- 金融実務上、ポイントとなる主な施策④ 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保
- 金融実務上、ポイントとなる主な施策⑤ 顧客の信頼感・安心感の確保顧客の信頼感・安心感の確保
- 金融実務上、ポイントとなる主な施策⑥ 世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化
金融実務上、ポイントとなる主な施策④ 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保
金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保という観点からは、まず、総論的に「我が国金融システムの現状と評価」が述べられており、その中で、本邦金融機関には、健全性を維持する観点から、以下の3つの課題があると述べられている。
- 持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス発揮への対応
- 長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応
- 経済・市場環境の急激な変化への対応
その上で、業態ごとの課題・実績・方針がまとめられている。
(1) 銀行
平成29事務年度の金融行政方針と同様、各金融業態の中で地域金融機関について最も多くの記述がなされている。地域金融や地域金融機関に関する記載内容は多岐にわたるが、主な取組みとして次のような項目が挙げられている。
- 将来にわたって健全性を維持する観点から、(a)持続可能なビジネスモデルの構築、(b)長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応、(c)経済・市場環境の急激な変化への対応という点が地域金融機関において確保されるようモニタリングを行うこと
- 専担チーム「地域生産性向上支援チーム」を組成し、地域経済・企業の実態について、きめ細かく把握すること
- 経営陣等や営業現場の責任者等を含め、地域金融機関との間で金融仲介機能の発揮に向けた深度ある対話を行うこと
- 「経営者保証に関するガイドライン」について、優良な組織的取組事例等を横展開することやQ&Aの改正等の環境整備により、ガイドラインの活用を促すこと
- 金融機関と事業引継ぎ支援センターの連携を強化すること等により、金融機関による積極的な事業承継支援を促すこと
- 適切な経営とガバナンスの発揮に向けて、社外役員を含む経営陣と経営やガバナンス(有効な内部監査を含む)について深度ある対話を行うこと
- 地域金融機関が、必要なアドバイスと適切なファイナンスを提供し、地域企業の生産性向上や地域経済の活性化に貢献できるよう、業務範囲等に関する規制緩和について、検討すること
- 地域金融機関の経営統合にかかる銀行法上の認可に当たって、同一地域内の経営統合において不当な金利の引上げ・その他融資条件の悪化といった寡占・独占の弊害が生じ得る場合、金融機関による弊害防止措置や、将来にわたる地域の金融インフラ確保、地域企業・経済の成長・発展への貢献にかかる金融機関の取組方針・コミットメントを審査し、事後的にも、検査・監督を通じ、弊害の状況や地域経済への貢献の進捗をモニタリングしていくこと
- 競争のあり方についての政府全体での検討に当たって、金融サービスの特性を踏まえつつ、地域の金融インフラの確保や地域の企業・住民にとってより質の高い金融サービスの提供につながるような競争を実現する観点から、議論に貢献していくこと
他方、大手銀行グループについては、健全性モニタリングの水平的レビューの対象を、昨事務年度までの3メガバンクグループから大手銀行7グループ(※)に拡大するとした上で、「持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス」、「長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応」、「グローバルな経済・市場環境の急激な変化への対応」の観点から、金融庁と金融機関との対話における着眼点を示している。
みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、ゆうちょ銀行の7グループを意味している。
対話における着眼点 | |
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持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス |
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長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応 |
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グローバルな経済・市場環境の急激な変化への対応 |
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銀行関連の業態に関しては、このほか、他業態からの銀行業への参入や関与の強化の動きがある中、銀行業として独立したビジネスモデルの構築やグループ内の他の事業リスクからの遮断、個人情報の適切な取扱い等の利用者保護等が適切に確保されているかについて確認することや、平成30年6月1日より受付を開始した電子決済等代行業者の登録審査にあたり、イノベーションを阻害しないよう配慮しつつ、特に、個人情報の漏洩、誤送金に関わるシステム管理態勢に着眼して審査を実施することが述べられている。
(2) 保険会社
保険会社に関しては、金融行政上の課題として以下のような点を指摘しており、こうした諸課題への対応に当たって経営全般についてガバナンスが有効に機能することが重要としている。
- 顧客ニーズ等に相応しい商品・サービスの開発、情報提供、販売・推奨等を通じて、顧客の最善の利益の追求を図ること
- 顧客が自らのニーズに適った適切な選択をなし得る環境を整備すること
- 保険会社を取り巻くリスクの変化に対応したリスク管理態勢や資産運用態勢を構築すること
- 新たな保険ニーズが出現する可能性があるなど、経営環境の変化に対応していくこと
その上で、以下の3つの観点から平成30事務年度の方針をまとめており、主な方針として以下の事項があげられている。
主な行政方針 | |
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顧客本位の業務運営 |
