非対面チャネルにAIで革新を
~コールセンターのデジタル化と将来のコンタクトセンター構想~
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社ゆうちょ銀行
営業部門 コールセンター部 部長
山浦 実 氏<ゆうちょ銀行におけるコールセンターの位置づけ・役割>
コールセンターは非対面チャネルの中で最もヒューマンタッチな顧客接点だ。本日はインバウンドの直営コールセンターの話をするが、主な役割は「①電話照会対応」と「②お客さまの声の情報連携」の2つある。①ではデジタル化された当行の商品・サービスを、ご高齢のお客さまに、いかに分かりやすく説明できるかがコールセンターの腕の見せどころ。②ではお客さまの声を本社に連携し、当行の商品・サービス・事務手続の改善PDCAサイクルをしっかり支えることが重要。コロナ禍でお客さまの生活様式が非対面・非接触へと変化する中、コールセンターの重要性はますます高まっている。コールセンターの良し悪し・出来不出来が、企業の優勝劣敗を決めると言っても過言ではない。<コールセンターの業務概要>
コールセンターの業務内容は「①ラウンド業務」と「②マネジメント業務」に大別される。①はオペレーター(OP)がお客さま対応に苦慮し、挙手した際、アシスタントスーパーバイザー(ASV)またはスーパーバイザー(SV)が駆けつけてサポートする業務。OPをASVが支え、OP・ASVをSVが支える「サポート体制(サポートの逆ピラミッド)」をいかに構築できるかが重要だ。当行ではOP:ASV:SVの黄金比(人数比)を概ね5:1:1で回しているが、この黄金比を維持するのはとても大変。OPの定期採用とOP→ASV→SVのキャリアアップを長期スパンで推進しなければ維持できないが、これこそがコールセンターの持続的競争優位性(オペレーショナル・エクセレンス)となる。②は①の業務を支える管理業務で、稼働・環境・品質・支援の4業務に分かれる。稼働業務は入電予測に基づく必要席数の設定と配置人員の調整、環境業務はFAQやマニュアルの整備、品質業務はOP等への研修や評価・指導、支援業務は他部署への情報連携や苦情に基づく本社への改善提案が主な業務だ。
<コールセンターマネジメントで最も重要なこと>
冒頭お話ししたコールセンターの役割を踏まえると、目指すべきゴールは「つながる(応答率の向上)、解決する(応対品質の向上)、提案する(経営品質の向上支援)コールセンター」だ。ゴール到達に向けたマネジメントにおいて、最も重要で、かつ難易度が高いのが、OPのスキルアップとモラルアップ。OPに求められるスキルは「意識」「スキル」「知識」の3階層になっている。要は、お客さまに寄り添う気持ち(意識)をもって、思考力・対人力(スキル)をフル活用し、効果的な質問を投げ掛け、お客さまの問合せ内容とその背景を聴き出し、想像する。その上で、商品・サービス・事務手続等の知識(知識)を確認しながら、論理的に筋道を立てて、分かりやすく説明するスキルが求められる。これらのスキルを見える化し、足りないものをどう引き上げていくかが重要だ。
また、OPのモラルアップでは従業員満足度(ES)調査を定点的に実施し、満足・不満足要因を的確に把握した上で、すぐに対処策を講じることが重要だ。ESなくして、CSなし。OPのESなくして、お客さまの満足(CS)など勝ち取れない。OPの不満足要因のトップに挙がったのは「知識の獲得」の負担。新商品・サービスのリリース、法改正やシステム改修による事務手続の変更等により、電話応対に必要な「知識」は古いものは陳腐化し、新しいものにアップデートされる。OPにとって、それをキャッチアップするのは大きな負担。OPの知識の獲得の負担軽減はこのあと説明するAIシステムの導入目的の1つでもある。
<将来のコンタクトセンター構想>
