カジノ法案(IR整備法)成立!カジノ事業の規制を弁護士が解説

カジノ法案(IR整備法)成立!カジノ事業の規制を弁護士が解説

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IR推進法の成立から約1年半、2018年7月20日にIR整備法が成立した。早ければ2024年頃には最初のIR施設が開業する。依存症やマネーロンダリング等への対策から、カジノ事業には様々な規制が課されるため、その理解は容易ではない。本稿は、カジノ事業の規制を中心に、カジノ法案(IR整備法)について弁護士が総解説する。

  1. IR整備法成立の経緯
  2. 今後の手続の流れ
  3. カジノ事業規制① カジノへの入場規制と入場料
  4. カジノ事業規制② カジノ事業者の業務規制
  5. カジノ事業規制③ カジノ関連機器等の製造業者等の規制および型式検定等
  6. 今後の展望

IR整備法成立の経緯

2018年7月20日、特定複合観光施設区域整備法(以下「IR整備法」という)が成立し、同月27日に公布された。2016年末に成立した特定複合観光施設の整備の推進に関する法律(以下「IR推進法」という)で予定されていた「同法施行後1年以内」よりも約半年遅れで成立したことになる。

IR整備法の施行日は、原則として公布日から起算して3年を超えない政令で定める日であるが、いつくかの例外があり、カジノ管理委員会の設立準備に関する規定は公布日から、第1章(総則)の規定は公布日から起算して9ヶ月を超えない政令で定める日から、特定複合観光施設(以下「IR」という)に関する第2章等の規定は公布日から起算して2年を超えない政令で定める日から、それぞれ施行される。

IR推進法成立当時、最初のIR開業は、2020年東京五輪開催には間に合わないとしても、2022年頃と見込まれていたが、現在では、最初のIR開業は早くても2024年頃の見通しである。

>> どうなるカジノ法?IR推進法とIR開業の今後を弁護士が解説

今後の手続の流れ

Step:1 都道府県等によるIR事業者の選定

IR整備法に基づき、国交大臣がIR整備のための「基本方針」を定める。国交大臣による区域整備計画の認定(以下「IR認定」という)を希望する都道府県または政令指定都市(以下「都道府県等」という)は、基本方針に基づき、IRの設置運営事業のみを行う民間事業者(会社法上の会社であり、典型的には株式会社や合同会社が想定される。以下「IR事業者」という。)の募集・選定に関する事項等を含む「実施方針」を定めたうえで、IR事業者を公募・選定する。

なお、IR事業者がIR施設を所有しない場合は、IR事業者に対する施設供用事業を行う施設供用事業者を含む。以下同じ)の募集・選定に関する事項等を含む「実施方針」を定めたうえで、IR事業者を公募・選定する。

IR事業者がIR施設を所有しない場合には、IR事業者に対する施設供用事業を行う施設供用事業者も公募・選定されるIR事業者に含まれる。

かかる選定の段階では、都道府県等の長、立地市町村等の長、公安委員会、都道府県等の住民、学識経験者等から構成される協議会または(協議会が組織されていない場合は)立地市町村等および公安委員会と協議すれば足りる。

Step:2 国交大臣によるIR認定

選定されたIR事業者および選定した都道府県等は共同して、IRの事業基本計画(IRの設置運営事業等の基本事項について定めるものであり、IR事業者が作成する案に基づいて作成されなければならない)等を含む「区域整備計画」を作成して、国交大臣にIR認定を申請する。

都道府県等は、区域整備計画を作成するために、協議会または立地市町村等および公安委員会と協議する必要があるほか、公聴会の開催その他住民の意見を反映させるために必要な措置を講じる必要がある。

また、国交大臣にIR認定を申請するために、都道府県等は、その議会の議決を経て、(都道府県の場合)IRを整備する区域を含む市町村等の同意を得なければならない。当初認定されるIRの区域整備計画の上限数は3である(但し、7年後に見直される可能性あり)。区域整備計画の認定の当初有効期間は10年であり、更新後の有効期間は5年である。

国交大臣からIR認定された都道府県等(以下「認定都道府県等」という)およびIR事業者(以下「認定IR事業者」という)は、IR認定後速やかに、国交大臣の認可を得て、実施協定を締結する。IRの営業開始時期については、認定IR事業者が、認定都道府県等の同意を得て国交大臣に届け出る。

