【総解説】休眠預金等活用法 ~ 概要・経緯・目的・実務対応

【総解説】休眠預金等活用法 ~ 概要・経緯・目的・実務対応

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休眠預金等活用法が2018年1月1日に施行された。休眠預金等活用法とはどのような法で、何を目的に作られたのか。休眠預金とは具体的にどのようなものを指すのか。休眠預金活用法の概要から金融機関の実務対応(①移動事由の確定、②預金規定の改定、③預金者等への情報提供)まで弁護士が詳しく解説する。

  1. 休眠預金(睡眠預金)とは
  2. 休眠預金等活用法成立の経緯
  3. 休眠預金等活用法の目的
  4. 休眠預金等活用法における休眠預金等とは
  5. 休眠預金等の発生プロセスとそれに伴う金融機関の対応
  6. 休眠預金等交付金に係る資金の活用
  7. 金融機関における実務対応
  8. 金融機関における実務対応 ①異動事由の確定
  9. 金融機関における実務対応 ②預金規定の改定
  10. 金融機関における実務対応 ③預金者等への情報提供
  11. まとめ

休眠預金(睡眠預金)とは

これまで、払戻しが可能であるにもかかわらず、最終取引日以降一定の期間、異動事由が生じていない預金を、金融機関は休眠預金(睡眠預金)として、利益金に計上するという取扱いを行っていた。休眠預金として利益金に計上される時期は、金融機関ごとに異なっているが、最終取引日から5年または10年とするものが一般的であった。

金融機関は、利益金として計上した後であっても、預金者から払戻しの請求があれば、預金債権等の払戻しに応じており、払戻しがされると、当該預金債権に係る金額が負債の部に再計上されていた。

休眠預金等活用法成立の経緯

休眠預金等活用法成立の経緯

国内の金融機関において利益として計上された休眠預金の額は、例えば、2009年3月期は約846億円、2010年3月期は約883億円、2011年3月期は約882億円であったとされる。そのため、これを有効活用する必要性があるとして、我が国でも休眠預金の資金活用の可能性についての検討が開始された。

当初は、休眠預金を、再生可能エネルギー等の経済的成長分野や人材育成・教育等の社会的成長分野に活用することを念頭に置いた検討が進められていた。

その後、民主党政権から自民党政権に交替し、一時中断したが、2014年に設立された超党派の休眠預金活用推進議員連盟が中心となって法制化へ向けて本格的な検討が継続し、第190回国会に議員立法として法律案が提出され、第192回国会において「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(平成28年法律第101号)(以下「休眠預金等活用法」という。)が成立し、2016年12月9日に公布された。

休眠預金等活用法は、2017年4月24日にその一部が施行されており、2018年1月1日(以下「施行日」という。)に法全体が施行された。実際に同法で定義される「休眠預金」が発生するのは、2019年1月1日以降となる。

休眠預金等活用法の目的

休眠預金等活用法の目的

休眠預金等活用法の目的は、休眠預金等に係る預金者等の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進するために活用することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資することにある(同法第1条)。

諸外国では、休眠預金を国庫帰属させる例もあるとのことだが、休眠預金等活用法は、①預金の公共的役割等に照らし、②「人口急減・超高齢化社会」到来に備えて、休眠預金等を活用することとされた。

休眠預金等活用法における休眠預金等とは

休眠預金等活用法における休眠預金等とは

休眠預金等活用法における休眠預金等とは、預金等であって、当該預金等に係る最終異動日等から10年を経過したものをいう(同法2条6項)。適用対象となる預金等とは、以下のものをいう(休眠預金等活用法2条6項)。

  • 預金保険法における一般預金等(預金保険法第51条第1項に規定する一般預金等をいう。)もしくは決済用預金(同法第51条の2第1項に規定する一般預金等をいう。)
  • 一般貯金等(農水産業協同組合貯金保険法第51条第1項に規定する一般貯金等をいう。)もしくは決済用貯金(同法第51条の2第1項に規定する決済用貯金をいう。)

なお、上記の定義に該当する預金等のうち、勤労者財産形成促進法に規定される財形貯蓄、デリバティブが組み込まれた仕組預金や、いわゆるマル優等は、預金等から除外されている(休眠預金等活用法2条2項、民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)3条)。

