- 改正暗号資産ガイドラインの概要
- 暗号資産の定義と要件
- 改正暗号資産ガイドラインにおける「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」の解釈
- 改正暗号資産ガイドラインを踏まえたNFTビジネスの可能性と実務上の留意点
改正暗号資産ガイドラインの概要
2023年3月24日、金融庁は、「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(16 暗号資産交換業者関係)(以下「暗号資産ガイドライン」という。)に係る改正内容(以下「本改正」という。)※1を公表し、あわせて本改正に係るパブリックコメントの結果※2も公表された(以下「本パブコメ回答」という。)。
本改正は、従前、ブロックチェーン上に記録されたトークンについて、同種のものが複数存在する場合、暗号資産(資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)第2条第14項)に該当しないかどうか必ずしも明らかではない場合がある等の意見があったことなどを踏まえ、トークンの暗号資産該当性に関する解釈の明確化等を図るものである※3。
本改正は、デジタルコンテンツに特定性・希少性をもたらす新たな技術として大きな注目を集めているNon-Fungible Token(非代替性トークン。以下「NFT」という。)の暗号資産該当性に係る判断基準についても明確化するものといえ、NFTを活用したビジネスを展開する上で、実務上重要な意義を有するものといえる。
脚注
※1)https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/2.pdf
※2)https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf
※3)https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221216-2/20221216-2.html
暗号資産の定義と要件
資金決済法第2条第14項によれば、暗号資産とは、以下の①乃至③の要件をすべて満たすもの(以下「1号暗号資産」という。)、又は、不特定の者との間で、1号暗号資産と相互に交換できるものであって、②及び③の要件を満たすものをいう(以下「2号暗号資産」という。)。
- 物品等・役務提供の代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ不特定の者との間で購入・売却をすることができること
- 電子的に記録された財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができること
- 本邦通貨、外国通貨、通貨建資産及び電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)に該当しないこと
NFTに限らず、対象となっているトークンが暗号資産に該当する場合、業として当該トークンの売買等を行う行為は暗号資産交換業に該当し(資金決済法第2条第15項第1号)、暗号資産交換業登録(同法第63条の2)の取得が必要となる。そのため、トークンが暗号資産に該当するか否かは非常に重要である。
この点、本改正前より、1号暗号資産の要件①「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」か否かの判断基準として、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために暗号資産を使用可能な店舗等が限定されていないか」、「発行者が使用可能な店舗等を管理していないか」等の判断要素が挙げられていた※4。しかしながら、同種のデジタルコンテンツを表章するNFTを複数枚発行する場合など(例えば同じアイドルの写真データが紐づけられたNFTを複数枚発行する場合など)、同種のトークンが複数存在する場合、①「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」といえるかは必ずしも明確ではなかった。
また、NFTが不特定の者と間でビットコイン、イーサその他の1号暗号資産と相互に交換可能である場合、2号暗号資産に該当するかが問題となるところ、この点については、本改正前より、1号暗号資産と相互に交換できる場合であっても、1号暗号資産と同等の決済手段等の経済的機能を有していないものは2号暗号資産には該当しないとの考え方が示されていた※5。しかしながら、2号暗号資産該当性の判断基準である「1号暗号資産と同等の決済手段等の経済的機能」の有無についても具体的な判断基準は示されていなかった。
そのため、NFTであっても同種のものが複数存在する場合、当該NFTが1号暗号資産又は2号暗号資産に該当するかが不明確であり、実務上、NFTを活用したビジネスを展開する上での障壁となっていた。
脚注
※4)暗号資産ガイドラインI-1-1①
※5)暗号資産ガイドラインI-1-1③、令和元年9月3日金融庁「『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)』の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について-コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」No.4参照。
改正暗号資産ガイドラインにおける「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」の解釈