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保険会社を取り巻くリスク等に関するモニタリング |
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持続可能なビジネスモデルの構築・ガバナンス |
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PRIIPs(Packaged Retail and Insurance based Investment Products)規制とは、金融商品間の比較可能性を確保するため、各金融商品の主要な情報(リスクの程度、パフォーマンスシナリオに基づく商品のパフォーマンス等)を記載した文書(KID:Key Information Document)の作成・開示義務を金融商品の販売会社等に課すもの。
(3) 金融商品取引業者等
金融商品取引業者等については、①大手証券会社、②その他の証券会社、③外国為替証拠金取引業者(FX業者)、④投資運用業者、⑤第二種金融商品取引業者、⑥適格機関投資家等特例業務届出者、⑦信用格付業者に分けて課題や方針がまとめられている。
このうち、大手証券会社については、(a)金融ビジネスの環境の変化に対応したガバナンス機能の発揮について、社外役員を含め、経営陣等との深度ある対話を中心にモニタリングを継続すること、(b)営業店のマーケット環境や顧客属性の違いに応じて、例えば、営業員のスキル・意識の不足や、顧客の理解・信頼を得られていないこと、あるいは、営業店ごとの顧客の属性や競争環境等を踏まえた営業員の配置となっていないこと等の課題を特定し、それを解決するために必要な施策を実施していくこと等の課題を特定し、それを解決するための取組みなどの実施状況の確認に重点を置いて、モニタリングを継続すること、(c)IPOにおいて、業態・業種に応じた引受審査の更なる品質向上に向けた取組みを促すため、証券会社の引受審査の状況についてモニタリングを継続することといった方針がまとめられている。
その他の金融商品取引業者等については業態ごとに主に以下のような方針が述べられている。
業態 | 主な行政方針 |
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地域の中核証券会社・課題についての解決策を見いだせていない証券会社 |
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ネット系証券会社 |
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外国為替証拠金取引業者(FX業者) |
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投資運用業者 |
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第二種金融商品取引業者 |
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適格機関投資家等特例業務届出者 |
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信用格付業者 |
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(4) 外国金融機関
外国金融機関に関する平成30事務年度の方針としては、以下の内容などが言及されている。
- 外国金融機関の本部・日本拠点との対話を通じて、これらの態勢についてのベストプラクティスを収集し、我が国の金融システムの発展にも活用すること
- 本邦金融機関等向けに販売する商品の動向や当該商品のリスクについて検証すること
- 必要に応じ、監督カレッジ等を通じグローバル本部や母国当局に対しても適切な対応を求めること
- 平成31年の総損失吸収力(TLAC)国際規制の実施を踏まえ、当局及びG-SIBsの対応能力を強化すること
金融実務上、ポイントとなる主な施策⑤ 顧客の信頼感・安心感の確保
顧客の信頼感・安心感の確保という観点からは、「金融機関の行為・規律に関する課題と取組み」、「仮想通貨(暗号資産)」、「その他の重点施策」の3項目に分けて課題・実績・方針がまとめられている。
この中では、特に仮想通貨(暗号資産)に関する課題や方針が独立の項目として整理されていることが注目される。
金融機関の行為・規律に関する課題と取組み
金融機関の行為・規律に関する課題と取組みとしては、「コンプライアンス・リスク管理上の課題と取組み」、「内部監査の高度化」、「投資用不動産向け融資」、「金融機関のシステムモニタリング」の4項目について、行政方針が述べられている。
コンプライアンス・リスク管理上の課題と取組み
コンプライアンス・リスク管理については、リスク要因やその程度を業態横断的に把握・評価し、リスクの程度に応じてメリハリを付けたモニタリングを行うとしている。
その上で、モニタリングに際して、以下のような方針を述べられている。
- 個々の金融機関のビジネスモデル・経営戦略、業務運営及び組織態勢を踏まえた分析や、当局の問題意識を踏まえた金融機関との対話・議論を行うことを通じて、互いのリスク認識を共有・深化させること
- 個々の金融機関において生じた問題の根本要因を把握すること等を通じ、その要因が他の金融機関・業態においても広がりをもって問題として生じる可能性も考慮すること
- 非金融系企業グループについて、グループ横断的なリスクに関する実態把握を行うこと
内部監査の高度化
金融機関の内部監査については、リスクベースかつフォワードルッキングな観点から内部監査の使命を適切に果たすことが必要であると指摘し、以下のような取組みを促すことで、内部監査を高度化していくことが求められているとしている。
- 事後チェック型監査からフォワードルッキング型監査への転換
- 準拠性監査から経営監査への転換
- 部分監査から全体監査への転換
- 内部監査態勢の整備
- 三様監査(内部監査、監査役会等監査、外部監査)及び当局との連携
このような課題を踏まえて、内部監査の高度化に向けた意見交換を実施していくことが方針として掲げられている。
投資用不動産向け融資
アパート・マンションやシェアハウス等を対象とした投資用不動産向け融資については、入居率や賃料、顧客の財産や収入の状況等についての改ざんや融資商品・預金・保険商品等の抱き合わせ販売のような問題事例が確認されたことを踏まえたモニタリングの方針が掲げられている。