最終異動日等とは、下記①から④までの日のうち最も遅い日をいうと定義されている(休眠預金等活用法2条5項)。

  1. 当該預金等に係る異動(休眠預金等活用法2条4項)が最後にあった日
  2. 将来における当該預金等に係る債権の行使が期待される事由として施行規則5条1項各号で定める事由のある預金等にあっては、当該預金等に係る債権の行使が期待される日として同項各号で定める日
  3. 当該預金等に係る金融機関が預金者に対して、公告に先立つ通知を発した日(当該通知が預金者等に到達した場合または到達したものとして取り扱うことが適当である場合として施行規則5条4項で定める場合に限る。)
  4. 当該預金等が預金等に該当することとなった日

休眠預金等の発生プロセスとそれに伴う金融機関の対応

休眠預金等の発生プロセスとそれに伴う金融機関の対応

休眠預金等の発生までの金融機関の対応

金融機関は、最終異動日等から9年を経過した預金等があるときは、当該預金等に係る最終異動日等から10年6月を経過する日までに、当該預金等に係る最終異動日等に関する事項等を公告しなければならない(休眠預金等活用法3条1項)。なお、かかる公告は会社法に規定する電子公告によってしなければならないとされている(施行規則6条)。そのため、これまで電子公告を公告方法として定款に定めていない金融機関は、初回の公告を行うまでに定款を変更する必要がある。

金融機関は、公告に先立ち、当該預金等に係る預金者等に対し、当該預金等に係る金融機関及びその店舗並びに預金等の種別、口座番号等の当該預金等を特定するに足りる事項の通知を発しなければならない(ただし、預金等に係る債権の元本の額が1万円に満たない場合等には、通知は不要である。)(休眠預金等活用法3条2項、施行規則7条)。

また、金融機関は、預金者等から、最終異動日等から9年を経過した預金等に関して、公告の対象とされる事項等についての情報の提供を求められた場合には、その求めに応じなければならない(休眠預金等活用法3条4項)。

休眠預金等の発生による休眠預金等移管金の納付

金融機関は、上記の公告をした日から2か月を経過した休眠預金等があるときは、当該公告をした日から1年を経過する日までに、休眠預金等移管金(その納付の日において現に預金者等が有する当該休眠預金等に係る債権の額に相当する額の金銭をいう。)を預金保険機構に納付しなければならない(休眠預金等活用法4条1項、施行規則9条)。

また、金融機関は、預金保険機構への休眠預金等移管金の納付に際して、休眠預金等移管金に係る休眠預金等に係る預金者等の氏名または名称、預金等の種別、預金等に係る債権の内容その他の当該休眠預金等に係る情報を預金保険機構に対して提供しなければならず(休眠預金等活用法6条1項)、預金保険機構は、預金者等からかかる情報について提供を求められた場合には、その求めに応じなければならない(同条4項)。

休眠預金等代替金の支払対応

休眠預金等移管金の全額の納付があった場合には、納付の日において現に預金者等が有する当該休眠預金等に係る債権は消滅する(休眠預金等活用法7条1項)。もっとも、債権が消滅した休眠預金等の預金者であった者は、預金保険機構に対してその旨を申し出、その際に休眠預金等に係る預貯金通帳や引出用のカード等または預金保険機構が申出のために必要と認める身分証明書等その他の資料を提示することによって、預金保険機構に対して、休眠預金等代替金(休眠預金等に係る債権のうち元本の額に相当する部分の金額に、施行規則において定める利子に相当する金銭を加えた額の金銭をいう。)の支払を請求することができる(同条2項、施行規則13条1項)。

預金保険機構に対する休眠預金等代替金の支払請求に対する支払等業務について、預金保険機構は、休眠預金等移管金を納付した金融機関に対して委託することができ、金融機関は、預金保険機構から委託の申し出を受けたときは、機構との委託契約を締結しなければならない(休眠預金等活用法10条1項、2項)。したがって、実際には、各金融機関が支払等業務を行うことになると考えられる。なお、預金保険機構から委託を受けて支払等業務を行う金融機関がある場合には、預金者等は、休眠預金等に係る情報の提供の請求についても、当該金融機関を通じて行わなければならない(同法6条5項)。

金融機関は、預金者であった者による預金保険機構に対する申出について、あらかじめ委任を受けることができないが、休眠預金等に係る債権の消滅がなかったとしたならば異動に該当することとなる事由または休眠預金等代替金に係る債権の行使が期待される事由として施行規則15条1項で定める事由が生じたことを条件として、あらかじめ委任を受けることができるとされている(休眠預金等活用法7条3項)。