我々の目指す「将来のコンタクトセンター構想」はこうだ。原則、お客さまの問合せ対応は「チャットボット」で対応する。チャットボットで対応できないものは「有人チャット」で対応し、チャットボットのプレゼンスを高める。チャットボットでどうしても対応できないものは「電話」で対応する。電話対応を担う、コールセンターにはAIシステムを導入し、OPの業務負担を極力減らし、電話応対に専念させることで、応対品質向上と業務効率化を図る。なぜ、この構想に至ったかというと、お客さま対応はやっぱり24時間365日対応したい。しかし、それを人手で対応するのは極めて困難。そのため、チャットボットを最前面に打ち出し、チャットボット→有人チャット→電話の流れでこの構想を組み立てた。また、コールセンター内での新型コロナウィルス感染等を含むBCP対応の観点から、「在宅・分散受電体制の整備」も組み込んでいる。
<コールセンターへのAIシステム導入による応対品質向上と業務効率化>
2020年10月からコールセンターにAIシステムを導入。これにより、音声のテキスト化、応対履歴の自動要約、回答候補の自動表示を行い、OPを支援。また、音声のテキスト化の過程で、お客さまのお叱りの言葉やOPのNGワード等をアラート表示することで、SVの管理業務も支援。顕著な導入効果として、OPの応対履歴作成業務の負担軽減、SVのモニタリング業務の負担軽減(音声>テキスト)、OPへのきめ細かなSVサポートが実現できている。回答候補の自動表示の正答率はまだ十分とはいえないが、これを引き上げることで、OPの資料検索(確認)業務の負担軽減を図りたい。AIシステムを導入してわかったことだが、OPに求められるスキル(意識・スキル・知識)の中で、AIがサポートできる部分は「知識(常にアップデートされる商品・サービス・事務手続等の知識の獲得)」と「スキルの対人力の一部(資料確認、履歴作成)」のみ。「意識」と「スキル(特に、論理力と想像力)」はこれまで以上に磨きをかけていかなければならない。
AIシステム導入の本質は、AIというテクノロジーをレバレッジに、人の苦手な部分をサポートし、人の得意な部分をエンハンスさせることである。ただ、AIシステムは現行レベルでは万能とはいえない。OPがAIシステムを育て、育てたAIシステムを活用してOPが業務負担を軽減させる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」をしっかり作り込むことが重要だ。
<チャットボット導入によるお客さまの利便性向上>
チャットボットは2018年12月から個人向けのネットバンキング業務に導入し、その後、段階的に対象業務範囲を拡大中。2021年5月の利用状況をみると、対象業務範囲は60%、利用者数は1.9万件/月、スマホアクセス比率は78%、正答率は85%だ。導入効果は3つある。1つ目はお客さまの利便性向上で、いつでも・どこからでも問合せができること。チャットボットの1日の平均アクセス数をみると、コールセンター営業時間帯(9時~19時)が多い。コールセンターへのスマホ入電比率は65%程度だが、さすがに電車やバスの移動中に電話はできない。チャットボットであれば、スマホで電話やバスの移動中でも問合せができる。一方、営業時間外のアクセス数も全体の46%あり、24時間365日対応ができている。2つ目はコールセンターへの入電抑制だ。お客さまがチャットボットで自己解決できれば、わざわざコールセンターに電話しなくても済むし、コールセンターでも電話対応する必要がなくなる。3つ目はBCP対応である。月別のチャットボットの利用状況をみると、何らかの事由で、コールセンターの応答率が低下した月は、チャットボットの利用者数が増加しており、コールセンターの代替機能を果たしている。
<将来のコンタクトセンター構想 (今後)>
今後は「有人チャット対応」と「在宅・分散受電(BCP対応)」の体制を整備予定。2021年度中に、我々が目指すコンタクトセンター構想は完成するが、これは始まりに過ぎない。チャットボット×有人チャット×電話を組み合わせ、デジタルとリアルを融合させたコンタクトセンターを、効果的・効率的に運営するためには、その原動力となるAI-FAQの作成・更新が重要だ。コンタクトセンターを裏で支える「FAQマネジメント」の体制もしっかり強化していく。
- 株式会社ゆうちょ銀行