- 「常陽銀行におけるソーシャルナレッジを活用したCX向上の取り組み」
株式会社常陽銀行 丸岡 政貴 氏 - 「デジタルファースト時代に求められる顧客体験の変革」
株式会社セールスフォース・ジャパン 高橋 博樹 氏 - 「デジタル活用とノンボイスチャネルシフトの取り組み」
株式会社セブン銀行 島田 康彦 氏 - 「バックオフィスセンターの変革と顧客接点のDX」
株式会社KDDIエボルバ 中林 真純 氏/鎌田 靖司 氏
「常陽銀行におけるソーシャルナレッジを活用したCX向上の取り組み」
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社常陽銀行
ダイレクト営業部
次長
丸岡 政貴 氏<はじめに>
常陽銀行は茨城県水戸市に本店を構える地方銀行である。隣県・栃木県の足利銀行と経営統合を行っており、めぶきフィナンシャルグループとして地域のみなさまに金融サービスを提供している。
2021年3月現在のグループ総資産では、メガバンクやゆうちょ銀行を含めた国内銀行全体で8位、地銀グループとしては全国2番目の規模となっている。私の在籍する常陽銀行ダイレクト営業部では、無担保ローンの推進、Webマーケティング、コールセンター、ローンのバックオフィス業務等を行っている。
今回は個人向け金融サービスをターゲットとしたデジタル施策のうち、実際に成果につながった「サポートコミュニティを活用したカスタマーサポート」についてお話したい。
<サポートコミュニティ(ソーシャルナレッジ活用)とは>
カスタマーサポートと一口にいっても、さまざまなチャネルが存在する。その中で、我々が新たなカスタマーサポート手段として導入したのが「サポートコミュニティ」である。サポートコミュニティとは、お客様同士で質問・回答を投稿し合うことで、疑問解消を図る助け合いのサービスである。具体的には、Yahoo!知恵袋やOKWAVEのようなサービスを思い浮かべてもらえるとわかりやすいかもしれない。当行では、OKWAVE社が提供するサービスを利用し、企業版サポートコミュニティとして運営している。
<サポートコミュニティ導入に至った経緯>
常陽銀行では、公式サイト内で「常陽銀行サポートコミュニティ」を運営している。
数あるカスタマーサポートチャネルの中から、なぜサポートコミュニティを導入することにしたのか。その背景には、導入当時に抱えていたカスタマーサポートチャネルの課題がある。従来、当行では、コールセンターと公式FAQサイトの2つが大きな役割を担っていたが、それぞれに課題があった。
まずコールセンターについては、受付時間の制限や待ち時間の長さ(つながりにくさ)、そして有人対応に伴う人件費・運営コストだ。FAQについては、回答内容が画一的かつ提供側視点であるため、回答の視点や言葉遣いがユーザーとズレを生じやすく、結果としてユーザーの課題解決につながらないということが度々発生していた。FAQでは、アンサー数の増加に比例してアンサーメンテナンスの負担も増加してしまうという課題もあった。
コールセンター、FAQに共通の課題もある。例えば、他社と連携して提供するサービスにおいては、自社が責任を持てる範囲内でしか回答できないため顧客の課題解決に至らないケースがあるが、これに対応する手立てが無かった。他にも、顧客の生の声やナレッジの蓄積が進みにくいといった点も共通課題として認識していた。
当行がサポートコミュニティに期待したのは、これら従来のカスタマーサポートチャネルの弱点や隙間を埋める役割である。ユーザーが自主的に回答の投稿を行うサポートコミュニティであれば、受付時間に制約を設ける必要がなく、ユーザーの求める個別具体的な回答を返すことができる。それゆえ、電話やFAQではカバーしきれないところをうまく補完できるのではないかと考えた。実際に導入を行った結果、夜間や休日でも質問に回答がつき、個別具体的な回答も寄せられるなど、想定した効果が確認できた。質問者からの感謝の声も多くいただいている。
<他チャネルとサポートコミュニティの比較>
