デジタルバンク「みんなの銀行」における新しい顧客接点のカタチ
- 特別講演
【講演者】
- 株式会社みんなの銀行
取締役副頭取
永吉 健一 氏<デジタル時代における環境変化と顧客の行動変容>
デジタルテクノロジーの進展が破壊的イノベーションを起こし、さまざまな業界でルールチェンジやパラダイムシフトが起きている。小売はAmazon、動画はNetflix等、ビジネスモデルの大変革が起きており、金融業界の本格的なデジタルシフトもこれから加速していくと考えられる。
福岡銀行では、銀行窓口来店客数は2010年から2018年で約3割減少し、コロナ禍でさらに約1割減少した。それに対してインターネットバンキングの年間取引件数は2010年から約2.4倍に増加した。顧客の情報量の向上やリテラシー向上によって顧客ニーズが拡大し、金融サービスの提供レベルと顧客ニーズのギャップが拡大していくのに伴い、2010年代後半から金融領域へのディスラプターの参入が急速に進展した。日本でも2016年のFinTechブームの加速を契機に、小売・通信・IT企業などからの参入が相次いでいる。ふくおかフィナンシャルグループ(以下「FFG」と称する)では、金融機関におけるDXの実現に向けて、既存ビジネスの高度化とデジタルバンクの新設を並進する「2wayアプローチ(両利きの経営)」を採用している。
既存ビジネスのDXは時間がかかり、その間に市場破壊によってパイが小さくなってしまうため、「2wayアプローチ」として新しいDXも同時に進めている。それが本日ご紹介する「みんなの銀行」だ。システムやオペレーション、組織カルチャーなど、150年の歴史がある様々な制約を変えていくのには時間がかかるため、すべてをゼロベースから構築することによって時間的な価値も生まれ、デジタルで構成することにより、新しい市場創造ができると考えている。
<デジタルバンク「みんなの銀行」の概要>
FFG傘下の新銀行として設立され、全国のデジタルネイティブ世代(1980年前後以降生まれ)をターゲットにしている。「銀行らしさ」からの脱却を目指しており、スマホで完結するシンプルなサービスが特徴だ。「財布がなくてもスマホ1台で生きていける世界はどうやったら創れるか」といった点をコンセプトにしている。
当行はネット銀行ではなくデジタルバンクであり、デジタルだからこそできる新たな付加価値を提供している。ターゲット顧客であるデジタルネイティブ世代の課題・ニーズを解決するため、商品サービスもゼロから設計している。また、他社・他業態とのエコシステム形成を前提とした「付加価値提供」に主眼を置いた銀行となっている。
事業ドメインは、個人向け金融サービス(B2C)を軸とし、BaaS事業、バンキングシステム提供事業の3つがある。B2C事業ではバンキングとウォレットが一体化したスマートフォン専業銀行を展開する。BaaS事業ではAPIを通じて金融機能・サービスを提供し、非金融事業者が保有するチャネル等を通じてオンデマンド型で提供する。これらを支えるのが次世代バンキングシステムで、パブリッククラウドにコアバンキングシステムを構築している。
システム全体像は基幹系を構築しているGoogle Cloud Platform(GCP)だけでなく、AzureやAWS等、適材適所でマルチクラウド構成を採択。当行の次世代バンキングシステムの6つの特徴は、自動化前提のプロセス、内外との変化とつながり、顧客データ中心、全てをクラウド化、アーキテクチャに組み込まれたセキュリティ、オートメーション銀行だ。
<みんなの銀行におけるマーケティング>
みんなの銀行では、顧客の理解から商品・サービス開発等の上流工程にフォーカスし、セリングと合わせて『売れる仕掛け』を製販一体で構築している。
B2C事業ではデジタルネイティブ世代をターゲットユーザー(Z世代・ミレニアル世代)に設定しており、同世代は2030年には就業人口の60%を超えるため、今のうちから顧客にしておく必要がある。
デジタル時代における顧客は、これまでの企業発の発信情報に基づく垂直的な購買行動から、それに加え、「ソーシャル」、「コミュニティ」を介した情報・評価を判断軸の一つとする循環型の構造に大きく変化した。我々は行動変容を捉えたサービス設計、マーケティング戦略を行っている。
最先端のシステムと多様な人財を武器に、顧客ニーズを起点としたサービス開発を実践し、例えば口座開設は10分程度で開設でき、口座開設後すぐに取引が可能となっている。また、貯蓄預金・デビットカードなどの銀行サービスはすぐ使えるようにしている。ミニマルな思想でゼロベースから商品・サービスを設計することにより、フリクション(煩わしさ)を無くすサービスを意識し、集積されたデータや顧客の取引属性に応じて個々人に最適なコミュニケーションや商品提供を実施するハイパーパーソナライズが特徴だ。
デジタルネイティブ世代との接点は、テレビや新聞などのマス媒体は利用せず、ターゲット顧客に合わせてインターネットやSNSを軸としたコミュニケーション戦略を実施している。その代表的な事例として「お友だち紹介プログラム」を提供している。これは、紹介された人が口座開設をしたら、紹介した人・された人それぞれに現金1,000円をプレゼントするもので、このプログラムがTwitterで大きくバズり、広い情報拡散を実現した。お友だち紹介コードの拡散状況はネットワーク分析の手法を用いて可視化し、紹介の起点者やインフルエンサーを把握することで、新しいマーケティングにも活かしている。
みんなの銀行では、未来の銀行の探究者として、小さな失敗を繰り返しながらも日々新しいチャンレジをしている。
- 株式会社みんなの銀行