「ソニー銀行のマーケティング戦略におけるデータ活用について」

伊達 修 氏
基調講演➁
【講演者】
ソニー銀行株式会社
DX戦略部長
伊達 修 氏

<ソニー銀行について>

当行は2001年に開業し、昨年の2021年に20周年を迎えた。20周年を機に、当行のパーパスを「Hello, inspiration」と定め、自分らしく生きようとするお客さま一人ひとりの可能性をひろげることにソニー銀行が貢献できるよう施策を展開している。また、ソニーフィナンシャルグループの一員として、ソニー生命・ソニー損保とともに総合金融サービスグループの一翼を担う。

2021年3月期の預金残高は2.8兆円、ネット専用銀行として外部調査機関の顧客満足度調査で高い評価を得ている。デビットカードやアプリの使いやすさなどが評価されている。

<マーケティング戦略におけるデータ活用で注力したポイント>

注力したポイントは2つあり、まず1つは「データの社内共通言語化」で、データによる当行および各施策の現状把握と社内共有だ。その際、データは数値の羅列だけではなく、よりデータを視覚的に理解できるように工夫している。もう1つは「アクションに繋がるデータ活用」で、データに基づいた意思決定、アクションができる仕組み作りだ。さらに、データを理解できる人材の育成にも注力している。

<事例1:ソニー銀行の認知向上のための取り組み>

ソニー銀行の認知等の現状について、当行が実施した調査結果によると、ソニー銀行に対するお客さまの認知、理解、想起、利用と段階が進むにつれて、それぞれの数値が大幅に減少していくことが判明した。良くも悪くも「ソニー」というビッグネームに引っ張られる傾向があるのか、ソニー銀行について名前は何となく知っているが、どんな銀行か知られていない状況である。その他のネット銀行様と比較しても、認知率は大きく変わりがないが、その後の理解率、想起率、利用率は低い結果となっている。

こういった課題を解決するため、WEB広告だけでなく、OOH広告(鉄道広告、街頭大型サイネージなど)の活用に取り組んだ。特にソニー銀行の住宅ローンを知っていただくため、Mosaic情報を活用した。Mosaic情報とは住所・ライフスタイルなどの情報で顧客を分類できる情報であり、どの地域にどのようなお客さまが住んでいるか把握するのに有効である。地図情報と合わせて活用することで属性情報を地図上で表現できるためデータを視覚的に理解できる。当行がターゲットとしたい顧客層は、地図上の紫色の地域に分布していることが判明した。

Mosaic情報と合わせて地図に当行の住宅ローン申込者情報を重ね合わせると、JR京浜東北線、中央線、総武線沿線等でMosaicの紫色地域と重複することが判明した。今回はJR京浜東北線と総武線に絞り、鉄道広告を実施し、ソニー銀行の住宅ローンを紹介した。外部のMosaicデータ・地図データと当行が保有する申込者情報を重ねることで、データを視覚的に理解することができるため、社内の経営会議等において経営層の理解が促進され、意思決定がしやすくなる。なお今回は重複エリアを選択したが、新たな地域開拓という観点では、重複しないエリアを選択する戦略もあり得る。

本施策の効果について、2020年と2021年の調査比較においては、コロナ禍の影響もあり認知率等すべての指標でマイナスとなるも、認知率から理解率への推移はプラスとなった。住宅ローンの貸出金残高は堅調に増加しているが、理解率向上の施策は本件に限らず複合的な取り組みであるため、現在当行ではその他指標(NPS、満足度等)も参考に各種効果を評価している。一般的に、認知・理解・想起・利用と進むにつれて、顧客のNPSが向上すると言われているため当行ではNPSも施策検証指標の一つとして取り入れている。

