1. HOME
  2. 金融法務
  3. 航空機ファイナンスの最新マーケット動向とリスク管理

航空機ファイナンスの最新マーケット動向とリスク管理

航空機ファイナンスマーケットが盛況である。魅力的な投融資の対象として参入の検討をしている金融機関も多いはずだ。航空機ファイナンスでは、案件の種類に応じ適切にリスク・リターンをコントロールすることが肝要だ。本稿では、航空機ファイナンスマーケットの動向と、参入にあたり理解しておくべきリスク分析について解説する。

航空機ファイナンスの最新マーケット動向とリスク管理
  1. 航空機ファイナンスとは
  2. 航空機ファイナンスのマーケット動向
  3. 航空機ファイナンスの主な取引類型
  4. 航空機ファイナンスにおけるリスク管理のポイント
  5. まとめ

航空機ファイナンスとは

航空機ファイナンスとは、金融機関が航空会社に対し、航空機を購入するための資金を融資するファイナンス取引のことを言う。

航空機ファイナンス案件の多くは、複数の国や地域にまたがる国際的かつ複雑な取引となるため、新規参入が比較的難しいとされる一方、今後も成長が見込まれる魅力的な投融資対象として注目を集めている。

航空機ファイナンスのマーケット動向

航空機ファイナンスのマーケット動向

これから市場への参加を考える際には、航空機ファイナンスマーケットの盛況がいつまで続くのか、という点が重要な要素となろう。この点についての業界の見方は非常に強気であるように思われる。

航空機の需要は継続して強い

世界の航空機の2大メーカーである米ボーイング社および仏エアバス社は、今後20年間の航空機旅客運送需要・貨物運送需要は世界経済の平均成長率を上回る速度で増加すると見込んでいる。

中国を中心とするBRICs諸国の経済成長と世帯収入の増加は、人々の航空機を利用した移動の機会を増加させ、盛んな消費活動がより迅速かつ大量の物流手段を求める。

また、エアライン各社は、世界的な規制緩和の流れの中でその競争力を維持するため、より効率的な航空機の運航を求められ、古い航空機機材から、より燃費効率のよい新機材への切り替えを余儀なくされており、これらの機材の入れ替えに伴う航空機需要も今後20年の航空機需要の4割程度を占めるものと予測される。

航空機を取り巻くファイナンスソースの変化

このような強い需要に裏打ちされた航空機の調達に際しては多額の資金調達が必要となるが、この資金調達の手法に変化が生じている。

2009年以降のヨーロッパ金融危機時には重要な位置を占めていた輸出信用機関(ECA)によるファイナンスは現在ではその規模を縮小させている。

反面、金融機関からのローンによる資金調達や、証券化などを通じた直接金融による資金調達の役割が高まっており、様々な航空機ファイナンス案件の組成が今後も期待されるものと思われる。

航空機ファイナンスの主な取引類型

航空機ファイナンスの主な取引類型

航空機ファインナンスといってもその取引形態は多種多様であり、市場への新規参入者としてどのような案件に取り組むべきかを事前に検討する必要がある。

航空機ファイナンスで考慮すべき3つの要素

航空機ファイナンスにおいては、「エアラインのクレジット」、「機材価値」、「ストラクチャー」の3つの要素が重要である。

全ての航空機ファイナンス案件は、エアラインによる航空機の運航から生み出されるキャッシュフローがその前提となるため、エアライン自体の与信状態がまず重要である。

もっとも、エアラインの業績は、世界経済の状況、原油価格、天災、紛争の勃発、疾病の流行などの様々事情により影響を受けやすく、好調であったエアラインの業績が急速に悪化する場合が容易にあり得る。

このような場合にはファイナンスの対象となる航空機を処分することで、負債の返済に充当せざるを得ないことから、機材の価値も重要な要素となる。

さらに、仮に同じエアラインの、同じ航空機に関するファイナンスであっても、案件のストラクチャー次第で投資家の取るリスクの度合いが異なってくるため、それぞれの投資家のリスク許容度に従ったストラクチャリングが必要となる。

航空機ファイナンスの各種取引の分類

エアラインの信用を重視した取引類型としては、航空機調達資金の殆どがエアラインからのリース料収入によって返済されるファイナンスリースや、リース料収入及びリース終了時のエアラインによる航空機購入選択権の行使に伴う売却益によって航空機調達資金の殆どが回収されることを想定されるJOLCO案件などが挙げられる。

これに対して、バルーン付ローン案件やオペレーティングリース案件においては、エアラインからのリース料収入の総額が航空機の調達に要した費用を大きく下回ることになるため、最終的には航空機の売却処分や再リースによって調達費用の残額を回収しなければならず、より航空機の価値(売却価格)が重要となる。

さらに、最近の傾向としては、多数の航空機をまとめて一つの取引対象とすることで、資産(航空機)とキャッシュフローの源泉(エアライン)を多様化することで、特定のエアラインのクレジットリスクや特定の航空機の価値変動リスクを取ることを避け、リスク分散を図る大型のポートフォリオ案件が増えているようである。

航空機ファイナンスにおけるリスク管理のポイント

航空機ファイナンスにおけるリスク管理のポイント

航空機ファイナンスにおいては、ストラクチャーによるリスクの軽重はあるものの、キャッシュフローの源泉であるエアラインがデフォルトした場合に、レンダーやレッサーなどの債権者の最終的なよりどころは常に資産としての航空機であるといえる。そこで、航空機に対する担保権の設定や、航空機の取り戻しの実現可能性が非常に重要となる。

