- グレーゾーン解消制度とは
- グレーゾーン解消制度の必要性
- ノーアクションレター制度との違い
- グレーゾーン解消制度のメリット
- グレーゾーン解消制度の活用事例
- グレーゾーン解消制度の利用方法
- 注意すべきポイント
グレーゾーン解消制度とは
グレーゾーン解消制度とは、事業者(※)が、現行の規制の適用の有無及び範囲が不明確な場合においても安心して新事業の展開ができるよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を、事業者が行うビジネスを所管する省庁の大臣を経由して、問題となっている規制を所管する省庁の大臣に確認できる制度である。
企業だけでなく、NPO法人や技術研究組合、複数の企業等によって組織されたコンソーシアムであっても、利用できる制度であることから、本稿においては、「事業者」という用語を用いる。
規制の適用が不明確(グレー)な場合に、それを明確にして解消する制度なので、グレーゾーン解消制度と言われている。
グレーゾーン解消制度は、平成26年1月に産業競争力強化法に基づき創設され、同時にスタートした企業実証特例制度と併せ、事業者の新規事業への参入を後押しする施策の両輪をなすものとして期待される制度である。開始から約3年が経過した平成28年12月時点において、97の事業者が合計92件の申請を行っている(経済産業省が事業所管省庁として対応したものに限る)。
3年間で92件という数字をどう評価するかは難しいが、これから述べるように、広く新規事業の展開を考えている事業者にとって利用価値が高い制度であることを考えると、少しずつ利用が拡がってきてはいるものの、もっと多くの事業者に利用されてしかるべき制度であると言える。
グレーゾーン解消制度の必要性
事業者が新規事業に取り組む場合において、具体的な事業計画が規制に抵触するか否かが分からず、事業計画を実施できなかったり、既存の事業であっても何らかの改善の取り組みを実施しようとした場合に法令との抵触が問題となる場面は少なくない。
また、シェアリングエコノミー関連ビジネス等、ビジネスモデルの建て方によって規制の有無が変わってくる分野も存在する。
規制の内容によっては、事業者自らの見解に基づき、ある程度リスクを取って事業を進めていくという方針を採る事業者もあるかもしれない。
しかし、規制違反を問われたときのリスクの大きさを考えるとそのような選択をするわけにはいかないこともある。このような場合の対処方法として、従来から行われていることは、大きく分けて以下の2つが考えられる。
- 規制制所管省庁への確認
制所管省庁から規制に抵触するという回答を得た場合、当該事業を事実上進めることができなくなるため、二の足を踏む事業者は多い。さらにリスク覚悟で問い合わせた場合にも、必ずしも正面から回答が得られるとは限らず、事業者にとってそのような意味でも使いづらい手段である。 - 弁護士からの意見書の取得
一定の依拠できる裁判例等がある分野以外(真のグレーゾーン)については、クリーンな意見書を出してくれる弁護士を探すことは容易ではない。そのため、規制が存在することはもちろんであるが、規制のグレーゾーンが存在し解消されないことも、事業者の新規ビジネスへの進出にとって大きなハードルであった。
このような状況を打破するものとして、事業者が安心して新規事情を実施できるよう、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制の適用の有無を確認できるグレーゾーン解消制度が注目されているのである。
ノーアクションレター制度との違い
なお、グレーゾーン解消制度導入以前から、類似の制度として、法令適用事前確認手続(いわゆるノーアクションレター制度)がある。
ノーアクションレター制度とは
ノーアクションレター制度
法令適用事前確認手続(いわゆる日本版ノーアクションレター制度)とは、民間企業等国民が、その事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうか、あらかじめ当該規定を所管する行政機関に確認し、その行政機関が回答を行うとともに、当該回答を公表する手続です。
– 法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)
消費者庁