そこで、本改正では、1号暗号資産の要件①「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」か否かに関して、以下のとおり暗号資産ガイドラインI-1-1①(注)が追加された。なお、2号暗号資産該当性の判断基準である「1号暗号資産と同等の決済手段等の経済的機能」の有無についても、暗号資産ガイドラインI-1-1①(注)が同様に当てはまることとされており、同様の基準で判断することとされている※6。
(注)以下のイ及びロを充足するなど、社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる、物品等にとどまると考えられるものについては、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」ものという要件は満たさない。ただし、イ及びロを充足する場合であっても、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる物品等にとどまらず、現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。
イ. 発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること(例えば、発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している、又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること)
ロ. 当該財産的価値の価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること。例えば、以下のいずれかの性質を有すること
- 最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること
- 発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的であること
暗号資産ガイドラインI-1-1①(注)第1文のとおり、イ及びロ双方を充足するなど、トークンが「社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる、物品等にとどまると考えられるもの」については、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」とはいえず、暗号資産に該当しないこととされている。
ただし、イ及びロはあくまで例示であり、イ及びロ双方を充足する場合であっても、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には暗号資産に該当すると評価される可能性がある※8。また、イ及びロを充足しない場合だからといって直ちに暗号資産に該当するわけではなく、個別具体的な判断の結果、暗号資産に該当しない場合もありうるとされていることに注意が必要である。
そして、本パブコメ回答では、イ及びロについて、以下の図表のとおり具体的な解釈が示されている※9。
暗号資産ガイドライン | 本パブコメ回答 |
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<要件イ 例①> 「・・・発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等において決済手段としての使用の禁止を明示している・・・」 |
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<要件イ 例②> 「・・・又はシステム上決済手段として使用されない仕様となっていること」 |
「システム上決済手段として使用されない仕様」とは、「例えば、ブロックチェーン上で第三者に移転することが不可能となっている仕様のほか、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されることとなりますが、互いに面識のある者から構成される限定的なコミュニティ内においてのみ移転することが可能な仕様などが考えられます。なお、これらに限らず、「システム上決済手段として使用されない仕様」については個別具体的に判断されると考えられます」※13 |
暗号資産ガイドライン | 本パブコメ回答 |
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「高額」の具体的な金額 | 「一般的に最小取引単位当たりの価格が高額であるほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば1000円以上のものについては「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額」なものであると考えられます。」※14 |
価格の判断基準 |
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トークンの無償発行と価格 |
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個別性のあるトークンと価格 | 「暗号資産は同じ種類(資金決済法第63条の11の2第1項)のものについて、基本的には同程度の価格で取引されると考えられます。そのため、各トークンがその性質や機能が異なるため、同じ種類のものとはいえず、その個別性を理由に取引所等において異なる価格で取引されている場合には、各トークンについて取引所等で取引される最小取引単位あたりの価格が「最小取引単位当たりの価格」に該当することとなります。」※20 |
要件ロ①(高額)と要件ロ②(数量)の関係 | 「トークンが「最小取引単位当たりの価格が通常の決済手段として用いるものとしては高額であること」を充足しないものであったとしても、「発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が限定的」であるかどうか等も踏まえて、暗号資産に該当しないと判断される場合もあり得ると考えられます。」※21 |