認定IR事業者は、各事業年度毎に事業計画を作成し、認定都道府県等の同意を得て国交大臣に届け出るほか、各事業年度毎に財務報告書、その適正性の確認書および財務報告に係る内部統制報告書等を、4半期毎に四半期報告書を、それぞれ、認定都道府県等の同意を得て国交大臣に提出する。

国交大臣は、認定IR事業者に対して必要に応じて報告や資料の提出要求や指示ができるほか、認定都道府県等に対しても必要に応じて報告や認定区域整備計画の的確な実施のために必要な措置を講じることを求め、当該計画の実施のために特に必要な場合には指示もできる。また、国交大臣は、毎年度、基本方針に即して、認定区域整備計画の実施状況について評価を行い、その結果を公表する。

Step:3 カジノ管理委員会によるカジノ事業の免許付与

認定IR事業者は、カジノ管理委員会へ申請してカジノ事業の免許が付与されれば、当該免許に係る種類・方法のカジノ行為に係るカジノ事業を行うことができ(以下かかる資格において「カジノ事業者」という)、その場合、刑法の賭博罪・常習賭博罪・賭博場開帳等図利罪の規定は適用されない。免許の当初有効期間、更新後の有効期間はいずれも3年である。

カジノ事業者は、カジノ免許に係るカジノ施設の工事が完成したときは、その施設および使用しようとするカジノ関連機器等についてカジノ管理委員会の検査に合格しなければならず、カジノ営業を開始したときには、遅滞なくその旨をカジノ委員会に届け出る必要がある。

また、カジノ事業者は、その主要株主等(議決権だけでなく株式や持分の5%以上の保有者をいう。反社会的勢力等にカジノ由来の収益が流れることを防止するために、議決権だけでなく株式や持分の保有割合も算定の基礎としている)についてカジノ委員会の認可を得なければならない(カジノ事業の免許の申請書に記載された主要株主等は、当該免許時にかかる認可を得たとみなされる)。

また、カジノ事業の従業者についても、カジノ事業に影響を及ぼすとともに、カジノ収益の一部を報酬として受領する者であるから、担当する業務内容のカジノ事業への影響の程度に応じて、管理職、ディーラー、キャッシャー等のカジノ事業に重大な影響を及ぼす業務(特定カジノ業務)については、カジノ管理委員会の確認を受けないと業務に従事させることができない反面、それ以外のカジノ業務またはカジノ行為区画内関連業務に従事させた者については、カジノ事業者が廉潔性を調査して、カジノ管理委員会へ届出を行えば足りる。

なお、カジノ施設供用事業者がいる場合は、カジノ事業者によるカジノ事業の免許申請と同時に、カジノ施設供用事業者によるカジノ施設供用事業の免許もカジノ管理委員会に申請しなければならず、カジノ施設供用事業者にも、カジノ事業者に準じて、カジノ管理委員会による主要株主の認可、カジノ施設完成時の検査、従業者の規制(「特定カジノ業務」に相当する「特定カジノ施設供用業務」に従事する従業員についてはカジノ管理委員会の確認必要)等が適用される。

また、カジノ事業の免許を受けたIRの土地に関する所有権等を取得・継続保有等する者(施設土地権利者)は、カジノ管理委員会の認可を受ける必要があるが、カジノ事業の免許申請書に記載されていれば、カジノ事業の免許付与時にかかる認可も受けたものとみなされる。なお、カジノ事業者は、カジノ行為粗収益(GGR)に連動した金額を支払う契約を締結することができないため、施設・土地の賃料は定額とする必要がある。

今後の手続きの流れ

カジノ事業規制① カジノへの入場規制と入場料

青少年の健全育成、カジノへの依存防止、マネーロンダリング対策等の観点から、カジノ事業者は、20歳未満の者、暴力団員(それ以外の反社会的勢力等は、その範囲が必ずしも明確でないため、法令ではなく、カジノ施設利用約款で入場を禁止することが見込まれている)、過去7日間に3回以上または28日間に10回以上カジノ施設に入場した者(カジノ施設への入場回数は、カジノ管理委員会が集計し、カジノ事業者が同委員会へ照会してこれを確認する)ら入場禁止対象者をカジノ施設へ入場・滞在させることが禁止されており、かかる入場規制の実効性を担保するために、顧客の入退場時にマイナンバーカード等(非居住者や短期在留者以外はマイナンバーカード使用が義務付けられる)による本人確認が行われる。

