どうなるカジノ法?IR推進法とIR開業の今後を弁護士が解説


2016年12月、カジノ法の呼び名で注目を集めるIR推進法が成立した。IR区域認定を受けようと、東京や大阪、北海道など多くの自治体が名乗りを上げており、激しい競争が予想される。本稿では、IR開業までの流れやIR区域認定を得られる自治体の傾向、金融機関の役割まで、弁護士が解説する。

  1. IR開業までの流れ
  2. IR区域とIR事業者の2段階選定手続は適切か
  3. どのような地方自治体がIR区域認定を得られるのか
  4. どのような事業者がIR事業者として選定されるか
  5. 金融機関としての対応
目次

IR開業までの流れ

IR推進法(カジノ法)

2016年12月15日、特定複合観光施設(以下「IR」という)の整備の推進に関する法律(以下「IR推進法」という)が成立した。

前身となる法案が2013年に国会に提出されて以来約3年が経過して漸く成立したものであり、かかる法律成立の遅れから、同法に基づくIR開業は、当初想定していたような2020年東京五輪開催には間に合わない可能性が高くなっており、現在では、むしろ、ポスト東京五輪の観光振興の柱となることが期待されている。

IR推進法は、IR推進の目的や基本方針等を定めたいわゆるプログラム法であり、具体的な法制上の措置は、2017年中に制定される別の法律(国際観光産業振興議員連盟(IR議連)によれば「特定複合観光施設区域整備法案」(IR実施法))において定められる予定である(IR推進法第5条)。

IR区域の認定

今後の流れとしては、まず、2017年3月を目途に、特定複合観光施設区域(IR区域)の整備を総合的かつ集中的に推進するため、内閣総理大臣を本部長とする特定複合観光施設区域整備推進本部が設置される(IR推進法第14条)。そして、2018年以降、地方公共団体の申請に基づき、国により、IRが設置できる区域であるIR区域が認定されることになる。

自治体による民間事業者の選定

国からIR区域の認定を得た地方自治体が、今度は、当該IR区域においてIRを整備、運営する民間事業者を公募により選定することが見込まれている(IR推進法第8条 参照)。

IR議連「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~ に関する基本的な考え方(平成26年10月16日改訂)」2頁。

これらのIR区域およびIR事業者の選定手続きを経た後、実際にIR区域を整備してIRを設置することになるが、大規模な地域の整備や施設の建設等には、少なくとも1、2年程度掛かることから、最終的にIR施設が全面開業するのは早くても2022年頃と見込まれている。

図1

IR区域とIR事業者の2段階選定手続は適切か

IR区域とIR事業者の2段階の選定手続は適切か

2段階方式の問題点

例えば米国や豪州などのようにIR区域選定とIR事業者選定が同時に行われるのであれば、当初から、具体性のある事業計画を前提に事業者のコミットや地方議会の承認もなされるから、後々にトラブルが生じる可能性が低い。

それに対して、イギリスで採用されたようにIR区域およびIR事業者の選定手続および選任権者を別々にした場合、両者の選定手続を同時並行で進めることが難しくなり、その分、時間が掛かるだけでなく、IR区域選定段階では、事業者の十分なコミットもなく、具体的な施設構成や事業計画が作成されず、そもそもどのようなIRを実現するのかが不明確な状態であることから、カジノ設置による社会的影響や地域再生の必要性などの地域的、政治的要因が重視されてしまい、その後の具体的な事業化に遅延が生じているという指摘もある。

「平成27年度内閣官房調査 特定複合観光施設に関する海外事例調査(依存症対策、区域設定等)報告書」(有限責任あずさ監査法人平成27年10月)249頁。

2段階方式の欠点を実務的運用で補うべき

わが国でも、現在想定されているように、仮に2段階の選定手続を採用するとしても、IR区域選定の段階から、IR事業者の選定や事業計画の策定もできるだけ前倒しでIR区域選定と同時並行で進めておき、具体的な施設構成や事業計画を前提としたIR区域選定の議論がなされるべきであろう。

