2023年9月6日(水)開催 MANAGEMENT WEBINAR「経理・財務部門におけるDX推進と企業価値創造」<アフターレポート>


2023年9月6日(水)セミナーインフォ主催 MANAGEMENT WEBINAR「経理・財務部門におけるDX推進と企業価値創造」が開催された。近年、急速なテクノロジーの進歩により、経理・財務部門における業務プロセスや役割は大きく変化している。DXは、経理・財務部門において効率性、正確性、情報の可視化などの利点をもたらし、組織内の意思決定や戦略立案においてもより重要な役割を果たすことが求められている。本ウェビナーでは旭化成株式会社とネスレ日本株式会社に最新事例をご紹介いただくほか、各先進企業よりデジタルを駆使した最新の取り組みをご紹介いただいた。

  1. 旭化成の経理DXの最新取り組みと展望
    ~制度会計業務改革と請求書支払業務の刷新を中心に~
    旭化成株式会社 三嶌 晴志 氏
  2. グローバル財務DX戦略によるフリーキャッシュフロー最大化と企業価値向上の鍵
    キリバ・ジャパン株式会社 下村 真輝 氏
  3. 予算編成の効率化から始める、グループ経営管理DXの実現
    ~トップ企業が次々採用するCCH Tagetikとは~
    Tagetik Japan株式会社 妹尾 顕太 氏
  4. ビジネスとデジタライゼーションをドライブするコパイロットの役割
    ネスレ日本株式会社 中岡 誠 氏
  5. 【ご紹介動画】株式会社マネーフォワード
  6. 【ご紹介動画】株式会社電通国際情報サービス
目次

旭化成の経理DXの最新取り組みと展望
~制度会計業務改革と請求書支払業務の刷新を中心に~

基調講演
【講演者】
旭化成株式会社
経理・財務部 税務室長
三嶌 晴志 氏

<旭化成の会社概要>

旭化成は2022年に創業100周年を迎え、売上高は2兆7300億円、従業員数は5万人弱で、連結子会社が285社である。マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域で事業を展開する総合化学メーカーだ。マテリアル領域では、石油化学製品や電子部品、サランラップ、住宅領域ではヘーベルハウスや建築材料の建材など、ヘルスケア領域では、医薬品、医療機器、クリティカルケア製品などを製造、販売している。このようにくらしに身近な消費財から、生活をより快適にする素材・製品や、いのちを支えるヘルスケア製品まで、さまざまなシーンで活用されている。

事業持株会社である旭化成と7つの事業会社を中核に事業を展開している。今回紹介する取り組みはこの体制下の国内約60社が対象である。国内のグループ会社はほとんど同じ会計システムを利用しており、勘定科目コード体系も同じである。そのため新しい会計システムの導入も約60社一括で行うことができる。

旭化成は2021年にデジタル共創本部を発足し、当時化学事業会社で唯一DX銘柄に選定された。デジタル活用は多様な事業・人材・技術を活かす鍵となると認識している。2022年4月に発表した中期経営計画では、グループのデータマネージメント基盤をベースに、ビジネスモデルの変革、経営の高度化、デジタル基盤の強化を掲げた。グループ全体のKPIは2024年には2021年度比の10倍のデータ活用量、重点テーマの増益貢献100億円を目指す。2024年度までの3年間で約300億円のDX関連への投資を予定している。

<旭化成の制度会計業務改革>

2023年4月のSAP S4/HANAへの移行に向けて自社独自システムを廃止し、制度会計業務プロセスの見直し及びシステムの変更を行うプロジェクトを遂行した。プロジェクトを開始するにあたり、自社独自システムから汎用システムに移行することで最新技術を獲得。各現場での会計処理から業務を標準化し、会計の効率化と品質の維持向上。紙やエクセルでのハンド作業を廃し、IT・AIを活用した効率化を進めている。

これらを実現するために、SaaSの導入やBPOなどの外部委託先を活用するプロセスへの変更を推進。またコロナが発生し、リモートでの決算業務の必要が出てきたため、決算プラットフォームを導入し、決算業務の標準化や自動化も進めている。

モノづくりの発展のイメージに重ねると、経理におけるスマートファクトリーが我々の目指す最終形態である。以前の紙を中心とした会計処理は各部署の担当者にノウハウが蓄積され職人技の伝承のような形だった。ITの発達や労働市場の変化に伴いこれまでのやり方を見直す必要があると考えている。まず業務を標準化・集中化した上で最終的に自動化を目指していきたい。