<事例2:顧客軸でのサービス訴求へ>

これまでの当行のメールによる商品訴求は、商品ごとの縦割りの組織の影響で、各商品担当者が商品軸で顧客へ商品を案内していた。顧客によっては、外貨、投信、ローンなど統一感のないメールが毎月30通配信されることもあり、メールのクリック率が非常に低い状態が継続していた。これらを解決するため、テクノロジーを活用した顧客軸での商品訴求を試みた。具体的には顧客の取引状況、サイト訪問等顧客のアクションをAIで分析し、分析に応じたシナリオを策定し、シナリオに即したメール配信を行った。シナリオ化できた部分ではメールの開封率が1.4倍、クリック率が2.7倍といった成果が出ている。ただしシナリオ化できていない部分もまだあり、道半ばの状況だ。

メール効果を測定するため、新たな指標を導入した。具体的には、 (1クリックあたりの収益)×(クリック数)-(1オプトアウトあたりの損失)×(本メール起因のオプトアウト数)である。月間に配信された全メール種別ごとにメール効果指標を算出し、メール種別ごとにメールを評価する。過去に遡り、月次でのメール種別ごとの効果指標でプラス/マイナスのメールの割合を計測したところ、約50%のメールで指標がマイナスであることが判明し、社内へ顧客とのコミュニケーションのあり方において課題ありとして問題提起した。

また組織を横串する会議体として「メールナレッジ共有会議」を発足。データに基づいた意思決定を実行するための仕組み作りである。会議ではメール全体分析、考察、次のアクションを協議し、最終的には社内規定としてのメールガイドラインを合議により制定する。例えば指標が所定回数連続でマイナスとなった場合は、メール送信をストップするといった内容が協議される。協議した内容を社内規定としてガイドラインをブラッシュアップするとともに、メール施策の改善を図る取り組みである。これらの取り組みによりメール起因のオプトアウト改善が一部見られるなど徐々に効果が表れてきているところである。

<事例3:施策評価の指標について>

施策評価の指標について事例を2つご紹介する。1つ目は、新規顧客の外貨預金残高増加額の目標設定だ。新規顧客の外貨預金利用までの流れを、口座開設申込から各段階でサブ指標に分解。具体的には口座開設申込者数、外貨預金利用意向者数、外貨預金利用者数、外貨利用者の平均残高等だ。過去のデータからサブ指標を数値として把握する。新たな目標である新規顧客の外貨預金残高増加額を設定する際、サブ指標の過去数値から逆算して注力ポイントを設定し、例えば、目標を達成するのに外貨利用者の平均残高を上げるためのキャンペーンを実施するなど施策の優先順位を決定していく。

2つ目の事例はNPS向上に向けた取り組みとその活用である。当行ではNPSを経営指標の一つとして採用している。NPS向上に寄与するキードライバーを調査し、NPS向上に寄与するキードライバーでNPSを分解し、当該キードライバーを目標に各種施策を検討、評価する。当行の場合は「お客さまに寄り添う姿勢」の満足度が低く、NPSへの影響度が高いことが判明し、改善が急務となった。さらにNPSに寄与する項目で「お客さまに寄り添う姿勢」と関連する項目を調査したところ、「タイミングの良いメール配信」、「ニーズにマッチしたメール内容」、「メール内容の分かりやすさ」などが判明したため、これらに適したメール配信を行うことが「お客さまに寄り添う姿勢」向上にもつながり、結果NPS向上に繋がるものとしてメール施策に取り組んでいる。

<KEYメッセージ>

当行のマーケティング戦略におけるデータ活用での注力ポイントは主に以下2点である。1点目はデータの社内共通言語化であり、Mosaicデータや地図データも活用。データを単なる数値ではなく可視化をすることで社内共有の促進を図る。また施策を各評価指標に分解し、分解した指標を社内における共通認識としたうえで、それぞれの目的に応じた施策を検討する。

2点目はアクションに繋がるデータ活用であり、当行の場合はデータ結果だけを施策改善に強権的に用いてもうまくいかないケースが多かったため、関係者と議論する際は、第三者調査結果も盛り込み、ともに改善点を探る姿勢で議論を活発化させた。関係者との合意事項は社内規定としてルール化して、データに基づく施策の実効性を担保する。データを理解できる人材育成には、人事の役割も大きいため、この方面の取り組みも今後強化していきたいと考えている。