2022年3月8日(火)開催 MANAGEMENT WEBINAR「HRTechの最新動向と経営戦略の再構築」<アフターレポート>


2022年3月8日にセミナーインフォ主催 MANAGEMENT WEBINAR「HRTechの最新動向と経営戦略の再構築」が開催された。新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークの普及など、従来までの働き方から大きな転換期が訪れ、働き方が多様化している。変化の激しい世の中では、HRの領域においてもデジタル化は必須であり、レジリエンスや適応力を高めることが求められている。本イベントでは、基調講演【株式会社日立製作所】、特別講演【株式会社ニトリホールディングス】に最新事例をご紹介いただいた。

  1. 日立のグローバル人財戦略とHRテクノロジーの活用について」
    株式会社日立製作所 山川 紗穂里 氏
  2. 「エンゲージメント調査を活用した企業価値向上〜従業員体験から顧客体験へ~」
    クアルトリクス合同会社 東田 真樹 氏
  3. 「『なぜ HRTechか?』から考える~テクノロジーを活用した人と未来組織の連動~」
    株式会社ニトリホールディングス 永島 寛之 氏
目次

「日立のグローバル人財戦略とHRテクノロジーの活用について」

山川 紗穂里 氏
基調講演
【講演者】
株式会社日立製作所
人財統括本部 HRIS部 部長
山川 紗穂里 氏

<当社の全体概要>

日立製作所は1910年に創業し、優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献することをミッションとしている。売上規模は約8兆7,000億円、うち海外比率が52%を占める。従業員数は連結で約35万人、うち55%が海外の従業員だ。事業をセグメント別に見ると、ITが22%、エネルギーが12%、鉄道などのモビリティが13%などだ。その他にも金属・建機・家電など多岐にわたる事業を展開している。

日立の事業ビジョンは、社会イノベーション事業により社会価値、環境価値、経済価値を創生し、持続的な成長と収益を確保してステークホルダーに還元することである。OT・IT・プロダクトを統合的に提供して顧客と社会の課題解決を行う。OT(オペレーショナルテクノロジー)においては、現場の暗黙知をデータ化・AI化して優位性を確立する。ITではお客様との協創によりビジネスプロセスのデジタル化を図る。プロダクトの面では戦略的協業でOT・ITを生かし、グローバル規模の拡大を進めてきた。

<大きな転換点・取り巻く事業環境の変化>

当社が現在の姿に至った過程として、2008年に大きな転換点があったと考えている。1990年以降売上は伸長するも利益は増えず、2008年には7,873億円の純損失を計上した。日立として、ここで変わらなければ企業として生き残れないという強い危機感があったことを記憶している。ここを起点に、直近10年で事業構造改革とグローバル化を推進し、大きく変革を進めてきた。

事業としては社会イノベーション事業へ転換し、事業ポートフォリオの組み換えや戦略的買収を行った。製品・システムに加え、IoT等を含むサービスの提供へのビジネスモデルの転換を図ってきた。また従来は日本国内のお客様や輸出といった日本起点のビジネスが多かったが、グローバル化へと舵を切った。このような日立の変革と同時に、世の中も大きく環境が変わった。社会課題は複雑化・深刻化し、デジタル化も急激に進んでいる。各地域・各国のマーケットも急激・急速に変化している。

<人財部門のミッション・ビジョン>

我々人財部門は、人財と組織を通じた事業への貢献をミッションとし、変化に対応し事業に貢献する”ワールドクラスのHRプロフェッショナル”になることをめざしている。社会イノベーション事業の推進やグローバル事業の拡大に置いて求められる人財・組織体制として、一つは現地マーケットを良く知る人財が必要であり、様々な国籍・性別等の多様な人財が活躍できる組織でなくてはならない。加えて、社会課題の解決は一国に留まらないケースも多く、国・場所を超えてOne Teamで業務遂行する人財・組織体制が求められている。また、社会や顧客の課題を的確に捉えて解決策を考えるには、プロアクティブで自立した人財とその文化を持った組織であることが重要だ。

<求められる人財と人財マネジメント>

事業環境の変化を踏まえて現在進んでいる方向としては、日本市場は維持しつつも、海外マーケットを拡大する方向だ。これはグローバルな社会・顧客のニーズを探索し、課題を解決するサービスを提供することが重要であり、その実現にあたっては国籍・性別等多様で主体的な集団であること、場所や時間にとらわれない働き方ができること、グループ・グローバル連結で事業を成長させていくことが重要だ。

グローバル事業拡大に伴い、売上・従業員数ともに海外比率が拡大した。1999年の売上比率で海外は29%であったが、2020年には52%に増加した。従業員数も1999年の20%から2020年には55%となった。

<グローバル人財マネジメント基盤の構築>

人財部門として変革を進めるにあたり、一つの大きな力となったのは、2011年当時に代表執行役社長・CEOであった中西から日立グループの全人財部門長へ発信されたメッセージである。変革の道のりは簡単ではないが、経営トップから、これらは人事の施策ではなく経営の施策であり、日立がグローバルな舞台で競争力をもつことへの転換に必要なことであるとの後押しを得られたことは大きい。

