「『肥後銀行DX計画』の策定と、今後のDXの取組みについて」
- 特別講演
【講演者】
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株式会社肥後銀行
経営企画部デジタルイノベーション室 室長
高田 賢治 氏
<肥後銀行・九州フィナンシャルグループについて>
肥後銀行は「うるおいある未来のために。」をスローガンとして事業活動を行っている。デザインはイニシャルのHと無限のマークをモチーフとし、うるおいのサイクル「循環」を表現している。事業を通じ、地域の皆様へうるおいのある未来を提供したいと考えている。
当行は熊本県内を中心に123か店を展開し、自己資本比率は10.01%で堅実で安全性の高い経営内容となっている。2021年度の熊本県におけるメインバンク割合で、当行のシェアはおよそ60%と高い水準だ。2021年11月には経産省「DX認定制度」を取得し、熊本県内および九州の地銀で初となった。認定取得に先駆け、2021年7月に肥後銀行DX計画を策定・公表した。
九州フィナンシャルグループは2015年10月に肥後銀行と鹿児島銀行の経営統合で誕生した。2021年3月末時点の地方銀行の総資産ランキングでは8位である。九州FGは熊本・鹿児島を中心に、沖縄を含め九州全域をカバーしており、海外では上海と台湾にも拠点を有している。最近では熊本へ進出が決まった台湾のTSMC等、台湾戦略も積極的に進めている。
<肥後銀行DX計画>
DX計画策定プロセスでは、本部各部や営業店からの参加者を交え、当行のDXに関する意見を集約した。集約した意見を取りまとめ、全5回に渡り、デジタル・イノベーション委員会で経営陣による集中協議を実施した。頭取から行員まで、全員でDXに関して議論してきたのが特徴だ。2021年7月にDX計画の第一弾として公表、今年の6月には取り組み状況を踏まえた進捗状況を公表した。
<地方にこそDXが必要>
地方にDXが必要な理由は2つあり、まず人口減少・過疎化の問題があることだ。人口減少でも経営維持するには、生産性の向上が不可欠となる。人手不足だからこそ、DXにより思い切った変革ができるチャンスだ。2つ目の理由は都市部からの距離で、デジタル技術によって距離の問題は大幅に軽減できるようになってきている。従来は都市部からしかアクセスできなかったビジネスに、地方からもアクセスできるとなれば、これも大きなチャンスだ。
<DX推進の方向性>
社会的・経済的な不確実性が高まる中、我々の存在意義(パーパス)を体現すべく、デジタルテクノロジーを活用したビジネスモデル転換を通じて、持続可能な地域社会を実現していく。お客様や地域の皆様とともに、お客様の資産や事業、地域の産業や自然・文化を育て、守り、引き継ぐことで、地域の未来を創造していくことが我々のパーパスだ。
DXで目指す姿は、テクノロジーとデータを駆使し、地域の未来を創造するデジタル先進企業だ。そのためのデジタル戦略は「新たな体験・サービスの提供」と「プロセス改革による生産性向上」の2点となる。人材、組織・制度、システム、マインドセットの4点について全社的な態勢整備を行っている。
<主なDX施策 ~新たな体験・サービスの提供~>
個人のお客様に向けたDX施策として、3点を中心に取り組んでおり、スマートフォン取引の充実、データ活用による個人最適化、お客様の日常に組み込まれたサービス提供だ。法人のお客様に対しては、地域企業のお客様のDX支援、融資審査におけるデータ活用の多様化、経営支援ソリューションの提供が主な取り組みだ。地方公共団体に対しても、地域社会のDX支援や新たな課題解決のビジネス創出に取り組んでいる。
<主なDX施策 ~プロセス改革による生産性向上>
店舗における業務改革としては、タブレット受付による業務プロセスの自動化、本部集中等による業務プロセスの最適化、非対面チャネル取引の後続処理自動化の3点を進めている。店舗における事務作業を削減し、行員がお客様サービスに寄り添える環境をつくることで、店舗を「お客様に価値を届ける場」へと転換していく。
本部業務改革に関しては着手・加速・地域還元の3つのフェーズで進めている。業務プロセスを自動化し、行員がデジタル企画・開発に集中できる環境を作ることで、本部を「お客様への価値を創る場」へと転換する。
<実現した施策>
個人向けサービスでは、「ひぎん通帳アプリ」の機能追加、新スマートフォンアプリ「Hugmeg」の導入、「くまモンのICカードチャージアプリ」が挙げられる。法人向けサービスではデータレンディング、マルチ決済端末の導入、「freee入出金管理with肥後銀行」を実現した。業務プロセス改革に関して本年度取り組んだのは、AIチャットボットの導入、決算書電子授受・システム連携、電子契約ツールの導入だ。
<DX推進態勢>
代表取締役頭取を委員長とする「デジタル・イノベーション委員会」にて、DXに関する方針・戦略策定・進捗管理等を行っている。DX推進・管理・統括は経営企画部門、システム開発・管理・統括は事務IT部門が管轄している。またグループ内のシステム会社として、九州デジタルソリューションズ(旧肥銀コンピューターサービス)との連携を強化している。
DXを推進する人材を定義し、資格・研修・実務経験の観点から行内で認定。当面の目標として2023年度までに100名のDX推進人材の育成・登用を目指す。2030年をめどに、行内の半数である1,000名をDX推進人材にすることも目標としている。基礎知識としてITパスポート等の習得を必須とし、階層別研修の実施により意識醸成も行う。全社的なDXレベル底上げと、専門人材育成を目的とした施策を並行して展開し、人材開発に取り組んでいく。
「デジタル先進企業」へと変化するために、全社的なマインドセットの転換を進めていく。キーワードは、お客様起点、データドリブン、オープンイノベーション、アジリティ、挑戦する風土だ。
<システムインフラ>
システムインフラの方針は、顧客体験向上へのリソースの集中だ。お客様取引の変化や、行内業務の効率化に適応したシステムインフラへと計画的に刷新する。迅速かつ柔軟にUI/UXを改善していくため、API等を主としたシステム間連携の標準化を促進。統合CIFと統合DBにより、顧客取引の一元把握と利活用に対応する。経営資源の戦略的な配分に向け、サービスや業務に応じてシステムを競争・非競争領域に分類するとともに、投資後の効果検証を実施する。
<KPI>
持続可能な地域社会の実現に向け、当行財務指標のほか、地域への貢献度、お客様の満足度、社員の幸福度をKPIとして設定している。最も特徴的なのは、地域への貢献度のKPIとして熊本県GDPを採用し、2023年度計画を5.6兆円としたことだ。DX指標に関して、総合的な管理指標としての「DX推進指標」に加え、「新たな体験・サービスの提供」・「プロセス改革による生産性向上」・「DX人材育成」の観点からもKPIを設定している。
<今後の取り組み>
態勢整備に関して、マインドセット、人材、組織・制度、システムの4つの分類で、今後の取り組みを予定している。特に注力しているのがマインドセット・人材だ。基礎的なスキル・専門的なスキルを行員の皆さんに身に付けてもらうよう、自分DXプログラムやリスキングプログラムの提供を準備して開始したところだ。組織・制度では、CDOやDX統括部などの新部署の設置も今年度中に検討する。中長期システム刷新計画の策定も行っており、準備ができたら公表するよう進めている。 地域DX推進での今後の取り組みとして、くまもとDX推進コンソーシアムがあり、当行で事務局運営を行っている。またDXコンサルティングサービスとして、DX認定取得をした経験を活かし、ありたい姿や目的に沿ったDXをご提案している。