不動産特定共同事業法とは?平成29年不特法改正の5つのポイント


不動産特定共同事業法の一部を改正する法律が、平成29年6月2日に公布された。平成29年改正不特法で、具体的に何が変わるのか。本稿では、不動産特定共同事業法の概要や改正の経緯から、不特法の5つの改正ポイントまで、全体像を把握できるよう詳しく解説する。

  1. 不動産特定共同事業法とは
  2. 平成29年不特法改正のポイント
  3. 平成29年不特法改正のポイント① 適格特例投資家限定事業の創設
  4. 平成29年不特法改正のポイント② 小規模不動産特定共同事業の創設
  5. 平成29年不特法改正のポイント③ 特例事業における事業参加者の範囲の拡大
  6. 平成29年不特法改正のポイント④ 特例投資家向け事業における約款規制の廃止
  7. 平成29年不特法改正のポイント⑤ クラウドファンディングを可能とする制度整備
目次

不動産特定共同事業法とは

不動産特定共同事業法(以下「不特法」という。)は、ひとことでいえば現物不動産(正確には、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)第2条第1号に規定する宅地及び建物)を資産とするファンドの運用を規制する法律である。

例えば、匿名組合契約により投資家から出資を受け、その出資金をもって現物不動産を取得し、その現物不動産の売買等の取引から生じる利益を投資家に分配する場合には、不特法に基づき、原則として不動産特定共同事業の許可を受ける必要がある。

そして、不動産特定共同事業の許可を受けるためには、宅地建物取引業(以下「宅建業」という。)の許可を受けている必要がある(不特法第6条第2号)ことから、SPC(特別目的会社)が不動産特定共同事業の許可を取得することは事実上困難であり、そのため、SPCを主体とする不動産ファイナンスにおいては、不動産を信託受益権化した上で取引するスキームやSPCを資産の流動化に関する法律に基づく特定目的会社(TMK)とするスキームなど、不特法の適用を回避するためのスキームが採用されてきた。

平成25年 不特法改正

このように、従前の不特法では、SPCにおいて不動産特定共同事業を営むことが事実上困難であったことから、これを可能とするために平成25年に不特法が改正され、新たに「特例事業」の制度が導入された。

「特例事業」とは、不特法第2条第4項第1号の行為(匿名組合契約等の不動産特定共同事業契約を締結して不動産取引から生じる収益等を投資家に分配する行為)を業として行うもの(以下「第一号事業」という。)で、①当該行為を専ら行うことを目的とする法人を主体とすること、②不動産取引に係る業務を一の不動産特定共同事業者(不特法第2条第4項第3号に掲げる行為を行う者)に委託すること、③出資の勧誘を不動産特定共同事業者(不特法第2条第4項第4号に掲げる行為を行う者)に委託すること、④銀行、信託会社等のいわゆるプロ投資家(特例投資家)を相手方又は事業参加者とするものであること、といった要件を満たすものをいい、こうした特例事業については、例外的に不動産特定共同事業の許可は不要となり(不特法40条の2第1項)、一定の事項を主務大臣に届け出れば足りることとなった(同条第2項)。

図4 特例事業

こうした平成25年の法改正により、SPCを主体とする現物不動産のファンドを組成・運用することも可能となったが、実際に普及が進んでいたとは言い難い。

その理由としては、税制面(不動産取得税や登録免許税の減税の範囲が信託スキームやTMKスキームと比べて限定的)もあると思われるが、信託スキームやTMKスキームの実務が既に構築されている(すなわち、他の代替スキームがある)状況下において、特例事業スキームについては、投資家の範囲が限定されていること、常に約款に基づいて不動産特定共同事業契約を締結しなければならず柔軟性に欠けること、主体となるSPCにみなし宅建業者の規制が適用されること(宅建業法第77条の3第2項)など、制度面の課題もあったと考えられる(もちろん、これらは投資家保護のための制約であり、制約自体は理由のあるものであるが、これらの制約が一律的に適用されていた点に課題があったといえる。)。

