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企業実証特例制度とは? メリット・利用方法・事例を総解説

事業者が新規事業を行おうとする際、事業者が自ら主導して特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として企業単位で規制の特例措置の適用が認められる「企業実証特例制度」。本稿では、注目を集めている「企業実証特例制度」について、仕組みやメリット、利用方法および利用時の留意点について弁護士が説明する。

企業実証特例制度とは? メリット・利用方法・事例を総解説
  1. 企業実証特例制度とは
  2. 企業実証特例制度の意義
  3. 企業実証特例制度のメリット
  4. 企業実証特例制度の活用事例
  5. 企業実証特例制度の利用方法
  6. 企業実証特例制度の利用方法(Ⅰ) 規制の特例措置の創設
  7. 企業実証特例制度の利用方法(Ⅱ) 新事業活動計画の策定
  8. 企業実証特例制度の利用方法(Ⅲ) 事業の実施
  9. 最後に

企業実証特例制度とは

企業実証特例制度とは、事業者(※)が安全性等を確保する措置を講ずることを前提に、企業単位で規制の特例措置を適用する制度である。

事業者の技術力等の向上により安全性等の確保ができ、規制の特例措置を認めても弊害が少ない場合に、全国一律の規制改革に先駆けて、事業者主導による規制改革を実現することを目的とする。

企業だけでなく、NPO法人や技術研究組合、複数の企業等によって組織されたコンソーシアムであっても、利用できる制度であることから、本稿においては、「事業者」という用語を用いる。

企業実証特例制度は、産業競争力強化法に基づきグレーゾーン解消制度と共に創設された。平成26年1月の制度開始から約3年が経過した平成28年12月時点において、16の事業者が合計11件の申請を行っている(経済産業省が事業所管省庁として対応したものに限る)。

現行の規制の適用があることを前提として、事業者自らが規制の特例措置の内容を構築して提案するという制度の性質を踏まえても、3年間で11件という数字は、利用が十分に進んでいないことを示している。

同時にスタートしたグレーゾーン解消制度では既に100件近い申請実績があることを考えても、少し物足りないように思われる。

しかしながら、企業実証特例制度は、新規事業に合わせて特例措置の創設を提案する画期的な制度であり、グレーゾーン解消制度と並んで、特に既存のルールに縛られない新しい事業の展開を考えている事業者にとっては、非常に利用価値が高い制度である。

▼山本龍太朗弁護士と橋本小智弁護士による「グレーゾーン解消制度」についての解説
活用が進むグレーゾーン解消制度とは?利用メリットと留意点

企業実証特例制度の意義

企業実証特例制度の意義

事業者が新規事業に取り組む場合において、一定の手続が必要であったり、あるいは事業活動に制限を加えたりといった「規制」が、新しい事業への挑戦の大きな妨げとなる事例は枚挙にいとまがない。

海外で導入され、成功している先進的な技術やビジネスモデルについて、国内の規制のために導入が難しいといった場面は様々な分野において存在するし、特に、近年のめざましい技術革新の中で、当初想定していなかった技術が生まれるなど環境の変化に規制が対応できていないような場合も少なくない。

このような場面において、企業実証制度が創設される前は、関連する法改正を待つしかなかったが、通常一事業者の力だけで法改正を推進することは困難であることから、事業化までにかなりの時間を要することを覚悟するか、事業そのものを断念せざるを得なかった。

しかし、同制度を利用することで、事業者自らが主導して、規制の適用を正面から回避できる可能性が出てきたのである。

企業実証特例制度の導入以前にも、規制改革会議が主導する全国規模での規制緩和や特区制度による地域単位での規制緩和の方法はあったが、これらの規制緩和との大きな違いは、企業実証特例制度を利用することにより、個々の企業単位での規制緩和が可能となったことにある。

また、グレーゾーン解消制度において、規制の適用があるという判断がなされた場合においても、この企業実証特例制度を利用することによって、事業化への道が開ける可能性が生まれた(※)。

なお、グレーゾーン解消制度を経ることなく、個別に企業実証特例制度を利用することも可能である。

企業実証特例制度のメリット

企業実証特例制度のメリット

以上を踏まえた上で、事業者にとって、企業実証特例制度を利用するメリットを挙げると、以下のとおりとなる。

① 事業者主導による特例措置

事業者自らが、新規事業展開のために必要な特例を提案し、当該新規事業に必要な形で特例措置の創設、適用が検討され、企業単位で特例措置を受けることが可能であることから、柔軟な対応が期待でき、ビジネスチャンスが大きく広がることが期待できる。

