「DX時代のデータ基盤の”あるべき姿”について」

平井 孝典 氏
【講演者】
Denodo Technologies株式会社
シニアプリセールスエンジニア
平井 孝典 氏

<Denodo社について>

Denodoとは一言でいうと、リアルタームデータ統合・配信基盤だ。Denodoの開発は「データを複製せずになんとか統合できないか?」との思いから始まった。DXに直面する現在、正にDenodoのような基盤が求められている時代だと認識している。

当社は1999年にスペインの大学教授が立ち上げ、長年にわたりデータの統合・管理・配信にフォーカスしてきた。現在は全世界で1,000社以上の企業に採用され、特定の業種・業態に偏ることなくご利用いただいている。

<DX時代のデータの重要性>

金融機関の置かれている状況としては、外部環境では、技術革新、新たな競合、顧客の変化、規制等があり、経営管理の視点で経営環境や顧客を理解することが必要だ。また、内部環境では、顧客体験へのフォーカス、適切なプライシング、新事業、規制対応といった施策を業務改善の視点で実行していくことが必要だ。そして、これらのPDCAサイクルを回す上でのドライバーとなるのがデータに他ならない。

データとはヒト・モノ・カネに次ぐ第4の経営資源であるが、データが持つ価値は潜在的であり、データから価値を引き出すには、コンテキスト(文脈)で意味を与えて整理・体系化する必要がある。石油に精製が必要なことと似ているが、データは原油と違って資産ではないので、銀行にとっての預金と同じように集めるだけでは意味がない。ヒト・モノ・カネと同様に適切なマネジメントを講じて、過去の産業革命における石油燃料のように有効活用することが重要だ。結局のところ、データは活用してこそ意味があるという当たり前の結論となるが、今日のデータ量は膨大であり、データを活用するためにはシステムの助けが不可欠である。

<システム連携の重要性>

システムをその特性によってSoR、SoE、SoIの3つに分類する手法がある。お客様と接点を持つのはSoRとSoEで、オムニチャネルでシームレスなコミュニケーションとして機能させる必要がある。チャネル接点の情報はSoIに反映され、SoIで分析してインサイトを得て、SoRやSoEに連携してお客様に最適な対応を取る。この中でSoIは完全に社内システムであり競合からは見えないため、競合他社に対する優位性の源になる。DXを推進するデータ基盤では、3つが独立するのではなく、相互に密接な連携をすることが重要だ。連携することでお客様との関係性を構築し価値を創出する。

<DX推進でキーとなる要素>

経済産業省の「DX推進ガイドライン Ver.1.0」で繰り返し登場する単語として、ビジネス、連携、全社最適、スピード、ガバナンスの5つがある。この中で特にスピードに注目する。システム導入の価値に対する考え方には、効率化・コスト削減、新しいビジネス価値の創出、迅速化の価値の3つがある。迅速化の価値とは時間短縮(≒効率化)のことではなく、時間と共に失う価値を取り戻すことであり、Value-Up(価値向上)のことである。DXではデジタル技術の助けを借りてビジネス・スピードを高めることによって、ビジネスに価値向上と革新をもたらすことが求められている。

<DX時代のデータ基盤の要諦>

まず、ビジネス主導で考える必要がある。次に品質が担保されたデータ。統合され、全社最適で、連携可能であることが重要だ。次にスピード。初期構築が早く、変更も容易であることが求められる。次にリーズナブルなコスト。最後にガバナンスだ。データは重要だが重要であるが故に取り扱いを間違えると大きなペナルティを負うことになる。この5つがDX時代のデータ基盤に求められる要諦である。

具体的なシステムアーキテクチャを検討する場合には、QCDF:Quality(品質)、Cost(コスト)、 Delivery(納期)、Flexibility(柔軟性)の4つの観点から評価をすることが有効だ。一定の品質を担保しつつ、価格と納期を低く、柔軟性を高くする。近年ではクラウドの活用が当たり前になってきているのは、クラウドもこの観点に当てはまっているからだ。

<モダンなデータアーキテクチャとは?>

ガートナー社のHype Cycleのうち、SoI/SoE双方の領域を含む全社データ利活用基盤を検討する際の注目すべきアーキテクチャは、Logical Data Warehouse(以下、LDW)、Data Fabric、Data Meshの3つだ。Data Warehouse(以下、DWH)、Data Lake、Data Hub、Data Lakehouse等は、3つのアーキテクチャの構成要素として登場するので、それらと同列にしてどれが良いかといった議論は意味を成さない。