限定的といえる「数量」 | 「一般的に発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が少ないほど通常の決済手段として用いられる蓋然性が小さいと考えられ、例えば100万個以下である場合には、「限定的」といえると考えられます。」※22 |
分割可能性を踏まえた最小取引単位の解釈 |
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「数量」等の判断とトークンの同一性 |
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「物品等の代価の弁済」の解釈 |
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脚注
※6)暗号資産ガイドラインI-1-1③(注)。
※7)下線は筆者が追記したものである。
※8)なお、トークンの発行後の使用実態、経時的要素によって、発行当時は暗号資産に該当しないトークンが、いずれかの時点以降、暗号資産に該当する可能性があることにも注意が必要である(本パブコメ回答No.10)。
※9)太字箇所は、筆者が特に重要と思われる箇所について追記したものである。
※10)本パブコメ回答No.1。
※11)本パブコメ回答No.14。当該回答によれば、単に利用規約・商品説明等で決済手段としての使用を禁止するだけで、実態としての使用を放置する場合は、暗号資産に該当しうると考えられる。
※12)本パブコメ回答No.15。
※13)本パブコメ回答No.13。当該回答によれば、「システム上決済手段として使用されない仕様」とは、SBT(Soul Bound Token、譲渡不可のトークン)や、職場内・スポーツクラブ・学校内でのみ移転可能なトークンなどが想定されていると思われる。
※14)本パブコメ回答No.16。
※15)本パブコメ回答No.19、No.34。
※16)本パブコメ回答No.23。
※17)本パブコメ回答No.16。
※18)本パブコメ回答No.23。
※19)本パブコメ回答No.34。
※20)本パブコメ回答No.26。
※21)本パブコメ回答No.27。
※22)本パブコメ回答No.20,21。
※23)本パブコメ回答No.24。
※24)本パブコメ回答No.28,30。
※25)本パブコメ回答No.31。
※26)本パブコメ回答No.33。
※27)本パブコメ回答No.36。
※28)本パブコメ回答No.32。
※29)本パブコメ回答No.39。
改正暗号資産ガイドラインを踏まえたNFTビジネスの可能性と実務上の留意点
以上のとおり、本改正及び本パブコメ回答により、NFTを含むトークンが「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」との要件を充足するかの判断基準の一部として、具体的な金額・数量基準が明示されたことは非常に重要といえる。
すなわち、NFTを含むトークンについて、①利用規約等により決済手段としての利用を禁止するとともに、②当該トークンの発行上限を(分割可能性を考慮の上)100万個以下に設定したり、又は最小取引単価を1000円以上に設定したりすることにより、「社会通念上、法定通貨や暗号資産を用いて購入又は売却を行うことができる、物品等にとどまる」といえる場合には、基本的に暗号資産に該当しないこととなる。これにより、同種のデジタルコンテンツを表章するNFTを複数枚発行・販売する場合に、どのような設計であれば暗号資産に該当しないか、予測可能性が向上するものといえる。
また、近時、ゲームキャラクターやゲームアイテムをNFTに表章し、当該NFTを使ってゲームをプレイすると最終的に法的通貨に交換可能なトークンを獲得できる新しいタイプのゲームである「ブロックチェーンゲーム」が登場し、注目を集めているところ、ブロックチェーンゲームでは同一のゲームキャラクターやゲームアイテムを表章する複数のNFTを発行・販売することが考えられる。本改正により、利用規約等で決済利用を禁止するとともにサービスのコンテンツごとにゲームキャラクターを表章するNFTの発行枚数を100万個以下に抑えたり、最小取引単価を1000円以上に設定したりすることによって、当該NFTの暗号資産該当性の懸念をより低減することが可能となったといえ、本改正はブロックチェーンゲームにとっても追い風といえる。
ただし、前記のとおり、イ及びロはあくまで例示であり、イ及びロ双方を充足する場合であっても、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には暗号資産に該当すると評価される可能性があることには留意が必要である。そのため、例えば単価を1000円未満に設定しつつ同種のデジタルコンテンツを表章するNFTを100万個超発行・販売するとともに、利用規約等において当該NFTによる決済手段としての利用を禁止することもしないなど、実質的に決済利用も可能な多数かつ少額のNFTを発行・販売するような場合には、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態があると評価され、暗号資産に該当するものとして規制対象となる可能性は否定できないことに注意が必要である。
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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
パートナー/ NY州弁護士
長瀨 威志 氏2013年~2014年金融庁総務企画局企業開示課出向、2015年~2017年国内大手証券会社法務部出向。日本暗号資産ビジネス協会NFT部会、ユースケース部会法律顧問。以下の代表的な国際的弁護士評価機関において高い評価を得ている。