確定拠出年金(DC)とは?確定拠出年金改正の3つのポイント

確定拠出年金(DC)とは?確定拠出年金改正の3つのポイント

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2016年5月24日、確定拠出年金(DC)制度の改正法が成立した。公的年金のスリム化が進む中、私的年金として補完的な役割を担う。今回の改正では、対象拡大や利便性向上、運用改善への取り組みなど、大幅な制度の見直しが行われた。一方で、加入者に対する投資教育についての課題も残されている。確定拠出年金はどう変わるのか、読み解く。

  1. 確定拠出年金(DC)とは
  2. 確定拠出年金(DC)改正法の狙いと主なポイント
  3. 確定拠出年金(DC)改正のポイント(1)個人型DC対象者の拡大
  4. 確定拠出年金(DC)改正のポイント(2)中小企業における利便性の向上
  5. 確定拠出年金(DC)改正のポイント(3)確定拠出年金の運用改善に向けた取り組み
  6. 確定拠出年金(DC)の利用拡大に向けた課題

確定拠出年金(DC)とは

確定拠出年金(DC:Defined Contribution)とは、現役時代に積み立てた掛金を加入者自身が運用し、その運用成果に基づいて年金を受け取る制度である。国民年金や厚生年金保険といった公的年金に対して、私的年金に位置付けられる。2001年10月にスタートした制度だが、米国の401(k)プランを参考にしていることから、日本版401(k)と呼ばれることもある。

確定拠出年金には、「企業型」と「個人型」がある

企業型確定拠出年金は、企業(事業主)が実施する企業年金の1つである。企業が実施主体となり、従業員は与えられたプランに加入する。原則として企業が掛金を拠出するが、場合によっては従業員が個人で追加拠出することも可能である(マッチング拠出制度という)。

個人型確定拠出年金は、個人が自主的に加入する制度である。加入者自身が、銀行や証券会社などの金融機関経由で加入手続きを行い、加入者個人が掛金を拠出する。

確定拠出年金の運用方法

公的年金やその他の企業年金(厚生年金基金、確定給付型企業年金)では、加入者の年金資産はまとめて管理運用されている。それに対し、確定拠出年金は加入者の年金資産が個別に管理され、加入者自身が運用を指示するという仕組みである。

具体的には、加入するプラン内で提示される運用商品(投資信託や預貯金、保険商品など)の中から、1つ以上の運用商品を選択し、それぞれの運用商品に対する資金の配分を決める。また、定期的に資産状況を確認し、運用商品や資産選択の配分を見直すことができる。

投資教育について

運用成果によって、将来の給付額が変わるため、より多くの給付を受けるには、加入者個々人の運用商品の選択が重要となる。そのため、加入者は、投資教育などを通して資産運用に関する一定の基礎知識を身に着けておく必要がある。

そのため、企業型確定拠出年金を実施する事業主(また、個人型確定拠出年金を実施する国民年金基金連合会)は、加入者(従業員)に対して投資教育を実施することなどが求められている。

年金の受け取りは60歳以降、中途引出は原則不可

年金の支給は60歳以降となる。確定拠出年金は老後に向けた資産形成を目的とする制度なので、原則として60歳まで資産を引き出すことはできない。そのため、個人で拠出する掛金の額については、こうしたことを念頭におき、十分に検討する必要がある。

確定拠出年金は税制面において手厚く優遇される

確定拠出年金は、「拠出時」「運用時」「給付時」の3段階でそれぞれ税制優遇を享受できる。拠出時は、拠出された掛金が全額所得控除の対象となる。控除とは、税金を計算する際の所得から差し引く金額のことである。

控除があれば、課税所得が低くなるので、所得税や地方税が少なくなる。運用時は、運用益が非課税となり再投資されるので、複利効果が期待できる。給付時は、一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合には公的年金等控除がそれぞれ適用される。

確定拠出年金(DC)改正法の狙いと主なポイント

確定拠出年金(DC)改正法の狙いと主なポイント

2016年5月、「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が成立した。この背景には、公的年金のスリム化が進む中、補完的な役割を担う私的年金の充実を図る狙いがある。今回の改正では、確定拠出年金を広く国民が活用できる制度にしようと、あらゆる方向から制度の見直しが行われた。

制度改正の主なポイント

  • 個人型確定拠出年金対象者の拡大
  • 中小企業における利便性の向上
  • 確定拠出年金の運用改善に向けた取り組み

以下、それぞれのポイントについて詳しく解説する。

確定拠出年金(DC)改正のポイント(1)個人型確定拠出年金対象者の拡大

確定拠出年金(DC)改正のポイント(1)個人型確定拠出年金対象者の拡大

今回の改正で最も注目されているのが、個人型確定拠出年金対象者の拡大である。

ほぼ全ての国民が確定拠出年金に加入可能に

これまで、個人型確定拠出年金の加入対象者は、自営業者等か企業年金のない企業に勤める従業員に限られていた。今回の改正で、新たに加入対象者の範囲となったのが、専業主婦や公務員等、そして、企業年金(企業型確定拠出年金、厚生年金基金、確定給付型企業年金)に加入するサラリーマン(加入できない場合もある)である。

