金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【後編】

金融行政のこれまでの実践と今後の方針~金融実務における主なポイント【後編】

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金融庁が公表した「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」。前編では、全体の構成と、平成30事務年度における金融行政の重点施策のうち「デジタライゼーションの加速的な進展への対応」、「家計の安定的な資産形成の推進」、「活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保」に関する金融実務上のポイントを解説した。本稿、後編ではその他の重点施策について、実務上重要なポイントを解説していく。

  1. 金融実務上、ポイントとなる主な施策④ 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保
  2. 金融実務上、ポイントとなる主な施策⑤ 顧客の信頼感・安心感の確保顧客の信頼感・安心感の確保
  3. 金融実務上、ポイントとなる主な施策⑥ 世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化

金融実務上、ポイントとなる主な施策④ 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保

金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保という観点からは、まず、総論的に「我が国金融システムの現状と評価」が述べられており、その中で、本邦金融機関には、健全性を維持する観点から、以下の3つの課題があると述べられている。

  • 持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス発揮への対応
  • 長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応
  • 経済・市場環境の急激な変化への対応

その上で、業態ごとの課題・実績・方針がまとめられている。

(1) 銀行

平成29事務年度の金融行政方針と同様、各金融業態の中で地域金融機関について最も多くの記述がなされている。地域金融や地域金融機関に関する記載内容は多岐にわたるが、主な取組みとして次のような項目が挙げられている。

  1. 将来にわたって健全性を維持する観点から、(a)持続可能なビジネスモデルの構築、(b)長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応、(c)経済・市場環境の急激な変化への対応という点が地域金融機関において確保されるようモニタリングを行うこと
  2. 専担チーム「地域生産性向上支援チーム」を組成し、地域経済・企業の実態について、きめ細かく把握すること
  3. 経営陣等や営業現場の責任者等を含め、地域金融機関との間で金融仲介機能の発揮に向けた深度ある対話を行うこと
  4. 「経営者保証に関するガイドライン」について、優良な組織的取組事例等を横展開することやQ&Aの改正等の環境整備により、ガイドラインの活用を促すこと
  5. 金融機関と事業引継ぎ支援センターの連携を強化すること等により、金融機関による積極的な事業承継支援を促すこと
  6. 適切な経営とガバナンスの発揮に向けて、社外役員を含む経営陣と経営やガバナンス(有効な内部監査を含む)について深度ある対話を行うこと
  7. 地域金融機関が、必要なアドバイスと適切なファイナンスを提供し、地域企業の生産性向上や地域経済の活性化に貢献できるよう、業務範囲等に関する規制緩和について、検討すること
  8. 地域金融機関の経営統合にかかる銀行法上の認可に当たって、同一地域内の経営統合において不当な金利の引上げ・その他融資条件の悪化といった寡占・独占の弊害が生じ得る場合、金融機関による弊害防止措置や、将来にわたる地域の金融インフラ確保、地域企業・経済の成長・発展への貢献にかかる金融機関の取組方針・コミットメントを審査し、事後的にも、検査・監督を通じ、弊害の状況や地域経済への貢献の進捗をモニタリングしていくこと
  9. 競争のあり方についての政府全体での検討に当たって、金融サービスの特性を踏まえつつ、地域の金融インフラの確保や地域の企業・住民にとってより質の高い金融サービスの提供につながるような競争を実現する観点から、議論に貢献していくこと

他方、大手銀行グループについては、健全性モニタリングの水平的レビューの対象を、昨事務年度までの3メガバンクグループから大手銀行7グループ(※)に拡大するとした上で、「持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス」、「長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応」、「グローバルな経済・市場環境の急激な変化への対応」の観点から、金融庁と金融機関との対話における着眼点を示している。

みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、ゆうちょ銀行の7グループを意味している。

対話における着眼点
持続可能なビジネスモデルの構築に向けたガバナンス

  • デジタライゼーションの進展等、経営環境の変化に柔軟に対応できる経営・ガバナンス態勢の高度化が進展しているか。
  • グループ・グローバルベースで、経営管理・リスク管理態勢の高度化が進展しているか。
  • RAF(Risk Appetite Framework)の活用の活用を通じたリスク・リターンを意識したガバナンスの高度化が進展しているか。
  • 取締役及び監査(等)委員会等の機能発揮強化に向けた取組みが適切に行われているか(社外役員の知見活用に向けた取組みを含む)。
  • 経済・市場環境の不透明性が昨年以上に高まる中で、ストレステストを通じて潜在的なリスク・リターンを把握し、経営戦略策定に活用しているか。また、ストレス状況を想定しつつ、中長期的な経営戦略や資本の十分性を含む資本政策を議論しているか。
  • 事業部門単位の業務推進に対して持株会社の取締役会が適切に関与しているか。優越的地位の濫用防止態勢や利益相反管理態勢が適切に整備されているか。
  • 経営インフラ(店舗・人員施策や業績評価制度を含む)の刷新・高度化に向けた取組み等を通じて、持続的な収益力の強化が進展しているか。
  • 信託業務における法令等遵守やリスク管理の枠組みが、銀行業務における枠組みと異なる点があることを踏まえつつ、信託業務各々の特性やリスクに応じた管理態勢が整備されているか。
長期にわたる金融緩和継続に伴うリスクへの対応

  • 融資規律の維持に向けた取組みが進展しているか。
  • 国内外のクレジットサイクルの転換を見据えた対応が適切にとられているか。
  • その他、低金利環境下における過度な収益追求行動に伴うリスクに対し、第1線、第2線、第3線それぞれによる牽制が適切に行われているか。
グローバルな経済・市場環境の急激な変化への対応

  • 経営上重大な影響があるリスク(トップリスク)を経営陣や取締役が常に共有し、経済・市場環境等の変化に対して適切な対応がとられているか。
  • 海外業務の強化・拡大を踏まえ、機動的なポートフォリオ運営に向けた態勢が整備されているか。特に、集中業種等の与信集中管理、環境変化に応じた機動的なストレステストの実施とそれを踏まえた業務戦略の見直しや、CPM態勢が整備されているか。
  • 資産回転型ビジネスの強化を進める中、引受審査や期中管理を含むリスク管理態勢や販売先の確保等、潜在するリスクに応じた態勢が整備されているか。
  • 海外業務の拡大を踏まえ、マイナー通貨を含む外貨の安定的な調達を確保する態勢が整備されているか。特に、粘着性の高い預金を含む安定的な外貨調達手段の確保を進めているか。
  • 流動性ストレステストを含め、外貨流動性管理の高度化を進めているか。
  • リスク・リターンを意識して外貨バランスシートが運営されているか。
  • ストレス時においても金融仲介機能を十分に発揮できるよう、売却の必要性について顧客企業との対話に一層努める等、政策保有株式の縮減に向けた対応が適切に行われているか。
  • コーポレート・ガバナンス・コード改訂の趣旨も踏まえ、保有の合理性検証基準の妥当性や議決権行使の適切性について、取締役会を含めた議論が行われているか。

銀行関連の業態に関しては、このほか、他業態からの銀行業への参入や関与の強化の動きがある中、銀行業として独立したビジネスモデルの構築やグループ内の他の事業リスクからの遮断、個人情報の適切な取扱い等の利用者保護等が適切に確保されているかについて確認することや、平成30年6月1日より受付を開始した電子決済等代行業者の登録審査にあたり、イノベーションを阻害しないよう配慮しつつ、特に、個人情報の漏洩、誤送金に関わるシステム管理態勢に着眼して審査を実施することが述べられている。

(2) 保険会社

保険会社に関しては、金融行政上の課題として以下のような点を指摘しており、こうした諸課題への対応に当たって経営全般についてガバナンスが有効に機能することが重要としている。

  1. 顧客ニーズ等に相応しい商品・サービスの開発、情報提供、販売・推奨等を通じて、顧客の最善の利益の追求を図ること
  2. 顧客が自らのニーズに適った適切な選択をなし得る環境を整備すること
  3. 保険会社を取り巻くリスクの変化に対応したリスク管理態勢や資産運用態勢を構築すること
  4. 新たな保険ニーズが出現する可能性があるなど、経営環境の変化に対応していくこと

その上で、以下の3つの観点から平成30事務年度の方針をまとめており、主な方針として以下の事項があげられている。

主な行政方針
顧客本位の業務運営

  • 販売時の分かりやすい情報提供のため、貯蓄性保険、特に外貨建保険を中心に、各保険会社に募集資料の改善を求める。その際、EUのPRIIPs規制(※)におけるKIDのような販売時の顧客に対する情報提供方法も参考としつつ、各社と対話を行う。
  • 顧客に代理店手数料の合理性を適切に説明できるようにするために、各保険会社が各種の取組みについて前向きに取り組むよう、深度ある対話を行う。
保険会社を取り巻くリスク等に関するモニタリング

