- 「横浜銀行におけるCX向上のためのデジタルマーケティングの取り組み」
株式会社横浜銀行 河野 吉晴 氏/五十嵐 俊行 氏 - 「SMBC信託銀行の事例に学ぶ、デジタルにおける顧客接点の強化」
株式会社SMBC信託銀行 滝沢 美奈 氏/株式会社Sprocket 深田 浩嗣 氏 - 「ソニー銀行のマーケティング戦略におけるデータ活用について」
ソニー銀行株式会社 伊達 修 氏 - 「OMO時代における金融機関の新しい顧客との繋がり方」
株式会社セールスフォース・ジャパン 飯島 久貴 氏/リン ローズ 氏 - 【ご紹介動画】株式会社サイオステクノロジー
「横浜銀行におけるCX向上のためのデジタルマーケティングの取り組み」
- 基調講演➀
【講演者】
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株式会社横浜銀行
デジタル戦略部 マーケティンググループ長
河野 吉晴 氏
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【講演者】
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株式会社横浜銀行
デジタル戦略部 ダイレクトチャネル企画グループ長
五十嵐 俊行 氏
<横浜銀行のご紹介>
当行は神奈川県内に176店舗、東京に25店舗を展開する地方銀行だ。神奈川・東京の人口2,000万人以上をターゲットとしているが競争は激しい。2021年3月の神奈川県内の貸出金シェアは35.4%、預金シェアは25.5%となっており、他の地銀と比べてやや低い。このため差別化に着目しており、DX・CXに注力している。
<地方銀行が抱える現状>
地方銀行は国内の特定地域を商圏とする銀行であるため、人口の増減による影響を受けやすい。総務省の発表する人口推移と将来人口を見ると、2000年頃までは右肩上がりに増加したが現在は横ばい、今後減少に向かっていく。15歳~64歳の人口については、1996年がピークとなっている。その一方で2016年から2020年にかけての当行とネットバンク3社の預金量推移をみると、3社はいずれも当行より高い伸び率を記録し、近隣の地銀、メガバンク、ネットバンクとの競争は激化している。
総務省の調査によると、スマートフォンの世帯保有率は9割以上に達した。インターネットの利用種類を見ると、スマートフォンに傾斜していることが分かる。情報を収集するメディアの平均利用時間は、30代以上はテレビの利用時間が多いが、10代・20代はネットの利用時間が最も多い。若年層が今後住宅ローンや資産運用の利用を始めることを踏まえると、スマートフォンを中心にデジタルを最大限活用したユーザー視点でのサービスづくり、すなわちCX(顧客体験の向上)が求められていると言える。
<CXを考える前に>
CXを検討するのであれば、まず企業の根幹から考えてみることをおすすめする。企業の活動の起点として経営理念/ビジョン、経営計画、存在意義(パーパス)などがある。また当行ではHuman Centered Communication(HDC)の考え方も浸透させている。HCDは「人」の気持ちを中心に物事を考えることであり、売りたい商品/スペックをただ並べるのではなく、お客さまのニーズやベネフィット、ペインポイントを考えることが大切だ。
<CXの推進>
金融機関のCXは、店舗・電話・インターネットバンキングなどの接点を一連の顧客体験として構築すれば良いと考えられる。しかし地方銀行にはそのようなノウハウがないため、先進企業と協力する必要がある。当行ではリアルと非対面を融合した事例を多くお持ちの株式会社ビービット様とCXを進めることとした。銀行員の強みにCXの知見を組み合わせ、独自のノウハウを蓄積しようと考えている。
<ビービット社について>
ビービット様はビジネス成果につながるデジタルトランスフォーメーションを、サービス企画からUX改善業務・データ分析まで一貫で支援されている。具体的なサービスとしてUXデザインコンサルティング、UXグロースコンサルティング、UXチームクラウドUSERGRAMがある。当行はこのうちUXデザインコンサルティングを中心にご協力を頂き、CXの推進を開始した。