② 企業単位での適用

①で述べたとおり事業者主導で制度の創設を要望することができることに加え、企業単位で特例措置が適用されることから、他社に先駆けたビジネス展開が期待できる。

③ 迅速な判断

申請から後述の規制の特例措置の創設の可否が判断されるまでの期間は、原則として1カ月以内とされており、1カ月で結果を通知できない場合には、通知が遅れる理由についても1カ月毎に通知されることになっており、スピーディーに新規事業を展開したい事業者のニーズにも合致する。

④ 事業所管省庁によるサポート

制度の適用を受けるためには、生産性の向上や新規需要の創出にどうつながるのか、安全性の確保をどのように行うのか等、実効性のある計画を作成することが重要であるが、計画策定に当たっては、事業所管省庁がサポート役となり、きめ細やかなアドバイスを受けることが期待できる。

企業実証特例制度の活用事例

企業実証特例制度の活用事例

企業実証特例制度の活用法について具体的なイメージを持っていただけるよう、活用事例を紹介する。

活用事例:セグウェイでの公道走行

次世代モビリティとして多くの世界中の観光地で利用が進んでいる搭乗型移動支援ロボット「セグウェイ」であるが、日本においては、道路交通法及び道路運送車両法上、公道を走行することは認められていなかった。

しかし、企業実証特例制度の活用により、規制の特例措置として都市部における公道走行実証が可能となったのである。

具体的には、事業者からの要望に基づき、新事業活動計画に従って実施する当該新事業活動において公道実証実験を実施することを道路使用許可の対象とすることを明確化する、新たな規制の特例措置が創設された。

そして、約5か月間にわたる検証走行や丁寧な事前講習、保安要員に対する研修、時速制限、安全性を確保するための様々な工夫を施すことで、新たな規制の特例措置の活用が可能となり、セグウェイで地域を走行するツアーの実施が可能となったのである。

企業実証特例制度の利用方法

図

次に、具体的な制度の利用方法について簡単に説明する。企業実証特例制度の利用にあたっては、以下の2段階の申請手続きを経る必要がある。

(1)規制の特例措置の求め(産業競争力強化法第8条)

(2)新事業活動計画の認定(産業競争力強化法第10条)

上記のとおり、企業実証特例制度の申請手続は、大きく(1)規制の特例措置の創設と(2)創設された特例措置を活用した新事業活動計画の認定の2つに分かれている。

手続きの詳細は、「産業競争力強化法「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き」をご参照いただければと思うが、以下では、それぞれの手続について利用する際の留意点にも触れながら簡単に説明したいと思う。

企業実証特例制度の利用方法(Ⅰ) 規制の特例措置の創設

企業実証特例制度の利用方法(Ⅰ) 規制の特例措置の創設

① 事業者が、事業所管大臣に対し、新事業活動を実施するために、規制の特例措置を創設するよう求めるための要望書を提出する。

要望書の記載事項は以下のとおりである。

図

「2.新事業活動の内容(4)その他」に関して、利用手引きにおいては、必須記載事項ではないとされているが、新たな技術等を用いることで規制が求める安全性を確保することができることを示す学術論文等について説明することは非常に重要であり、この点については詳しく記載する必要がある。

規制所管省庁としては、安全性の確保に関して技術的な裏付けがあることで規制の特例措置を認めやすくなると考えられる。

また、規制所管省庁といえども海外の規制まで全て把握しているわけではないため、事業者が自ら海外の規制や当該事業等の実施実績等を調べて情報提供することも検討すべきであるし、さらに国際競争力確保の観点から日本においても実施を認めるべきであること等を説明することも有用である。

「3.新事業活動の実施時期」は、最長で申請日から5年間であるが、必要に応じて、新事業活動計画の変更手続により、期間の延長も可能とされている。

次に、「4.新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令(告示を含む。)の条項」の規制の根拠となっていると考えられる法令等(規制に関連する告示・通達等を含む。)の名称や関係する条項等を記載する必要がある。

この点に関連し、場合によっては、規制の根拠となっている法令等について、規制の根拠が現在でも妥当するのか否か、立法時の資料(文献、国会審議の議事録等)まであたり、検証することも検討すべきである。