  • 自然災害リスクについて、保険会社の引受方針や再保険手配等によるリスク軽減策等の保険引受リスク管理態勢について、実態把握や管理態勢の高度化に向けた対話を行う。
  • サイバーリスクについて、商品内容や再保険を含む保険引受市場の動向を踏まえつつ、商品内容や適切な引受管理態勢の確立、リスク評価手法の高度化等について対話を行う。
  • 保険会社のリスク管理の高度化を促しつつ、資産・負債を経済価値ベースで評価する考え方を検査・監督に取り入れていく。
  • 経済価値ベースのソルベンシー規制について、国際資本基準(ICS)に遅れないタイミングでの導入を念頭に、関係者と広範な議論を行っていく。
持続可能なビジネスモデルの構築・ガバナンス

  • ガバナンスの実効性を確認し、その度合いに応じて、社外役員を含め、経営陣等と実効性の向上に向けた対話を行う。
  • 内部監査部門が業務部門に対して有効に監視機能を発揮しているか等について確認を行い、内部監査の高度化を促す。

PRIIPs(Packaged Retail and Insurance based Investment Products)規制とは、金融商品間の比較可能性を確保するため、各金融商品の主要な情報(リスクの程度、パフォーマンスシナリオに基づく商品のパフォーマンス等)を記載した文書(KID:Key Information Document)の作成・開示義務を金融商品の販売会社等に課すもの。

(3) 金融商品取引業者等

金融商品取引業者等については、①大手証券会社、②その他の証券会社、③外国為替証拠金取引業者(FX業者)、④投資運用業者、⑤第二種金融商品取引業者、⑥適格機関投資家等特例業務届出者、⑦信用格付業者に分けて課題や方針がまとめられている。

このうち、大手証券会社については、(a)金融ビジネスの環境の変化に対応したガバナンス機能の発揮について、社外役員を含め、経営陣等との深度ある対話を中心にモニタリングを継続すること、(b)営業店のマーケット環境や顧客属性の違いに応じて、例えば、営業員のスキル・意識の不足や、顧客の理解・信頼を得られていないこと、あるいは、営業店ごとの顧客の属性や競争環境等を踏まえた営業員の配置となっていないこと等の課題を特定し、それを解決するために必要な施策を実施していくこと等の課題を特定し、それを解決するための取組みなどの実施状況の確認に重点を置いて、モニタリングを継続すること、(c)IPOにおいて、業態・業種に応じた引受審査の更なる品質向上に向けた取組みを促すため、証券会社の引受審査の状況についてモニタリングを継続することといった方針がまとめられている。

その他の金融商品取引業者等については業態ごとに主に以下のような方針が述べられている。

業態主な行政方針
地域の中核証券会社・課題についての解決策を見いだせていない証券会社

  • 将来の経営方針・経営状況の見通しや投資者保護のための態勢整備について、具体的な検討・対応の策定を促していく。
ネット系証券会社

  • IFAや地域金融機関との提携による対面営業への進出・拡大を踏まえた管理態勢の整備状況、システム障害発生の未然防止に向けた取組みやシステム障害発生時の適切な復旧・代替作業の速やかな実施に向けた取組状況等についてモニタリングしていく。
外国為替証拠金取引業者(FX業者)

  • 平成30年6月に公表された「店頭FX 業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」の報告を踏まえ、必要な制度整備を行っていくとともに、店頭FX業者の決済リスク管理強化に向けた対応の状況を検証し、リスク管理強化を促していく。
投資運用業者

  • 大手投資運用業者を中心に、ガバナンスの機能発揮状況等について、運用力向上の観点も含めて検証を行うほか、私募リート業者及び個人や年金基金の顧客の割合が多い一任業者の業務運営態勢等についても確認を行う。
第二種金融商品取引業者

  • ウェブサイトの表示やファンド運営の実態に関する情報分析・検証を進め、リスクベースでのモニタリングを通じて、問題業者への厳正な対応を行っていく。
適格機関投資家等特例業務届出者

  • 業務運営上問題のある特例業者に対しては、必要に応じて監督上の対応を行う。また、出資金の流用等、悪質な行為が疑われる特例業者が判明した場合は、速やかに検査や監督上の対応を行うとともに、必要に応じて警察当局との連携も行う。
信用格付業者

  • 利益相反をはじめとする内部管理状況、各種モデル・ガバナンス態勢及び事業概況等を把握するとともに、海外当局とのグローバルな連携を通じ、信用格付業者の業務の適切性確保のため、より深度あるモニタリングを継続する。

