反社会的勢力の排除に向けた金融機関の対応とグレーゾーン


反社会的勢力の排除が叫ばれるようになって久しい。金融機関は自らの判断で反社会的勢力を見分けて排除していく必要があるが、警察から情報提供を受けられない場合など、グレーゾーンを合理的に見極め、反社会的勢力と認定・排除することが求められる。本稿は、そうした判断の参考となるよう、事例を交え、反社会的勢力排除について説明する。

  1. 金融機関における反社会的勢力の排除条項
  2. グレーゾーンと反社会的勢力の排除
  3. 過去の一定時点に暴力団員だったかどうかの判断
  4. まとめ
目次

金融機関における反社会的勢力の排除条項

金融機関における反社会的勢力排除条項(属性要件)では、以下の8つの類型に属する者を反社会的勢力と規定しており、排除することが求められている。

① 暴力団
② 暴力団員
③ 暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
④ 暴力団準構成員
⑤ 暴力団関係企業
⑥ 総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等
⑦ その他これらに準ずる者
⑧ その共生者5類型(※1)

補足(※1):暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること等5つの類型

このうち、現在活動している暴力団、暴力団員(①②)に関しては、警察から情報提供を受けられるが、③~⑧の情報に関しては、必ずしも情報提供がなされるとは限らない

そのため、金融機関の中には、業界団体の整理に従い、警察の立証協力が得られない場合は一律排除しないという方針のところもある。

グレーゾーンと反社会的勢力の排除

グレーゾーンと反社会的勢力の排除

本稿では、警察が立証に協力する場合(現在活動している①暴力団、②暴力団員)をブラックといい、警察から情報提供を得られない場合を広くグレーゾーンとして説明する。

一口にグレーゾーンと言ってもその濃淡は様々であるし、契約の入り口段階と、既存取引排除などの段階では異なる対応をしていく必要がある。

この点について、金融庁は平成26年6月4日に発表した「「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「金融検査マニュアル」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」の「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」で、以下のように整理している。

コメントNo.1の概要

いかなる属性・行為をもって反社会的勢力と認定するかは、明確に統一された基準がなく、各事業者の判断で対応されているのが現状ではないかと思われる。(中略)本ガイドラインにおいて明確な反社会的勢力の基準を示していただきたい。(後略)

コメントNo.1に対する金融庁の考え方

反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得るため、あらかじめ限定的に基準を設けることはその性質上妥当でないと考えます。本ガイドラインを参考に、各事業者において実態を踏まえて判断する必要があります。(後略)

コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 | 金融庁

コメントNo.77の概要

金融機関において契約当事者が反社会的勢力に該当するとの疑いを認知したものの、警察から当該契約当事者が反社会的勢力に該当する旨の情報提供が得られず、かつ、他に当該契約当事者が反社会的勢力に該当すると断定するに足りる情報を入手し得なかった場合に、期限の利益の喪失等の特段の措置を講じないことは必ずしも利益供与となるものではなく、また、必ずしも金融機関の業務の適切性が害されていると評価されるものではないと解されるが、そのような理解でよいか。

コメントNo.77に対する金融庁の考え方

ご指摘の場合は、様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった場合と理解されますので、ご理解のとおりと考えます。

コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 | 金融庁

以上から、グレーゾーンに対し、ブラックでないから(警察の立証協力が得られないから)対応はできないという理解では不十分だといえる。

解除などの対応をせずに継続監視する場合、自己が定めた反社会的勢力の定義に照らし、「様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった」と合理的に説明できなければならない。

過去の一定時点に暴力団員だったかどうかの判断

過去に暴力団員だったかどうかの判断

警察から情報提供が受けられない場合であっても、金融機関が自らのリスクにおいて相手方を反社会的勢力と認定して対応することは十分に考えられる。

警察は基本的には、現時点において暴力団員であるかの回答はするが、過去の一定時点において暴力団員であるとの回答を常にするとは限らない。過去の一定時点における暴力団員該当性に関しては、情報提供がなされる場合もあるが、情報提供がなされない場合もある。