具体的には、「○○法第○条第○項のどの部分」といった形で、できる限り具体的に記載することとされており、条項を特定できない場合には、提出を予定する事業所管省庁まで、事前に相談することが求められている。

また、「5.新事業活動を実施するために整備が必要となる新たな規制の特例措置の内容(1)規制の特例措置の具体的内容」についても、「○○規制の撤廃」といった漠然とした内容ではなく、「○○法第○条に基づく規制について、○○を可能とする特例を設ける」など、規制の特例措置の内容をできる限り具体的に記載することが求められている。

さらに、「5.新事業活動を実施するために整備が必要となる新たな規制の特例措置の内容(3)規制の特例措置を活用するに当たって実施する安全性等を確保する措置内容」については、国内・海外を問わず、安全性等を裏付ける実験データ等の科学的根拠がある場合には、その概要を本文で説明するとともに、その詳細については添付書類として併せて提出する必要がある。

また、規制の目的には、安全性の確保以外にも、一般消費者の保護、環境の保全など、様々なものが考えられることから、「安全性等を確保するための代替措置等」も、それらに応じて、必要な措置を提案する必要がある。

「6.新事業活動の実施に必要な資金の額及びその調達方法」については、特例措置の求めの段階で詳細な試算が難しい場合には、概算でも可能とされている。

② 求めを受けた事業所管大臣は、その内容が法の目的・趣旨に照らして適切か否かを判断し、その措置の必要性を認めるときは、規制所管大臣に対し、規制の特例措置の整備を要請する。

③ 規制所管大臣は、規制の特例措置を整備するか否かを決定し、その検討結果は、事業所管大臣を通し、事業者に対して通知される。

企業実証特例制度の利用方法(Ⅱ) 新事業活動計画の策定

企業実証特例制度の利用方法(Ⅱ) 新事業活動計画の策定

① 上記の手続を経て規制の特例措置が創設された場合には、事業者は、事業所管大臣に対し、「新事業活動計画」を提出し、認定を求める。

「新事業活動計画」で求められる内容の多くは、上記要望書の項目と重なるが、新事業活動の実施に必要な資金の額や調達方法、必要な人員体制等より具体的かつ詳細な計画の記載が求められる。

② 事業所管省庁が検討を行い、適切であると認められる場合は、認定に先立ち、規制所管省庁に対し、同意を求める。

③ 同意を求められた規制所管省庁は、「新事業活動計画」の内容について、規制が求める安全性等の観点から検討を行い、適切であると認められる場合は、認定の同意を行う。

④ 「新事業活動計画」の申請の結果は、規制所管省庁の同意を経て、事業所管省庁から、事業者に通知されるが、認定された事業者が実際に新事業活動を実施する際には、規制の特例措置に係る安全性等を確保する措置を含め、「新事業活動計画」に沿って、事業を実施することが必要となる。

新事業活動計画が認定された場合には、事業者名、新事業活動計画の概要等が公表されるが、新事業活動計画に企業秘密が含まれている場合には、事業者の意向を踏まえた配慮がなされる。

企業実証特例制度の利用方法(Ⅲ) 事業の実施

企業実証特例制度の利用方法(Ⅲ) 事業の実施

事業者は、認定された「新事業活動計画」に基づいて事業を実施する際、各事業年度が終了してから3ヶ月以内に、事業所管省庁に対し、事業の実施状況を報告することが必要となる。

具体的には、新事業活動の目標がどの程度達成されたか、規制の特例措置をどのように活用したか、規制の求める安全性等を確保する措置をどのように実施し、その結果、どのような事態が生じたかなどを様式に従って記載することとなる。

最後に

最後に

なお、規制の特例措置の求めを行っていない事業者であっても、「新事業活動計画」の認定を受ければ、他の事業者の提案によって設けられた規制の特例措置を活用することが可能である。

もっとも、上記のとおり「新事業活動計画」の申請においては、安全性等を確保する措置を含め入念な準備が必要となることから、他の事業者の要望により創設された規制の特例措置を活用しようとしても、ある程度の時間を要すると考えられる。

そのため、事業者としては、自らが主導的に要望を行い、企業実証特例制度を積極的に活用することで、ビジネスチャンスを広げることが可能であるといえよう。

▼山本龍太朗弁護士と橋本小智弁護士による「グレーゾーン解消制度」についての解説
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山本 龍太朗 氏 【 寄稿 】
大江橋法律事務所
弁護士

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橋本 小智 氏 【 寄稿 】
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