また、カジノ施設へ頻繁に出入りしやすい日本人と居住者外国人については、カジノ施設への安易な入場を抑止する等の観点から、1回(24時間)あたり6,000円(国3,000円、都道府県等3,000円)の入場料が賦課される。

カジノ事業規制② カジノ事業者の業務規制

カジノ業務

カジノ事業者がカジノ施設で行うことができるのは、「カジノ業務」および「カジノ行為区画内関連業務」のみであり、「カジノ業務」は、さらに、カジノ行為をカジノ事業者と顧客または顧客相互で行わせる「カジノ行為業務」および「特定金融業務」からなる。

「カジノ行為」は、刑法上の賭博の意義にならい「偶然の事情により金銭の得喪を争う行為」と定義されており、(抽選の方法により、くじ発売者が利益得喪の危険を負わない)くじ類は含まれず、また、「同一施設において、その場所に設置された機器又は用具を用い」る行為に限定されていることから、カジノ施設外から参加できるオンラインゲームや他者が実施する競技等を対象とするスポーツベティング等はこれに含まれないと考えられる。

① カジノ行為業務

カジノ行為は、カジノ行為区画のうち、通路や飲食スペースを含まず、専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会規則で定める部分(以下「ゲーミング区域」という)で行う必要がある。

なお、カジノ依存症防止等の観点から、カジノ施設の規模の上限が政令で定められる予定であるが、シンガポールの例にならい、ゲーミング区域の面積はIR施設の延べ床面積の3%までとされる見込みである。カジノ事業者は、顧客とカジノ行為を行う場合、その得喪を争う金銭に代えてチップを使用する必要があるが、依存症防止の観点から、非居住者外国人のみがクレジットカードでチップを購入でき、それ以外の者は現金で購入しなければならない。

また、マネーロンダリング対策や依存症防止の観点から、顧客によるチップの第三者への譲渡やカジノ行為区画以外への持ち出しは禁止される。

② 特定金融業務

マネーロンダリング対策から、カジノ事業者による顧客の資金移動は、銀行等の金融機関を介し、かつ、カジノ事業者が管理する当該顧客名義の口座と当該顧客が指定する当該顧客名義の預貯金口座との間でしかできない。

また、カジノ依存症防止の観点から、カジノ事業者は、非居住者外国人およびカジノ管理委員会が定める一定金額以上の金銭を預託する資力がある顧客に対してしか金銭の貸付ができず、さらに、過剰貸付を防止するため、貸金業法を参考に顧客の返済能力を調査して、顧客毎の貸付限度額を定める必要がある。

カジノ行為区画内関連業務

カジノ施設の厳格な入場管理の徹底やカジノ事業の健全な運営の確保の観点から、カジノ事業者は、カジノ管理委員会の承認を受けたカジノ行為区画内関連業務のみ行うことができ、その内容も、善良な風俗の保持等の観点から、風営法上の顧客の接待を伴わない飲食物の提供業務や歌謡ショーその他の興業業務、物品の給付業務に限定される。

また、カジノ施設における物品の給付および役務の提供は、カジノ事業者のほか、カジノ管理委員会の認可を受けたカジノ事業者からの業務(再)受託者しか行うことができない。

業務委託および契約締結の制限

カジノ事業が本来違法である賭博行為を例外的特権として認めるものであり、厳格な審査を経てカジノ事業の免許が付与されることを踏まえて、その趣旨を潜脱しないために、カジノ事業の第三者への委託は原則として禁止される。

もっとも、カジノ事業のうちカジノ行為の実施等の中核的な行為以外の行為(カジノ関連機器の保守・修理その他の管理、顧客への金銭貸付契約に基づく債権取立等)に係る業務の委託は、専門性や効率性の観点から業務委託の必要性があり、かつ、カジノ事業の健全な運営に及ぼす影響も少ないことから、例外的に認められる。