経理オペレーション改革概要

旭化成グループはこれまで各部署で伝票起票を実施していた。しかし、今後の労働力不足・DXの推進・システム変更などを考慮すると、現状維持は困難だと判断した。現行のシステムから新システムに移行するにはスタッフ約1500名の再教育が必要になるが、BPO先で教育を徹底することで効率的でミスなく運用できることを目指している。

旭化成は2018年に更新した自社システムを使って、BPOによる伝票起票を実施。そこから検討を開始し、2020年に経理部で起票していた伝票と、実際にニーズの高かった事業会社の協力も得て、トライアル運用を開始した。ボリュームの多い伝票種類から取り組み、当時のBPOセンターの規模は約20人月だった。トライアルの段階から将来的な2023年度以降の状態を見据えると効率化が不十分だと判断し、Concur Invoiceを導入する提案を行った。2021年にはBPOの対象範囲が拡大し、ほぼすべての伝票種類に対応している。年度末の段階で導入会社は18社、BPOセンターの規模としては65人月となった。

2022年度は2023年度の本番移行に向けた準備期間で、BPOの対象会社をさらに拡大した。2020年度の1社から2022年度は31社、集約規模は2020年度の20人月から2022年度で86人月ほどになり、伝票数は年間で23万4000件となった。これは旭化成グループの約半数の伝票である。2023年度にはSAP S/4HANAに移行する。ボリュームが最も多い請求書の支払業務・支払伝票に関しては全体のConcur Invoiceで処理し、それ以外はBPOと経理部門でSAP標準機能を使って伝票起票を行う。それ以外の伝票はBPOで行う。対象会社は約60社で、BPOセンターの人数規模は133人。ほぼ全ての伝票約55万件を処理する想定である。

伝票件数ベースでの時系列の推移を見ると、2021年度ではBPOの比率は22%、2022年度では49%、Concur Invoiceを導入した2023年度にはConcur Invoiceが60%、BPOが40%となり、予定通り各現場での伝票起票の自動化が完了し、BPOでの企業体制に移行することができた。変更後はBPOセンターで経理処理業務を集中させ、システムを活用する前提でのプロセスの見直しを行っている。結果的に経理処理のチェックとコントロールも早い段階でできるようになり、生産性も向上した。業務の継続面での課題も対応しやすい状況になっている。人材教育は長期的な課題だが、業務をセンターに集中化することで品質の安定が実現した。

<Concur Invoiceの導入>

Concur Invoiceの導入には、標準化、従業員啓蒙、制度対応の3つの大きなテーマがあった。旭化成グループは多種多様な業態を持っており、発注プロセスや取引先からの請求書の内容、請求書の形式、取引パターンも様々なので標準化のハードルが高かった。さらに取引先マスタが乱立し、AIを活用する場合にも正確性に欠けることが判明した。AI活用は今後も改善していきたい。次に従業員の啓蒙にも壁があった。これまで自社開発のシステム内でサポートしてきたため、SaaSなどの違う仕組みに変わることで、従業員の使い勝手も変わってくるので戸惑う従業員も少なくない。トレーニングプランやトレーニングアイテムの選択に非常に苦心した。制度対応では2023年10月にスタートするインボイス制度や制度改正が続く電子帳簿保存法を見据えた設定にするためにプロセス全体を見直している。

2021年4月に稼働開始したConcur Travel、Concur Request、Concur Expenseという3つのシステムと2023年4月からConcur InvoiceとをAI-OCRを稼働させている。AI-OCRはファーストアカウンティング社のRemotaを使用しており、紙の請求書を読み取って情報を電子化し、取引先コードや経費タイプを選択するところまでサポートするのでConcur Invoiceの補助的なツールとして利用している。また、ユーザビリティを向上させるために、WalkMeという画面上で操作ガイドするソリューションも活用している。

これらConcur Expense、Concur Invoiceからは、中間システムを経由してSAP S/4HANAに連携している。旭化成グループは多種多様な業態が、国内グループ共通で、同じ基盤で同じ勘定科目体系で、また国内グループ全ての会社が共通のポリシーで運用している。元々、Concur Expenseを導入した時点で中間システムとWalkMeを利用しており、Concur Invoiceの導入にあたっても、その基盤も活用し、プロジェクト体制も維持しながら導入できた。そのため一から検討するよりも比較的効率的にプロジェクトが進められたと考えている。これまではある意味、独立した切り口で運用していた部分があったが、今回同じ仕組みの中で運営することになり、1つの業務プロセスとして扱えるようになった。

