【平成29事務年度金融行政方針】業態別の取組み

【平成29事務年度金融行政方針】業態別の取組み

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平成29事務年度金融行政方針「Ⅴ. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等」では、金融機関の業態ごとの施策がまとめられている。本稿は平成29事務年度金融行政方針に関する全3回連載の2回目として、「Ⅴ. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等」に焦点を当て、各業態の施策と国際的な取り組みについて解説する。

  1. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等
  2. 地域金融機関に関する取組みの観点
  3. 地域金融機関に関する取組み① 持続可能なビジネスモデルの構築
  4. 地域金融機関に関する取組み② 経済・市場環境の変化への対応
  5. 地域金融機関に関する取組み③ 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮
  6. 3メガバンクグループに関する取組み
  7. 預金取扱金融機関以外の金融機関に関する取組み
  8. 国際的な取組み

金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等

「Ⅴ. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等」では、まず、前事務年度の金融レポートで、金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築と、世界的な経済・市場動向に不確実性がある中で適切なリスク管理が重要である点を指摘したことが言及されている。

そして、低金利環境の継続で金融機関の経営環境は厳しさを増している一方で、低金利環境が反転し、金利が上昇する場合には、有価証券運用のリスクの顕在化、レバレッジが拡大している民間非金融部門の債務支払能力の悪化、不動産・ハイイールド債等のリスク性資産の価格変動などのリスクがあり、我が国金融システムは、低金利環境の継続と金利上昇という両方向のリスクに直面した課題を抱えていることを指摘している。

また、ITの進化やイノベーションの進展により、顧客情報に根ざした新しい金融サービスの提供を巡る競争が激化する可能性があるなど大きな環境変化に直面しているとしている。金融機関においては、このような構造的な変化や環境変化に対して、遅れずに適切な対応をとることができる、質の高いガバナンスの構築が重要と指摘する

同時に、世界の金融システムは様々な新たな課題に直面しており、前回危機の再発防止にとどまらないグローバルな取組みの必要性や国際的な当局間のネットワーク・協力を強化することの重要性を指摘している。

その上で、金融機関の業態ごとに施策をまとめている。

地域金融機関に関する取組みの観点

地域金融機関に関する3つの取組み

平成29年金融行政方針では、預金取扱金融機関について地域金融機関と3メガバンクグループに分けて施策がまとめられているが、地域金融機関の項目の方が先に置かれており、かつ、分量も地域金融機関については6頁弱にわたって詳細に記述されている一方で、3メガバンクグループに関する記述は1頁弱に留まっており、形式面だけでも金融庁として地域金融機関に関する取組みに重点を置いていることが読み取れる。

まず、地域金融機関に関しては、以下の3つの観点から取組みが整理されている。

  1. 持続可能なビジネスモデルの構築
  2. 経済・市場環境の変化への対応
  3. 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮

地域金融機関に関する取組み① 持続可能なビジネスモデルの構築

地域金融機関に関する取組み① 持続可能なビジネスモデルの構築

「Ⅴ. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等」で示された地域金融機関に関する取組みのうち、持続可能なビジネスモデルの構築については、現状認識として、顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)から得られる利益がマイナスとなっている金融機関が増加することが予測される中、「共通価値の創造」(※) がより一層重要性を増していることを指摘している。

その上で、地域企業の真の経営課題を的確に把握し、その解決に資する方策の策定・実行に必要なアドバイスや資金使途に応じた適切なファイナンスの提供、必要に応じた経営人材等の確保といった支援を組織的・継続的に実践することが、持続可能なビジネスモデルの構築につながる地域金融機関は多いという考え方を示している。

他方で、不確かな経営環境の改善を期待し将来起こりうる課題を認識できていない、あるいは、課題を認識できていながらも具体的な取組みを見いだせていない経営者が存在するなど、ガバナンスの発揮に課題があることを指摘している。

このような課題認識の下、地域金融機関の課題解決に向けた自主的な対応の促進、金融仲介を客観的に評価できる指標群の設定とそれを活用した深度ある対話・「見える化」の促進などを重点施策として取り組むとしている。具体的な項目としては、以下の取組みをあげている。

地域企業の価値向上や、円滑な新陳代謝を含む企業間の適切な競争環境の構築等に向け、金融機関が付加価値の高いサービスを提供することにより、金融機関自身も安定した顧客基盤と収益を確保するという取組み。前事務年度の金融行政方針においても強調されていた考え方である。

持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応

  • 深刻な問題を抱えている地域金融機関には、検査により経営課題を特定した上で、経営陣や社外取締役と深度ある対話を行う。
  • 金融機能強化法に基づく資本参加を受けた金融機関には、持続可能なビジネスモデルの構築に向けた取組みや公的資金の返済原資の蓄積の進捗状況等に応じたメリハリのある対話を通じ、地域経済の活性化に資する組織的・継続的な取組みを促す。
  • 共同組織金融機関については、中央機関に対して対話を通じてリスク管理や経営分析に関する指導、収益向上や財務基盤強化の支援などの役割を積極的に発揮するよう促す。

