ブロックチェーンの応用が解決するサプライチェーンの課題


FinTech分野の中で大きく注目を集めるブロックチェーン技術。多くの金融機関が実証実験を実施し、本格化が見えてきている状況だ。また、金融分野だけでなくさまざまな領域でも注目を集め始めている。本稿では全5回連載の第3回として、ブロックチェーンの可能性からサプライチェーンプラットフォームの構築、課題、解決策を紹介する。

  1. ブロックチェーンの可能性
  2. ブロックチェーンの大きな課題 ~誰が責任を負うのか
  3. さまざまな領域へ広がりを見せるブロックチェーン
  4. サプライチェーンへの適用
  5. まとめ
目次

ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーンは、Fintechテクノロジーの代表的な技術のひとつと言われ、すでに金融取引のエリアでさまざまな実証実験が行われているのは周知のとおりである。金融機関による実証実験は多岐にわたり、結果、期待とともに、その課題が明らかになってきている。

こうした状況の中で、さらに適用範囲は拡大し、KYC(Know Your Customer)・電力など金融取引以外での実証実験も本格化してきた。

現在のブロックチェーンの取引は、仮想通貨の流通が主となっているが、今後スマートコントラクトの領域での適用が進むことを意味し、契約情報の流通への道筋がつくこととなる。

数年の実験期間を経ることにより、いよいよブロックチェーンによる取引が本格化する状況が予想される。

そのような中で、改めて何が革新的なのかを定義したい。キーとなることは、分散台帳テクノロジーであることは言うまでもない。従来は、商取引に必要となる契約行為の正当性の担保を、人的な組織で構成された第三者機関が担ってきた。

この部分を、分散台帳テクノロジーにより多数のコンピュータに情報を分散することによって、コンピュータが代替し抜本的にコストを削減することが可能になる。そのため、通貨を発行する中央銀行・契約の正当性の保証をつかさどる政府の法務機関等が不要となる可能性を秘めている。

ブロックチェーンの大きな課題 ~誰が責任を負うのか

ブロックチェーンの大きな課題 ~誰が責任を負うのか

では、従来は人が担ってきた正当性の担保をコンピュータに置き換えることによる課題について言及したい。

第三者機関が存在しないため、何か問題が発生した時に、誰が責任をとるのかという点が、今後の大きな課題となる可能性がある。加えて、コンピュータは脆弱性への完全な対応が難しいという点を考慮する必要がある。

トラブルが起こった際に、誰が責任をとるべきか、ふたを開けてみないとわからない状況にある。現在運用されている仮想通貨で発生しているトラブル関連の訴訟は、まさに典型的な例と言える。今後も未知のトラブルが発生する可能性を十分に考慮する必要がある。

現時点では、ブロックチェーンのネットワークを誰が実質的に保持しているかにより、対応を検討する必要がある。

現在発行されている仮想通貨は、発行主体が存在しないため、通貨の保有者が泣き寝入りをする。または、取引所の瑕疵が特定できれば取引所が責任を負うことになる。

その他は、ブロックチェーンのプラットフォーム提供者の責任となるが、あくまでソフトウエアを提供したのみという立場を通す可能性が高く、グレーゾーンとなり未知のトラブルを発生させる可能性が高い。

仮に、金融機関が仮想通貨を発行するとなると、プラットフォームの維持・運営に何らか関与することとなるため責任を負うこととなると予想される。基本的には、ブロックチェーン・仮想通貨のブランドを保持した機関が責任を負うという考え方である。

その点を踏まえたうえで、リスクを低減しつつブロックチェーンのメリットを享受するには、オープンなプラットフォームにのることにより責任を分散させることが重要なポイントとなると言える。

さまざまな領域へ広がりを見せるブロックチェーン

さまざまな領域へ広がりを見せるブロックチェーン

前項のような未知のトラブルを発生させる可能性があるものの技術面・運用面での対策が打たれることにより、徐々に浸透することは確実であろう。

すでに述べたとおり金融取引以外のさまざまな領域への適用が本格化しつつあり、イギリス政府によるKYC・EUでのEVへのチャージに対する支払い、オーストラリアの家庭での余剰電力の個人間取引・ドローンの運行管理など、第3者機関を利用しないことによるコスト削減の実現が想定された実験が進行中である。

特に、家庭での余剰電力の取引は、従来、コストの高いアグリゲーターと呼ばれる仲介者を利用した取引が主体のためコストが高く利用が進まなかった。

しかし、ブロックチェーンによってP2Pの直接取引に置き換えられることにより、低コスト化による取引促進が大いに期待されている。FintechでいうところのP2P Lendingのような新しいマーケットの創出の可能性が見込まれている。

サプライチェーンへの適用

サプライチェーンへの適用

PwCコンサルティングではブロックチェーンのサプライチェーンへの適用について、検討を進めている。スマートコントラクト領域で大きなポジションを占めると考えているのが、サプライチェーン上で行われている企業間の契約であると捉えているためである。

サプライチェーンへの適用における課題

サプライチェーン上にある企業は、上流となる大企業を中心にERP等が導入されデジタル化が進められてきたが、現在においても、いくつかの大きな課題を抱えている。

  • 海外・子会社のみならず大企業においても不正取引が発生している
  • デジタル化は個々の企業にて実施されているため、企業間の整合性をとる仕組みが大きなコスト負担となっている
  • 下流に位置する中小企業はIT投資余力がなく生産性が低い
  • 技術力のある中小企業においても、いまだ資金調達が課題となっている

課題解決策

このような中、PwCコンサルティングでは、サプライチェーン上で流れる人・物・金の情報を、オープンなブロックチェーンに集約することを想定しており、そうすることで現在抱えている課題が、以下のように解決されるという仮説を持っている。

  • 不正対策については、企業間の取引データをブロックチェーンに集約することにより、双方のデータの整合性をとることが可能になり、不正検知の精度が大きく向上する。同時にトレーサビリティにも活用が可能となる
  • 企業間での整合のとれたデータが蓄積されるため、企業間で見積もり・発注・請求・納品・回収の業務ごとに発生している確認作業が削減されることとなる
  • ブロックチェーン上に取引ネットワークが構築されるため、利用コストが下がる可能性がある。かつ、従来は上流の取引先ごとに対応が必要となっていた点について、ブロックチェーンにより標準化され、下請け企業のコスト負担が下がる可能性がある
  • ブロックチェーン上に蓄積された取引情報をもとに金融機関からの資金調達が可能になる。同時に、金融機関から見ると融資機会が増えることとなる

上記の点から、ブロックチェーンのサプライチェーンへの適用は大きな可能性があると想定しており、随時実証実験と進めていく予定である。

まとめ

ブロックチェーンは、現状では技術的・運用的にも課題があるものの、非常に可能性のあるテクノロジーであることは間違いないであろう。

その中で、現時点でどのようにブロックチェーンと付き合うかについては、金融機関として戦略的に判断する必要があると言える。このようなプラットフォームのソリューションは、それを握ったものの独り勝ちとなり、現時点で乗り遅れた場合、利益を得ることは非常に難しくなる可能性が高い。

現時点においても、最低限のノウハウを蓄積しておくことが賢明であろう。

西口 英俊 氏
寄稿
PwCコンサルティング合同会社
フィンテック&イノベーション室
ディレクター
西口 英俊 氏
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