どのような地方自治体がIR区域認定を得られるのか

どのような地方自治体がIR区域認定を得られるのか

① 予想される激しい競争と認定手続の公正性確保の必要性

現時点では、約20の自治体が関心を示しており、北海道、千葉、東京、神奈川、大阪、和歌山、長崎の7都道府県が有力候補といわれている。

木曽崇「早くも熱を帯びるIR誘致合戦」(金融財政事情2016年12月19日号)17頁。

IR区域の数については、IR推進法の附帯決議(附帯決議)により、IR区域の数を厳格に少数に限り、上限数を法定するとされており、具体的には、当初は2、3箇所認定され、その後、課題等を十分に評価、検証しながら段階的に増やしていき、最終的には最大10箇所(道州制における広域ブロックに1つずつ)程度認定されると予想されている。

そのため、当初のIR区域の認定過程では、政治的な思惑等も絡み、激しい競争が生じることが予想される。

したがって、その後のIR事業者の選定手続についても同様であるが、選定基準の明確化・公開化、公募要領や提案資料、背面調査報告書その他全ての選定過程資料の公開、公聴会や住民投票の実施などにより、できるだけ選定過程の透明性・公平性が確保されることが望ましい。

海外では、地方自治体の提案を中立的な立場から評価するために、公募により選ばれた、都市計画や都市再生を専門分野とする有識者により構成される独立コミッティが設置された例もある。

「平成27年度内閣官房調査 特定複合観光施設に関する海外事例調査(依存症対策、区域設定等)報告書」(有限責任あずさ監査法人平成27年10月)250頁。

② IR区域候補地の「量と質」

IR区域の具体的選定基準は現時点では明らかでないが、附帯決議3条において、IR区域には、国際的・全国的な視点から真に観光及び地域経済の振興の効果を十分に発揮できる規模が求められており、相当規模の用地の確保は必要になろう。

また、IRの望ましいコンテンツとして、歌舞伎のような伝統芸能、クールジャパンと呼ばれるような日本文化、日本が科学技術立国であることから、世界最先端のロボット技術、自動運転技術を体感できるような科学技術、世界無形遺産になっている和食の粋を極めたレストランゾーン、日本の伝統工芸品に接することができるショッピングセンターなどが挙げていることなどに鑑みれば、カジノ以外にも外国観光客を十分誘致できるような日本の伝統、文化、芸術的資源、天然資源等の観光資源の活用の可能性をアピールできる地域が有利になろう。

岩屋毅「日本の成長戦略にとってIRは必要不可欠~IRが広域に点在する『分散型』のスタイルを目指す~」金融財政事情2016年12月19日号14頁。

③ 住民の理解・賛成とギャンブル依存症対策の重要性

また、上記②で述べたように地域やIR施設の積極的な魅力を競う前提条件として、地域の住民の理解と賛成を得ることが不可欠になる。その意味では、ギャンブル依存症等の問題への懸念から「カジノは時期尚早」という反対意見が国民の間で根強いことを背景としてIR推進法の成立過程において、生じた遅延と混乱が、今後のIR実施法の制定やIR区域認定等の過程で蒸し返されるおそれは否定できない。

例えば、沖縄県は、前任知事はIR誘致に積極的であったが、現知事はIR誘致に反対しており、現在では、IR区域の有力候補地として名前が挙げられていない。

木曽崇「早くも熱を帯びるIR誘致合戦」(金融財政事情2016年12月19日号)17頁。

また、横浜市の現市長は、従来はIR誘致に前向きであったが、2017年8月の市長選でIR反対派が出馬を表明しており、IR誘致の是非が争点の1つになりつつあることから、IR誘致に関するスタンスを明確にしなくなっているといわれる。

カジノIRジャパン」(2017年1月26日付記事)。

附帯決議において、地方公共団体がIR区域の認定申請を行うには、公営競技の法制にならい、地方議会の同意が要件とされたこともあり、仮に地方自治体の現首長や地元経済界がいくら強力にIR誘致を推進しようとしても、選挙とIR区域認可申請のタイミング次第では、地域住民の支持を背景とした新首長や議会の反対によりIR認定申請を断念せざるを得ないというような事態も起き得るであろう。

また、海外では、米国マサチューセッツ州のように、地域住民の投票で過半数の賛成を得られることがIR区域認定の条件とされた例もある。

「平成27年度海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」(平成28年3月 東京都)194頁。

IR推進法は、カジノ施設の設置および運営に関して、カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するために必要な措置を講じることを政府に要求している(IR推進法第10条)。しかし、政府は、IR実施法に先行して、2017年の通常国会にギャンブル依存症対策の基本法案を提出予定であると報じられており、これは、政府が、今後のカジノ/IR成功のためには国民の理解と賛成が不可欠であるにもかかわらず、ギャンブル依存症や犯罪の増加などカジノの悪影響について世論が強い懸念を示していることへの危機感の表れであろう。

