1. HOME
  2. 金融法務
  3. 証券モニタリングの動向とモニタリング手法の変化

証券モニタリングの動向とモニタリング手法の変化

近時の立入検査(オンサイト・モニタリング)を重視した証券検査は、法令違反に対する指摘の強化のみならず、問題の背景やガバナンス体制といった根本原因に踏み込むモニタリング手法へと変化してきている。本稿では、証券モニタリングの現在の動向や事例を踏まえながら、金融商品取引業者のモニタリングに対する向き合い方について触れていく。

証券モニタリングの動向とモニタリング手法の変化
  1. 積極的なオンサイトに転換
  2. 根本原因のモニタリング
  3. ガバナンスの自己分析

積極的なオンサイトに転換

証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」)が公表した「金融商品取引業者等に対する行政処分等に関する勧告の実施状況(令和元年6月末現在)」によれば、証券検査による勧告件数は、平成28年度(2016年度)22件、平成29年度8件、平成30年度11件である。

平成28年度から平成29年度にかけて勧告件数が大きく減少しているが、これは、オフサイト・モニタリングに重点を置き、立入検査(オンサイト・モニタリング)(以下「オンサイト」)の件数が減少していた時期と一致しており、その影響を受けたものと思われる。一方、平成30年度になって11件と増加に転じており、これは、証券監視委「平成30事務年度証券モニタリング基本方針」(平成30年9月14日)(以下「基本方針」)において、「積極的にオンサイト・モニタリングを実施して、深度ある検証を行っていく」とし、立入検査が増加した結果と思われる。

このような勧告件数の増加や「積極的にオンサイト」を実施するとの方針からは、一見証券監視委のモニタリング手法が平成28事務年度以前の運用へと回帰したようにも見受けられるが、そうではない。

根本原因のモニタリング

例えば、令和元年5月に金融庁が大手証券会社に対して行った行政処分の事例では、「コンプライアンスの本質」を理解していない、すなわち、一部社員においてはコンプライアンスをルール・ベースの法令遵守に限定して捉え、資本市場の公正性・公平性の確保といった点に意識が及んでいなかった点などを重く見て、明確な法令違反はないにもかかわらず、経営管理態勢・内部管理態勢が十分ではなかったことを理由に処分がなされている。

また、令和元年8月の証券監視委による勧告に基づく行政処分事例においても、「重大かつ明白な法令違反行為を防止したり、発見し、是正を図る内部管理態勢や、会社の業務を適正に執行するための経営管理態勢が欠如している状況」が認定されている。

その他にも、平成30事務年度頃から、様々な規模・特性の金融商品取引業者に対する勧告の公表文において、具体的な法令違反行為を指摘するのみならず、問題事象が生じた背景にまで翻って、内部管理態勢、ひいては経営陣の姿勢や企業文化といったガバナンスのあり方についての分析が加えられている例が増加している。これは、基本方針で示されていた「オンサイト・モニタリングにおいては、単に問題点を指摘し行政処分勧告等を行うにとどまらず、問題の全体像を把握し、問題が発生した原因を究明する」との根本原因分析を重視する方向性に沿った行政運用が行われている結果といえる。

このように、証券モニタリングは、単に表面的な現象としての具体的な問題点・法令違反行為を指摘するに留める従前の手法から、当該法令違反行為、さらには明確な法令違反がなくとも、問題と考えられる行為が認められる場合、そのような行為が発生した根本原因分析にまで踏み込むモニタリング手法に、徐々に、しかし着実に舵を切っている。したがって、勧告件数の増加や積極的なオンサイトは、過去への回帰を示すものではなく、むしろ新たなモニタリング手法が軌道に乗り始めたことを示しているといえよう。

ガバナンスの自己分析

それでは、金融商品取引業者は、この変化したモニタリング手法にどのように向き合えばよいか。以前の証券検査では、法令違反行為の有無に焦点が当てられ、極論すれば法令違反が認定されたらそれで検査は終了(金融商品取引業者にとっては、敗戦)であり、よって金融商品取引業者は個別事案における事実認定や法適用についての議論(防戦)に注力することになり、根本原因についての深度ある分析まで行う必要性は限定的であった。

他方、現在の証券モニタリングでは、法令違反の有無にかかわらず、ガバナンスのあり方など問題事象の根本原因に翻って検査官は検証・分析する。このような根本原因についての検査官との議論・対話は付け焼刃でできるはずもない。したがって、金融商品取引業者においては、日頃から自らのガバナンスのあり方について、様々な角度から十分に自己分析しておくことが肝要となる。

(本稿の意見にわたる部分は私見であり、過去に所属したまたは現在所属する組織などの見解を示すものではない)

寄稿
森・濱田松本法律事務所
弁護士
伊藤 康太 氏
2016年10月~2018年12月、証券取引等監視委員会証券検査課機能
別チーム専門検査官として、証券検査業務に携わる
金融法務カテゴリのオススメの記事
「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(令和元事務年度)~」について

金融庁は2019年8月28日、令和元事務年度の金融行政方針を発表した。金融庁の今後1年間の重点施策をまとめたもので、当局と金融サービス利用者、金融機関、市場関係者などの間で認識の共有を図り、より良い金融行政の実現につながることを目指したものだ。The Financeでは「令和元事務年度金融行政方針」を読み解くと題し全5回に分け方針の概要、各金融機関における先人的な事例を紹介していく。本稿では、金融庁政策立案総括審議官の松尾元信氏に金融行政方針の重点施策と実現に必要な取り組みについて紹介する。

会社法改正の動向と実務対応~自社に影響する事項を洗い出し改正に備えた対応を検討~

法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会(部会長・神田秀樹学習院大学法科大学院教授)は、2019年1月16日の第19回会議において、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」及び附帯決議を決定し(※1)、要綱案及び附帯決議は、同年2月14日開催の法制審議会の第183回会議において原案どおり承認され、要綱案は「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」となって法務大臣に答申された(※2)。本稿は、要綱の概要及び要綱に基づく会社法改正法案が成立した場合に必要となる実務対応のポイントについて解説する。

【連載】自動運転の最前線~技術開発と日本の法整備

前稿では、自動運転技術とその影響を踏まえ実用化に向けた法整備の現状について解説した。第2回目では、走行試験と技術開発の現状を紹介するとともに法整備においてロードマップ、交通ルールの整備について解説していく。

【連載】自動運転の最前線~現状と法的課題

自動車メーカーをはじめIT企業など多くの企業が自動運転車の開発を進めている。自動運転技術が開発されても交通ルールや車両安全基準などの法整備を進めなくてはならない。The Financeでは、「自動運転の最前線」と題し、全4回にわたり、現在の自動運転の開発状況を紹介しながら、自動運転技術の実用化をにらんだ法整備の状況を解説していく。第一回目では、進展する自動運転技術とその影響を踏まえつつ、実用化に向けた法整備の現状について解説する。

【 寄稿 】
森・濱田松本法律事務所
弁護士

伊藤 康太 氏

The Finance をフォローする