FIT制度外での売電方法
上述の通り、FIP制度を利用したり、FIT制度もFIP制度も利用しない場合、FIT制度と異なり、再生可能エネルギー発電設備で発電した電力を電力会社が長期間、固定価格で買い取ることが制度上保証されていないため、発電事業者にとって発電した電気を誰に、いくらで売却し、安定的なキャッシュフローをいかに確保するかという点を検討することは非常に重要となるわけだが、具体的に、FIT制度の適用を受けない場合の売電方法としては、例えば、以下の方法が考えられる。
(1)市場での売却
電気を売る方法の一つとして、市場における売却がある。一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)に開設されているスポット市場や時間前市場で電力を売却するとともに、再エネ電源であれば非化石価値取引市場において非化石証書を売却することも可能である。しかし、この方法は当然ながら市場価格の変動リスクにさらされることとなり、キャッシュフローの予測が困難であるという問題がある。日本の電力市場は、電力自由化から日が浅く、供給側が旧一般電気事業者に極端に偏っているなどの問題もあり、市場が安定していない。現に昨年の1月には、スポット市場の価格が異常に高騰するなどの事象も発生している。
また、プロジェクトファイナンスによる融資が実行される案件では、発電設備はSPCが保有することが多いが、SPC自身が取引所会員として登録をして市場取引に参加すること自体にも一定のハードルがあると思われる。
(2)小売電気事業者への売却
大手電力会社を含む小売電気事業者への売却は、現行の電気事業法上でも行われている取引であり無理なく導入可能な方法の一つといえる。
小売電気事業者が長期固定で電力を買い取ってくれるのであればキャッシュフローも安定する。次の(3)でも言及するが、昨今は需要家側で再エネの電気を利用したいというニーズも高まっているため、小売電気事業者を介して最終的に再エネ電気を利用したい需要家が長期固定で当該電源からの電気を買い取る契約を締結してくれる場合には、このような長期固定価格での売電契約が締結できる可能性も高まるだろう。他方、小売電気事業者との契約が長期固定価格とならない場合には、やはり発電事業者のキャッシュフローは安定しないこととなる。また、長期固定価格の契約が締結できたとしても、当該小売電気事業者の破綻というリスクを検討する必要性は出てくる。
なお、(1)の市場での売却や本(2)の小売電気事業者への売却を行う場合には、FIP制度を活用してプレミアムを受領することも可能である。そのため、例えばFIP制度を利用して、発電した電気を小売電気事業者に参照価格で売電しつつ、プレミアムの交付を受ければ、発電事業者は基準価格で売電したのと同等の収入を得ることができ、FIT制度に近い安定的なキャッシュフローを確保することが可能となる。他方、(3)でご紹介するオンサイトコーポレートPPAや自己託送制度を利用したオフサイトコーポレートPPAのスキームでは、FIP制度を活用することはできずプレミアムを受け取ることはできない。
(3)需要家への売却
昨今、RE100などのイニシアティブに賛同する企業が増加し、需要家の中にも積極的に再エネの電力を購入したいというニーズが高まっている。そこで、需要家に直接売電するコーポレートPPAという方法も検討されるところだが、日本の電気事業法では、いわゆるオンサイトコーポレートPPAと呼ばれる方法以外の方法では、発電事業者が小売電気事業者を介さずに直接需要家に電気を供給することは認められていない。
① オンサイトコーポレートPPA
オンサイトコーポレートPPAとは、需要家の需要地に発電設備を設置して当該需要地で電気を利用する方法である。例えば、需要家の所有する建物の屋根に太陽光パネルを設置し、発電した電気を当該建物内で利用する方法がこれに該当する。この場合には、小売電気事業者を介さずに需要家に電気を供給することができるので、例えば財務基盤の安定した需要家が一定の金額で電気を購入してくれるのであればキャッシュフローの安定化が期待できる。但し、オンサイトコーポレートPPAは需要家の需要地内に発電設備を設置する必要があるため、設置場所が限られ、大規模な電源を設置することが難しく、導入量には限界があると考えられる。、また、需要場所が限られるため当該需要場所での需要が長期間継続するかというリスクがある点はデメリットといえる。