(4) 外国金融機関

外国金融機関に関する平成30事務年度の方針としては、以下の内容などが言及されている。

  1. 外国金融機関の本部・日本拠点との対話を通じて、これらの態勢についてのベストプラクティスを収集し、我が国の金融システムの発展にも活用すること
  2. 本邦金融機関等向けに販売する商品の動向や当該商品のリスクについて検証すること
  3. 必要に応じ、監督カレッジ等を通じグローバル本部や母国当局に対しても適切な対応を求めること
  4. 平成31年の総損失吸収力(TLAC)国際規制の実施を踏まえ、当局及びG-SIBsの対応能力を強化すること

金融実務上、ポイントとなる主な施策⑤ 顧客の信頼感・安心感の確保

顧客の信頼感・安心感の確保という観点からは、「金融機関の行為・規律に関する課題と取組み」、「仮想通貨(暗号資産)」、「その他の重点施策」の3項目に分けて課題・実績・方針がまとめられている。

この中では、特に仮想通貨(暗号資産)に関する課題や方針が独立の項目として整理されていることが注目される。

金融機関の行為・規律に関する課題と取組み

金融機関の行為・規律に関する課題と取組みとしては、「コンプライアンス・リスク管理上の課題と取組み」、「内部監査の高度化」、「投資用不動産向け融資」、「金融機関のシステムモニタリング」の4項目について、行政方針が述べられている。

コンプライアンス・リスク管理上の課題と取組み

コンプライアンス・リスク管理については、リスク要因やその程度を業態横断的に把握・評価し、リスクの程度に応じてメリハリを付けたモニタリングを行うとしている。

その上で、モニタリングに際して、以下のような方針を述べられている。

  1. 個々の金融機関のビジネスモデル・経営戦略、業務運営及び組織態勢を踏まえた分析や、当局の問題意識を踏まえた金融機関との対話・議論を行うことを通じて、互いのリスク認識を共有・深化させること
  2. 個々の金融機関において生じた問題の根本要因を把握すること等を通じ、その要因が他の金融機関・業態においても広がりをもって問題として生じる可能性も考慮すること
  3. 非金融系企業グループについて、グループ横断的なリスクに関する実態把握を行うこと

内部監査の高度化

金融機関の内部監査については、リスクベースかつフォワードルッキングな観点から内部監査の使命を適切に果たすことが必要であると指摘し、以下のような取組みを促すことで、内部監査を高度化していくことが求められているとしている。

  1. 事後チェック型監査からフォワードルッキング型監査への転換
  2. 準拠性監査から経営監査への転換
  3. 部分監査から全体監査への転換
  4. 内部監査態勢の整備
  5. 三様監査(内部監査、監査役会等監査、外部監査)及び当局との連携

このような課題を踏まえて、内部監査の高度化に向けた意見交換を実施していくことが方針として掲げられている。

投資用不動産向け融資

アパート・マンションやシェアハウス等を対象とした投資用不動産向け融資については、入居率や賃料、顧客の財産や収入の状況等についての改ざんや融資商品・預金・保険商品等の抱き合わせ販売のような問題事例が確認されたことを踏まえたモニタリングの方針が掲げられている。

具体的には、①融資審査・管理態勢、②顧客保護等管理態勢、③法令等遵守態勢を中心に、横断的なアンケート調査を行い、深度あるモニタリングを実施するとされている。

この点に関連して、平成30年3月27日に金融庁、消費者庁、国土交通省より公表されていた「アパート等のサブリースの契約を検討されている方」に向けた注意喚起文について、サブリース契約を伴う投資用不動産向け融資を受ける際の注意点を加えるなどの修正を行ったものが、同年10月26日に公表されている。

金融機関のシステムモニタリング

金融機関のシステムモニタリングとしては、特に①システム統合・更改等の予定がある金融機関に対して、オン・オフのモニタリングを行っていくことや、②ITガバナンス強化の観点から、金融機関との対話のための論点・プラクティスの整理を進めつつ、金融機関の管理能力向上をサポートするようなモニタリングに努めていくことが言及されている。

仮想通貨(暗号資産)

仮想通貨(暗号資産)については、価格の乱高下、Initial Coin Offering(ICO)などの新たな取引の登場、顧客からの預り資産の外部流出事案の発生など、内外の環境が急速に変化していることを踏まえ、業者における実効性のある態勢整備及び適切な業務運営の確保のほか、国際的な連携、必要な制度的対応の検討等に取り組んでいく必要があることが課題として指摘されている。