カジノIRジャパン」(2017年2月3日付記事)。

その意味では、IR区域認定申請を希望する地方自治体は、意識調査や市場調査等により地域住民の意向を随時確認するだけでなく、一般市民が懸念しているカジノ開設によるギャンブル依存症や犯罪の増加等について、公営競技、パチンコ等の既存のギャンブルを対象とした、地域の治療施設等との連携によるギャンブル依存症対策や治安対策を国よりも先行実施して成果を上げるなどし、さらに、IR誘致による地域再生や雇用創出、教育・職業訓練プログラム等のプラス面を十分アピールすることにより、できるだけ地域住民のIR設置に対する理解と賛同を得ておくことが肝要である。

④ その他の想定されるIR区域の認定基準

IR区域として選任されるためのその他の評価基準としては、以下のようなものが挙げられる。

  • 対象区域の地域特性(人口数、人口密度、人口構成、財政状況、社会経済的特性、観光振興やレジャー、ギャンブルに関する地域政策・戦略、地域再生の必要性等)
  • 他の類似地域との差別化の可否、カジノ導入による社会的影響や既存の地域開発計画への影響
  • 経済発展や雇用創出等による地域再生可能性などの経済的影響
  • カジノ誘致に向けた熱意(準備活動や準備期間等)
  • 訪問観光客数
  • 観光客や地域住民の間の潜在的なカジノ需要
  • 交通インフラ(現在の交通の便、将来の交通インフラ整備の可能性、交通渋滞緩和策等)
  • 当該区域および近隣区域における既存のギャンブル施設や娯楽施設の有無や、それらの施設との競合・相乗効果の可能性
  • IR整備に向けた資金調達方法や潜在的な投資家の意向など

「平成27年度内閣官房調査 特定複合観光施設に関する海外事例調査(依存症対策、区域設定等)報告書」(有限責任あずさ監査法人平成27年10月)249頁および「平成27年度海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」(平成28年3月 東京都)194頁の各報告書ならびにそれらの報告書で引用されている海外のカジノ区域認定に関する報告書等を参照。

図2

どのような事業者がIR事業者として選定されるか

どのような事業者がIR事業者として選定されるか

望ましい「全国企業+外国企業+地元企業」連合

地方自治体によるIR事業者選定の具体的基準も、IR認定される地方自治体が未定である以上、現時点では当然明らかでないが、カジノのほか多様な施設を含む大規模なIRを設置・運営するために必要なノウハウの共有や資金調達能力などの観点からは、国際的に認知された海外のカジノ事業者と、日本の志向や文化、ノウハウに精通した国内有力企業とのコンソーシアムがIR/カジノを運営することが望ましいとされている。

岩屋毅「なぜ日本にカジノが必要なのか」金融財政事情2014年1月6日号75頁。

さらに、IR事業者の選定権者が地方自治体であり、地域経済の振興もIR推進の目的の1つであることを考えれば、地域経済界を代表して、各地域の有力な企業もコンソーシアムに参加することが有利に働く可能性が高いであろう。

想定されるIR事業者の選定基準

IR事業者についても、IR区域同様、地域住民の支持が得られることが不可欠であり、海外では、米国マサチューセッツ州のように、住民投票で、各IR事業者候補者について(IR設置予定自治体とセットで)支持率調査がなされた例もあり、住民投票の結果が全てではないとしても、地域住民の過半数の支持が得られていることは、カジノ事業者として選定されるための1つ重要な要素になろう。

最終的にカジノ事業者に選定されたウィン社(エバレット市)は賛成86.46%(対象リージョンにおける選外者3社は、それぞれ賛成63.2%、反対64,64%、反対56%)、同ブルータープ社(スプリングフィールド市)は賛成57.7%、(対象リージョンにおける選外者2社は、それぞれ反対64.64%、反対50.9%)である(「平成27年度海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」(平成28年3月 東京都)202頁)。

その他の具体的な選定基準

その他、具体的な選定基準としては、以下のような点があげられる。

① IR事業者自身の財務的な健全性(時価総額、直近各事業年度の売上げ、利益等)、資金調達能力その他の財務戦略、法令遵守の状況(背面調査の実施)

