バーゼルⅢ最終化の見直しのポイントと影響

バーゼルⅢ最終化の見直しのポイントと影響

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昨年金融庁は、銀行の自己資本比率規制を見直す「バーゼルⅢ最終化」の規則案を公表した。原則として2023年3月期から適用される(※)が、内部格付手法等の内部モデルを利用しない国内基準行(海外に営業拠点を持たない銀行)はそれより2年後ろ倒しして2025年3月期から適用される予定である。バーゼルⅢ最終化では、信用リスク、マーケット・リスク、オペレーショナル・リスクの算出方法が大きく見直されるため、各行は準備を進める必要がある。以下、規則案に基づき見直しのポイントと影響について解説する。(※ただし、EUでは2025年から適用予定であり、金融庁も「諸外国の規制動向等も踏まえつつ、引き続き検討」としていることに注意が必要である。)

  1. バーゼルⅢ最終化の見直しのポイント
  2. 金融機関への影響
  3. 持続可能な金融機能の維持に向けて

バーゼルⅢ最終化の見直しのポイント

(1)信用リスクの見直し

①標準的手法の見直し

信用リスクについては、様々な見直しがなされる。まず、標準的手法において、株式のリスク・ウェイト(RW)が、100%から、原則として250%、投機的な非上場株式は400%に引き上げられ、株式投資がしづらくなる。ただし、RWの引き上げは5年間かけて段階的に行われるため、影響も段階的に生じることになる。

事業法人向け債権は、現行制度では、格付に応じて20%~150%、無格付であれば100%のRWが適用される。見直し後も基本的に現行制度と同様だが、格付がBBBの場合、RWが100%から75%に引き下げられ、無格付の場合、中堅中小企業(売上高50億円未満)に該当するものはRWが100%から85%に引き下げられる。新たに中堅中小企業というカテゴリーが設けられるため、銀行は貸出先が該当するか判定する必要が生じる。

住宅ローンは、現行制度では、自己居住用も賃貸用(アパート・ローン)も同じ扱いとされ、抵当権で完全に保全されているか否かに応じて、35%か75%のRWが適用される。見直し後は、自己居住用と賃貸用が区別され、後者にはより大きなRWが適用される。RWの判定方法は、原則として、ローン残高を担保物件の額で割ったLTV(Loan To Value)比率に応じたRWとされるため、銀行は新たにLTV比率を算出する必要が生じる。RWは、基本的に、自己居住用の場合は20%~70%、賃貸用は30%~105%である。

ただし、国内行については、LTV比率によらない、より簡素な方法も認められる。この場合、抵当権で完全に保全されているか否かに応じて、自己居住用は35%か75%、賃貸用は75%か105%が適用される。

リテール債権は、個人向け以外の対象範囲が現行制度の「中小企業」向けから「中堅中小企業」向けに拡大される。そのため、新たに与信先が中堅中小企業に該当するか否か確認する必要が生じる。ただし、国内基準行については、2029年3月30日までは現行制度上の中小企業に該当すれば見直し後の中堅中小企業と扱うことが認められており、与信先が中堅中小企業に該当するか確認するための一定の猶予期間が与えられる。

その他にも様々な見直しがなされるが、銀行としては単にRWを変更するだけではなく、「中堅中小企業」等の新たに認められたカテゴリーについては、それに該当するか確認する作業が新たに生じることになる。また、国内基準行には負担軽減措置が認められている場合もあり、それを利用するか判断する必要がある。

②内部格付手法の見直し

内部格付手法とは、デフォルト確率など、銀行が推計したパラメータを所定の算式に代入して信用リスク・アセットを算出する手法である。

バーゼルⅢ最終化の見直しの問題意識の一つは、内部格付手法等の内部モデルを利用している銀行が、自己資本比率の分母を圧縮して自己資本比率を引き上げているのではないかというものであった。そのため、「資本フロア」が導入され、内部格付手法を含む内部モデルを利用する場合の自己資本比率の分母の額は、各種リスクの測定方式のうち標準的な手法で算出した額の一定割合を下回ることが認められなくなった。一定割合は、当初50%でスタートし、段階的に72.5%に引き上げられる。

さらに、株式や、金融機関や連結売上高が500億円超の事業法人に対するエクスポージャーについて、内部格付手法の適用が制限される。

(2)マーケット・リスクの見直し

銀行が債券トレーディングを行っている場合、金利や信用スプレッドの変動などにより、債券の価格が変動するリスクが生じる。また外貨建証券を保有していれば、為替変動により価格が変動するリスクが生じる。このようなマーケット・リスクも自己資本比率の分母に算入される。

ただし、現行制度では、トレーディング勘定の資産・負債の額が一定の額未満の場合、マーケット・リスク相当額を算入しないでよいとする特例が定められている。そのため、多くの銀行はマーケット・リスク相当額を算入していない。

見直し後はこの不算入特例が厳格化され、上記の条件に加え、外国為替リスクが一定額未満であるという条件も満たさなければ、不算入特例が適用されなくなる。

不算入特例が適用されない場合、原則として、①保有する金融商品をトレーディング勘定とバンキング勘定に分類する、②「トレーディング・デスク」を設置し、リスク管理体制を整備する、③マーケット・リスク相当額を算出し、自己資本比率の分母に加えることが求められる。

ただし、トレーディング業務を行っておらず、バンキング勘定の金融商品しか持たない銀行は、実際上、上記の①②は不要で、③のマーケット・リスク相当額も外国為替リスクのみ算出すればよい。

(3)オペレーショナル・リスクの見直し

オペレーショナル・リスク相当額は、現行制度の算出方式が廃止され、見直し後は、「事業規模要素」に、過去の損失実績を表す「内部損失乗数」をかけて算出する方式に一本化される。「事業規模要素」は、銀行の金利収益・受取配当、役務取引、金融商品取引の規模を表す額であり、各行は新たにこの額を算出する必要が生じる。

内部損失乗数をかけることにより、過去に損失額が大きい銀行ほど、オペレーショナル・リスク相当額が大きくなる仕組みになる。ただし、金利収益・受取配当等の規模が一定水準未満の場合、内部損失乗数は1とされ、オペレーショナル・リスク相当額は事業規模要素の額と等しくなる。

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