人財部門としてまず取り組んだのは、グローバルに共通化すべきものとそうでないものの色分けだ。グループ・グローバル共通化するもの、国・地域単位で共通化するもの、個社ごとに残すものの3つに分けた。本日はこのうちグループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤について紹介する。

まず2012年度にグローバル人財データベースの構築を実施した。25万人の人財情報をデータベース化し、順次拡大していった。またグローバル・リーダーシップ・ディベロップメント・プログラムとしてグローバルなトップタレントを選抜・育成の仕組みも導入。2013年度にはグローバル共通のグレーディングの仕組みを導入し、全世界マネージャー以上を対象に、5万ポジションの格付けを行った。また全世界682社を対象にグローバル共通の従業員サーベイを導入し、従業員のエンゲージメント等に関しグローバル全体での傾向や各地域の特徴を分析し、課題の抽出や対応策の検討に活用している。これら各種施策を実施するためのデータ基盤として、最初に導入したグローバル人財データベースを活用している。

2014年度にはグローバル・パフォーマンス・マネジメントの仕組みを導入した。社会の目標が個人の目標へカスケードされる仕組みとし、人事ではなくビジネスの仕組みとして導入したものだ。当初は11万人に導入し、順次拡大をしていった。2015年以降は「Hitachi University」として教育プラットフォームを構築した。これによりグループ全体約30万人を対象に、コンプライアンス関連の教育やグローバル方針に関する情報をはじめとした、グループ全体で共通的に展開すべき内容のE-Learningによる展開が可能となり、また教育歴や資格等のデータを共通プラットフォームで管理できるようになった。

<人財の見える化:人財マネジメント総合プラットフォーム>

日立では人財マネジメント総合プラットフォーム(Workday)のグローバル導入を進めている。人財マネジメントに関する情報・プロセス・データベースをグローバルに統合するものだ。同一プラットフォームに情報を統合することにより、たとえば人財配置とキャリア希望、評価・報酬の情報を組み合わせるなど、さまざまな情報をかけ合わせて分析したり、マネージャーが意思決定に活用できるようになる。

この取り組みによって大きく変わった点として、まずグループ・グローバルで従業員が相互に情報を確認できるようになったこと。公開情報についてはグローバルに従業員同士で閲覧が可能であり、またグローバルにプロジェクトチームを編成した際に、必要に応じ国や法人をまたいでタレントマネジメントの情報を共有することも可能となった。さらには、Workday導入済みのすべての会社において、HRだけでなく従業員自身がアクセスできるため、従業員が自身について登録されている情報を確認できるようになったり、マネージャーがHRに問い合わせなくても手元で情報が確認できるようになった。今後もグローバル全社員30万人の人財の見える化に向けて、さらなる導入の推進、機能の拡充を実施していきたい。

導入の進め方としては、各国・地域の人事制度、事業内容もバラバラな中で30万人の一括導入は困難であったため、事業状況や優先度を見ながら段階的に導入を進めている。グローバルベースでの導入を指向し、まずは2016年に日本ではなく海外の地域本社からパイロット導入を開始した。その後2018年に日本の日立製作所へ導入をもって本格導入をおこない、以降国内・海外グループ会社の順次導入を進め、2021年12月時点で約18万人の導入が完了している。

<人財の”意識”の見える化:社内のオフィシャルサーベイ>

人財の見える化と並行して取り組んできたのが、人財の”意識”の見える化だ。グローバル従業員サーベイの「Hitachi insights」はグローバル統一設問で多言語対応した無記名の調査である。この調査を通じて、組織単位で組織風土・文化等に対する意識を確認している。また国内・IT部門中心に「Hitachi People Analytics」の導入も進めている。これは、記名式で個人の意識を確認する調査だ。配置・配属に関するフィット感や組織の生産性について複数の設問を通じ回答してもらい、従業員自身のキャリアに対する意識の醸成や組織の生産性向上等についてマネージャーと議論する等に活用している。

<何のためにHR Techを活用するのか>

人財マネジメントに関する変化の一例として、大量・一括の「管理」から個への「サポート」、またパーソナライズされたエクスペリエンスへの期待が高まっている。また、データのタイムリーな把握・活用が重要だ。さらには就「社」から就「職」とジョブを通じて何を実現できるかという意識の高まり、人的資源(コスト)から人的資本(アセット)といったように、人財に関する意識・考え方も変化している。多様な人財が力を最大発揮できる状態を実現するには、よりスピーディーに、大量かつ複雑な情報を元にしたタイムリーな判断が重要だ。こうしたことを実現するにはHR Techの活用によるサポートが欠かせない。

<結びに>

HR Techの導入・活用にあたっては「何を実現したいのか」のプランニングが重要だ。導入することがゴールではない。またデータとは事実でありグローバル共通言語である。これはグローバルな組織に限らず、異なる世代・経歴といった多様な人財が集まる組織で共通認識をもち議論・意思決定することに役立つ。HR Techの伸展により人に代わってテクノロジーが何かを自動的に解決してくれるわけではない。あくまでもデータを元に判断するのは「人」であり、それを支援するのがHR Techだ。

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