X-Tech時代到来!ベンチャー創業時に活用したい支援制度まとめ


FinTechに代表される、IT技術を活用したベンチャー企業の創業が相次いでいる。政府もスタートアップ支援に多額の予算を充てており、創業時には補助金や融資制度などを活用できる。本稿では、ベンチャー企業のスタートアップ支援を手掛ける大江橋橋法律事務所ベンチャーチーム・リーダーの弁護士が、様々な支援制度を解説する。

  1. X-Techブームの背景
  2. X-Techとベンチャー企業の躍進
  3. 創業時のベンチャー支援策
  4. 創業時のベンチャー支援策① 事業性に関して~グレーゾーン解消制度
  5. 創業時のベンチャー支援策② 資金面での支援
  6. 創業時のベンチャー支援策③ 事業運営の場の提供~インキュベーション施設
  7. まとめ
目次

X-Techブームの背景

今日、X-Techという言葉がブームとなっている。「金融(Finance)×IT=FinTech」のみならず、「教育(Education)×IT=EduTech」、「農業(Agriculture)×IT=AgriTech」など、AI技術やIT技術を業種・業界横断的に展開する動きが加速している。

先進国・日本では、多くの産業分野の成長が飽和状態にあるところ、IT技術を融合させることにより、新たな付加価値を生むことができるのである。産業の成長が頭打ちとなっていた業界においても、テクノロジー、IT技術の導入を起爆剤として、製造プロセス、健康・医療、流通などの幅広い分野において、省人化、新商品の開発など、付加価値を高めるための動きが期待できる。

図1

X-Techとベンチャー企業の躍進

X-Techとベンチャー企業の躍進

以上のような動きの中、X-Techビジネスを強力に推し進め、この流れの中で打って出ようとしているのが、ベンチャー企業である。

ベンチャー企業が、このような技術革新を行うにあたっては、もちろん、当該業界についての規制の範囲で、適法に行わなくてはならない。また、企業間の競争が激しくなる中で自社の権利を守るためには、法律(知的財産権法、商法、独占禁止法など)を味方につける必要がある。

著者が所属する大江橋法律事務所では、ベンチャー・チームを組成し、あらゆる業種のベンチャ-企業と伴走する形でのスタートアップ支援を行っている。

ベンチャー企業のスタートアップに際しては、弁護士などの専門家が必要となるが、さらに公的支援の施策を利用することで、有益な情報を最短で手に入れることも、必要なコストを削減することも、可能となるのである。

以下では、ベンチャー企業の創業支援策をご紹介する。

創業時のベンチャー支援策

創業時のベンチャー支援策

政府では毎年、中小企業の開業率向上を目指して、ベンチャー企業の創業支援に注力し、多額の予算を手当てしている。「ヒト・モノ・カネ」といった言葉があるが、ベンチャー企業は、その全てが不足していることが多い。ベンチャー支援策や中小企業施策を利用することで、ヒト(人材)、モノ(原料、機械装置)、カネ(運転資金、設備投資)の不足を補うことができるのである。

前述の日本再興戦略などにおいても、「イノベーション、ベンチャー創出力の強化」が大きな目標として掲げられている。例えば、平成28年第2次補正予算では、「生産性向上へ向けた取組」として、人工知能活用、イノベーション創出関連予算として、約267億円もの予算が組まれているのである。

平成28年度第2次補正予算の概要について」(平成28年10月、経済産業省)

あまりに金額の大きな話であり、自分とは遠い世界のことと思われる方も少なくないだろう。しかし、ベンチャー企業にとっては、これら予算事業・補助金を上手に活用すれば、これをビジネス加速の足掛かりとすることもできるのである。

以下では、ベンチャー企業にとって有益な、政府・自治体の支援策をご紹介する。

創業時のベンチャー支援策① 事業性に関して~グレーゾーン解消制度

創業時のベンチャー支援策① 事業性に関して~グレーゾーン解消制度

事業者が現行の規制範囲が不明確な分野においても、安心してビジネスを始められるよう、その事業者の具体的な事業計画に即して、予め、規制の適用の有無を確認できる制度である。

企業実証特例制度・グレーゾーン解消制度」(経済産業省)

