- 第一生命におけるCXデザイン戦略に基づく顧客接点創造、CX向上の取組み
第一生命保険株式会社 阿部 暁 氏 - 保険業界における最新マーケティング戦略・テクノロジーによる新しい顧客体験の創造
日本アイ・ビー・エム株式会社 友田 陽介 氏 - 電話・ノンボイスの効率化と生成AI活用が実現するコンタクトセンターサービスの高付加価値化
モビルス株式会社 柏原 学 氏 - 三井住友海上が目指す、「顧客視点」「データドリブン」のビジネス変革
三井住友海上火災保険株式会社 木田 浩理 氏
第一生命におけるCXデザイン戦略に基づく顧客接点創造、CX向上の取組み
- 基調講演
【講演者】
- 第一生命保険株式会社
コミュニケーションデザイン部 部長
阿部 暁 氏
<第一生命グループの概要>
第一生命グループは、従来第一生命保険を中心に、1,000万名強の個人のお客様、16万社の法人のお客様に対し、約4万人の生涯設計デザイナーが担当するという専属営業員中心のビジネスであった。しかし2010年の株式会社化を契機として、海外における生命保険事業の拡大、国内における専門保険会社の設立、近年では資産運用事業の強化等にも注力している。当社グループにおける基本的な考え方として、お客様にとって最善のものであれば、買収や提携を通じて商品やサービスを提供していくことも厭わないという考えであり、近年は顕在化する社会課題の解決に向けて、それぞれに適した会社を設けて運営していることが特徴である。
<CXデザイン戦略の背景と生命保険事業の3つの特性>
従来の強みであった「保障」「資産形成・承継」の取組みを中心に、社会的ニーズを踏まえて「健康・医療」「つながり・絆」を合わせた4つの領域でCXデザイン戦略を展開している。今年度は3カ年中期経営計画「Re-Connect2023」の最終年度となる。マーケティング視点から、CXデザイン戦略を採用するにあたって、押さえておくべき生命保険事業の特性は次の3つである。
<1.社会保障の「補完産業」>
かつては非日常的な不幸な出来事に対する備え、つまり万が一の時でもそれを補えるお金を提供する役割が生命保険事業には求められてきたが、現代は人々の生き方、パートナーの選び方、心身の状態、生活における優先順位等様々な面において多様化している。お客様のQOL向上のためにも、その多様性のある生き方をサポートしていくことが、生命保険事業により強く求められている。そこで弊社では、QOL向上に繋がる付加価値を提供すべく事業を広げているところである。
<2.顧客視点でも企業視点でも「LTV」>
生命保険のビジネスモデルは、その仕組みからLTV(ライフ・タイム・ヴァリュー)型のコミュニケーションが自然と成り立っている。何らかのライフイベントをきっかけに契約に至り、お客様からは長年に渡り保険料をお支払いいただきつつ、保険会社はリスクに対する備えや人生において大きな支出を伴う資金を適切に提供する。一方で、生命保険は長期にわたる関係性が継続することから、最初の関係構築においては非常に慎重な選択となりがちである。
<3.究極のカスタマイズ商品・究極のコモディティ商品>
生命保険商品は、個人の収支状況、健康状態、生活環境等を踏まえ、未来を予測しながら個人単位で設計するものであり、発生するリスクや備え方は個人単位で異なることから、究極のカスタマイズ商品である。一方で備える領域さえ決まれば、後は商品の組み合わせとどの会社を選ぶかで選択することになる。現状、これらの商品間における大きな差はない中においては、コモディティ化が進んでいる状況だ。
<CXデザイン戦略の目指すもの>
上記の生命保険事業の特性に加え、足元ではデジタル技術の進展・普及が新型コロナ禍によって加速し、オンラインでのコミュニケーションが一般化した。リアルでの接点は確実に減少しているほか、価値観が多様化するなど、人々の行動変容は加速している。
社会構造の格差も露見し、人やモノの流れも変わり、デジタルに強みを持つディスラプターも台頭している。そこで弊社事業においても、お客様との情報格差の縮小、従来型の標準的サービスモデルの不適合、世の中の「つながり・支え合い」への貢献といった観点が必要だと考えた。