カスタマーサポートにはサポートコミュニティ以外にも様々な選択肢があるため、ここで参考のために比較しておく。例えば有人チャットの場合、ユーザーの個別事情に細やかな対応ができるというメリットがある反面、有人対応であるがゆえに人件費や受付時間の問題(コールセンターと同様の課題)が発生する。Eメールについては、馴染みのある手段で質問ができる一方、企業側としては記録に残る公式回答となるため、事実確認やコンプライアンスチェックに手間がかかる(数多くの質問には対応できない)。無人のチャットボットでは、メンテナンスの負担や課題解決力といった点でFAQと同じ課題を抱えてしまう。このように、既存チャネルの弱点や隙間を埋めるには至らないと判断した。
今回我々が採用したサポートコミュニティは、基本的にユーザーからの回答であるため、企業側で有人スタンバイする必要がない。課題であった、他社連携サービスについても他社所管部分を含めた回答が可能なので、FAQでは解決できない疑問にも具体的な回答を示せる。コミュニティでは一般ユーザーに混ざって当行の行員が匿名回答するケースがあるが、一般ユーザーと同じ立場で発言するのでコンプライアンスチェックが必要なく、回答の迅速性・負担軽減の点で扱いやすい。回答者会員には銀行業務に詳しい方も参加しており、まさに「助け合いの場」となっている。
<サポートコミュニティ運営の実際>
とはいえ、実際にサポートコミュニティの導入を検討するとなると、利用者・回答者数の確保、誹謗中傷対策や費用対効果といった点が気になる方もいるのではないだろうか。そこで、我々のこれまでの運営実績について簡単に紹介したい。まず誹謗中傷対策については、サービス提供業者側による24時間態勢での監視、あるいはユーザーによる通報などによって対策を行っている。また当行側でも、不正確な回答投稿を匿名で補足回答する、毎朝10分程度モニタリングを行うといった方法で、コミュニティの品質管理に努めている。
利用状況については、母体サイトであるOKWAVE.jpのユーザーが積極的に回答していることもあり、質問を投稿してから24時間以内に9割の回答がつくなど、導入当初から質問投稿が放置されない態勢を維持できている。過去の質問・回答を閲覧するだけで課題解決に至るケースも非常に多く、実際に「役に立った」と感じてもらえている方が多いようだ。費用対効果についても、開始から9ヶ月で黒字化を達成し、以降右肩上がりで採算が良化している。
<今後のカスタマーサポートの充実に向けて>
最後に、今後のカスタマーサポートの充実に向け、当行が課題として掲げ取り組んでいることを3つご紹介したい。
1つ目はノンボイス対応割合の向上である。コールセンターに頼らない照会対応をどれだけ増やせるのかが課題だ。ユーザー自身で検索する、あるいはコミュニティに投稿する、といった顧客側のアクションを誘導する必要があるので、ホームページの導線改善をはじめとしたナビゲート対策を行っている。
2つ目はCXを意識した品質向上である。FAQやノンボイスチャネルの数を充実させても、顧客のニーズに合った回答が見つけられなければCXは下がってしまう。このため、比較的レアケースの質問にもきちんと回答を用意しておくことや、評価の低い回答については表現をわかりやすい内容に改めるなどを意識し、常時メンテナンスを行っている。
3つ目は、有人対応の価値向上と標準化である。ノンボイス対応の割合が増えたとしても、電話による対応の必要性は残る。有人で行うからこそのホスピタリティや質の高い受け答えを実現するため、会話内容のモニタリングや研修などを実施している。
カスタマーサポートの役割は、ひとつひとつのユーザーの疑問・質問に、迅速・丁寧・簡便にわかりやすく答え、顧客の問題を解決することにある。我々の場合はたまたまサポートコミュニティというチャネルがマッチしたが、もちろんそれが唯一の正解というわけではない。現状の課題をきちんと整理したうえで、最適なチャネルの選択・活用を行う必要があろう。その際、今回の話が少しでも役に立てば幸いである。
- 株式会社常陽銀行