では、過去の一定時点における暴力団員該当性が問題となる場合に、どのように対応すれば良いのか。ここでは、以下のような報道を受け、生命保険会社が警察照会して生命保険契約を解除の上で、保険金等の返還請求をするケースを想定し、その対応を見ていく。

報道内容

  • 平成27年9月の新聞での報道
  • 指定暴力団のX容疑者が詐欺容疑で警察に逮捕された
  • 同年1月、X容疑者は暴力団員であることを隠して、金融機関で通帳1通とキャッシュカード1枚の交付を受けた疑い

金融機関側の対応

このケースにおいて、生命保険会社が同年9月に警察照会し、保険契約者たるX容疑者の暴力団員該当性が認められれば、当該生命保険契約を解除する方針に問題はない

しかし、生命保険契約には、契約の重大事由解除だけでなく、重大事由発生時以後に生じた支払事由による保険金等を支払っている場合は、その返還を請求する旨が規定されている例があり、この場合、支払い時点でX容疑者が暴力団員であったか判断する必要がある。

反社会的勢力への対応に関する保険約款の規定例 | 生命保険協会

仮に同年3月の時点で、保険契約の支払事由に基づき、X容疑者に対し何らかの保険金支払いを行っている場合、警察発表にある同年1月時点では暴力団員であったと判断されるため、保険契約の支払事由が発生した同年3月時点でも暴力団員であったと推定され得る。

このため、約款上、当該保険金の返還を検討しなければならないことになる。

しかし、仮に、生命保険会社が同年9月に警察照会した際、同年9月の段階での暴力団員該当性のみ認められ、支払事由が発生した同年3月時点での情報が提供されなかった場合、どのように考えるべきだろうか。

警察発表に基づく新聞報道を前提とすれば、X容疑者は同年1月時点では暴力団員であると立証し得る(あくまで警察発表であることが明記された新聞報道であることを前提とする)。

同時に、警察の立証協力により同年9月の警察照会時におけるX容疑者の暴力団員該当性が立証し得る。

そこで、支払事由発生時たる同年3月時点においても、契約者は暴力団員であったと事実上推定することは十二分に可能であると解される(これは経験則に基づく「事実上の推定」である)。

したがって、保険契約の支払事由が発生した同年3月の時点においても、契約者は暴力団員であったと事実上推定することが十分に可能であり、生命保険会社が自らのリスクで、既払い保険金の返還請求をすることは合理的な対応だと考えられる。

裁判事例

過去において「暴力団と社会的に非難される関係」にあり、その後、外部にむかって絶交を積極的に表明したことがなければ、同様の関係が継続していると事実上推定される、と判断した裁判例(※2)もあり、これが「事実上の推定」の一事例となっている。

補足(※2):大阪高決平成23・4・28、平成22年(ラ)第852号判例集未登載

もちろん、かかる推定は事実上の推定であるため、契約者が事実上の推定を覆す反証をし、支払事由発生時点において暴力団員ではなかったという立証に成功すれば、当該契約者に対して保険金などの返還請求をすることはできないが、暴力団からの離脱が容易ではないことなどを考慮すれば、契約者が反証に成功する可能性は低いと考えられる。

まとめ

このように、グレーゾーンの場合であっても、金融機関が自らのリスクで解除や返還請求に向けた判断を下すことが可能な事例が相当数ある。

そのため、「様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった場合」に該当するかどうかの見極めは適切に行われる必要があり、合理的な対外的説明がなし得るかを慎重に検証すべきである。

なお、本稿では、暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有する者との属性立証の実務や、元暴実務、いわゆるホワイト化の実務に関して論ずることができなかったが、次の機会に譲ることとする。

松村 卓治 氏
寄稿
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士
松村 卓治 氏
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