専業主婦にとっては、新たに制度が整備されたことになる。公務員等や企業年金に加入するサラリーマンについては、すでに私的年金が整備されているが、個人で掛金を追加拠出できないケースが多い。今回の改正により、個人で掛金を追加拠出できる機会が与えられたといえる。

すべてのライフコースで老後に向けた継続的な資産形成が可能に

また、これまでは、企業型確定拠出年金の加入者が離職により専業主婦になった場合や、転職して公務員等になった場合には、運用指図者となり、これまでに積み立てた資産の運用は行えるが、掛金を新たに拠出することができなかった。

しかし、今回の法改正により、このケースでも継続して掛金を拠出できるようになった。つまり、どのようなライフコースを選択しても、老後に向けた継続的な資産形成が可能になった。

運用指図者とは・・・掛金の拠出を行わず、運用の指図だけを行うもの

確定拠出年金(DC)改正のポイント(2)中小企業における利便性の向上

確定拠出年金(DC)改正のポイント(2)中小企業における利便性の向上

近年、わが国では企業年金を導入する企業の割合が低下している。かつて、中心的な企業年金制度の1つであった厚生年金基金は、事実上制度の廃止が決定しており、今、多くの基金が解散等に動いている。

今後、さらに企業年金の縮小が懸念されるが、特に規模の小さな中小企業においては、すでに顕著な縮小傾向が表れている。今回の法改正では、企業年金の普及・拡大という観点から、(従業員100人以下の)中小企業を対象として、次の新しい制度が創設された。

簡易型確定拠出年金制度

確定拠出年金の設立にかかる手続等を大幅に簡素化した制度。

小規模事業主掛金納付制度

個人型確定拠出年金に加入する従業員に対し、事業主が掛金を追加拠出できるようになった。

確定拠出年金(DC)改正のポイント(3)確定拠出年金の運用改善に向けた取り組み

確定拠出年金(DC)改正のポイント(3)確定拠出年金の運用改善に向けた取り組み

確定拠出年金の運用資産は、退職後に受け取る年金資産であり、長期運用、分散投資が基本となる。しかし、確定拠出年金全体の資産の半分以上は預貯金や保険商品といった元本確保型の商品に偏っており、分散投資されているとは言い難い。

その背景として、確定拠出年金の運用は自己責任が原則としながらも、実際には自分の資産状況について把握していない、あるいは、運用商品を選択することに困難を感じている、といった加入者が少なくないことがあげられる。

そこで、今回の法改正では、加入者が適切に分散投資を実践できることを目的として、確定拠出年金の運用改善に向けた取り組みが進められた。加入者が運用に対する知識を備え、自己責任のもとで運用商品を選択しやすい環境が整備されることが期待される。

確定拠出年金の運用改善に向けた取り組みの主なポイント

  • 運用商品提供数の見直し
  • 運用商品提供方法の見直し
  • デフォルト商品規定の整備
  • 継続的な投資教育の努力義務化

確定拠出年金(DC)の利用拡大に向けた課題

確定拠出年金(DC)の利用拡大に向けた課題

私的年金の新しい姿

公的年金のスリム化が進み、私的年金の重要性が増す中、全国民が確定拠出年金を活用できるような法改正が行われた。また、特に企業年金の導入割合が低下している中小企業に対し、確定拠出年金を導入しやすい環境が整備されたことで、企業年金の普及・拡大も期待されている。

広く国民が活用できる制度として、私的年金の新しい姿が描かれようとしている。今後は、多くの国民が確定拠出年金に関心を持ち、積極的に制度を活用できるような後押しが必要となろう。

社会全体で投資教育を後押しすることが必要

重要なカギを握るのは投資教育である。今回の法改正では、投資教育を継続的に行うことの重要性が改めて指摘されている。企業型確定拠出年金では、企業は従業員が確定拠出年金に加入した時、また加入後も継続的に従業員に対して投資教育を行うことが求められている。

一方で、個人型確定拠出年金においては、加入手続を行った金融機関が導入時に投資教育を行っているというのが現状で、継続的には行われていないとみられる。個人型確定拠出年金の加入者に対する継続的な投資教育については、厚生労働省も今後の重要な課題と位置づけている。

多くの国民が積極的に確定拠出年金を活用できるよう、社会全体で投資教育を後押しするような策も必要となるだろう。

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