具体的には、①融資審査・管理態勢、②顧客保護等管理態勢、③法令等遵守態勢を中心に、横断的なアンケート調査を行い、深度あるモニタリングを実施するとされている。
この点に関連して、平成30年3月27日に金融庁、消費者庁、国土交通省より公表されていた「アパート等のサブリースの契約を検討されている方」に向けた注意喚起文について、サブリース契約を伴う投資用不動産向け融資を受ける際の注意点を加えるなどの修正を行ったものが、同年10月26日に公表されている。
金融機関のシステムモニタリング
金融機関のシステムモニタリングとしては、特に①システム統合・更改等の予定がある金融機関に対して、オン・オフのモニタリングを行っていくことや、②ITガバナンス強化の観点から、金融機関との対話のための論点・プラクティスの整理を進めつつ、金融機関の管理能力向上をサポートするようなモニタリングに努めていくことが言及されている。
仮想通貨(暗号資産)
仮想通貨(暗号資産)については、価格の乱高下、Initial Coin Offering(ICO)などの新たな取引の登場、顧客からの預り資産の外部流出事案の発生など、内外の環境が急速に変化していることを踏まえ、業者における実効性のある態勢整備及び適切な業務運営の確保のほか、国際的な連携、必要な制度的対応の検討等に取り組んでいく必要があることが課題として指摘されている。
その上で、仮想通貨交換業者の登録審査・モニタリングについて業者の状況に応じて以下のような方針が示されている。
新規登録申請業者 |
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みなし業者 |
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登録業者 |
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無登録業者 |
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また、平成30年3月に設立された日本仮想通貨交換業協会による自主規制団体の認定申請について、厳格に審査を実施し、認定した場合には、認定団体による自主規制機能の発揮状況等につき、モニタリングを実施するとしている。
なお、日本仮想通貨交換業協会は、平成30年10月24日付で資金決済に関する法律87条に基づく認定資金決済事業者協会の認定を受け、自主規制団体としての活動を開始している 。
国際的な取組みとしては、仮想通貨(暗号資産)分野における我が国のこれまでの業者監督等における知見・経験等を活かし、FSB・FATF・IOSCO等での国際的な議論に積極的に参画するとともに、各国当局・国際機関等との連携を行うことが述べられている。
加えて、平成30年3月に設置された「仮想通貨交換業等に関する研究会」で仮想通貨交換業を巡る問題、仮想通貨(暗号資産)を用いた証拠金取引や資金調達的な取引について、必要な制度的対応を検討することも明記している。同研究会は、同年11月26日までに10回の会合を開催し、仮想通貨交換業やInitial Coin Offeringに関する規制のあり方などについての審議を進めている 。
その他の重点施策
その他の重点施策として以下の項目が挙げられている。いずれも平成29事務年度の金融行政方針に含まれていた内容を基本的に踏襲したものと考えられる。
- 訪日外国人の利便性向上
- 障がい者等の利便性向上
- 銀行カードローン
- 信用情報機関の信用情報のあり方
- 多重債務者問題への取組み
- インターネット等を利用した非対面取引の安全対策・不正送金への対応
- 振り込め詐欺等への対応
- 金融犯罪・無登録業者への対応
- 金融ADR制度の運用
- 震災等自然災害への対応
- 業務の継続態勢の整備
金融実務上、ポイントとなる主な施策⑥ 世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化
平成30年実践と方針には、国際的な舞台での金融庁の取組みについても言及されている。そのような内容のうち、民間の金融実務にも影響があると思われる主な事項を紹介する。
まず、国際的な議論への貢献として、平成31年のG20で我が国が議長国となることも踏まえ、金融規制改革の影響評価、グローバル金融市場の分断回避、仮想通貨(暗号資産)に関するルール形成といった新たな金融システム上の課題解決に加え、高齢化社会における金融包摂の実現等の幅広い課題の解決に金融がいかに貢献できるかといった点も含め、取り組んでいくことが表明されている。
また、平成30年6月に取りまとめられた「金融行政とSDGs」 を踏まえ、SDGsの推進に積極的に取り組むとともに、国際的にもSDGsに関する議論の推進に努めるとされている。
さらに、平成31年には、我が国はFATF(Financial Action Task Force)により、マネロン・テロ資金供与対策がどの程度有効に実施されているかについて、第4次FATF対日相互審査を受けることとなる。
マネロン・テロ資金供与対策については、このことも踏まえて、①平成30年2月に公表された「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」等に基づき、オンサイトも含めたモニタリングをより一層行っていくこと、②優良事例も含めたモニタリングの成果を金融機関等に還元し、業界全体の底上げを図ること、③平成30年4月より開催している「マネロン対応高度化官民連絡会」等を通じて、引き続き、業界団体や金融機関等に対して、マネロン・テロ資金供与リスクへの適切な対応、並びに連携・共同化を通じた態勢整備の強化を促していくとともに、その重要性についての意識啓発を行うことが方針として掲げられている。
【弁護士が解説】マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン
金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【前編】
金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【後編】
▼筆者:有吉尚哉氏の関連著書
ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕
ファイナンス法大全(下)〔全訂版〕
- 寄稿
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西村あさひ法律事務所有吉 尚哉 氏
弁護士