担保権のカントリーリスクとケープタウン条約

航空機に対する担保権は殆どの国において登録が可能であり、登録により一定の公示の効果が発生する。しかし、航空機が有する頻繁に国境を越えて移動する動産であるという特殊性によりある種の問題が生じる。

即ち、ある国において航空機に対して設定された担保権につき、当該航空機が他国に駐機している際にも担保実行が可能か否かは不明であるというリスク(カントリーリスク)が存在するのである。

このカントリーリスクを解消するために提唱されたのがケープタウン条約(可動物件の国際担保権に関する条約)であり、ケープタウン条約の批准国間では、同条約に基づき国際登録所(International Registry)に登録された担保権は国際的な効力を有することとなる。

ケープタウン条約に基づく担保登録の効果としては、債権者による担保権の私的実行を認め、エアラインの倒産手続においても、倒産手続による権利行使の制限の例外とすることで担保権者の権利実行を認めるなど、債権者に有利な取扱いがなされることとなる。

なお、現在のところケープタウン条約の批准国は60ヶ国程度であるが、日本は批准していない。

航空機の取り戻し(リポゼッション)に向けた準備

リスク管理の観点でもう1点重要となるのは、債権者として契約上の権利を有しているだけでは不十分であり、実際に航空機に対する担保権が行使され、航空機の取り戻しおよび売却などの処分まで完了できなければ、航空機に対する担保権は画餅にすぎないという点である。

エアラインの倒産時における、航空機に対する担保権の実行や航空機の取り戻しの場面においては、航空機が債権者にとって好ましい場所(法域)に駐機されている時点を狙って迅速に手続を行う必要がある。

そのため、エアラインの信用状態の悪化を察知した時点で、できるだけ早期に、将来のエアラインのデフォルトに対して備えることが必要である。

具体的には、契約上定められた権利の内容や手続的な要件を確認し、当該法域における担保実行手続の概要などについて把握し、必要な専門家などと連携して有事の際には速やかに協働できる体制を整えておくことが必要である。

まとめ

航空機ファイナンス案件のほとんどが、複数の国・地域にまたがる国際的かつ複雑な取引であり、大量の英語契約書と相まって、新規参入が比較的難しい分野であるように受け取られるかもしれない。

反面、同分野は今後も安定的な成長が見込まれる魅力的な投融資対象であるとする見方もあり、同分野への取組みの可能性を一切否定することも難しいというのが実情なようにも思われる。

一見すると複雑に見える取引も、エアラインの信用力と機材の価値について、様々なストラクチャーを通じてそのリスクをコントロールするために組成されているのであり、このような観点から具体的な案件を見た場合には、各金融機関・投資家がそれぞれのリスク許容度やニーズに応じて参加することのできる案件が必ず存在するものと思われる。

金融法務カテゴリのオススメの記事
投資ファンドに関する最新の法改正動向

投資ファンドをめぐる法制は、投資ビークルとしての利便性の追求と、投資家保護を中心とした理由による規制の必要性との緊張関係から、頻繁に改正を繰り返してきている。今年になって、立て続けに法改正がなされ又はその方向性が定まり、実務に大きく影響する可能性があることから、いずれも未施行の段階ではあるものの紹介したい。

【金融事例から読み解く】内部通報制度活用と不祥事早期発見及び予防策

リーマンショック・LIBOR不正操作事件などを契機として、内外金融規制当局等は不祥事予防に向けた様々な提言を行い、これに対応して金融機関も多くの施策を実施してきた。しかしながら依然不祥事は繰り返されている。こうした状況下、「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」などが公表された。この一方、不祥事早期発見の最有力な端緒である内部通報制度については、民間事業者向けガイドライン改正、認証制度創設、公益通報者保護法改正など、その実効性向上に向けた動きが顕著である。そこで、本稿では、金融機関等における不祥事の具体的事例を踏まえつつ、内部通報制度を活用した不祥事・不適切行為の早期発見とその予防策のポイントについて解説する。

金融サービス仲介業への参入の検討ポイントの整理

1つの登録で、銀行・貸金・証券・保険すべての分野のサービスが仲介可能となる新しい「金融サービス仲介業」(「新仲介業」)。2021年6月2日には、同年11月1日から施行されることが発表されるとともに、政令・内閣府令・監督指針等の内容が確定し、参入に向けた具体的な検討が可能な状況になってきた。そこで、本稿では、主に既存の仲介業(銀行代理業、保険募集人・保険仲立人、金融商品仲介業、貸金業)との差異に焦点を当てつつ、新仲介業を検討する際の留意点について簡潔に整理したい。(2021年6月25日 最新情報にアップデート)

令和3年4月施行電気通信事業法の改正と国外事業者に対する法執行の実効性の強化

令和3年4月1日に「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」が施行された。本稿では特に、改正法による国外事業者が電気通信事業を営む場合の規定の整備等について取り上げ、そして、かかる改正と総務省の解釈変更による電気通信事業法の適用対象の拡大を通じた、国外事業者に対する法執行の実効性の強化について解説する。

井門 慶介 弁護士 【 寄稿 】
ホワイト&ケース法律事務所

井門 慶介 弁護士