スマホ決済サービスの 販促キャンペーンの景品規制

スマホ決済サービスの 販促キャンペーンの景品規制

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キャッシュレスサービスが勃興する中、サービス提供会社は様々なキャンペーンを打ち出している。キャンペーン戦略を練る上で、景表法上の規制対応は欠かせない。本稿では、販促キャンペーンにおける景表法上の留意点について解説する。

  1. 共同キャンペーンの課題
  2. 企画者の役割などで総合判断
  3. 「値引」該当性を検討

共同キャンペーンの課題

PayPayが2018年後半に「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施して以来、後を追うように銀行系決済サービス、クレジットカード系決済サービス、交通・流通系決済サービス問わず、スマホ決済サービス各社は次々と大規模キャンペーンを行うようになった。

このように決済サービスがコモディディ化する中、他社と差別化を図り、顧客を獲得していくためには、魅力的な経済上の利益を付与するキャンペーンを積極的に実施することが有用な手段の一つである。

他方で、キャンペーン戦略を練る上では、特に景品表示法の景品規制についてケアすることが欠かせない。

しかし、スマホ決済サービスのキャンペーンの景品規制適合性を検討する場合、様々な困難な課題に直面する。例えば、①消費者庁により公表されている景品規制の考え方が現在のビジネスを念頭に書かれていないこと、②複数の事業者が各自供給する取引を条件に、共同して経済上の利益の提供を行う共同キャンペーンが増加し、どの取引について顧客を誘引し、どの取引に附随して経済上の利益を提供しているのか判断することが難しい場合があること、③取引附随性を検討するにあたって、有償取引・無償取引の線引きが曖あい昧まいであること、④ポイントシステム(自他共通割引券)の設計の難しさ、⑤継続的な役務提供における「取引の価格」の算定方法の判断の難しさなどである。

本稿では紙幅の関係上、上記の論点を全て解説することはできないが、実務で頻繁に問題となるスマホ決済サービスの共同キャンペーンの課題を解説することによって、今後のキャンペーンを検討する上での一助を提供したい。

企画者の役割などで総合判断

共同キャンペーンとは、「共同して」(定義告示運用基準4(2)ウ)景品企画を実施するものである。商店街などで実施されるいわゆる共同懸賞(懸賞定義告示4)のことではない。

共同キャンペーンに該当するかは一義的に定まるものではなく、当該共同キャンペーンにおける共同企画者の役割、共同企画者間の契約の有無、どの取引を誘引してどの取引に附随して経済上の利益を提供するのか、提供する経済上の利益の原資の負担者および当該共同キャンペーンの告知方法その他の事項を総合的に判断して決せられる。

例えば、スマホ決済サービス事業者A(第三者型前払式支払手段発行業者)とコンビニ事業者Bが提携し、AとBが共同で当該キャンペーンを告知の上、Aのスマホ決済サービスをコンビニBで利用した場合、抽選で決済額に応じてAが発行するポイントを最大10000円相当額が当たるというキャンペーンを行い、ポイントの原資をAとBが按分で負担しているという事実関係であれば、当該キャンペーンは共同キャンペーンに該当すると考えられる。

この場合における懸賞の最高額規制の基準となる「取引の価格」は、当該スマホ決済サービスの決済額(Aとのスマホ決済サービスの取引額とコンビニBにおける売買金額を二重評価できない)ということとなり、「当該懸賞に係る取引の予定総額」はキャンペーン期間中に想定されるコンビニBにおけるAサービスによる決済額総額ということとなる。

「値引」該当性を検討

次に、上記のキャンペーンが抽選ではなく、AとBが共にコンビニBのおにぎりを50円値引きするクーポンを出す場合の「値引」該当性を検討する。

まず、共同キャンペーンである場合、共同キャンペーン事業者それぞれの取引を値引きするものでなければ「値引」に当たらないのが原則である。この点、確かに、当該キャンペーンのクーポンにより値引きされる取引は、決済の原因関係たるコンビニBと消費者のおにぎり売買契約であって、Aと当該消費者との間の決済サービス取引ではない。

しかし、当該クーポンによって原因関係である売買契約が値引きされた結果、当然に当該原因関係の決済を担うAとの決済サービス取引の金額も値引きされることとなる。このため、当該クーポンはBにとってはもとより、Aにとっても「値引」であって、「景品類」に該当しないと評価できるものと考えられる。

寄稿
池田・染谷法律事務所
代表弁護士
染谷 隆明 氏
2014〜2016年消費者庁表示対策課に勤務し、
景品表示法に課徴金を導入する改正法の立案担当。
スマホ決済サービスのキャンペーンの
豊富なコンサルティング経験を有する。
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