なお、預金保険機構から委託を受けた金融機関を通じて休眠預金等代替金の支払の請求がされた場合には、預金者等であった者は、金融機関の同意を得ることで、休眠預金等移管金の納付による債権の消滅がなかったとすれば、休眠預金等代替金の支払の日において当該預金者等であった者が有していた預金債権を取得する方法によって、休眠預金等代替金の支払を受けることができる(施行規則13条2項)。金融機関としては、預金者等であった者が有していた預金債権を取得させる方法によって、休眠預金等代替金の支払をすることが簡便であると考えるのであれば、かかる方法による支払を促すような運用を検討すべきであろう。

休眠預金等交付金に係る資金の活用

休眠預金等交付金に係る資金の活用

休眠預金等活用法は、休眠預金等交付金(内閣総理大臣の認可を受けた事業計画の実施に必要な金額として内閣府令・財務省令で定める金額をいう。)に係る資金の活用の基本理念について、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるものに活用されるものとする(同法16条)。

公益に資する活動としては、子ども及び若者の支援に係る活動、日常生活または社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動、地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動等が挙げられている(休眠預金等活用法17条1項)。

内閣総理大臣が指定する指定活用団体は、預金保険機構から交付を受けた休眠預金等交付金によって、民間公益活動を行う団体に助成等を行う団体に対して、必要な資金の助成または貸付けを行う。

なお、本稿執筆時点において、「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針(案)」が公表され、2018年2月9日から同年3月10日までの期間でパブリックコメントの手続に付されている。

金融機関における実務対応

金融機関における実務対応

休眠預金等活用法においては、休眠預金等の要件と関係する異動事由や最終異動日等の内容について、預金規定による合意や開示に委ねている点があるため、必要があれば預金規定の内容を改訂する必要がある等の実務対応が必要となる。

既に多くの金融機関が以下のような対応を行った上で、その内容をウェブサイトにおいて公表しているが、本稿では、休眠預金等活用法において求められている金融機関の実務対応を改めて概観する。

金融機関における実務対応 ①異動事由の確定

金融機関における実務対応 ①異動事由の確定

預金等に係る異動が最後にあった日が最終異動日等に該当するとされているため、休眠預金等活用法における「異動」とは、休眠預金の発生を基礎づける重要な概念である。異動に該当する事由は、預金等に係る預金者等が当該預金等を利用する意思を表示したものと認められる事由として施行規則4条2項各号で定める事由(法定異動事由)と、法定異動事由に準ずるものとして施行規則4条3項各号で定める事由のうち、預金等に係る金融機関が、この法律に基づく業務を円滑に実施するため法定異動事由と同様に取り扱うことが必要かつ適当なものとして、行政庁の認可を受けた事由(認可異動事由)が挙げられている(休眠預金等活用法2条4項)。

金融機関としては、各金融機関における認可異動事由として列挙されているものうち、異動事由とする必要があるものがあれば、行政庁の認可を受ける必要がある。異動事由を増やすことは、金融機関にとって管理の負担が増す反面、休眠預金等が生ずることを防ぐことにつながる。

なお、認可異動事由についての認可申請書に、認可を受けようとする認可異動事由の預金者等への開示の方法を記載しなければならないとされており(施行規則4条4項3号)、その開示が適切に行われることについて審査が行われる(同条5項3号)。この開示については、インターネットへの掲載や預金規定等への記載等、預金者等が常に確認できる開示の方法が適当であるとされているため、各金融機関は認可を受けようとする認可異動事由について、ウェブサイトに掲載することや各預金規定に規定を設けるといった対応を行う必要がある。

金融機関における実務対応 ②預金規定の改定

金融機関における実務対応 ②預金規定の改定

検討されるべき預金規定の改定内容

以下の内容を預金規定において定めるための預金規定の改定を検討する必要がある。特に異動事由や最終異動日等の定義については、施行日後直ちに問題となり得る。金融機関としては、施行日までに預金規定の内容を変更しておくことが望ましい。そのため、既に多くの金融機関が休眠預金等活用法に対応するための預金規定の改定を行っている。

① 最終異動日等

最終異動日等の定義については、上記2(2)のとおりであるが、そのうちの②については、施行規則5条1項各号に定める日のうち、金融機関と預金者が当該日を最終異動日等として取り扱わないことを合意した場合には、最終異動日等に該当しないこととされている(同条2項)。金融機関としては、最終異動日等として取り扱わないことを希望する事由があれば、預金規定においてその旨を定めるための条項を規定する必要がある。