その場合でも、業務受託者の社会的信用性等一定の適格要件が充たされており、締結する業務委託契約についてカジノ管理委員会の認可を得て、かつ、カジノ管理委員会の定める当該委託業務の適切な遂行を確保するために必要な措置が講じられて、はじめて、かかる業務委託を行うことができる。

また、カジノ事業者は、業務委託以外でも、契約の相手方の社会的信用性等一定の適格要件が充たされた契約以外の契約を締結することができず、特にカジノ業務やカジノ行為区画内関連業務に係る契約、業務に係る資金調達に係る契約その他カジノ管理委員会の定める契約の期間や金額を超える契約を締結する場合には、カジノ管理委員会の認可を受ける必要があり、かかる認可を受けないで締結した契約は無効である。

その他の業務規制

広告および勧誘の規制

カジノ依存防止や善良の風俗・清浄な風俗環境の保持等の観点から、何人も、虚偽・誇大な広告等、不適切なカジノ事業やカジノ施設の広告・勧誘をすることは許されない。また、IR地域以外でカジノ事業やカジノ施設の広告・勧誘をすることは許されず、特に20歳未満の者に対しては、IR地域の内外を問わず、カジノ事業やカジノ施設のビラ等を頒布したり、勧誘したりすることは許されない。

また、何人も、相手方がカジノ施設を利用しない旨意思表示した場合の再勧誘は禁止される。そのほか、カジノ管理委員会が示す広告勧誘指針を遵守して、広告・勧誘が過度にわたらないことが必要である。

コンプ(景品)等の規制

カジノ事業者またはその他の事業者は、その内容、経済的価値または提供方法が善良の風俗を害するおそれがあるカジノ行為関連景品類(コンプ)を提供することが禁止される。

カジノ事業者は、カジノ行為関連景品類を提供しまたはチップと交換したときは、その記録を作成・保存する義務がある。また、マネーロンダリング防止の観点から、カジノ事業者は、顧客との間で、カジノ業務に係る取引のうち、チップ等の交換で政令で定める額を超える現金の受払いをしたときは、遅滞なく、カジノ管理委員会へ報告する義務がある。

国庫納付金および認定都道府県等納付金

カジノ事業者は、毎月、国庫納付金として、顧客から交付等を受けたチップの価額から顧客に対して交付等をしたチップの価額を減じた金額に顧客相互間のカジノ行為により得た利益相当額(「カジノ行為粗収益」ないし「GGR」)の15%に加えて、さらに一定の行政経費額とを合計した金額を国に対して納付しなければならず、また、GGRの15%の金額の認定都道府県等納付金を、国を通じて認定都道府県等に納付しなければならない。

カジノ事業規制③ カジノ関連機器等の製造業者等の規制および型式検定等

カジノ関連機器等の製造業者等は、ゲーミングの公正性やカジノ事業の健全な運営に重大な影響を及ぼすおそれがあり、かつ、カジノ事業者に対するカジノ関連機器等の継続的な供給等を通じてカジノ収益を受領する者であることから、高い廉潔性を確保するために、カジノ管理委員会の許可を得る必要があり、従業員についても一定の規制が課せられる。

また、不正なカジノ行為を防止し、カジノ関連機器等の品質や性能等を確保する必要があるが、スロットマシーン等の電磁的カジノ関連機器等については、プログラム化されており、外形的にその品質や性能等を確認することが困難でありかつ大量に生産されることから、行政の効率も考えて、カジノ管理委員会が個々の機器を確認するのではなく、指定試験機関を通じて品目毎に型式の検定を行うことにより基準適合性を確認する。

他方、サイコロ、カード等の電磁的カジノ関連機器等については、外形的にその性能を確認することが可能であるから、製造業者等自らその性能を確認して、その結果をカジノ管理委員会に届け出る。

IR/カジノ施設の構造

今後の展望

当初のIR認定数が最大3箇所と限定されているため、IR認定を得るための競争は熾烈であることが予想される反面、認定された場合に得られる先行者メリットもまた大きいと考えられる。

そのための第一歩として、まずは地公体からIR事業者として認定されるための有力なコンソーシアムの組成および魅力ある事業基本計画案の策定が重要になるが、最終的なIR認定は国が行うことを忘れずに、地域の特性やニーズにも十分配慮しつつ、いかに国際競争力の高い魅力あるプロジェクトを策定してアピールしていけるかがポイントになるであろう。

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