その上で、仮想通貨交換業者の登録審査・モニタリングについて業者の状況に応じて以下のような方針が示されている。

新規登録申請業者

  • 登録審査において、業者のビジネスプランやそれに応じた内部管理態勢の整備状況にかかる具体的かつ詳細な情報を入手するとともに、書面やエビデンスでの確認や、現場での検証及び役員ヒアリングを強化
  • 登録後の早い段階で立入検査を実施
みなし業者

  • 業務改善命令を受けて提出された報告内容について、個別に検証し登録の可否を判断
登録業者

  • 外部有識者から仮想通貨(暗号資産)の市場等についての情報収集や業者のビジネスモデル・収益構造分析等を踏まえたリスクプロファイリングの精緻化及びその頻繁な更新を行い、機動的かつ深度あるモニタリングを実施
無登録業者

  • 関係省庁等との連携を強化するとともに、照会書・警告書の発出等にかかるプロセスを迅速化

また、平成30年3月に設立された日本仮想通貨交換業協会による自主規制団体の認定申請について、厳格に審査を実施し、認定した場合には、認定団体による自主規制機能の発揮状況等につき、モニタリングを実施するとしている。

なお、日本仮想通貨交換業協会は、平成30年10月24日付で資金決済に関する法律87条に基づく認定資金決済事業者協会の認定を受け、自主規制団体としての活動を開始している 。

国際的な取組みとしては、仮想通貨(暗号資産)分野における我が国のこれまでの業者監督等における知見・経験等を活かし、FSBFATFIOSCO等での国際的な議論に積極的に参画するとともに、各国当局・国際機関等との連携を行うことが述べられている。

加えて、平成30年3月に設置された「仮想通貨交換業等に関する研究会」で仮想通貨交換業を巡る問題、仮想通貨(暗号資産)を用いた証拠金取引や資金調達的な取引について、必要な制度的対応を検討することも明記している。同研究会は、同年11月26日までに10回の会合を開催し、仮想通貨交換業やInitial Coin Offeringに関する規制のあり方などについての審議を進めている 。

その他の重点施策

その他の重点施策として以下の項目が挙げられている。いずれも平成29事務年度の金融行政方針に含まれていた内容を基本的に踏襲したものと考えられる。

  • 訪日外国人の利便性向上
  • 障がい者等の利便性向上
  • 銀行カードローン
  • 信用情報機関の信用情報のあり方
  • 多重債務者問題への取組み
  • インターネット等を利用した非対面取引の安全対策・不正送金への対応
  • 振り込め詐欺等への対応
  • 金融犯罪・無登録業者への対応
  • 金融ADR制度の運用
  • 震災等自然災害への対応
  • 業務の継続態勢の整備

金融実務上、ポイントとなる主な施策⑥ 世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化

平成30年実践と方針には、国際的な舞台での金融庁の取組みについても言及されている。そのような内容のうち、民間の金融実務にも影響があると思われる主な事項を紹介する。

まず、国際的な議論への貢献として、平成31年のG20で我が国が議長国となることも踏まえ、金融規制改革の影響評価、グローバル金融市場の分断回避、仮想通貨(暗号資産)に関するルール形成といった新たな金融システム上の課題解決に加え、高齢化社会における金融包摂の実現等の幅広い課題の解決に金融がいかに貢献できるかといった点も含め、取り組んでいくことが表明されている。

また、平成30年6月に取りまとめられた「金融行政とSDGs」 を踏まえ、SDGsの推進に積極的に取り組むとともに、国際的にもSDGsに関する議論の推進に努めるとされている。

さらに、平成31年には、我が国はFATF(Financial Action Task Force)により、マネロン・テロ資金供与対策がどの程度有効に実施されているかについて、第4次FATF対日相互審査を受けることとなる。

マネロン・テロ資金供与対策については、このことも踏まえて、①平成30年2月に公表された「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」等に基づき、オンサイトも含めたモニタリングをより一層行っていくこと、②優良事例も含めたモニタリングの成果を金融機関等に還元し、業界全体の底上げを図ること、③平成30年4月より開催している「マネロン対応高度化官民連絡会」等を通じて、引き続き、業界団体や金融機関等に対して、マネロン・テロ資金供与リスクへの適切な対応、並びに連携・共同化を通じた態勢整備の強化を促していくとともに、その重要性についての意識啓発を行うことが方針として掲げられている。

▼「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に関する詳しい解説はこちら 【弁護士が解説】マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン

▼筆者:有吉尚哉氏の関連著書
ファイナンス法大全(上)〔全訂版〕
ファイナンス法大全(下)〔全訂版〕

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