「格差」広がる地域金融機関

「格差」広がる地域金融機関

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新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、地域金融機関は貸出業務でそのプレゼンスを大きく高めている。現状と課題を解説する。

  1. 信用保証協会の保証付きの「制度融資」が後押し
  2. 個人・企業・地場産業へ地域に合った処方箋を提供
  3. ビジネスモデルとビジネスプロセスの両改革を実現

信用保証協会の保証付きの「制度融資」が後押し

新型コロナウイルスの感染拡大で国内外の経済が急速に落ち込んでおり、その余波は地域金融機関の経営にも変化を与えている。真っ先に挙げられる変化は本業の貸出業務においてである。

国内銀行の月次貸出残高をみると、2016年半ばから2020年3月まで前年同月対比2%前後の増加率で推移していたが、4月は4.0%増、5月は6.4%増、6月は6.8%増とその伸びは加速している。緊急事態の宣言以降、資金繰りに窮する事業者の借入ニーズに積極的に応じている銀行の姿がみてとれる。融資の急伸にはコロナ関連の制度融資が果たした役割が大きい。自治体によって多少の差異はあるが、制度融資の特徴は、実質無利子・無担保、返済までの長期の据置期間、保証料の減免・免除などといった点であり、借り手にとっては負担がかなり軽減され、貸し手にとっても、信用保証協会の保証が付いているため、幅広い資金需要に迅速に対応しやすい内容となっている。公的スキームを活用した、借り手が借りやすく、貸し手が貸しやすい内容が貸出金残高の急激な増加を後押ししたと言える。

近時の地域金融機関については、とりわけ、低迷する収益力にスポットライトが当てられ、銀行イコール構造不況業種、あるいは銀行不要論まで煽り立てるようなメディアの記事も散見される。しかし、コロナショックを機に、地域金融機関は貸出業務においてそのプレゼンスを大きく高めることとなった。これまでも地域金融機関は、少子高齢化、事業所数の減少などの様々な厳しい経営環境に直面しながら、業界全体として預金残高を堅調に伸ばしつつ、高い預貸率(地域銀行は約8割、信金は約5割)を維持してきた。預貸率の高さは、金融仲介というその根源的な機能において、地域金融機関がなお重要な役割を果たし続けている事実を示していると言える。

停滞する経済活動は、企業の設備投資や売上増加に伴う必要運転資金の手当てなど前向きな資金需要を押し下げると考えられ、コロナ関連融資を除いた貸出の新規実行額は今後、減少していく可能性がある。一方で、前述の制度融資は、最大5年などといった長期の据置期間が設けられているため、当面、地域金融機関の貸出残高は積み上がりやすい状況が続くだろう。制度融資の利息相当額は各自治体より補給されるわけだが、その実質的な利回りは、プロパー融資と比べて高いケースが少なくなく、採算面でも条件が良い。残高・利回り双方の点から、今般のコロナショックは、収益力の低迷に苦しむ地域金融機関にとって、貸出金利息を増やす“追い風”となった事は間違いないだろう。

個人・企業・地場産業へ地域に合った処方箋を提供

しかし、地域金融機関の真価が問われるのは、融資先の事業支援など顧客と向き合った総合的な取り組みにおいてであると筆者は考えている。コロナショックは様々な業種の事業環境を構造的に変化させる可能性があり、嵐が過ぎるのをただ待つだけでは状況がいつまでも好転せず、事業継続を断念する企業が数多く現れることも想定される。このことを踏まえると、地域金融機関は単に資金面の支援を行うのみならず、いかに企業を事業面から支援し、売上増加やコストカットなどを通じて、その企業の持続可能性を高められるかが重要になるだろう。ウィズコロナ、アフターコロナの下、個人・企業・地場産業・地域は、経済活動が感染症の拡大状況次第で大きく振れるリスクにいかに備えるかに多大の関心をもち、対応の処方箋を求めるであろう。個人・企業・地場産業・地域に密着し、その状況を熟知する地域金融機関は、処方箋を提供するにふさわしいポジションにある。例えば企業にとっては、保険、デリバティブ、資本性ローンのような金融商品であったり、デジタライゼーションへの取り組み、異分野への進出、他業種との連携であったりするであろう。