平成29年不特法改正

そこで、一定の範囲内で特例事業の制度的課題の解決を図りつつ、現物不動産ファンドの組成・運用が可能な範囲を拡大し、また、現物不動産ファンドについても(金融商品取引法と同様に)クラウドファンディングを可能とすることによって、不特法に基づく不動産特定共同事業の活用の促進を図るために、平成29年6月2日に不動産特定共同事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第46号)が公布され、同法により不特法が改正されることとなった(以下同法による不特法の改正を「平成29年改正」といい、平成29年改正の施行後の不特法を「改正法」という。)。

なお、平成29年改正は、公布日(平成29年6月2日)から6か月以内に施行される予定である。

平成29年不特法改正のポイント

平成29年不特法改正のポイント

平成29年改正のポイントは、以下のとおりである。

  • 適格特例投資家限定事業の創設
  • 小規模不動産特定共同事業の創設
  • 特例事業の事業参加者(投資家)の範囲を拡大
  • 特例投資家向け事業における約款規制の廃止
  • クラウドファンディングを可能とするように主として書面交付の方法に関する制度整備

平成29年不特法改正ポイント① 適格特例投資家限定事業の創設

平成29年不特法改正ポイント① 適格特例投資家限定事業の創設

適格特例投資家限定事業とは

適格特例投資家限定事業とは、「不動産に対する投資に係る専門的知識及び経験を特に有すると認められる者として主務省令で定める者」(適格特例投資家)のみを相手方又は事業参加者とする第一号事業を意味する。こうした適格特例投資家限定事業については、不動産特定共同事業の許可が不要となり、届出のみで足りることとなる(改正法第59条)。

適格特例投資家限定事業の創設

「適格特例投資家」の範囲は主務省令で定められることとなるが、特例投資家よりも更に限定される見込みであり、金融商品取引法における「適格機関投資家」の規定を参考にしつつ、不動産投資を専門的に行っているプロの投資家を定める予定とのことである。

なお、適格特例投資家限定事業を行うには原則として宅建業の免許を受けていることを要するが、不動産特定共同事業契約に基づき営まれる不動産取引に係る業務の全てを宅地建物取引業者に委託する場合には、宅建業の免許を受けていることを要しない(改正法第59条第4項、第6条第2号)。

また、適格特例投資家限定事業の主体については、特例事業者とは異なり、みなし宅建業者の規制(宅建業法第77条の3第2項)は適用されない。但し、その反面、宅建業法第77条の3第1項の規定により同法第3条の適用が明確に排除される特例事業者とは異なり、適格特例投資家限定事業者については、宅建業の免許を受けることなく不動産の売買をすることのできる法令上の根拠が不明確となっている。

図1 適格特例投資家限定事業

平成29年不特法改正のポイント② 小規模不動産特定共同事業の創設

平成29年不特法改正のポイント② 小規模不動産特定共同事業の創設

小規模不動産特定共同事業とは

小規模不動産特定共同事業とは、以下の各事業を意味する。

  • 各投資家の出資額及び出資の総額がいずれも政令で定める金額を超えない第一号事業
  • 各投資家の出資額及び出資の総額がいずれも政令で定める金額を超えない特例事業を行う者(特例事業者)から委託を受けて行う第三号事業(不特法第2条第4項第3号に掲げる行為に係る事業)

小規模不動産特定共同事業の創設

小規模不動産特定共同事業の要件である各投資家の出資額及び出資の総額の上限は、今後公布される政令で定められることになるが、現時点では、各投資家の出資額については100万円、出資の総額については1億円となることが想定されている。

この小規模不動産特定共同事業については、不動産特定共同事業の許可を受けずに、登録を受けることにより行うことが可能となる(改正法第41条第1項)。

なお、小規模不動産特定共同事業の登録を受けるには、宅建業の許可を受けていることなど、基本的には不動産特定共同事業の許可と同様の要件(改正法第6条の欠格事由に該当しないこと)を満たす必要があるほか、資本金や純資産額などの財務要件、小規模不動産特定共同事業を適確に遂行するための財産的基礎及び人的構成などの要件を満たす必要がある(改正法第44条)。