例えば、ヘルスケアビジネス、交通・測量系のインフラビジネスについての許認可制度は細分化されており、ビジネススキームによっては、複数の許認可を必要とする場合もあれば、逆に許認可が不要な場合もある。しかしながら、ビジネスの進展に規制法、政府通達がついてきていない場合、そのビジネスを行おうとする企業としては、自分の行おうとするビジネスが規制の対象なのか、許認可について白なのか黒なのか「グレーゾーン」にはまってしまったと考えるであろう。

そのような場合に、事業所管大臣(主として経産大臣)が、規制所管大臣(上記の例であれば厚生労働大臣や国土交通大臣)に対し、意欲ある事業者の挑戦を支援する立場に立って、協議を行ってくれるという画期的な制度である。

事業者であるベンチャー企業としては、規制所管大臣(実質的には規制当局)に確認を行うこと自体がヤブヘビになるのではないかと恐れるきらいもあるだろう。この点、照会側である事業所管大臣サイドに事情をきちんと説明すれば、事業者名を伏せて匿名照会を行うなどして、企業の気持ちに応えたサポートをしてくれる。

創業時のベンチャー支援策② 資金面での支援

創業時のベンチャー支援策② 資金面での支援

創業補助金(創業・第二創業促進補助金)

対象者

  • 創業:これから創業する方で個人開業又は会社の設立を行う方
  • 第二創業:すでに事業を営んでいる中小企業か個人事業主などで後継者が先代から事業を引き継いだ場合などに業態転換や新事業・新分野に進出する方
  • 補助範囲:100万円以上200万円以内で、補助対象となる経費(店舗等借入費、設備費、原材料費、広告費など)の3分の2を補助

平成28年事業の受付は締め切られているものの、来年度も公募されるものと思われる。詳細は、創業・第二創業補助金事務局のサイトをご覧いただきたい。

新創業融資制度

これから創業する方又は税務申告を2期終えていない方が、事業計画(ビジネスプラン)等の審査を通じ、無担保無保証(法人代表者の場合は代表者保証も不要)で、融資を受けることができる制度である。

  • 貸付限度額:3000万円(運転資金は1500万円)
  • 資金使途:設備資金及び運転資金
  • 貸付利率:一定の特別利率が設けられている(詳細は金融機関に相談)。

その他、各都道府県等にある信用保証協会が信用保証をする制度(創業関連保証)などもあり、各種の資金支援をうけることができる。

創業時のベンチャー支援策③ 事業運営の場の提供~インキュベーション施設

創業時のベンチャー支援策③ 事業運営の場の提供~インキュベーション施設

中小企業基盤整備機構が運営する施設

中小企業支援を専門とする独立行政法人である中小企業基盤整備機構(中小機構)では、32のインキュベーション施設を設けている。インキュベーション施設は、以下2つのタイプの施設に分けられる。

  • 産学官連携による研究開発を促進する大学連携型
  • 地域における新たな事業創出に取り組む新事業創出型

会議室、商談室など共用スペースも充実しており、条件を満たせば、地元自治体からの賃料補助が受けられる。

東京都が運営する施設

次に、自治体が運営する施設を例に挙げよう。特に東京都を例にとってご紹介する。東京都では、「インキュベーションHUB推進プロジェクト」と銘打って、創業の支援能力・ノウハウを持つ複数のインキュベータから成る連携体(=インキュベーションHUB)を構築している。そして、連携体がそれぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長促進までの支援を一体的に行う取組を後押ししている。

総合的な創業支援環境づくりに向けた事業提案を募集し、優れた提案を行った事業者は、3か年にわたりその事業実施に要した経費の一部補助を受けることができる。

また、平成28年1月27日からは『創業に関心がある方なら誰でも集まり、イベント等を通して交流や相談、事業化支援まで、ワンストップで支援を提供』してくれるオフィスとして、東京創業ステーションが開設された。

まとめ

筆者は、中小企業庁に2年間任期付公務員として出向したことがある。当時の同僚である補助金担当者たちは、みんな、中小企業やベンチャー企業が活躍するためには、どのような施策を打つことが適切であるか、真剣に考えていた。

ベンチャー支援策には、ここで挙げた制度以外の制度もあるため、ぜひ、情報収集を行い、活用していただきたい。

本澤 順子 氏
寄稿
大江橋法律事務所
弁護士
本澤 順子 氏
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