LDWは登場してから5~6年経過しており、最新ではないが成熟したアーキテクチャだ。Hype Cycleで右側に位置しており、今スグに本番環境を構築してもリスクは少ないと認識されている。一方でData FabricやData Meshは、まだ「過度の期待」のピーク期や幻滅期を越えていないので、本番環境として構築するにはややリスクがあるだろう。ある範囲のLDWから初めて、Data FabricやData Meshへ進化させることが可能なので、今スグにLDWへ取り組むことを推奨する。

ここでガートナー社のコメントを1つ紹介すると、『データが絶えず大量に生成され、常に移動し変化している場合(例えばIoTプラットフォームやデータレイク)、データを漏れなく収集するのは非現実的であるか、不可能だ。そのため、単なるデータの「収集」ではないデータの「接続」(データ仮想化)への需要が高まっている。』とある。実際、LDW、Data Fabric、Data Meshといった新しいアーキテクチャでは、データ仮想化がアーキテクチャ実現の有力な技術要素として注目されている。

データアーキテクチャの進化を見ていくと、最初は業務系システムからCube等を作って分析していたのが、DWHにデータを集めるようになった。ビッグデータの時代になってData Lake等が登場して分散してきたが、それらを論理的に統合する形でLDWという考え方が生まれた。ガートナー社はLDWのリファレンスアーキテクチャを出しており、1つのシステムにデータを全て格納するのは不可能なため、データ仮想化により論理的に1つに統合するとしている。

3つのアーキテクチャ(LDW、Data Fabric、Data Mesh)のどれを検討するべきかは、企業の方針によって決まる。AWSやAzureなど特定のクラウドベンダーでシステムを構築することを前提にしている企業であればLDWがマッチするだろう。逆に、1つのクラウドベンダーに固定するつもりはなく、マルチクラウドを前提にしている企業であればData Fabricが適している。Data Meshに関しては、データマネジメントを中央集権制的に行うのではなく、権限移譲して連邦制的に行う場合に向いている。ファイナンシャルグループやホールディングスといったレベルで、各事業会社のデータ連携をどう実現するかといった際にはData Meshの考え方は参考となる。

<データ統合の移り変わり>

データ統合にはコンソリデーション、フェデレーション、インテグレーションの3つがあり、分けて考えたほうが良い。最初は情報系としてデータを1か所に集めるだけだったが、エンタープライズDWHでデータを物理的に統合するようになり、近年ではデータを1か所に集めるのではなく、論理的に統合する論理DWH(=LDW)が主流となってきている。その核となる技術がデータ仮想化であり、従来方式から多くの点で改善がみられる。ただし、データ仮想化は従来方式を置き換えるものではなく、お互いの機能を補完しながら共存する関係だ。

データ仮想化は新しいデータ統合の方式であり、技術的にはフェデレーションの進化系であるが、行っていることはインテグレーションである。ただし物理的なインテグレーションではなく、論理的なインテグレーションだ。ETLとデータ仮想化の違いとしては、ETLはあくまでツールであり結果をDBに格納しなければならないのに対し、データ仮想化はプラットフォームとしてDBの特性も持っているので、直接アクセスすればデータを利用できる。ただし、データ仮想化で全てを実現するのではなく、データ仮想化の部分と物理的な部分の両方が存在する。データ仮想化はデータを貯める基盤ではないので、どこか別の場所でデータを保持する必要があるが、1か所である必要はなく複数でも問題ない。

データ仮想化の三大メリットは、より早くより正確にビジネスへ適応する柔軟性、全社的なガバナンスやセキュリティの容易な実現、ITコストの最適化の3つだ。これは、前述のDX時代のデータ基盤の要諦やQCDFの観点に適合する。

経産省 の「DXレポート2(中間取りまとめ)」の「第2章 デジタルエンタープライズとデータ活用 – 4節 データ活用とデジタルトランスフォーメーション」や「第3章 デジタルトランスフォーメーションにおけるITシステム企画 – 4節 デジタルトランスフォーメーションをはばむ河を渡るために」でDenodoのカバー範囲を見てみると、データ蓄積やアプリケーションは含まないが、データの精製・加工、データの統合・管理、API提供やリアルタイム連携はカバー範囲に含まれるため、多くの領域で活用することができる。

Denodoは単独でシステムが成立する製品ではなく、周辺の製品との連携が前提となるので、当社は自社製品の紹介だけでなく、周辺テクノロジーを含めた全体アーキテクチャについての検討をお客様と一緒にすることが多い。DenodoはLDWやData Fabricといったエンタープライズなデータ基盤で確かな実績があるので、DXを推進するデータ基盤を企画する際には、是非、一度は当社にコンタクトをして相談してみて欲しい。

◆講演企業情報
Denodo Technologies株式会社:https://www.denodo.com/ja