また、小規模不動産特定共同事業の登録の有効期間は5年間とされ、更新する場合には更新手続が必要となる(改正法第41条第2項、第3項)。

図2 小規模不動産特定共同事業(第一号事業)
図3 小規模不動産特定共同事業(第三号事業)

平成29年不特法改正ポイント③ 特例事業における事業参加者の範囲の拡大

平成29年不特法改正ポイント③ 特例事業における事業参加者の範囲の拡大

現行法では、特例事業における事業参加者は特例投資家に限定されている(不特法第2条第6項第4号)が、平成29年改正では、「宅地の造成又は建物の建築に関する工事その他主務省令で定める工事であってその費用の額が…主務省令で定める金額を超えるもの」については引き続き特例投資家に限定されるものの、それ以外については特例投資家以外の一般投資家も事業参加者となることが可能となる(改正法第2条第8項第4号)。

「主務省令で定める工事」については、テナントの入れ替えがないような増改築あるいは修繕等のリスクの低い事業以外の工事とされることが見込まれ、また、「主務省令で定める金額」としては不動産の評価額の1割程度とされる予定とのことである。

最終的には「主務省令で定める工事」の範囲によるものの、例えば、特例事業者が現物不動産(事業用ビルや共同住宅など)を取得し、その不動産の修繕工事等は予定されるものの、建替えは予定しないといった場合には(すなわち、開発案件ではない通常の取得案件については)、特例事業において一般投資家を事業参加者とすることが可能になると考えられる。

図5 事業参加者の範囲に関する現行法と改正法の比較

平成29年不特法改正のポイント④ 特例投資家向け事業における約款規制の廃止

平成29年不特法改正のポイント④ 特例投資家向け事業における約款規制の廃止

現行法では、不動産特定共同事業者及び特例事業者は、事業参加者(投資家)との間で不動産特定共同事業契約(匿名組合契約等)を締結する場合には、あらかじめ主務大臣の許可又は認可を受けた約款に基づいてしなければならないものとされている(不特法第23条第1項、第40条の2第5項・第23条第1項)。

改正法においても、不動産特定共同事業者、小規模不動産特定共同事業者及び特例事業者は原則として上記の約款規制の適用を受けるが(改正法第23条第1項、第50条第2項・第23条第1項、第58条第5項・第23条第1項、第58条第6項・第23条第1項)、例外的に、①事業参加者が特例投資家のみであり、かつ、②不動産特定共同事業契約に当該不動産特定共同事業契約上の権利義務を他の特例投資家に譲渡する場合以外の譲渡が禁止される旨の制限が付されている場合には、約款規制が適用されないこととなる(改正法第68条第3項)。

平成29年不特法改正のポイント⑤ クラウドファンディングを可能とする制度整備

平成29年不特法改正のポイント⑤ クラウドファンディングを可能とする制度整備

現行法では、不動産特定共同事業契約が成立する前の書面(不特法第24条第1項)や成立時の書面(不特法第25条第1項)をインターネット等により交付することは認められていないが、平成29年改正では、これらの書面をインターネット等により交付することが認められることとなる(改正法第24条第3項、第25条第3項)。

但し、現行法では、業務管理者をしてこれらの書面に記名押印させなければならないとされており(不特法第24条第2項、第25条第2項)、改正法においても、この業務管理者による記名押印に「準ずる措置を講ずるものとして主務省令で定めるもの(方法)」によることが必要となる。

不動産取引の分野においては、従前より宅建業法に基づく重要事項説明書のインターネットによる交付の是非が議論されているところであるが、不特法の改正がその嚆矢となる可能性があると思われる。

寄稿
シティユーワ法律事務所
弁護士
麻生 裕介 氏
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