※ 海外では、米国マサチューセッツ州で、カジノ事業者選定を目指していたコンソーシアムの1社について、州が外部委託して実施した背面調査報告書において適格性に関する4つの考慮事項を指摘されて、同社がコンソーシアムから脱退した事例もある(「平成27年度海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」(平成28年3月東京都)198頁)。

② 大規模で質の高いIRを建設して管理・運営するだけの十分な経験や実績、知的財産、アイデア、デザイン、ノウハウ等の事業資源と能力を備えているか

エンターテイメントその他の便益の提供を提案・実現する能力、国内だけでなく海外からの観光客(VIP客含む)を確実に取り込むためのマーケティング戦略を有しているか否か等がポイントになろう。

③ IRの全体構想、事業計画、IR建設用地の規模とロケーションの魅力度(独創性・新規性)、施設のデザイン、設備等の魅力度やクオリティー

豪華リゾートホテル、映画館、ボーリング場、スケートリンクその他の娯楽施設等、カジノ施設以外にどのような施設を開発するかがアピールポイントであるが、そもそもの前提として、事業計画が、着工時期や完成時期も含めて明確で達成可能な内容であり、持続性のある開発指針を利用しており、安全管理もできていることが大切である。

④ 投資の利回りとリスクの負担

どの程度の期間で地方自治体にどの程度の収入増がもたらされるか、事業リスクを事業者が負担し、地方自治体が負担するおそれがないか、仮に地方自治体が負担する場合でも、どのように財源を確保できるか。なお、地方公共団体の財政状況を考慮すれば、事業債等による調達よりも、プロジェクト・ファイナンスの手法等により、地方自治体に財政的負担がかからない資金調達計画がアピールするように思われる。

⑤ 交通アクセス、駐車場対策、騒音対策その他のIRおよび周辺地域のインフラ整備計画

⑥ ギャンブル依存症やマネーローンダリング、青少年問題や治安問題等に取り組む姿勢、対応能力および具体的計画

ギャンブル依存症対策として、入場者の限定(外国人や事前会員登録した自国民に限る等)、ポーカーマシンやスロットマシンを設置しない、テーブルゲームも最低賭け金額を設定する、キャッシュレスで賭けられる器械については一定の上限額を設ける、ギャンブルから隔絶された休憩室の設置、自己排除ないし家族排除プログラム、排除プログラムの適用を受けている顧客のリスト作成、訓練を受けた入場ゲートの警備員による入場規制者の確認・排除、監視カメラや警備員による監視、社会的責任を果たすための従業員研修計画などを具体的に策定して、実施する能力があるか等が問われるであろう。

⑦ 地元への貢献度と地元密着性

地域における雇用創出、税収増加、経済発展、地域活性化、職業訓練、知名度・名声、観光振興の目玉の創出など、具体的にどのような便益をもたらす能力と計画があるか、地元企業や地元施設との連携度、周辺地域との親和度等も審査の対象になるであろう。

「平成27年度内閣官房調査 特定複合観光施設に関する海外事例調査(依存症対策、区域設定等)報告書」(有限責任あずさ監査法人平成27年10月)249頁および「平成27年度海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」(平成28年3月 東京都)194頁の各報告書およびそれらの報告書で引用されている海外のカジノ事業者選定に関する報告書等を参照した。

図3

金融機関としての対応

金融機関としての対応

金融機関としてIR区域やIR事業者が未定な段階でどこまで関与していくべきか、コミットすべきかは難しい問題であるが、IR/カジノが大規模な複合施設であり、その基盤整備や開発・運営には巨額な資金が必要になる反面、マカオやシンガポールなどアジアのカジノ・ファイナンスの前例に鑑みれば、IR/カジノ開設後は安定的でかつ巨額なキャッシュフローが発生することが見込まれ、地域の経済発展や地域再生に大きく貢献する可能性もあるので、今後のギャンブル依存症対策の充実と世論の動向にも留意しながら、プロジェクト・ファイナンス等できるだけ地方自治体の財政負担が少ない形での財務戦略を提案するなどして積極的にサポートしていくべきであろう。

福田 政之 氏
寄稿
長島・大野・常松法律事務所
弁護士
福田 政之 氏
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