なお、例えば、普通預金と定期預金を組み合わせた総合口座のように、複数の預金を組み合わせた商品に係る預金等において、預金者の合意がある場合には、施行規則5条1項1号から5号までで規定されている最終異動日等とする事由が当該商品のうち一の預金等に生じた場合には、他の預金にも最終異動日等が生じたものとして取り扱うことができるとされているため(施行規則5条1項6号)、この点についても預金規定において条項を設けることが検討されるべきである。

② 休眠預金等代替金の支払に係る預金保険機構への申出のあらかじめの委任のための合意事項

金融機関が預金保険機構に対して休眠預金等移管金を納付し、休眠預金等に係る債権が消滅した場合に、当該休眠預金等について預金者であった者は、その旨を申し出ることで、休眠預金等代替金の支払を請求することができるが、金融機関は、原則として、この申出について預金者等からあらかじめ委任を受けることはできない(休眠預金等活用法7条3項本文)。

もっとも、休眠預金等に係る債権の消滅がなかったとすれば異動に該当することとなる事由または休眠預金等代替金債権の行使が期待される事由として施行規則15条1項及び2項に規定する事由が生じたことを条件とした場合に限り、あらかじめ委任を受けることができるとされている(休眠預金等活用法7条3項ただし書)。

これによって金融機関があらかじめ委任を受ける場合には、預金者等に預金債権を取得させる方法によって休眠預金等代替金の支払をすること等の施行規則15条3項各号の要件を全て充たす場合に限り、休眠預金等代替金の支払に係る申出をする旨を約さなければならない。これらの委任等についても、預金規定において預金者等と合意することが想定される。

③ 電子メールにより公告に先立つ通知を行うことについての預金者等の承諾

金融機関は、最終異動日等から9年を経過した預金等があるときは、当該預金等に係る最終異動日等から10年6月を経過する日までに、当該預金等に係る最終異動日等に関する事項等を公告しなければならず、かつ、これに先立ち、当該預金等に係る預金者等に対し、当該預金等を特定するに足りる事項の通知を発しなければならない。この通知については、原則として郵送であるが、預金者等の承諾を得れば、電子メールを送信する方法によることができるとされる(施行規則7条1項)。

電子メールの送信による通知を希望する場合には、新規の顧客については、口座開設時に預金者等が届け出た電子メールアドレスに対して通知をする旨の条項を預金規定中に設けておくことによって、預金者等の承諾を得ることが考えられる。なお、既存の預金者等については、個別に連絡をとり、承諾を得る方法が想定されているが、電子メールアドレスを把握していない場合も少なくないであろうから、このような方法によらざるを得ないであろう。

既存の預金者等の間での預金規定の改定方法

上記の内容について預金規定を改定する場合に、既に締結済みの預金契約に係る預金者等との関係では、預金者等から個別に承諾を得ることなく預金者等を改定後の預金規定をもって拘束することができるか否かが問題となるが、この問題については、一般的な約款の変更に関する考え方に従って判断されることになる。

裁判例では、既存の預金者等の同意を得ていなくても、当該預金者等との預金規定に基づく契約内容を金融機関が一方的に変更することができる場合があることが既に認められているところである(福岡高判平成28年10月4日金法2052号90頁。上告受理棄却後に確定)。

したがって、休眠預金等活用法の施行のための預金規定の改定を預金者等の同意を得ずに行うことも、その効力が認められる余地はあると考えられるが、少なくとも、変更の効力発生前に変更内容等について周知を行い、周知から効力発生までに十分な期間をおくことが望ましいと考えられる。

金融機関における実務対応 ③預金者等への情報提供

金融機関における実務対応 ③預金者等への情報提供

休眠預金等活用法においては、①最終異動日等から9年を経過した預金等に関して預金者等から情報提供の求めがあった場合(同法3条4項)と、②休眠預金等に関して預金者等から情報提供の求めがあった場合(同法6条4項、5項)に、金融機関(②については、預金保険機構から支払等業務の委託を受けた金融機関)がその求めに応じて、情報提供をしなければならないとされている。

金融機関としては、情報提供の求めを受けた場合における行内の対応方法の策定が必要となる。

まとめ

従来は、金融機関は、利益金計上する休眠預金に該当するか否かは各金融機関のルールに従って判断すればよかったが、今後は、休眠預金等活用法の内容に従って預金の管理を行う必要がある。

実際に休眠預金等が発生するのは、2019年1月1日以降であるが、施行日以降は、休眠預金等活用法に基づいて、預金等についての異動事由と最終異動日等の管理等が求められている。各金融機関においては、従来の行内ルールと休眠預金等活用法との異同を正確に把握し、管理に遺漏がないようにご留意いただきたい。

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