金融仲介を客観的に評価できる共通の指標群を活用した深度ある対話と「見える化」の促進

  • 「金融仲介機能のベンチマーク」(※)を発展させ、統一された定義に基づく比較可能な共通の指標群(KPI)を策定し、当該KPIも活用しつつ、地域金融機関と深度ある対話を行う。KPIに基づき収集された結果を含めた開示のあり方についても検討を進める。
  • 事業性評価に基づく融資や本業支援等の組織的・継続的な取組みについて、優良な取組みを実践している金融機関の表彰・公表を行う。

金融機関における金融仲介機能の発揮状況を客観的に評価できる指標として金融庁が策定し、平成28年9月に公表したもの。5項目の共通ベンチマークと、50項目の選択ベンチマークから成る。

金融仲介の改善に取り組む地域金融機関の支援

  • 地域経済活性化支援機構(REVIC)・日本人材機構において人材・ノウハウ支援に重点的に取り組むこととし、事業性評価に基づく融資や本業支援に関する専門人材やノウハウが不十分な地域金融機関における両機構の活用を促進する。
  • 業務範囲に係る規制緩和を含め環境整備について検討する。

地域企業の立場から見たファイナンス

  • 公的金融と民間金融の競合等の実態を調査し、望ましい関係のあり方について議論を行う。
  • 平成29年改正信用保険法等の趣旨や「経営者保証に関するガイドライン」の周知・活用状況等を踏まえ、金融機関との対話を行う。
  • 地域活性化ファンドを通じて地域企業に資本性資金を供給する取組み等をサポートする。
  • シンポジウム等を活用し、地域の資本市場・ベンチャー投資を巡る現状・課題について意見交換を行い、成長マネー・ノウハウの供給に係る取組事例の紹介・共有等を図る。

将来にわたる地域金融の健全性と金融仲介機能の発揮

  • 同一地域内の金融機関の経営統合について寡占・独占のリスクの指摘があることも踏まえて、金融行政上の課題について競争のあり方を含め検討する。
  • 金融機関の健全性に関する早期是正のメカニズム、金融機能の維持・退出に関する現行の制度・監督対応の改善について検討する。

これらの項目には、金融機関の実務に影響を与える重要な施策が多く含まれているが、その中でも、銀行の業務範囲に係る規制緩和の検討、公的金融と民間金融の関係に関する議論を行うこと、競争のあり方を含めた金融行政上の課題の検討などの取組みは、地域金融機関に限らず預金取扱金融機関一般の経営に大きく関わるものと思われる。

地域金融機関に関する取組み② 経済・市場環境の変化への対応

地域金融機関に関する取組み② 経済・市場環境の変化への対応

次に、経済・市場環境の変化への対応の観点については、以下の取組みがあげられている。

  • 有価証券運用による収益への依存を一段と高めており、金利リスク量が増加している地域金融機関が多いことを踏まえ、経営トップの主体的な関与によるリスクガバナンスを含めた運用態勢の強化、含み損も意識したリスクのモニタリングとコントロール、市場急変時を想定した対応策の事前検討等について、金融機関と改善に向けた対話を行うこと。
  • アパート・マンションや不動産業向け融資が増加傾向にあることから、不動産市況や地域金融機関の融資動向を注視しながらモニタリングを継続すること。
  • 外貨建資産の増加に伴い外貨資金調達が増加している金融機関に対して、外貨流動性リスク管理の高度化を促すこと。

前事務年度の金融行政方針においても、国内で活動する金融機関が外貨建資産運用、長期債への投資、不動産向け与信等を増加させる動きが見られることへの警戒感が示されていたが、平成29年金融行政方針では、地域金融機関による有価証券運用、アパート・マンションや不動産業向け融資、外貨建資産運用について、より具体的にリスク管理を促す取組方針が述べられている。

地域金融機関に関する取組み③ 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮

地域金融機関に関する取組み③ 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮

さらに、金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮の観点については、希望的な観測に頼った経営を行っている金融機関や現在のビジネスモデルの持続可能性に大きな懸念があるにもかかわらず、必要な経営改革を行わず、社外取締役・株主等外部からの牽制機能も働いていない金融機関が存在するという現状認識が示された上で、ガバナンスの質の向上(優秀な経営者を選ぶ枠組みの策定、相談役・顧問等による不適切な影響力の排除等)を図っていくことの重要性を指摘し、社外取締役をはじめとする様々なステークホルダーによるガバナンスが機動的かつ効果的に発揮されているかといった観点から実態調査・深度ある対話を行うとしている。

3メガバンクグループに関する取組み

3メガバンクグループに関する取組み

3メガバンクグループに関しては、以下の2つ観点から取組みが整理されている。

  1. 世界経済・市場環境の変化への対応
  2. 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮

地域金融機関の項目と比べると、「持続可能なビジネスモデルの構築」が省かれている点と「“世界”経済・市場環境の変化への対応」とグローバルの視点が含まれている点が異なっている。

