「バックオフィスセンターの変革と顧客接点のDX」

中林 真純 氏

【講演者】
株式会社KDDIエボルバ
営業本部
第1営業部(BPO事業推進担当)
グループリーダー
中林 真純 氏
鎌田 靖司 氏
【講演者】
株式会社KDDIエボルバ
サービス企画開発本部
サービス企画部
システム企画グループ
鎌田 靖司 氏

<はじめに>

当社はコンタクトセンターやバックオフィスセンターを中心としたアウトソーシング事業を手がける会社である。これまで金融機関様を始め多くの業種・業界のクライアント企業のカスタマーサポートを支援してきた。デジタルチャネルの導入が進む中、変わりつつあり、コールセンターで受け付けた後のプロセス、バックオフィスの領域も今や重要な一部だと考える。

そこで今回は、バックオフィスセンターの変化と顧客接点のDXというテーマで当社のこれまでの取り組み、そしてそこで得られたBPOベンダーとしての知見、今後のあるべき姿についてご紹介したいと考えている。

<業務構築時における全体最適検討の重要性>

まず、我々BPO事業会社が、クライアント企業にバックオフィスサービスを提供する際に発生している課題について、みなさまと認識を共有しておきたい。「餅は餅屋」ということわざがあるが、要するに、何をするにしても「その筋のプロ」、専門家に任せた方がいい、という解釈ができるだろう。ところが、ひとことでDXといっても、取り組むべき課題は膨大だ。コンタクトセンター・バックオフィスセンターの領域だけでも、顧客接点やチャネルのデジタル化、後工程のデジタル化、データ利活用のためのシステム基盤の刷新といったものがDXで解決するべき課題として山積している。そして、これらの課題を解決するためには、eKYC、RPA、クラウドCRMを始めとするさまざまなツールが必要だ。その結果、クライアント企業が頼るべき専門家の数は増える一方である。しかも、各ツールの専門家、ベンダーにすべて任せればいい、というわけにもいかない。実際にオペレーションを行うベンダー側にシステムの知見が足りないなどの理由から、BPOベンダーとクライアント企業の連携がうまくいかずにオペレーション効率が下がるなどの弊害が生じる可能性もあるからだ。

DXツールを導入し、スムーズにオペレーションを進めたいのであれば、ツール単体ではなくオペレーションまで含めた全体を最適化することを考えなければならない。もっとも全体最適を図るということは簡単な試みではない。事業計画やサービス構築時の立案時には、立場、レイヤー、専門領域が異なる人々が参加するものだからだ。法令やガイドライン、自社の方針、業務、システムに関する認識や課題意識の差により、スムーズに最適化が進められない場合もあるだろう。このような状況下にあって、どのような存在が本当の意味でDX領域における「その筋のプロ」といえるのだろうか。

<実際の取り組み事例から得た気づき>

全体最適化をはじめとする問題は、BPOベンダーである我々自身が実際に直面した課題でもあった。金融機関のお客様がデジタル化を進める中で、どうすれば全体最適を図りながら、コスト削減を実現できるのか。我々が課題解決に取り組む中で得た気づきを2点ご紹介できればと思う。

<業務とシステムを決める順番や決め方をどうするのか?>

DXによる業務改革を推進する上でまず課題となるのは、対象となる業務やシステムを決める順番・決め方をどうするのかである。これに対する当社の答えは、「オペレーションを担うBPOベンダー自身がシステムの仕様や特徴に精通し、システム選定から関わる必要がある」である。当社がこのような認識に至ったのは、eKYCを利用した本人確認業務の受託がきっかけだ。実際にeKYCツールを導入した際、ツールそのものの機能や判定基準の問題により、想定以上の否認が発生し、確認作業に追われて作業効率が低下してしまうということがあった。この件については、ツールの改修、クライアント企業と一緒に判定基準の再整備を行うといった改善施策を打つことで解決できた。ここから当社が得た教訓が、BPOベンダー自身がシステムを理解する重要性だ。

当社のようなBPOベンダーがシステムの知見・知識を持つことには、最適なオペレーションを実現するために必要なツールを選定・提案できる、そしてツールの特徴に合わせたオペレーションを業務開始前から構築できるというメリットがある。オペレーションを伴うシステムの導入を成功させる一番の近道は、オペレーションに向いたツールを選定し、また選定したツールの特徴を把握してオペレーション設計を行うことだ。最適なオペレーションの構築にはシステムについての知見・知識が不可欠なのである。

<業務プロセスの自動化における全体最適化>

業務プロセスの自動化などにあたり、全体最適化を図るにはどうすればいいのか、という課題もある。それに対する我々の答えは、「オペレーションなどを担うBPOベンダーとクライアント企業が、緊密な協力関係のもとにシステムの導入作業を進めるべき」というものだ。この認識に至ったのは、クライアント企業とともにRPAを活用した業務改善に取り組んだことがきっかけだ。この案件ではクライアント企業が必要なツールやシステムの導入を進めてくれたため、それぞれの業務の効率というものはかなり改善されていた。しかし、システム間の受け渡しを始め人の手を必要とする業務は依然として多く、事務センターを受託する当社の作業量は膨大であった。

そこで、当社が解決策としてクライアント企業に自ら提案したのが、RPAの導入である。

もしかしたらクライアント企業側は当初「これ以上効率化するところはあるのか?」と考えていたかもしれない。しかし、RPAを導入したことで、これまで人の手が必要だった作業の6~7割を自動化することができた。その結果として、作業効率は3割近く向上し、さらにオペレーションミスの激減という思わぬ効果も得ることができた。クライアント企業にとっても、受託している当社にとっても最高の結果になったと思っている。ここから学んだのが、クライアント企業とBPOベンダーの協働こそが全体最適化に資するということだ。クライアント企業とBPOベンダーが一体となって取り組むことで、オペレーションはさらに進化する。クライアント企業からの指示だけでも、BPOベンダー側だけの努力でも業務プロセスの改善は難しい。しかし、クライアント企業とBPOベンダーが協力して取り組んでいけば、最適と思われていたオペレーションもさらに一歩前に進んだオペレーションに進化させることができる。業務改善における全体最適化を実現するためには、クライアント企業、そして実際に現場で業務を担うBPOベンダーの緊密な協力関係が必要なのである。

<今後求められる受託者の立ち位置とサービス展開構想>

ここで、もう一度冒頭の「その筋のプロとは何か」という問いについて考えてみたい。DX推進の取り組みの中で、BPOベンダーは、プロとしてどのような存在であるべきか。先ほど紹介した気づきの中に、BPOベンダーが金融機関から求められる立ち位置についての答えがあると我々は考えている。今後求められるプロとは、ツールの専門家ではない。顧客接点から業務プロセス、システム基盤までをエンド・トゥー・エンドで最適化した、業務構築におけるコンサルティングおよび業務提供のプロである。具体的には、ユーザー視点でも業務視点でも要件に合ったツールの選択ができることや、そのツールの利用による顧客体験価値を最大化できるオペレーションを設計すること、コスト最適な環境・場所・人を安定的に提供しながら業務を運営すること、3点が求められているといえよう。

◆講演企業情報
株式会社KDDIエボルバ:https://www.k-evolva.com/