「デジタル活用とノンボイスチャネルシフトの取り組み」

島田 康彦 氏
特別講演
【講演者】
株式会社セブン銀行
お客さまサービス部
部長
島田 康彦 氏

<当行について>

セブン銀行は、ATMを事業主体とする非常に珍しいビジネスモデルを採用した銀行である。現在の主な事業は、ATMプラットフォーム事業、カードローンを始めとする金融サービス、海外におけるATM事業の3つである。設立当初は「失敗するだろう」と周囲に言われながらも事業拡大を続け、2021年には創業20年を迎えることができた。

当行の最大の特徴は、対面のお客様窓口を持たないことである。ATMを主体としていることもあり、すべて非対面で顧客対応を行っている。そんな当行の顧客対応の要が、ATMコールセンター、コンタクトセンターという2つのコールセンターである。ATMコールセンターはATMに付属したインターフォンから問い合わせを受け、365日24時間監視と対応を行っている。一方、コンタクトセンターは金融サービス事業のお客様対応を行う部門である。一般的なコールセンターのイメージといえば、こちらのタイプになるだろうと思う。本日は、コールセンターの中でもコンタクトセンターに関する当行の取り組みについてご紹介したい。

<コンタクトセンターについて>

コンタクトセンターはセブン銀行の金融サービス窓口として各種の活動を行っている。主な業務にはセンターの運営管理、ローンの督促、企画運営がある。横浜と大阪の2センター体制で、センターの業務自体は外部の業者に業務委託をしているが、運営はお客様サービスが担当している。最大10言語に対応し、紛失盗難や金融犯罪といった緊急性の高い事案については24時間365日体制で対応にあたっている。入電量は日本語の問い合わせが月に3万件、他言語の問い合わせは1万件程度である。

<センター運営における課題>

現状、コールセンター運営にはさまざまな課題が存在する。たとえば生産性の向上や人材の採用育成といったものだ。当行に限らず、コールセンターを抱える多くの企業が似たような悩みを抱えているのではないか。コールセンターはもともと人材集約型の業種である。従来、こういった現場の課題を解決するためには、1つずつ丁寧に問題の改善をはかっていくというアプローチが主流だったように思う。

しかし、デジタル化が急速に進行しつつある今、コールセンターにおける課題解決にも違ったアプローチが求められているのではないか。そのポイントとなるのがデジタルの活用だと我々は考えている。

<当行におけるデジタル活用の試み>

実際にデジタルを使った課題解決に取り組むにあたり、我々はノンボイス対応の比率を75パーセントにするという大きな目標を掲げた。従来コンタクトセンターへの問い合わせはほぼ100パーセントが電話だった。それを徐々に他のチャネルに変えていこうということだ。と同時に、問い合わせの数そのものを減らす、ということも考えた。

ノンボイス対応の比率を上げ、問い合わせ数を減らす。それだけで現状コールセンターの抱えている問題の大半は解決できる。これが我々の仮説であり、プロジェクトの出発点だ。なぜこのような発想に至ったのか。その答えは、コンタクトセンターへの年代別の問い合わせ数のデータにある。

コンタクトセンターに電話をかけてくる方の約3割は、ふだん電話をかける習慣のない30代以下の顧客だ。そして、そのうちの多くは問い合わせる自分で調べ、どうしても解決できない場合にのみコンタクトセンターに電話をかけてくる。つまり、電話をかけて問い合わせをしてくる方の大半は、電話をしたくてしているのはない。できれば電話をせずに済ませたいのだ。とすれば、問い合わせチャネルを増やして顧客が自己解決しやすい仕組みを作り、またエフォートレスに使えるサービス設計を行えば入電数・問い合わせ数は減るのではないか、という予想が成り立つ。

<実際の取り組み>

ここで当行における実際の取り組み事例を2つ紹介したい。

1つはAIチャットボットの導入である。自己解決の促進やCX、生産性の向上を目的に導入し、現在は自社で運用も行っている。回答率の向上などの面で課題も見られるが、日々試行錯誤を続けているところだ。

もう1つは、チャットボットとRPAを活用した手続き無人化実験である。これは、入電数の多い住所変更の手続きを自動で行うものだ。この取り組みのポイントは開発期間・費用をなるべくかけないということである。金融機関の場合、基幹システムや勘定系に手を加えるとコストも時間もかかってしまう。そこで、システムには手を加えずにオペレーターをロボット化するというコンセプトで作ることにした。実装には至らなかったものの、想定以上に多くの方に使っていただけるなど一定の成果もあり、今後につながる結果になったと考えている。

<ノンボイス対応の実現へ>

上記2つ以外にもチャネルの増加やビジュアルメニューの導入といった施策を行っていった結果、2020年時点で、電話による問い合わせの割合を7割程度に減らすことに成功した。

しかし、この段階で新しい課題にぶつかる。それは、システムの乱立である。チャネルごとに別のシステムを採用していたことなどが原因で、オペレーターの対応や事務処理に問題が生じていた。解決の糸口となったのは、2021年3月に予定されていたシステム全体の更改だった。システムの更改に合わせて、これまでの課題を一気に解決するべくセンター全体のシステムもベンダーも統一することになったのだ。人もシステムも丸ごと入れ替える形になったが、クラウドCRMや音声認識などの導入に無事成功し、半年ほどでセンターも軌道に乗せることができた。サービスの入り口となるビジュアルメニューや自己解決チャネルの充実に力を入れた結果、現在電話による問い合わせの割合は5割を下回るまでになった。

<今後の課題について>

これまで当社はノンボイス対応の拡大という目標を掲げて施策を進め、実際に成果もあげることができた。しかし、いまだ解決しきれていない課題もある。

たとえば、問い合わせの際の動線については、Webからのビジュアルメニューのアクセスについて不十分なところがあるなどの要改善点が存在している。我々としては、お客様が自分の取りたい手段で、その時抱えている課題・問題をスムーズに解決できるというのが理想形だと考えている。つねにあるべき姿を模索しながら、顧客の利便性向上に向けて努力を続けていきたい。また、その意味では、問い合わせをしなくても使えるようなわかりやすいサービス設計を行うことも必要だと考えている。新しいサービスを作る最初の段階から、我々のような顧客対応部門のメンバーが加わりアイディアを出す、といった試みも行っているところだ。テキストベースで対応できる範囲の拡大、コンタクトコントロールによる最適な動線の提案・運用と合わせ、次の一手を積極的に打っていきたい。

<最後に>

最後に、取り組みを進める上で当社が大切にしていることを3つ紹介したい。

1つ目は人財の育成である。金融機関の場合、どうしても担当者が2、3年で異動してしまい、人の入れ替えが頻繁に起こる。そのため、リカレントやリスキリング、スムーズに業務に慣れるためのマニュアルの整備といった人材育成には力を入れている。

2つ目はデジタル活用である。常時新しいもの・サービスが出てくる状況であるので、社内外問わず情報交換を行い、新しいものを積極的に取り入れるように意識している。

3つ目はマインドセットである。何か新しい取り組みをしようというとき、頭から否定してしまうと話が終わってしまう。新しい取り組みを行う際、あるべきコミュニケーションの形は「yes and」だ。失敗を恐れず、前に進む姿勢を今後も大切にしていきたい。