<CX活用への取り組み事例1. バンキングアプリ(はまぎんアプリ)リニューアル>
「狩野モデル」をご存じでしょうか。狩野モデルとは顧客満足度に影響を与える製品やサービス要素を分類し、それぞれの特徴を記述したモデルであるとされており、当行は特に「当たり前品質」に着目をし、主なアプリのユーザーである20代が求める「当たり前のレベル」をクリアしようとCX改善を進めた。
グループインタビューで20代の銀行体験をヒアリングすると、窓口取引に印鑑が必要という認識もなく、銀行との認識の隔たりが大きいことがわかった。手続きに時間を取られるのが損に感じる、銀行に行くのは面倒、銀行は融通がきかない、といった声もあった。一方で、20代がアプリ体験に求めるレベルは、日常的に使うほかのアプリと同じ使い勝手や反応であったり、WEBサイトに飛ばされずアプリ内で完結すること、無駄なステップや画面遷移がないといったことなどがあげられた。
主な3つの機能について、まず「バンキングサービス」は20代にとっての「当たり前」の機能を最優先にネイティブで提供するなど、優先順位を決めて開発した。2つ目の「金融コンテンツ」は利用者の成長をサポートするという機能で、現在段階的に提供を進めている。3つ目の「コミュニケーション」はCX改善で最重要の取り組みであり、より快適なコミュニケーションの実現に向けて取り組んでいるところだ。
<CX活用への取り組み事例2.〈はまぎん〉スマートチャージ>
〈はまぎん〉スマートチャージはアプリでローンの申し込みができる新商品で、2021年6月にサービス開始した。商品性としては事前審査型のカードローンである。当行には他のカードローンの商品が存在したが、警察庁データベース対応以降、申込・契約件数が大幅に低下。新たな顧客選定スキームおよびATMに代わるチャネルサービスの2点を解決することをおもな目的に、〈はまぎん〉スマートチャージを導入した。
申込から契約フローを改善し、手続きが1度で完了できるようにした。また以前は約4割が脱落していた証明書のアップロードについても改善を実施。お客さまのニーズにあったチャネルサービスや機能の提供により、勧誘機会増大と書類提出の簡便化を同時に実現した。
〈はまぎん〉スマートチャージでもコミュニケーションの高度化に取り組んでおり、まずアプリを起動すると事前審査通過者のみに「モーダル」が表示され、商品の提案が行われる。画面の「詳しく見る」をタップすると、商品説明ページが表示される。
またカードローンのバナーは全員に表示されるが、タップした後の遷移先は利用者によって異なる。事前審査通過者は〈はまぎん〉スマートチャージ、それ以外の利用者は一般向けカードローンページに遷移するようになっている。あわせて、〈はまぎん〉スマートチャージの申込フォームは入力項目を大幅に削減し、離脱防止に取り組んだ。
<CX活用への取り組み事例3.つみたてNISA>
つみたてNISAは若年層向けの資産形成サービスであるが、若年層は銀行への来店が難しい層でもある。そこでアプローチから成約までダイレクトチャネルで完結できることを目標にスキームを検討した。推進対象者の銀行との接点であるアプリをファネルのトップに位置づけ、スマホでの投信口座申込みまで導くためのフローをきめ細かく分析した。一度ファネルから離脱した方にもメールやオンラインサポートで徹底フォローし、ファネルに戻す取り組みも行った。
<今後のCX強化戦略>
基本方針は、お客さまごとに寄り添う「きめ細かいコミュニケーション」を徹底し、お客さまの生涯価値(LTV)向上に取り組んでいくことだ。お客さま理解の徹底のため、カスタマージャーニーのライフイベントごとの策定や、オンラインとオフラインのチャネル融合によるOMOを実現したいと考えている。目指すべき姿は、お客さまが能動的に好きなチャネルで相談できる環境づくり、地域版エコシステムの構築だ。
今後は顧客接点の中心にアプリを位置づけ、顧客体験を革新する。アプリの目指す姿は生活に溶け込み、貯まったデータを活用することで、お客さまにより良い体験を提供することだ。
CX推進に向けた組織づくりとして、2021年10月にコミュニケーションデザイングループを新設した。お客さまのインサイトを捉えてコミュニケーションをデザインするチームであり、ここが中心となって顧客体験を変えていくことを目指している。