「ワークスタイルイノベーション」で 変化の激しいVUCA時代を乗り越える

「ワークスタイルイノベーション」で 変化の激しいVUCA時代を乗り越える

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損害保険ジャパンは、多様な人材が生産性高く活躍することを目指し、テレワークやシフト勤務をベースにした「ワークスタイルイノベーション」を推進している。人事部企画グループ 主任の奥田麻実氏に取り組み内容を聞いた。

  1. 3つの部門それぞれに適した働き方を実践
  2. 社員自ら生産性向上を目指すマインドづくり
  3. 創造的な衝突からイノベーションが生まれる

3つの部門それぞれに適した働き方を実践

損害保険ジャパンは2012年度、育児や介護など事情を抱える社員のサポートを目的に在宅勤務制度を導入した。その後、「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の頭文字をつなげた「VUCA(ブーカ)」と言われる変化の激しい時代を迎え、同社は、台風や地震など自然災害の増加による収益への影響や、DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとした様々な技術の進歩などで、競合相手が変化するだけでなく、場合によっては業界・業態がDisrupt(破壊)されてしまうのではないかとの危機感を抱く。

「VUCAの時代を乗り越え、持続的に成長し続ける企業であり続けるためにどうすべきか。時間と場所にとらわれない柔軟な働き方を実現する環境をつくり、多様な人材が生産性高く活躍することを目指し、2014年度のトライアルを経て、2015年度から『ワークスタイルイノベーション』として全社員を対象にテレワークやシフト勤務などの取り組みをスタートした」(人事部企画グループ 主任 奥田麻実氏)

同社の組織構成は大きく営業、保険金サービス、本社の3つの部門に分かれる。全社一律の施策は各部門や各職場の実態とマッチした働き方ができないため、それぞれに適した働き方を実践している。「テレワーク、シフト勤務ともに利用者数は年々増加している。しかし、これらは目的ではなく手段、つまり生産性を高める最適な働き方の選択肢としている点がポイントだ。例えば営業部門の場合、『外出しても必ず会社に戻ってくる』という働き方は効率的ではないときがある。保険金サービス部門では、働く時間帯を会社で決めた就業時間内に限定すると、お客様のご都合に応じたベストな時間で対応ができないケースも発生する。営業部門、保険金サービス部門および本社部門の各職場が、それぞれにおける最適な働き方を選択できることが各職場における自律的な工夫に繋がっている」(奥田氏)。

社員自ら生産性向上を目指すマインドづくり

同社では、テレワークやシフト勤務の制度を検討するにあたり、自由な制度とし利用しやすいものとするべきか、しっかりとルールで固め管理がしやすいものにするのか、議論を重ねた。その結果、「性善説」に立ち、広く自由に制度を活用できるようルールで縛りすぎず、柔軟な制度設計をしたという。「ワークスタイルイノベーション」の検討にあたっては、制度をはじめデバイス・インフラなどのハード面と、風土醸成や社員の意識改革などのソフト面の両面を並行して推進していくことが重要だと考え、取り組んできた。

奥田氏は、「ハード面では、自由で柔軟な制度設計に加え、持ち運びがしやすく、社内と同様のセキュリティが確保できるシンクライアント端末を配備している。さらに、時間と場所にとらわれない働き方を実現するモバイルワークを加速していくため、BYOD(Bring Your Own Device。私物端末の業務利用)の対象の拡大や、営業社員向けにスマートフォンを配備し、いつでもどこでも仕事ができる環境づくりを進めてきた」と説明する。

ソフト面では、毎年7月、8月を「ワークスタイルイノベーション推進月間」とし、「テレワーク・デイズ」や「時差Biz」「スムーズビズ」への参加、他企業とのコラボイベントを開催するなど、意識改革のきっかけ作りをしてきた。2015年には「ワークスタイルイノベーションコンテスト」、2017年、2018年にはその流れを引き継ぐ「Ji-Tanフェス」を展開し、社員同士が各職場でどのような取り組みを実施しているのか共有し、意見を出し合い、「ワークスタイルイノベーション」を浸透させる意識づくりを行った。

2019年度からは「ワークスタイルイノベーション」を働き方改革と位置付けた継続的な取り組みを行っているという。「前述のとおり、自由で柔軟な制度やハード面はある程度整っており、現時点で十分ではないものは、営業社員以外へのスマートフォン配備や、保険金サービス(事故対応)部門およびコールセンター部門のリモートワーク可能な環境整備と考える。また、『ゼロベースの仕事の棚卸し』を推進し、不要な業務の見極めやより効率よく業務を行う方法がないか徹底的に見直しを行っている。その中で、ペーパーレスも一層進め、出社しないとできない業務を減らしてくことが課題であると認識している」(奥田氏)

2020年4月には制度の一部見直しを行い、育児や介護により短時間勤務を選択している社員もシフト勤務を利用できるようにした。同時に時間単位特別休暇を新設し、就業時間の前後や就業中の中抜けなどをしやすくすることで、個人の事情に合わせて時間を有効活用できるようになった。「しかし、制度やインフラは活用されて初めてその価値が生じる。引き続き、社員一人ひとりが制度をうまく活用しながら、自ら生産性の高い働き方をデザインするマインドづくりを継続して支援していくことが最も重要だろう」(奥田氏)

創造的な衝突からイノベーションが生まれる

同社では、世の中の変化を的確にとらえ、創造性を発揮し、顧客に新しい価値を提供し続ける会社であり続けるためには、ダイバーシティが欠かせない重要な経営戦略の一つと位置付ける。「Diversity for Growth」を旗印に、多様な人材が強みを発揮しながら活躍するための制度づくり、風土づくりに力を入れている。「中でも、社員の6割以上を占める女性の活躍なくして、当社の成長はない。出産や育児、介護などの事情を抱えながらでも、時間と場所にとらわれない生産性の高い働き方を実現するためには、『ワークスタイルイノベーション』の取り組みが不可欠だ。多様な人材が自らのニーズに応じた働き方をデザインし、多様な意見・アイデアを交わし、創造的な衝突が起こることでイノベーションが生まれ、それが企業価値の向上に繋がっていくと考える」(奥田氏)。

新型コロナウイルスの感染拡大に際しては、社員もテレワークやシフト勤務の経験があったため、特段の混乱はなく在宅勤務を実施し、やむを得ず出社する場合には時差通勤を実施できたという。感染防止の観点から、さらなるインフラ整備や意識改革も急速に進んだ。特に保険金サービス(事故対応)部門やコールセンター部門は、システム上の制約によりテレワークの推進が大きな課題となっていたが、在宅勤務が行えるようインフラを整備。また、テレビ会議システムの拡充なども実現した。

奥田氏は、「働き方改革のゴールは、全社員が時間と場所にとらわれない働き方を自らデザインし、生産性高く働くことで最大のパフォーマンスを発揮し、変化の激しい時代の中でも持続的に成長し続ける企業であり続けることと考える。新型コロナウイルスの感染防止対策を講じる中で、『ワークスタイルイノベーション』にはまだまだ取り組める余地があることや課題を改めて認識できた。このコロナ危機をチャンスととらえ、課題を整理、解消しながら社員の意識改革を進めていきたい」と語る。

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