世界経済・市場環境の変化への対応

このうちの世界経済・市場環境の変化への対応の観点については、以下の取組みがあげられている。

  • 環境変化に対する機動的なリスク管理の実施を促すこと
  • より安定的な外貨調達の実現・外貨流動性管理の高度化を促すこと
  • ハイブリッドファイナンス・不動産業向け貸出等について、規律ある審査・期中管理を促すこと
  • 各グループによる政策保有株式の削減等、株価変動リスクの適切なコントロールに向けて迅速な対応を促すこと

前事務年度の金融行政方針においては、グローバルに活動する金融機関が海外向け与信を増加させる動きが見られることが言及されていたが、平成29年金融行政方針では、3メガバンクグループに対して、外貨調達・外貨流動性管理の観点に加えて、ハイブリッドファイナンス、不動産業向け貸出、政策保有株式等についてのリスク管理を促すことが取組みとして掲げられている。

金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮

金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮の観点からは、以下の取組みが掲げられている。

  • 資本効率を重視した業務の選択と集中を適切に実行できるガバナンスの構築を促すこと。
  • グループ連携ビジネス(銀行、信託、証券等)の拡大により、利益相反管理・優越的地位の濫用防止の重要性が増していることを踏まえた、顧客本位の業務運営の観点からの態勢整備を促すこと。
  • ITの進化やイノベーションを見据えた大胆かつタイムリーな対応に向けた対話を行うこと。
  • 情報収集・分析能力の強化や組織改革と人材確保について対話を行うこと。

預金取扱金融機関以外の金融機関に関する取組み

預金取扱金融機関以外の金融機関に関する取組み

保険会社

保険会社については、長寿化の進展やITの進化等の環境変化に対応した商品・サービスの提供、地方拠点における採算見通し等を踏まえた販売チャネル戦略などの課題をテーマに持続可能なビジネスモデルの構築・事業戦略について対話を行うことや、顧客利便とともに、商品提供に伴うリスクとそれに対する資本の状況も踏まえた経営戦略についての対話を行うことが述べられている。他方、金融庁としても保険会社の新たな商品・サービスの開発に関しては前向きに対応することを表明している。

また、生命保険会社の運用会社としての役割に関して、リスク管理と一体となった資産運用の高度化等の取組みについての対話を行うことや、「スチュワードシップ責任」を適切に果たすよう促すことが述べられている。

このほか、ガバナンスの実効性に懸念がある保険会社に対して深度ある対話を行うこと、大手保険会社等の経営戦略における海外事業戦略の位置づけ、海外事業に従事する人材の確保・育成等、買収後の海外拠点の管理等の確認をすること、代理店を通じた販売活動等が適切になされるよう保険会社、代理店の取組みに関し対話を行っていくことなどが取組みとして示されている。

金融商品取引業者等

金融商品取引業者等については、前事務年度の金融行政方針と同様、証券会社、外国為替証拠金取引業者(FX業者)、適格機関投資家等特例業者、第二種金融商品取引業者及び投資助言・代理業者、信用格付業者の5つの業態に分けて施策が整理されている。

外国金融機関

平成29年金融行政方針では、前事務年度の金融行政方針においては言及がなかった外国金融機関に関する取組みが項目として加えられており、日本拠点のビジネス動向、リスク管理の状況についてタイムリーに情報を収集・分析するとともに、日本拠点の業務の実態が本国において適切に把握・認識されているか、クロスボーダーの業務展開に見合った法令等遵守態勢等が整備・強化されているか確認することなどが取組方針として示されている。

その他

このほか、ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険については、地域金融機関と連携した地域活性化ファンドへの共同出資や郵便局ネットワークの活用した投資信託の販売等の取組みをフォローアップすること、資産規模のコントロールや、資産運用の多様化及びそれに応じたリスク管理の高度化の取組みの進捗状況を確認することが言及されている。

国際的な取組み

国際的な取組み

国際的な金融規制に関する対応及び当局間のネットワーク・協力の強化として、以下の取組みが示されている。

  • 国際的な金融規制に関する対応:バーゼルⅢの適切な形での最終化、保険会社の「国際資本基準(ICS)」の議論を進めること、高齢化の進展に伴う課題に関する経験・知見の各国との共有など
  • 国際的な当局間のネットワーク・協力の強化:英国のEU離脱(ブレグジット)に対し日本の金融機関が円滑に対応できるための英国・欧州当局への働きかけ、アジア諸国を含めた二国間協議・監督カレッジ会合などを通じた監督上のネットワークの強化など
  • マネー・ローンダリング/テロ資金供与対応:実効的な態勢整備のための金融機関向けのガイダンスの公表、各金融機関・業態におけるマネー・ローンダリング等のリスクに応じたモニタリングなど

▼筆者:有吉尚哉氏の関連著書
ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕
ファイナンス法大全(下)〔全訂版〕

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