違反行為者の氏名等の公表に先立って意見を述べる機会を与えるに当たっての総務大臣からの通知を、国外事業者を代理して受領する権限を有しなければならない。
- 国内代表者等は、電気通信事業法の規律に関連して総務省と国外事業者の間で行われる各種連絡について、総務省と国外事業者との間におけるコンタクトポイントとなることが期待される。
なお、総務省の解説によれば、上記にいう「コンタクトポイント」は(国内代表者等と異なり)法令に規定されているものではなく、電気通信事業法の規律に関連して総務省と国外事業者との間で行われる各種連絡について、総務省と国外事業者との間における窓口を指すものとされる。また、総務省としては、上記権限を有する国内代表者等において、同時に総務省と国外事業者との間のコンタクトポイントにもなることを期待しているようであるが、各国外事業者の実情に合わせて設定されることを想定しており、その設定については総務省や総合通信局等に相談することもできるとのことである(※14)。なお、上記の権限・資質を満たすのであれば、国内子会社や弁護士等の社外の者を指定することも可能と考えられる。
脚注 ※
※10 登録又は届出の際、新たに提供が必要となる情報として、国外事業者にあっては、国内代表者等の電話番号及びEメールアドレスがあり、また、新たに必要となる書類として、国内代表者等の登記事項証明書(法人の場合)又は住民票の写し(個人の場合)、権限証明書(総務大臣が発する通知を受領する権限を事業者から国内代表者等に付与したことを証する書類。総務省の新様式による。)がある。
※11 総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課課長補佐田中隆浩ほか「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」(総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第 4 巻第 1 号)Ⅳ-22
※12 既に登録を受け又は届出をして電気通信事業を営んでいる国外事業者は、改正法の施行日において国内代表者等の電話番号及び電子メールアドレスに変更があったものとみなされ、これにより遅滞なく変更届出を提出する義務を負う。
※13 前注1
※14 前注8・8頁(意見3-7)
措置② 電気通信事業法に違反した場合の公表制度
改正法では、法令等違反行為を行った者の氏名等の公表制度が新設された。具体的には、総務大臣は、「電気通信役務の利用者の利益を保護し、又はその円滑な提供を確保するため必要かつ適当であると認めるとき」に、電気通信事業法に係る「法令等違反行為を行った者の氏名又は名称」だけでなく、「その他法令等違反行為による被害の発生若しくは拡大を防止し、又は電気通信事業の運営を適正かつ合理的なものとするために必要な事項」も公表できることとなる(電気通信事業法167条の2)。
かかる公表は、インターネットの利用その他の適切な方法でなされる(施行規則61条の2)。また、対象者の利益が不当に害されることを防ぐための措置として、あらかじめ通知の上で意見を述べる機会が保障されている(ただし、利用者の利益の保護等の観点から、緊急に公表する必要がある場合、及び、法令等違反行為を行った者の所在が判明しない場合その他やむをえない事情のため連絡ができない場合を除く。)(施行規則61条の3)。
なお、上記公表制度は国外事業者のみを対象としたものではなく、国内外事業者の規律の一元化の観点から、国内事業者もその対象に含まれる。また、法令等違反行為は、電気通信事業者でない者により行われる場合があることから、公表の対象となる者は登録を受け又は届出をした電気通信事業者に限定されるものではない(※15)。よって、例えば、登録を受けず又は届出をせずに「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む」国外事業者についても、公表制度の対象となり得るので注意が必要である。
脚注 ※
※15 前注11・Ⅳ-23
まとめ
これまで見てきたとおり、今般、総務省の解釈変更により電気通信事業法の適用対象が一定の国外事業者まで拡大され、また、電気通信事業法の改正により国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等がなされ、これらを通じた国外事業者に対する法執行の実効性の強化が図られた。
国外事業者のうち、従前は「電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者」として電気通信事業法の規律が及ばないとされていた者であっても、本解釈変更により国外事業者が「日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合」のほか「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合」についても電気通信事業法が適用されることから、改正法の施行日以降は、これらの場合に該当する者は新たに電気通信事業の登録の申請又は届出が必要となる。いまだ登録を受けず又は届出をしていない国外事業者は、自己の営む電気通信事業が改正法による改正後の電気通信事業法の規律に服するものであるか否か判断に迷うようであれば、その提供する電気通信役務を整理した上で総務省や総合通信局等に照会する等して、適切に対応されたい。また、すでに登録又は届出を行っている国外事業者であっても、改正法により国内代表者等の指定義務が課されたことから、必要な権限を有する国内代表者等(場合によってはコンタクトポイントを別途)を指定し、遅滞なく変更届出を提出する必要があるので留意されたい。
- 寄稿
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モリソン・フォースター法律事務所丹羽 大輔 氏
弁護士
ニューヨーク州弁護士
公認不正検査士(有資格)