プロセス評価

以前のプロセスとConcur Invoiceを導入した後のプロセスを4つの切り口で比較したい。まず以前は各部署で伝票起票していたが、現在はAI-OCRがまだ完全ではない部分もあるので、BPOと一緒に活用している。以前は1500人以上の事務担当者が行っていたが、自動化により教育面など効率化できる余地がある。

次に、企業システムはメンテナンスコストがかかる自社システムからSaaSに変更したことで、バージョンアップもスムーズに行われ、運用や管理面の負担を軽減できた。ワークフローでも紙起点のものから電帳法に対応した仕組みに変わるため、いつでもどこでも電子承認が可能になった。特に承認業務に追われる管理者の工数削減に貢献できた。労働市場の変化や働き方改革などの時代の変化に対応した支払伝票プロセスが構築できたと実感している。

Concur Invoiceの導入スケジュール

Concur Invoiceの導入は2021年度のファーストクォーターから検討を開始し、一般的な導入事例よりもかなり長いプロジェクト期間になった。これは2023年4月にSAPのバージョンアップを予定していたためと、従業員の啓蒙という課題もあり、従業員のトレーニング期間をしっかり確保するためだった。

稼働後の各ユーザーの生産性の低下をできるだけ抑えるために、早くシステムに慣れて活用できることを配慮した。また導入直後の混乱をできるだけ抑えたいと考えた。対応できる人数にも限りがあるので、混乱の負荷をできるだけ下げる必要があった。そのため、稼働準備期間の対応が非常に重要だった。従業員啓蒙には、想定利用頻度に応じてヘビーユーザーとライトユーザーに分けて教育を実施した。先にヘビーユーザーに教育を行い、フィードバックを踏まえて改善した。マニュアルを充実させ、操作ガイドや入力サポートの強化を行った。以前Concur Expenseを導入した時の経験が役に立ち、改善できた部分があったと考える。この体験から私はできるだけ段階的にシステムを導入する方がいいと考えている。結果として、他の当社のプロジェクトと比較しても、混乱なく導入できた。

<Concur Invoiceの社内検討運用体制>

検討フェーズでは、親会社である旭化成の経理・財務部が中心となって導入準備を進めた。検討チームの社内メンバーは経理部門のスタッフは専任で、他の部門から参加しているメンバーは通常業務をしながらプロジェクトを兼務していた。加えてコンサルティング会社や導入パートナー、BPOの力も借りながら、グループの経理メンバー約300名、約5000人以上の従業員にトレーニングを進めていった。プロジェクトメンバーは、以前導入したConcur Expenseのメンバーとかなり重なっている。コンサルティング会社や導入パートナー、中間システムを構築したシステム会社のメンバーもほぼ同じ顔ぶれで対応できたため、旭化成グループの特徴や社風等を把握した上で、構築・改善提案をもらった。この点も一からプロジェクトを立ち上げるよりも効率的に進められた要因である。

稼働後の体制も、既に稼働していたConcur Expense、Concur Travelと共に、人事・IT部門と一緒となってConcurチームとして運営をする体制だ。業務推進グループは、旭化成グループの様々な業務形態を考慮しつつ、特定の部門や縦割りに囚われずに全体感のある業務を描いて、ITでの効率化の実現を目標にしている。

今後の展望

今後はさらなる電子化の推進と発注段階からの管理を行うことを目指している。これらが実現すると現在請求書で処理している間接費関係の処理についても自動化が進んでいくと考えている。原材料や資材の購買については既にできている部分もあるが、委託費や間接費のような支払いについても実現できればより効率的な運用が期待できる。

また電子化の推進により入力段階での効率化が図れると考えている。現在OCRで読み取っている部分がより正確に処理できるようになる。また、大量データの入手によりAIの判断も向上し、さらに正確な処理に繋げられるだろう。原材料購買のように発注段階から一貫してデータをコントロールできれば、会計処理、支払の時点で申請承認業務は承認レスとして処理でき、工数も削減できる。事後チェックも多くの情報が電子化されれば、異常値のチェックや分析もしやすくなるうえ、事業部門に向けて経費の使い方を見える化すればより便利になる。

これらを実現するには、業務の標準化と実際に利用する従業員の理解、そして仕組みを徹底的に使いこなしていく姿勢が重要だ。今後もこの目指す姿を念頭に置きつつ、社内での浸透を高めていきたい。

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