1. HOME
  2. 金融法務
  3. 金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 前編

金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 前編

金融庁 総括審議官 小野尚氏がフィデューシャリー・デューティーを語る、全2回連載の本シリーズ。現役総括審議官へのインタビューを通し、金融庁の考えに迫る。前編では、フィデューシャリー・デューティーの必要性から実践のための5つのテーマまでを解説する。

金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 前編
  1. いまなぜフィデューシャリー・デューティーが求められるのか
  2. 日本の投資信託が抱える課題
  3. フィデューシャリー・デューティー実践のための5つのテーマ

いまなぜフィデューシャリー・デューティーが求められるのか

日本の家計金融資産に占める現金・預金の比率は51.9%と、ドイツ(39.4%)、フランス(28.4%)、イギリス(26.7 %)、米国(13.3%)と比べても非常に高い比率である。こうした保守的な運用の結果、95年3月を基準に20年間の家計金融資産の伸びを比べると、日本は米国の4割強にとどまる(図1参照)。

家計金融資産の推移

日本は長期間に渡るデフレから、現金・預金で持っていた方が目減りしないとの考え方があった。さらにそれ以前の問題として、日本は高度経済成長でずっと右肩上がりの経済が続いたため、経済全体のパイが拡大することに伴い資産も増えた。投資家(家計)は、一生懸命に資産運用の勉強をしなくてもよかった。一方、資産運用業界の方にもあまり厳しい目が向けられなかった。

少子高齢化の中、日本経済は右肩上がりではなくなってきた。そうなると当然、家計の方も1700兆円ある金融資産をどう活かしていくかが、差し迫った課題となる。

フィデューシャリー・デューティーとは、顧客ニーズに応える資産運用の高度化を実践するため、商品開発・販売・資産管理等の各段階で金融機関が担うべき役割と責任を果たしていくことだ。

日本の投資信託が抱える課題

日本の投資信託が抱える課題

日本の投資信託の販売手数料は年々、上昇傾向にある。売れ筋投資信託を見ると、複雑な仕組みの投信や、元本をも配当に回しているような毎月分配型の投信など比較的リスクが高く、販売手数料も高いものとなっている。

本当に投資家の利益とニーズにかなう商品を提供しているかが問われている。安定的な資産形成を図るためには、シンプルで低コストの商品の方が合理的であることを、もっときちんと投資家に理解してもらう必要があると思う。

また投資運用会社では、販売会社出身の役員が少なくない。系列関係を直ちに問題視するものではないが、投資運用会社が販売会社の売りやすい商品を開発・提供し、売れ筋になっているとしたら、それはフィデューシャリー・デューティーを果たしているとは言えない。

販売手数料の設定根拠をアンケート調査したところ、「商品説明の負荷」「自行内の同一カテゴリー商品との整合性」等を挙げる会社が多く、サービス内容に見合った手数料となっているか十分に精査した上で設定したとは認められない状況にある。

投資家の利益にかなうよう、顧客のライフステージや属性に応じたコンサルティング機能の強化や、そのための人材育成が求められている。

フィデューシャリー・デューティー実践のための5つのテーマ

フィデューシャリー・デューティー実践のための5つのテーマ

フィデューシャリー・デューティー実践のためには、個人的な見解だが、資産運用業者には少なくとも次の5点が求められるのではないかと考える

一つ目は「投資家の利益優先、利益相反行為の禁止」である。そのためにはグループ会社からの独立性を確保する必要がある。また、実効性のある社外取締役の設置、利益相反行為を防止するための社内体制の整備、役職員のインセンティブ・報酬体系の整備も重要である。

二つ目は、「自己の運用方針や運用に対する考え方を明確にして、それに応じた運用体制や運用能力を構築保持」することだ。まず自社の運用方針を明確にし、投資家に明示することである。同時に優秀な運用スタッフをそろえるほか、人事評価もきちんする必要がある。運用能力の維持・向上のため、他の運用業者との情報共有や、研修を行う等の研鑽を図る必要もある。

三つ目は「投資家の利益との適合性」である。資産運用業者は投資家の属性、運用目的、資産・負債状況、リスク許容度、運用期間などと照らし合わせて、その投資家に適合する運用を心がける必要がある。

四つ目は「投資家の利益最大化の追求する観点から、適切な運用方法により運用を行う」ことだ。リスクとリターンの制約等に鑑みて、投資家の運用目的に最も適合した方法で運用することが求められる。例えば、中長期的な資産形成を目的とするのであれば、多様なアセットクラスに分散投資することが重要となる。

五つ目は「適切なリスク管理」だ。運用している資産には価格変動リスク等いろいろなリスクがある。自分が運用している資産にどのようなリスクがあるのかを十分に精査し、適切にリスク管理を行うことが求められる。

こうしたことがフィデューシャリー・デューティーの実践になると思う。

金融法務カテゴリのオススメの記事
金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【後編】

金融庁が公表した「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」。前編では、全体の構成と、平成30事務年度における金融行政の重点施策のうち「デジタライゼーションの加速的な進展への対応」、「家計の安定的な資産形成の推進」、「活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保」に関する金融実務上のポイントを解説した。本稿、後編ではその他の重点施策について、実務上重要なポイントを解説していく。

急増する事業承継におけるM&A~金融機関担当者が押さえておくべき留意点を解説

中小企業における後継者難が顕在化するなか、事業承継を成功させるための有効な手段として、M&Aが考えられている。近年金融機関では、事業承継M&Aの支援を行う部署を新設するなど取組みを強化している。これまでM&Aのアドバイスをあまり行っていない地方金融機関等にとって、M&Aに対する理解・ノウハウを蓄積することは重要だが、事業承継M&Aにおける特有の留意点が存在する。本稿では、事業承継M&Aをサポートするうえで直面する機会が多い点について概観する。

金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【前編】

金融庁は、過去の取組みや現状の課題と、金融行政の方針との関係性をより明確化し、PDCAサイクルに基づく業務運営を強化することを目的に、これまで公表してきた「金融レポート」と「金融行政方針」を一体化させ、平成30年9月26日に「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」公表した。本稿では、金融実務に関わるポイントを解説していく。

会社法改正における株式交付制度とは~経緯・目的・概要

平成30年2月14日開催の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第10回会議にて、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」及び「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」が取りまとめられた。その中で自社株対価による企業買収の手法として「株式交付」を新たに設けることが提案されており、今後のM&A実務に影響があると思われることから、以下では、上記の中間試案及び補足説明において想定されている株式交付制度を前提に、その概要について解説する。

小野 尚 氏 【 寄稿 】
金融庁
総括審議官

小野 尚 氏

The Finance をフォローする