②オフサイトコーポレートPPA
そこで、需要家の需要場所以外に設置した発電設備から需要家に電気を供給するいわゆるオフサイトコーポレートPPAが可能となれば、発電事業者の電力売却の選択肢が増えることとなるが、上述の通り、現行の電気事業法では、一般送配電事業者の送配電網を通じて需要家に電気を供給する事業を営む場合には原則として小売電気事業の登録が必要とされており、小売電気事業者を介さずに需要家に電気を供給することはできないとされている。
この点に関して、昨年、自己託送という制度を拡大して、オフサイトコーポレートPPAを一部認める方向で電気事業法施行規則等が改正されている。
自己託送とは、自家用発電設備を設置する者が、当該自家用発電設備を用いて発電した電気を一般送配電事業者が維持し、及び運用する送配電ネットワークを介して、当該自家用発電設備を設置する者の別の場所にある工場等に送電する際に、当該一般送配電事業者が提供する送電サービスをいう(経済産業省「自己託送に係る指針」令和3年11月18日(以下「自己託送指針」という。)を参照。電気事業法第2条第1項第5号ロ)。需要場所から離れた場所にある発電設備の電気を需要場所に届けるためには、自営線を設置するか、一般送配電事業者が維持運用する送配電ネットワークを利用して電気を送ってもらう(「託送」という。)必要があるが、自営線を長距離にわたって設置するのはコストがかかるため、現実的には一般送配電事業者の送配電ネットワークを利用する必要がある場合が多い。この託送は、原則として小売供給が想定されているが、自己託送の要件を満たす場合には、この自己託送の制度を利用して電気を送ってもらうことができることとされている。
自己託送は、従来、自家用発電設備を設置する者が自己の別の場所での需要のために電気を送電する場合か、あるいは、資本関係などの密接な関係を有する者に送電する場合にしか利用することができなかった。
昨年の改正は、この「密接な関係を有する者」の範囲を広げて、資本関係などのない第三者に送電する場合にも自己託送の制度を利用することを一部認める改正になる。具体的には、発電設備を保有する発電事業者と電気を利用する需要家との間で、共同して組合を設立することにより、自己託送による送電が可能となり、(ここでは詳細は割愛するが)以下のような要件を充足する必要がある(改正後の電気事業法施行規則第2条第3号)。
- 組合が長期にわたり存続することが見込まれるものであること。
- 組合契約書において、(i)発電に係る電気の供給に係る料金、(ii)電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用の負担に関する事項、が定められていること。
- 発電設備が再エネ発電設備その他非化石の電源であること。
- 発電設備が当該組合の組合員の需要に応ずるための専用の設備として新たに設置されたものであること。
また、改正後の自己託送指針によれば、供給者においては、法律の規律のほか、再エネ特措法で求められる柵塀等の設置、標識の提示、地域住民との適切なコミュニケーション努力、発電設備の廃棄等費用の確保などを実施することが重要、とされている。
この改正により、例えば、発電事業者Aと需要家Bが共同で上記要件を満たす組合契約を締結して組合を設立し、発電事業者Aが需要家Bの専用設備として再エネ発電設備を設置して、需要家Bに自己託送の制度を利用して電気を供給するといった取引を行うことが可能となる。需要地から離れたオフサイトの電源から需要家に直接電気を供給する契約を締結することが可能となり、発電事業者による売電の選択肢が一つ増えることになったといえるであろう。
- 寄稿
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TMI総合法律事務所井上 卓士 氏
パートナー(弁護士)
- 寄稿
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TMI総合法律事務所松下 茜 氏
アソシエイト(弁護士)