「企業成長の実現を支える効果的な財務戦略」

【講演者】
キリバ・ジャパン株式会社
ディレクター トレジャリーアドバイザリー
下村 真輝 氏

<企業成長の実現に求められる財務部門の役割>

今回は、「企業成長の実現を支える財務戦略の効果的な実現」というテーマで、クラウド型財務管理システムの提供を通じて財務部門と接してきた弊社の知見を共有できればと考えている。

現代は、先の見通せないVUCAの時代にあるといわれている。このような中で、企業成長を実現するためには、時代の変化をいち早く察知し、状況の変化に機動的に柔軟に対応できるようにしなければならない。以上のような前提をふまえると、財務部門には次のような役割が求められると考える。1つは経営層と事業部の意思決定を支援する役割である。もう1つは施策の実行を支援する役割である。経営上の要請に迅速に対応できるように、資金面から立案された施策の機動的な実行を支援する。あるいはサプライチェーンにおける為替や流動性のリスクを管理する。つまり、事業ラインに対して、財務視点でのアドバイスをする参謀役としての役割を果たすということだ。これからの財務部門には経営層や事業ラインと共に、施策の検討主体の一員となることが求められているのである。

先の見通しにくい時代に成長を続けるためには、機動力が重要である。そして、機動力を確保するためには、迅速な意思決定と決定した施策の速やかな実行が必要だ。グローバルでリアルタイムな資金管理、リスク管理、経営層や事業ラインとの連携といったアクションを通じ、企業の意思決定と施策実行を支援する。これが、これからの財務部門が担うべき役割である。

<2030年に向けて財務部門が行うべきこと>

それでは財務部門は、今後財務面における企業の参謀役として、企業成長のためにどのような戦略を策定・実施するべきか。現在、2030年に向けて、中長期のビジョンを立てられている企業が増えている。SDGs、脱炭素といったトレンドもふまえつつ、2030年に企業があるべき姿が論じられる機会が増えているのだ。こうした議論の盛り上がりに伴い、2030年に向けた経営層や事業部門の取り組みを支援するために、財務部門がどのような財務戦略を立てるべきか?というのも論点になりつつある。実際に企業の財務部門の方に話を伺うと、共通した財務戦略をあげられる方が多い印象だ。

まず、短期的な財務戦略としては、資金効率化の最大化をキーワードとしてあげられる方が多かった。成長の歩みを止めないためには、その成長を支えるための資金が必要である。その資金調達を外部調達に安易に頼らず、いかに内部で効率的に創出し、財務規律を維持するか。これは、特に世界的に金利が上昇している現在の局面では重要な課題といえよう。そして、中長期的な財務戦略としては、サステナビリティ経営の実現に向けた財務ガバナンスの構築をあげられる方が多かった。

短期、中長期に関わりなく、財務戦略の取り組みには、グループ(Group)、グローバル(Global)、グロース(Growth)、ガバナンス(Governance)の視点が求められる。具体的には、海外拠点を含めたグループ管理の徹底、企業の効率経営・戦略を支援するキャッシュマネジメント、万が一リスクが顕在化した場合でも経営の健全性を維持できるようなリスクマネジメントが必要だ。さらに、先の見通せない時代ゆえに、先ほど紹介したグループ、グローバル、グロース、ガバナンスの視点にリアルタイム、レジリエンスのエッセンスを加え、リアルタイムに変化に対応し、また有事に対応できる耐久性のある業務構築が求められている。

<短期の財務戦略におけるポイント>

短期の財務戦略におけるキーワードは資金効率の最大化である。資金効率化の施策に取り組む企業の多くは、キャッシュプーリングの導入を行っている。しかし、銀行が提供するキャッシュプーリングの仕組みを導入さえすれば、グループの資金効率化の仕組みが完成したと考えるのは問題だ。というのも、資金効率化のためには、キャッシュプーリングの導入だけではなく、資金の可視化が不可欠だからだ。グループ経営、連結経営をしているのにもかかわらず、財務においてグループの全体像が見えていないケースは多い。たとえば、資金の状況についていうと、前月末時点での残高しか把握できていない企業が大半である。このような状況ではタイムリーな経営判断をするのが難しく、機会損失につながりかねない。

財務部門が企業経営の生命線であるグループの資金状況が見えているかどうかは、経営にも直結する重要事項だ。先の見通せない時代だからこそフォワードルッキングな視点が求められているといえよう。特に財務は企業経理と違って、確固たるルールや規範があるわけではない。だからこそ財務は、常に仮説に基づいて最適な立案を行い、さらに仮説の妥当性を担保・検証していかなければならない。こうした取り組みにおける判断材料となるデータを蓄積するためにも、可視化の試みは必要不可欠だ。

<中長期の財務戦略におけるポイント>

中長期の財務戦略におけるポイントは、財務ガバナンスの構築、サプライチェーン・マネジメントである。

まず、財務ガバナンスの構築である。サステナビリティ経営をESGの視点からとらえた際に、日本企業の多くが対応しきれていないのがガバナンスの分野である。たとえば、グローバル企業は今、海外拠点や子会社による不正リスクという大きな経営課題を抱えている。これも企業のガバナンス不全が原因だ。不正リスクを低減するためには、グループ全体のガバナンスが不可欠だ。今はM&Aで文化・DNAの異なる企業がグループに突然加わることが当たり前となり、またグローバルベースでのグループ経営が加速している時代である。それだけにグループガバナンスの重要性が高まっており、これなしに持続可能な経営はありえない。そこで財務部門に求められるのが財務の視点からグループ会社の内部統制の取り組みを支援することだ。不正の影響は不自然な資金の流れとなって、資金の動きに現れる。資金を管理する財務業務の高度化を通じて不正を検知・抑制するアプローチは、不正リスクの軽減には有効である。

また、サプライチェーン・マネジメントも財務部門の果たすべき重要な役割の1つである。運転資金の確保・有効活用する手段であるサプライチェーン・ファイナンスはサプライヤー・バイヤー双方にフリーキャッシュフローが生まれるなどのメリットがあり、サプライヤーとの関係強化にもつながるものだ。ESG経営、持続可能なビジネス展開にあたってサプライヤーの協力は欠かせないものである。サプライヤーにファイナンス面でのインセンティブを提供することは、持続的な成長に向けたサプライチェーン・マネジメントの構築に役立つ。弊社でもこのようなサプライチェーン・ファイナンスを支援するためのプラットフォームの提供を行っている。

<おわりに>

現状、日本企業の財務部門の業務は、手作業で行われていることも多く、非常に非効率かつ課題の多い状況にある。こうした課題の解決を促すのが、デジタルの活用による業務の自動化・効率化、情報の集約である。 今、財務部門に求められる役割は、財務支援のアドバイスをする参謀役として、経営層や事業ラインと共に施策の検討主体の一員となることだ。そのためにはデジタルのソリューションをうまく活用し、高付加価値のタスクに専念できる時間を確保しなければならない。DXによって財務部門の働き方を変えることは、高度な財務戦略実現の必須条件である。弊社でも財務部門のDX推進に必要なさまざまなソリューションを提供している。これからもソリューションの提供を通し、財務部門のみなさまをご支援できれば幸いだ。

◆講演企業情報
キリバ・ジャパン株式会社:https://www.kyriba.jp/