ノーアクションレター制度との違い
ノーアクションレター制度は、法令の解釈を確認するという点ではグレーゾーン解消制度と共通であるものの、同制度とグレーゾーン解消制度とでは、主に以下のような違いがあり、事業者にとっては必ずしも使い勝手が良い制度ではなかった。
- ノーアクションレター制度の確認対象が、各府庁が指定した法令(条項)に限定される 一方、グレーゾーン解消制度においては、対象となる法令に制限はない。
- ノーアクションレター制度は、事業者が直接規制所管省庁に対して確認をする必要があるが、グレーゾーン解消制度では、事業者の申請に応じて事業所管省庁がサポート役となり、規制所管大臣との協議を行う。
「行政機関による法令適用事前確認手続の導入について」(平成13年3月27日閣議決定、平成19年6月22日最終改正)
グレーゾーン解消制度のメリット
以上を踏まえた上で、事業者にとって、グレーゾーン解消制度を利用するメリットを挙げると、以下のとおりとなる。
- 全ての法令が対象
確認の対象となる法令に制限がないため、どのような分野のビジネスにおいても利用することが可能である。 - 迅速な回答
原則として1カ月以内に回答が通知されることから、スピーディーに事業を進めていきたい事業者のニーズにも合致する。なお、1ヶ月以内に通知できない場合には、その理由について、1ヶ月ごとに通知がなされる。
- 事業所管大臣を経由しての確認
事業者が、規制を所管する省庁の大臣に直接問い合わせるのではなく、当該ビジネスを所管する省庁の大臣を経由して、規制所管大臣に対して規制適用の有無を確認できることから、心理的ハードルが低いと考えられる。事業を所管する省庁が複数ある場合は、いずれの省庁に照会しても構わないとされており、この後紹介する実際の申請事例においても、経済産業大臣が事業所管大臣となっていることが分かる。 - 事業所管省庁によるサポート
事業計画のどの点に課題があるのか、事業所管省庁に相談し、整理しながら進めることができるほか、事業所管省庁は規制に抵触しない形で事業を実行していくための事業計画の変更を指導・助言するなど、きめ細やかな対応が期待できる。
ビジネスチャンスの拡大
事業者は自ら申請してグレーゾーンを解消することで、解消されたグレーゾーンが他の事業者により活用される前に、積極的に事業展開を行うことが可能である。そのような意味で、グレーゾーン解消制度は、事業者が自ら主導して規制改革を推進し、ビジネスチャンスを拡げることができる制度であるといえよう。
なお、規制の適用を受けると判断された場合には、改めて、その規制の特例措置を求めるために企業実証特例制度を活用することも可能とされている。
さらに、経済産業省では、グレーゾーン解消制度における個別の申請への回答内容のうち、類型化・抽象化が可能なものについて、回答内容等を類型化し、ガイドライン等の形で、関連法令の解釈を公表していることから、これらガイドライン等の確認も有用である。
グレーゾーン解消制度の活用事例
グレーゾーン解消制度の活用法について具体的なイメージを持っていただけるよう、いくつか活用事例を紹介する。
活用事例①「生活習慣病の予防のための運動指導」
フィットネスクラブを経営する企業等が、経営するフィットネスクラブで、医師の指導・助言を踏まえて職員が運動指導を行うことが「医行為」にあたるかについて照会した事例がある。
一般的に、「医行為」にあたる行為については、医師法において医師以外の者が行うことは許されていないため(医師法17条)、医師でない職員が運動指導をすることが許されるのかの確認を行う趣旨であったと考えられる。
この照会に対し、規制所管省庁である厚生労働省への照会の結果、医師からの指導・助言に従い、ストレッチやマシントレーニングの方法を教えること等の医学的判断及び技術を伴わない範囲内の運動指導を行うことは、「医行為」に該当しないこと等が確認された。
この回答により、フィットネスクラブにおいて、医師の資格を持たない職員が運動指導を行う事業を進めることができ、事業者にとっては新たなビジネスチャンスを得ることができたといえよう。
活用事例②「ホテル等における指紋認証システムの導入」
外国人旅行者が、自社クラウドシステムに事前に旅券のIC(集積回路)チップのデータと指紋を登録することで、登録以後、ホテル等で指紋をかざすだけで、登録された旅券情報を呼び出すことができる指紋認証システムによる「旅券の呈示」の扱いについての照会事例がある。