お客様一人ひとりが弊社に期待するサービスレベルはより高く、そして多様に変化しているために、お客様から共感され選ばれなくてはならない。そこで現在の中長期経営計画において、お客様の体験価値に軸足をおいたCXデザイン戦略を策定した。
<弊社グループが目指す体験価値>
CXデザイン戦略では、弊社がお客様に提供するのはお客様の心理的・感情的価値を加えた体験でありそれが価値であると定義付けた上で、LTVを明確にした点が大きな特徴である。これまでの保険の加入や給付などの商品・サービスの機能価値の提供(UX)だけでは、長期にわたるお客様との関係は構築できないと考えている。
一方でLTVにつながる心理的・感情的価値(CX)の多くは、お客様とのタッチポイントにおけるコミュニケーションによって創出される。従来、CXは生涯設計デザイナーが担っていたが、人々の行動変容は加速していることから、デジタル・オンラインの力も借りてCXを高めようと考えた。
<目指すコミュニケーションのあり方>
弊社としてはオンライン・オフラインを問わず、お客様の行動様式や生活に寄り添いながら、LTV型の関係性を長きに渡りお客様と構築していくことを目指している。生命保険の場合、最近は情報収集の過程においてはオンラインで事前に調査することが多いが、そこで行動段階からLTVの輪に入っていただき、商品・サービスの利用を通じて価値を体感していただくことがコミュニケーションの初期段階において重要だと考える。
<取組みの2つの事例>
CXデザイン戦略における取組みとして、『ミラシル』と『デジホ』の事例を説明する。
<ミラシル>
ミラシルは2021年12月にスタートした弊社が運営するオウンドメディアである。お金、保険に加え、健康、人と暮らしの4つの領域において、お客様にとって関心の高い未来の自分を知るための記事や会員を対象としたイベント、サービス等の提供を行う。
ミラシルには、接点や取引のないお客様向けと会社が繋がるための場と、既に生涯設計デザイナーと繋がっているお客様とのコミュニケーションの場となる2つのインターフェースを用意している。イベントやキャンペーン等を通じて会員になって頂き、サイトを回遊して頂くことでお客様の興味・関心事を把握して、コンテンツにおいてのパーソナライズ化を図る。また希望に応じてオンライン・オフラインでの個別保険相談にも応じている。また生涯設計デザイナーは、自らのオリジナルページを案内することで、お客様とつながることも可能となっており、地域に根ざした情報等も提供することで、お客様に弊社を選んでいただくことがLTVの入り口として重要であると考える。
<デジホ>
デジホは、スマホで契約までが完結できる新たな保険ブランドであり、2021年に販売を開始した。シンプルな保障を簡単・スピーディーに提供する他、パートナー先であるコミュニティのニーズ・世界観に応じたオーダーメイド型の商品・加入体験の実現を目指している。2023年9月にローンチした『みまもリスク』は、お客様が迷うまでもない商品性とUXを提供し、TikTokやYouTubeでWeb広告を流すことで若年層との接点づくりを行う。
<今後の展望>
現状、リアルチャネルと共存しながらお客様にCXを感じていただく方法については試行錯誤の段階である。一方でコロナ禍によりインターネットでの検討・加入意向は確実に高まっている。ネットユーザーのみで見ると、加入検討プロセスはオンライン志向が強く、契約手続きはオンラインと対面が拮抗している状況である。
業界における加入プロセスは依然リアルチャネルが太宗を占めるが、徐々にオンラインに移行することが予想される。そこでCXデザインの前提条件は、オフライン及びオンラインの組み合わせは柔軟なものにしておき、「サービスが先、利益が後」の考え方で会社と個々のお客様との関係を密接に築いていくことだと考えている。 お客様に寄り添いながらコミュニケーションを図ると共に、さまざまな事業部門と会話しつつ、施策やUXの改善に繋げていく。その結果としてのCX向上によりお客様との関係を長期にわたり深め、収益に繋げていく観点でビジネスをしていくことが大切なのではないかと考えている。