顧客と向き合い事業やライフプランの手助けをする、あるいはリスクに備えるソリューションを提供することは、地域金融機関にとって降って湧いた話ではないはずだ。これまで貸出金マーケットが緩やかにしか成長しない状況で、多くの地域金融機関が地元企業の本業支援による融資拡大やフィービジネスの強化を戦略として掲げてきた。取り組み成果に差はあるものの、企業の売上増やコスト削減などに結びつくビジネスマッチング、あるいは事業成長や後継者問題などへのソリューションとして事業承継・M&A(合併・買収)などの本業支援を地道に積み重ねてきた地域金融機関は、コロナショックにより環境が大きく変化する中でも重要な役割を果たすだろう。

また、リーマンショックなどの危機を乗り越える中で事業支援に関するノウハウが蓄積され、行員の関連スキルも向上していると考えられる。地域金融機関がいかに融資先の事業支援に取り組んできたかという「本気度」が、自らの経営を真に左右する局面が近づいてきているのではないか。顧客の視点から見ても、事業支援で優れた実績を上げている地域金融機関との取引を増やす動きが強まる可能性があるだろう。

前述のような融資や事業支援を行ううえで、前提となるのは地域金融機関の健全性の維持である。足元のコロナショックに伴う貸出増の多くは、公的保証付きの制度融資が優先的に活用されたものと思われる。このため、足元の貸出増の部分について、これが与信費用となって地域金融機関の財務を毀損する可能性は低いとみられる。

制度融資には長い元本返済据置期間が設けられているため、当該融資の返済可能性が問題になる時期も少し先となろう。しかし、制度融資には借入の上限枠があり、地域金融機関では公的保証の付かないプロパー融資で対応している部分も少なからずあるだろう。コロナショックの影響を受けながらも、制度融資の要件に合致せず、制度融資を活用できなかったケースもあると思われる。既存の融資にかかるリスクも無視できない。

日本の中小・零細企業の財務はコロナショック以前から借入依存度が高い点を特徴とする。制度融資で一息ついたとしても、売上が減った状況で借入が増え、中期的にみた返済負担が従前より重くなったケースが少なくないだろう。融資先がウィズコロナ・アフターコロナに適応できなかった場合、制度融資は回収できるが、既存の無保証プロパー融資は毀損することになる。その意味でも、融資先の事業支援は地域金融機関にとって非常に重い意味をもつ。

ストレスシナリオ分析など柔軟で深度のある手法で備え

バブル崩壊など過去に地域金融機関の経営環境に大きな影響を与えた局面に比べると、地域金融機関のショックへの耐性は高まっている。地域金融機関は、貸出金の業種・小口分散、資本の充実などによりリスクへの備えを強化してきた。しかし、ウィズコロナ・アフターコロナの下で、感染症拡大の第二波、第三波など、未経験のリスクに備える必要性が高まっている。未経験のリスクについては、VaR(バリュー・アット・リスク。予想最大損失額)のように過去のデータを基にする画一的な手法だけでは不十分で、ストレスシナリオ分析などによるより柔軟で深度のある手法での備えが必要である。

リスク管理態勢の充実については地域金融機関の間で差が大きい。ストレスシナリオ分析においてはシナリオ設定などの経営陣による関与が求められる部分も大きいが、ガバナンスの面でも地域金融機関による差は大きい。その意味でもコロナ問題は地域金融機関間の格差を拡大する方向に働くことになるのではないだろうか。

寄稿
日本格付研究所
金融格付部
アナリスト
古賀 一平 氏
2014年京都大学経済学部卒、丸三証券入社。
国内株式ストラテジスト、医薬品・化学セクターのアナリストなどを経て、
2019年日本格付研究所入社。
アナリストとして主に地域銀行、信用金庫の格付を担当している
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