カーボンニュートラルへ向けた最新の再エネ事情~再エネ電気の売却方法の多様化(コーポレートPPA、自己託送等)、洋上風力発電の動向など~


2012年に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」という。)が施行され、FIT制度(Feed in Tariff:固定価格買取制度)が導入されてから10年を迎えようとする中、日本の再生可能エネルギー事業を取り巻く環境は大きな変化にさらされている。今年4月1日からは、いよいよFIP(Feed in Premium)制度が始まり、FIT制度の調達価格も年々低下する中、特に太陽光発電を中心にFIT制度を利用しない電源によるコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)と呼ばれる売電に取り組む電源も増加している。2020年6月に公布された「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号)による再エネ特措法の改正により導入されるFIP制度では、FIT制度と異なり再生可能エネルギー発電設備で発電した電力を電力会社が長期間、固定価格で買い取ることが制度上保証されていない。そのため、発電事業者は発電した電気を誰に、いくらで売却し、安定的なキャッシュフローをいかに確保するかという点を考えなければならないこととなる。以下では、FIP制度の導入を踏まえて、発電事業者がFIT制度に頼らずに電気を売電する方法を検討した上、昨今各地で開発が進む洋上風力発電事業についても紹介する。

目次

洋上風力発電

政府は、2020年12月15日付で公表した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」において、年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成することを洋上風力発電の導入目標として設定した。日本の国土の大半は山地となっており、平地には家などが密集しているため、大規模な太陽光発電所や風力発電所の適地は限られている。他方、日本は島国であるため周りは海に囲まれており、今後洋上風力発電の導入は進んでいくものと考えられる。

日本国内において洋上風力発電の実施が計画されている海域は主に港湾区域と一般海域に分かれる。港湾区域については2020年2月に秋田県の2つの港湾において日本で初めて洋上風力発電プロジェクトの資金調達の完了・事業化が公表されるなどしている。一般海域についても、2019 年 4 月 1 日付で施行された海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に係る法律(以下「再エネ海域利用法」)に基づく手続が着々と進んでいる。2021年6月11日には長崎県五島市沖の海域において、2021年12月24日には秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖並びに千葉県銚子市沖の各海域において事業者が選定され洋上風力発電事業の事業化が本格化している。また、他の海域についても再エネ海域利用法に基づく手続が進捗しており、今後さらに多くの海域において洋上風力発電の事業化が進んでいくことが見込まれる。

日本において洋上風力発電事業に関して融資がなされた事例はまだごくわずかであるが、これまで日本国内で実施されてきた陸上の風力発電事業や太陽光発電事業に対する融資と同様に、洋上風力発電に対する融資においてもプロジェクトファイナンスが選択されることも想定される。特に、洋上風力発電事業では、発電設備の建設やメンテナンスにつき洋上での作業を要するなどプロジェクトコストが多額となり、また、事業規模も多大となることから、多額の資金を要することとなる。そのため、スポンサー会社の財務状況やバランスシートの規模に応じた調達となるコーポレートファイナンスより、事業自体を担保に資金を調達できるプロジェクトファイナンスが好まれる可能性も少なくない。

洋上風力発電事業向けのプロジェクトファイナンスを検討するにあたっては、例えば、①洋上風力では陸上風力に比べて建設関係の契約が風車調達、洋上建設、地上建設、オフショア船の調達など細分化される可能性もありインターフェイスリスクについてより留意を要する可能性、②陸上風力発電以上に、技術的難易度、規模の大きさがあるため、スポンサーによるコミットメントが重要となる可能性、③発電設備が設置される海域は国からの占用許可を得て利用されるため担保設定ができないことへの個別の手当てを要する可能性など、洋上風力固有のリスクや留意点などを検討すること求められることも想定される。

また、経済産業省の調達価格等算定委員会は、2022年2月4日に公表された「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」において、着床式洋上風力発電について、「再エネ海域利用法適用対象/適用外によらず、2024年度よりFIP制度のみ認められること」とする意見を提示し、洋上風力発電についても着床式は2024年度からFIP制度のみの対象となる見込みである。洋上風力発電については、FIP制度が開始される2022年度はFIP制度のみの対象となる区分は定められておらず、再エネ海域利用法においてもFIT制度の適用を前提とした公募がされており、これまでFIP制度の適用を前提とした検討があまりされていなかったと思われるが、今後はFIP制度を踏まえて売電先まで含めた事業計画が必要となるだろう。 これらも含め、今後の実務の展開を注視する必要がある。

井上 卓士 氏
寄稿
TMI総合法律事務所
パートナー(弁護士)
井上 卓士 氏
松下 茜 氏
寄稿
TMI総合法律事務所
アソシエイト(弁護士)
松下 茜 氏
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