1. HOME
  2. 金融法務
  3. 金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 後編

金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 後編

金融庁 総括審議官 小野尚氏がフィデューシャリー・デューティーを語る、全2回連載の本シリーズ。現役総括審議官へのインタビューを通し、金融庁の考えに迫る。後編では、フィデューシャリー・デューティーが法律でない理由や、情報提供の必要性、アベノミクスとの関係などについて解説する。

金融庁が語る資産運用の高度化とフィデューシャリー・デューティー 後編
  1. フィデューシャリー・デューティーは法律ではない
  2. 国民、投資家への情報提供を進めよう
  3. フィデューシャリー・デューティーとアベノミクス

フィデューシャリー・デューティーは法律ではない

フィデューシャリー・デューティーの位置づけだが、これは法律などのハード・ローではない。むしろ金融機関自らが中身を考えて、進化させていくソフト・ローである。その中身は、時代とともに進化していくものだと思う。

なぜハード・ローでなくソフト・ローがふさわしいかだが、これは金融の特性によるところも大きいと思う。金融は目で見ることができずに、リスクを取引する商品でもある。それだけにそれを買う人と販売する人との間には、強い信頼関係がなければ成り立たない。

信頼関係の根幹は顧客第一に、顧客の利益を考えて行動することである。それは法律で定められた適合性原則とか、説明義務では果たしきれないものだと思う。

例えばヨーロッパでは、貴族たちが遠征などで長期間、留守にする時にはその資産管理を信頼できる第三者に託した。それは法律で定められているわけではなく、約束、あるいは信義の問題である。それがフィデューシャリー・デューティーとして発展していった元になっている。

現在の日本に当てはめると、多様なインベストメント・チェーンにつながる様々な金融機関が顧客本位で行動することを、ハード・ローだけでは規定しきれないと思う。

国民、投資家への情報提供を進めよう

国民、投資家への情報提供を進めよう

一方で広く国民の皆さん、投資家の側にも金融リテラシーを身につけていただく必要がある。

第一は、金融経済教育推進会議が作成した「金融リテラシー・マップ」などを使って、小学生から高齢者まで国民の皆さんが最低限、理解しておくべきお金に関する知識、判断力を身につけていただくことである。

二つ目は、私どもは金融モニタリングレポートなどを含めて情報発信をしてきたが、さらに情報発信を強化することが大切だ。金融庁のホームページの中に、NISAに関する各種の情報を提供するとともに、投資や金融に関する基礎的な知識を身につけて頂けるよう「NISA特設情報サイト」を平成27年度中に開設する。投資についての考え方とか、投資のシミュレーションもできるようにして、情報提供を強化する。

それから三つ目として金融機関の方々にも努力をいただき、フィデューシャリー・デューティーを実践する観点から投資家に対して正しい情報提供を行い、投資家の方々の金融リテラシーを補完するよう努めていただくことだ。

コーポレイトガバナンスコードもソフト・ローであるが、私どもとしてはフィデューシャリー・デューティーを構成する基本的な考え方が業界全体で共有できるようなプリンシプルとして形成されていくことが重要だと思う。

フィデューシャリー・デューティーとアベノミクス

フィデューシャリー・デューティーとアベノミクス

日本はこれから2%程度の緩やかな物価安定を目指していくことになる。緩やかに物価が上がっていくと当然のことながら、安定的な資産形成の必要性が今以上に高まってくる。そのためには、商品開発・販売・運用・資産管理の各段階で、金融機関それぞれがフィデューシャリー・デューティーを果たすことが求められる。安定的な資産形成でリターンを取っていこうとすれば、そういうお金は国内のみならずアジアを含めた成長地域にも向かうだろう。

成長分野にお金が流れ経済が活性化していけば、それがまためぐりめぐって安定的な資産形成につながる。この好循環がうまく形成されていくことが、とても大事だ。それはアベノミクスが目ざす民間主導の成長戦略の推進につながる。

好循環の鍵は顧客第一に考えて行動し、フィデューシャリー・デューティーを実践できるどうかにかかっている。金融機関が集めた資金を成長分野に流し、適切に運用できるかが肝(きも)になる。

それをしっかりやっていけば、結果として資産運用にともなうフィーという形で金融機関自身の安定的な収益にもつながっていくことになる。まさに金融機関と投資家はWIN-WINの関係になることができると考えている。

(聞き手 金融ライター 馬場隆)

金融法務カテゴリのオススメの記事
投資ファンドに関する最新の法改正動向

投資ファンドをめぐる法制は、投資ビークルとしての利便性の追求と、投資家保護を中心とした理由による規制の必要性との緊張関係から、頻繁に改正を繰り返してきている。今年になって、立て続けに法改正がなされ又はその方向性が定まり、実務に大きく影響する可能性があることから、いずれも未施行の段階ではあるものの紹介したい。

【金融事例から読み解く】内部通報制度活用と不祥事早期発見及び予防策

リーマンショック・LIBOR不正操作事件などを契機として、内外金融規制当局等は不祥事予防に向けた様々な提言を行い、これに対応して金融機関も多くの施策を実施してきた。しかしながら依然不祥事は繰り返されている。こうした状況下、「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」などが公表された。この一方、不祥事早期発見の最有力な端緒である内部通報制度については、民間事業者向けガイドライン改正、認証制度創設、公益通報者保護法改正など、その実効性向上に向けた動きが顕著である。そこで、本稿では、金融機関等における不祥事の具体的事例を踏まえつつ、内部通報制度を活用した不祥事・不適切行為の早期発見とその予防策のポイントについて解説する。

金融サービス仲介業への参入の検討ポイントの整理

1つの登録で、銀行・貸金・証券・保険すべての分野のサービスが仲介可能となる新しい「金融サービス仲介業」(「新仲介業」)。2021年6月2日には、同年11月1日から施行されることが発表されるとともに、政令・内閣府令・監督指針等の内容が確定し、参入に向けた具体的な検討が可能な状況になってきた。そこで、本稿では、主に既存の仲介業(銀行代理業、保険募集人・保険仲立人、金融商品仲介業、貸金業)との差異に焦点を当てつつ、新仲介業を検討する際の留意点について簡潔に整理したい。(2021年6月25日 最新情報にアップデート)

令和3年4月施行電気通信事業法の改正と国外事業者に対する法執行の実効性の強化

令和3年4月1日に「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」が施行された。本稿では特に、改正法による国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等について取り上げ、そして、かかる改正と総務省の解釈変更による電気通信事業法の適用対象の拡大を通じた、国外事業者に対する法執行の実効性の強化について解説する。

小野 尚 氏 【 寄稿 】
金融庁
総括審議官

小野 尚 氏