旅館業法に基づく厚生労働省健康局長通知において、訪日外国人旅行者が宿泊する際には旅券の呈示を求めるとともに、旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存することが必要とされている。
しかし従来、電磁的記録での呈示や保存は想定されていなかったためか、その扱いについては明確でなかったことから、電磁的記録を呼び出すシステムの利用は可能であるかについて確認をしたと考えられる。
規制所管省庁である厚生労働省及び事業所管省庁である経済産業省で検討を行った結果、指紋認証システムを用いてホテル等に提示される旅券情報の電磁的記録を宿泊者名簿と紐付け保存することが「旅券の写しの保存」に該当し、チェックイン時に同システムを利用して旅券情報を確認することで、「旅券の呈示」を受けたものとしたと解してよい旨の回答がなされ、その取扱いが明確になった。
このように法令が当初想定していなかった技術の開発や利用に伴い、その取扱いが不明確な部分についても、グレーゾーン解消制度はとても使い勝手の良い制度となっているのではないだろうか。
ここで挙げた2つの活用事例は、たまたま厚生労働省が規制所管省庁となる例であるが、その他にも国土交通省や総務省、警察庁など過去に照会に回答している規制所管省庁は多岐にわたり、確認の対象となっている法令も景品表示法、資金決済法、建築基準法、旅行業法、道路運送法など様々である。
この他の活用実績についても、経済産業省のサイトにおいて具体的な照会例が数多く公開されていることから、参考にして頂ければと思う。
グレーゾーン解消制度の利用方法
次に、具体的な制度の利用方法について簡単に説明する。
まず、事業者は、事業計画と確認したい事項を整理した上で、事業を所管する省庁に対して事前相談を行う。
事業所管省庁による、確認等・サポートを経た後に、事業所管省庁から規制所管省庁に照会書を送付して回答を求め、規制所管省庁による確認の結果は、事業所管省庁を経由して、事業者に通知される。
申請書においては、以下の項目についての記載が求められる。
このうち、「⑤ 具体的な確認事項」においては、以下の点を記載する必要がある。
- 現在、規制の根拠となる法令がどのような規定となっており、そのうち、どの部分の解釈が明らかでないのか
- 新事業活動が規制の対象となるか否かが判断できないポイントや、それによって新事業活動を行うことが難しい理由
- そのことに関する自己の見解
具体的には、規制所管省庁から明確かつわかりやすい回答を得るため、例えば、「○○規制が支障となっているのではないか。」という記載ではなく、「○○法に基づき○○が規制の対象となっているかどうかが明らかでないため、○○法に基づく許可を受けなくても、新事業活動において、○○を行うことができるのか確認したい。」といったような、確認したいポイントを、できる限り具体的に記載することが求められている。
また、場合によっては、海外における規制状況等の説明を加えることも有用である。
このようにグレーゾーン解消制度を利用するに当たっては、具体的な法令等の条項を指摘した上で、その問題のポイントやそのことに対する自己の見解を記載することが必要とされており、法的な分析や自らの見解の作成にあたって弁護士が関与することも多い。
詳しくは、「産業競争力強化法「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き」参照
注意すべきポイント
注意しなければならないのは、手続きの中で確認されるのは、照会のあった法令に基づく規制の適用の有無に限定されるということである。
グレーゾーン解消制度は、法令の範囲を限定することなく、新事業活動が、その時点で運用されている全ての法令に基づく規制に照らし、「合法」であることを確認する制度ではないため、照会した法令以外の法令に基づく規制の適用の有無については、別途、確認することが必要となる。
そのため、制度を利用するにあたっては、事業所管省庁のサポートや弁護士への相談等を利用しながら、規制が適用されうる法令について適切に特定することが重要である。
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